十三話です。
サブタイトルがちょっとアレですが今回は普通に日常+説明回です。
次回から少しシリアスになる予定。
あと作中で主人公が着た服はあのシリーズの女主人公の服です。
彼女も大好きなトレーナーなんですがアニポケに登場しなかったのつらい……。
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「ではリオさん。バッジはお渡しましたがそれはそれで御座います。いつでも再戦お待ちしておりますわ。それと。カントーを発つ前に是非一度店に来て下さいませ。リオさんに合う香水をいくつか用意してお待ちしておりますわ。」
「あははありがとうございます、エリカさん。またお店の方に伺わせて貰いますね。」
「ピカチュ!」
「リオ!」
最後に軽く会釈をして笑い踵を返し去っていくたまたまここ――タマムシシティのタマムシデパートでばったり出会ったタマムシジムジムリーダーのエリカさんの背を見送っているとポン、と背後から肩を叩かれ振り返れば何着もの洋服を手に持ちにっこりと微笑んだカスミが立っていた。
…………あ。
「えと、カスミ……。」
「エリカとの話は終わったわよね? じゃあ次はこれとこれね。あと今サトシのママさんがワンピース見に行ってるからそれも試着ね。」
「あ、あの。あのねカスミ、私本当服なんてパーカーとかで十分で――。」
「何言ってるのよ! 出発日まであと二日しないのよ? 旅に出るなら荷物は少なく、かつ動き安い服装である事は鉄則だけど今回はそうじゃないんだから二、三着は用意しとかなくちゃ! はいとっとと試着室に行く! あとピカチュウとリオルはリオが試着してる間はタケシと一緒にいる事。タケシ、よろしく。」
「ああ。ピカチュウ、リオルおいで。俺と一緒に待ってような。」
「ピカ!」
「リオ!」
もう今朝から何度目になるか分からない提案をばっさりと切り捨てたカスミに持っていた服を押し付けられ、びしりと試着室の方向を指し示される。
さらに今回は荷物持ちと言う事で付き合ってくれているタケシくんに呼ばれた途端物凄く嬉しそうに彼へと駆け寄りその肩に乗るピカチュウと彼と手を繋ぐリオルにがくりと肩を落とし、もう二時間近く着せ替え人形状態になっているものの多分私に拒否権はないのだろうと息を付いた。
「…………はい。」
リオルをゲットしたあの日から三日。
考えてみるとあの次の日からさっきみたいに今までにバトルしたジムリーダー……と言ってもジロウくんとカスミ、マチスさんにエリカさんの四人と元ジムリーダーとしてのタケシくんからバトルに誘われる事が多くなったように感じる。
特にタケシくんとカスミに至っては、あの次の日に行こうと話していたトキワの森でのポケモンゲットの予定が有無を言わさず引っ張っていかれたハナダジムで二人とのポケモンバトルにシフトチェンジし、本気モードな二人に見事なまでにコテンパにされた。
「……やっぱ凄いな、二人は。私も頑張らないと。ピカチュウとリオルと一緒にもっと強くなるために。」
「ピカ!」
「リオッ!」
バトル後ポケモンセンターで相棒二人を回復したあと当初の目的だったトキワの森へ行き、まずは腹ごしらえとタケシくんお手製のお弁当を食べながら胸に残る苦さと炎のように揺らめく闘志を噛み締め呟けば返ってきた気合いに満ちた二つの声に小さく笑い、その黄と青の頭をそれぞれ撫でているとどこか満足そうな笑みを浮かべたタケシくんとカスミがアイコンタクトを取り笑い合ったのが見えて首を傾げる。
「タケシくん? カスミ?」
「変わったわね、リオ。」
「ああ、いい目をするようになった。それでこそポケモントレーナーだ。」
そのまま尋ねれば返されたのはジムリーダーとして、そして先輩ポケモントレーナーとしての響きを宿した二人の声で。
その眼差しに自然と背筋が伸びる思いになり二人に向き直ると口元の笑みを深めたカスミがさらに続けた。
「いい? 今までのリオとピカチュウのバトルだって決して悪いものじゃなかったわ。二人のコンビネーションは抜群だったし、自分のポケモンの事も相手のポケモンの事もきちんと理解した上でこうかばつぐんを狙い、確実に勝利を手繰り寄せる。そんな模範的だけど手堅いバトルスタイルもリオらしいと思うわ。でも、あと一歩お互いに踏み込めてないように感じてたの。ま、新人トレーナーは皆大体そうだからあまり気にしてなかったんだけどね!」
「……そうなんだ。」
「ああ。ポケモントレーナーは皆ゼロからのスタートだからな。最初から全てうまくいく訳もないし皆自分のポケモンと互いに手探りで関わり合い日々を過ごすうちに少しずつ成長していくんだ。そして昨日のあのトレーナーとバトルでリオとピカチュウはその一歩を踏み込んだように俺達には見えた。ポケモンとトレーナーがお互いを信頼し心を一つにして勝利を掴む。昨日のバトルはまさにそんなバトルだったよ。」
「ええ。だから、タケシと二人で今日トキワの森へ行く前にリオとバトルしようって話になったの。昨日のバトルを経験したリオとピカチュウならきっと前よりもっともっと熱いバトルになると思ったから。実際その通りだったわね。」
「ああ。勝敗は抜きにしても見ているだけで胸が熱くなるようないいバトルだったよ。」
「……タケシくん、カスミ。」
真っ直ぐ私を見て話す二人の言葉は何となく理解はできた。
つまりあれが。――あの感じが。
自分でも思ったように、サトシがゴウにいった「ひとつになるバトル」で、アニメ越しにサトシを中心としたトレーナーのバトルを見た時に感じるあの胸がめらめらと熱くなってバーン!ってなるようなバトルなんだろう。
「……そっか。正直変わったって言われても自覚はあんまないんだけど。でも昨日のバトルは何て言うか、心が静かだったかな。今までのジム戦も勿論全力でやってきたし『勝ちたい』『負けたくない』って気持ちだったけど。昨日のバトルはただ『ピカチュウと勝つ』って思いだけが心の真ん中にあって。ピカチュウと心と心で繋がってるのがはっきり分かって。ピカチュウと一緒なら、二人なら、どんな相手にだって負けないって『絶対大丈夫』って胸がめらめらぐらぐら熱くなる。そんなバトルだったから。……とは言ってもさっき二人にコテンパにされたんだけど。でも。これで終わりじゃないから。」
「ピカチュウ!」
「リオ!」
そこで言葉を区切り左肩に加わった暖かな重みと私の右手を握る力強いぬくもりに瞳を細め、二人にニッと笑いかけた。
「今回は惨敗しましたが、ポケモン達と鍛え合いまたリベンジさせて頂きます。次は勝ちますよ、先輩方!」
「ああ、いつでもこい!」
「ええ、いつでも挑戦待ってるわよ!」
そう宣言すれば不敵な笑みを浮かべた二人に力強く返されて。
それで皆で笑い合って昼食の続きを取った後に始めたポケモンゲットはトレーナーとはぐれたポケモンを五匹連続で引き当てた時点で心が折れ、またしても何の成果をあげられないまま日暮れを迎えたのはきっと別の話だろう。
と言うか、何でだ。
で。
それで何で今タマムシデパートの婦人服売り場で着せ替え人形状態になっているのかと言うと理由は至極単純で、三日前ジュンサーさんに言われて電話を替わったあのナイスミドル然としたキバゴのトレーナー――ガラル地方ナックルシティに居を構えるトモネさんの提案により、彼の屋敷に招待される事になったからだった。
『そちらのジョーイさんによりますとキバゴは少なくともあと三日は絶対安静との事なので五日後にカントー地方へ赴くつもりです。そこで大変急なお願いではあるのですが、その際私と共にガラルにお越し頂けないでしょうか。と言うのも、私の妻や娘は勿論、先程電話を代弁してくれた友人もキバゴの事は大喜びで、是非貴方に直接あって礼が言いたいとの一点張りでして。勿論往復の旅客機費、宿泊費その他諸々は全て私共が持ちますので是非!!』
「え゜」
電話に出た瞬間からまさに怒涛の勢いと言ったむしろこっちが萎縮するレベルで感謝の言葉を延々と、延々と口にしていた彼にそう告げられた時口から零れたのはその一言だけだった。
あまりにも唐突過ぎる誘いな上、キバゴを助けられたのはあくまでも結果論にしか過ぎないし、そもそもタケシくん達に言ったように私だけで助けた訳でもないからと初めは断っていたんだけど何度断っても諦めてくれないどころか土下座一歩手前までいくトモネさんに加え、「いいんじゃない? 行ってきなさいよ、リオ。」「ああ、リオにもピカチュウに続いてリオルっていう新しい仲間が出来た事だし、ここら辺で別の地方を見ておく事は決して悪いことじゃないと思うぞ。」というまさかのカスミとタケシくんからの後押しもあって断り切れずそう決まったのだ。
ちなみにトモネさんは二人の事も招待しようとしたけどタケシくんはポケモンドクター養成学校、カスミはジムリーダーの職務を理由にあっさりと断ったのでガラルに行くのは私とピカチュウとリオルだけである。
うん、まあそりゃあいくら描かれないとは言えこの時期にカスミとタケシがガラル地方に行く筈ないから仕方ないんだけど。
それに付随して言うなら、ガラル地方には各地方にある悪役的な立ち位置の秘密結社は存在しないし、そもそもこの世界自体が各地方を旅する主人公であるサトシとピカチュウ、そして旅の仲間達を中心としてストーリーが進んでいくので、XYの時系列の現在にガラル地方でムゲンダイナのあれやこれやが起こるとは考えづらい。
さらにそういう風だからサトシと関わったり彼の旅に合流でもしない限りは基本的に平和な日常に身を置く感じになっていて、それはつまり自分から動かなければやる事がない、と言うことと同義で、簡単に言ってしまえば結構暇なのだ。
最初はハナコさんの家の手伝いをするつもりだったけどそれはバリヤードがいれば事足りてしまうし、当然だけどポケモンワールドチャンピオンシップスのエントリーもまだ始まってない。
しょっちゅう一緒にいるように感じるタケシくんとカスミも実はそうじゃなくて、タケシくんはポケモンドクターの勉強や学校の準備、カスミはジムリーダーとしてそれぞれ忙しい事もありむしろ二人と会わない日の方が多いくらいだ。
それで考えに考えた結果。
ジム巡りとかでタケシくんとカスミに会っている以外の時間は『ポケモンという生き物をもっと知りたい』という事もあってオーキド博士とケンジくんに頼み込んでオーキド研究所のポケモンのお世話の手伝いをさせて貰うって事で今のところ落ち着いていて、今すぐと言うわけではなかったけどもう少しこの世界に馴れたらカントー地方以外の地方に行ってみたい、もっとこの世界を見てみたいと言う欲が心の奥底にずっとあったのも事実は事実なんだけど。
……ただ。
行くとしてもまずはカロス地方かなって思ってたかな、やっぱ。
サトシについても、私の事はオーキド博士経由で伝わってはいるみたいだけど私自身はまだ会った事も見た事すらない訳だから、一度くらい会っておいた方がいいかなって気持ちは当然あったし。
ま、それはともかくとして、当面の問題はと言うと――。
「……やっぱどう考えても、短すぎるよね。」
改めて一人呟き試着室の鏡へ映るノースリーブの白のトップスに黒いベスト、青いダメージデニム風のホットパンツと言う服装に身を包んだ自分の姿に一つ息を付く。
てかこの服装マネキンが着てたのを一式持ってきたってカスミ言ってたけど、何か見覚えあるんだよなあ。
「リオ~~? 着替え終わった?」
「うん、終わったには終わったけどこれ絶対短いって。」
さらに鏡とにらめっこしかけたところで試着室の外からかけられた声にハッとしてカーテンを開ければ、新たな服を手にしたカスミと少し離れた位置でピカチュウとリオルの相手をしながらカスミのお眼鏡にかなった私の服候補を抱えてるタケシくんの姿があって、後でタケシくんには絶対何か奢ろうと密かに決意しつつカスミに向き直った。
「そう? 結構似合ってるじゃない。リオ胸はないけどスタイルはいいんだし、足も適度に筋肉付いててスラッとしてるから良いんじゃない? タケシ、どう思う?」
「え、俺か!? そうだな。リオはいつものリオが通うスクールの制服のイメージが強いからカジュアルなのは見慣れないが悪くはないんじゃないか?」
「…………ありがとタケシくん。でもやっぱ胸がないから似合わないかな。胸……私ギリギリBだしね。胸の谷間とか出来た事ないし、ふざけて揉まれる時はいつだって『可愛い胸だよね』とか『肩凝らなくてよさそうだよね』って言われるし!! 私だって出来ればDくらいは欲しかったよ!」
「似合わないなんて言ってないだろ! あと落ち着け! それ俺が聞いていい話じゃないよな!?」
「そうよ、リオ! それにリオだってまだ十五歳なんだしこれからもっと大きくなるんじゃない?」
「十三歳の時から全く変わってませんけど!?」
「お前らいいからその話題から一度離れてくれ!!」
カスミの言葉がモロに心に突き刺さり、『こうかはばつぐんだ!』のテキストが脳裏に過り膝から崩れ落ちると間違っても同年代の異性であるタケシくんに言うべきじゃない事をぶちかます。
さらに涙目で答えれば流石に気まずさとか恥ずかしさのためか頬を赤らめたタケシくんに止められながらもついわちゃわちゃ騒いでいると、リオちゃんと名を呼ばれそちらを見れば違う婦人服売場を見に行っていたハナコさんが一着の服を抱えて私達の元へと歩み寄ってくるのが見えてとりあえず会話を打ち切って立ち上がった。
「ハナコさん。」
「良かった、皆ここにいたのね。リオちゃんに似合いそうな服をあっちの売場で見つけたから持ってきたの。これなんだけど着てみてくれる?」
そう言ってハナコさんが見せてくれたのは、胸元の左右対称に付けられた六つの飾りボタンと黒のネクタイがアクセントになっているシンプルなデザインの所謂軍服ワンピースと呼ばれるオレンジ色で半袖のワンピースだった。
「ピカ!!」
「リオ!!」
それに一番に反応したのは私ではなくパートナー達で、ハナコさんに駆け寄りそのワンピースをきらきらとした目で見つめている二匹に四人で顔を見合わせて思わず笑い合う。
「どうやらピカチュウ達もリオの服選び、しっかり参加していたみたいだな。」
「そうね。それにピカちゃんとリオルちゃんはリオちゃんに着て欲しいお洋服がちゃんとあったのね。このワンピースリオちゃんに似合いそうだものね。」
「本当ですね。それに色もリオに合ってるわよね。リオってオレンジ!って感じするし。」
「オレンジって感じ?? そんな事初めて言われたてかむしろオレンジ色の服って普段着たことあまりないけど。でも他でもない相棒二人がそこまで気に入ったんだったら着てみよっか。」
「ピカチュ!」
「リオ!」
そう笑うとハナコさんからそのワンピースを受け取った。