訳あり新人トレーナー、目指すは全地方制覇です!   作:白野蒼

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閲覧ありがとうございます。
十四話です。
主人公の体質の設定はこんな感じです。
色々矛盾とかありそうですがとりあえず「そうなんだ」的な緩い目で見て頂ければと思いますね。
それでは今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。



第十四話 『新人トレーナーと儚く尊い願いの事』②

――なんやかんやで訪れるのは正味二回目となるタマムシデパートの屋上へと続くドアを開けた先に広がっていたのは、三日前とは違いうっすらとした雲に覆われた空色鼠色の空だった。

 

そう言えば今朝ハナコさんの家を出る時に見かけたテレビの天気予報では夕方からカントー地方のほぼ全域で雨と言う予報だったなあと思い返しながらぐるりと周囲を見回すと出入り口である屋上のドアから一番遠く、またそれに背を向ける形で設置されているベンチに座っている探し人の姿を見つけホッと息を吐く。

熱心に何か読んでいるのかこちらに全く気が付いてない彼に首を傾げながらも、邪魔をしたくなくてなるべく静かに近寄っていけば彼の膝の上と、その隣に座り彼にもたれて眠りこけている私の相棒とパートナーの姿が目に入りあちゃあ、と内心で呟いた。

 

うん、今朝はいつもより三十分くらい早く起きなくちゃいけなかったし、デパート内でも結構連れ回してた上に二人ともやけに張り切ってたから疲れるのは仕方ないって言ったら仕方ないけどさ。

でもだったら余計に買ってきて正解だったかも。

 

「――タケシくん、お待たせ。ごめんね、ピカチュウとリオルの面倒見て貰っちゃってて。」

 

「ん、ああリオ、おかえり。買い物はもういいのか?」

 

「ただいま。うん、粗方必要なものは揃えられたかな。カスミとハナコさんはあと少しだけ売り場見てから来るって。あとさ、これ。勿論ちゃんとしたお礼は後でするけど、待たせちゃってたお詫びとピカチュウ達の相手してくれてたお礼って事で。受け取ってくれると嬉しいな。」

 

最後に一気に距離をつめてベンチへと歩み寄り声をかけ、読んでいた付箋だらけの見るからに難しそうな本をパタリと閉じた彼に屋上へ来る前の自販機で買ってきたミックスオレを差し出しせばそれを受け取ってくれた彼が微かに眉を下げた。

 

「ありがとう、リオ。でもそんなに気を遣わなくていいぞ。俺が好きで引き受けた事だからさ。待ったって言ったも数十分の話だし、流石に下着売り場にまで着いて行くわけには行かなかったからな。」

 

「……あはは。」

 

どこか気まずそうに笑い頬を掻く彼につられるように眉を下げる。

 

まあ確かにあの女の園と言わんばかりの婦人下着売り場にタケシくん引っ張っていくのは下手したらセクハラ案件だったよね。

だからこそピカチュウとリオルが気に入ったあのワンピースを初めとしてあと二着無難な服を買って、下着売り場に行くって話になった時に待ち合わせ場所を屋上にして自由時間にした訳だし。

 

「うん、流石にあそこは私でも何か気恥ずかしくなる場所だったからなあ。あと。私も、私が好きでタケシくんにお礼したかっただけだから、気にしないで。」

 

そう付け足して笑いながらタケシくんの隣で眠るリオルの横に静かに腰を下ろし抱えていたデパートの紙袋を空いたスペースに置くと一息付き、私が来たこともどこ吹く風で未だ眠ったままの相棒達をどうしたもんかと見遣ったところで私の視線の先に気が付いた彼がああ、と口を開いた。

 

「今日はいつもより早起きしたんだろう? 多分それで疲れたんだろうな、皆を待ってる間少し休んでて良いって言ったらすぐこうなったんだ。カスミ達がまだならまだもう少し寝かせといてやろう。」

 

「ん、分かった。そうだね、よく寝てるのに起こしたら可哀相か。」

 

持っていた本とミックスオレを彼側の空いたスペースに置き、膝の上で眠るピカチュウの背を凄く優しい手付きで撫でるタケシくんに小さく笑って同意する。

そのまま何となく彼の手を見つめているとスッと伸びてきた彼の手に軽く頭を撫でられきょとんと首を傾げる。

 

ん?

 

「タケシくん?」

 

「違ったか? やけに俺の手を見てたから撫でて欲しいのかと思ったんだが。ピカチュウやリオルもリオに撫でて欲しい時よく手を見てるからさ。」

 

「や、それは分かるけど。てかそれってつまりタケシくんの中で私とポケモンって同じカテゴリーで扱われてるって事だよね?! 酷くない?! そりゃピカチュウが少し羨ましかったけど!」

 

「いやいや、流石にそうは思ってないぞ!? リオは何かと放っておけない、が頭に付く俺の友達で仲間だよ。……あと、そう言うのをさらっと言うのがアレなんだろう、リオは。元の世界でもこんな感じだったのか?」

 

「え? ううん。そもそも私スキンシップ……と言うか他人の体温が苦手だから。それを公言してたからか元の世界でも別の世界でもスキンシップ取ってくる人って余程な人以外いなかったし、軽い握手ぐらいなら求められたらするけど、自分からは出来る限り避けてたよ。それ以上のスキンシップを下手に取ろうとしてきた人は全力で拒絶してたし。」

 

その優しい手の動きがやっぱり心地よくて瞳を細め、まあ何となくそんな気はしてたけどと喉まで出かかった言葉はスルーしてピカチュウ達を起こさないように声を抑えてほとんど冗談混じりに拗ねた振りをして見ればますます眉を下げた彼にぽんぽんと頭を撫でられた。

さらに続けられた言葉にあっさりと答えれば分かりづらいけど目を見張り一瞬動きを止めたタケシくんに眉を下げ、頭から退かされそうだった彼の手首を軽く掴み私の方へと引き寄せるとその温かくて大きな手を両手で包むように握り直す。

 

……うん、やっぱり。

 

「リオ……?」

 

「人の話は最後まで、だよ。でも、この世界に来てからピカチュウやリオル達ポケモンとは勿論だけど、人に対してもスキンシップ取るのが全然苦じゃないんだよね。特にタケシくんとカスミとは。前にも言ったけど、二人に頭撫でて貰うの本当好きだし、自分から手を握りたいって思うくらいに私は二人の体温が好きで、心地良いんだと思う。……それに。私タケシくんといると凄く素直な気持ちでいられるんだよね。だから、私がこう言う風なのはタケシくんとカスミの前だけだよ?」

 

「…………そうか。」

 

少し戸惑ったような表情を浮かべた彼を真っ直ぐに見つめ安心させるように笑いかけると小さく息を飲んだ彼の少しだけ強張った肩からフッと力が抜け、私の手を軽く握り返すそのぬくもりに瞳を細めていると、リオとさらに呼び掛けられ顔をあげると何か決心したかのような表情を浮かべたタケシくんと目が合った。

 

「……タケシくん?」

 

「……リオ。実は前からリオに聞きたかった事があるんだ。もし言いづらかったり言いたくないなら答えなくてもいいから、少し聞いてもいいかな?」

 

「え? ……ああ、うん。私に答えられる事なら別に構わないけど。何?」

 

瞬間タケシくんを取り巻く雰囲気が少し固くなった事に小首を傾げ、ありがとう、と真剣な顔のまま口元に微かに笑みを浮かべた彼に少しだけ胸がざわつく。

そのまま無意識で彼の手を握る手に力が入るとそれを宥めるように握り返された。

 

「その、聞きたいのはリオの世界の……リオの家族の事なんだ。」

 

「…………私の?」

 

「ああ。『少しでも長くこの世界にいれる方法を』なんて言った俺が言うのもなんだが、リオがこの世界に来てもう半月近いだろ? 勿論俺もカスミもリオにここに、この世界にいて欲しいと思ってる。でもそれは俺達の勝手な思いだからな。ポケモンワールドチャンピオンシップスっていう『大きな事』にリオを関わらせる事で俺達がリオをこの世界に縛り付ければ縛り付ける程、少なくともリオの家族には心配をかけてるんじゃないかって。……だから、リオは優しいから俺達を気遣って何も言わないだけで、俺達の思いが結局はリオを苦しめてるんじゃないかって――」

 

「違う。私がこの世界にいたいって思うのは私の意思だよ。私がここにいたいの。この世界に、皆と一緒にいたい。……ってリオルをゲットする時言ったけど、考えてみれば私タケシくんとカスミにちゃんとそう言った事なかったね。ごめんね。――私、タケシくんとカスミと一緒にいたいよ。二人がいてくれるこの世界にいたい。ピカチュウとタケシくん、カスミにリオル。それに勿論ハナコさんやオーキド博士達。私は皆が好きだから、ずっと一緒にいたいの。だから、その為の努力は惜しまない。そう決めたの。」

 

「リオ……。」

 

ゆっくりと口を開いたタケシくんの少し苦みを帯びた声が告げる内容は予想だにしていなかったもので。

少し強い口調で食い気味にはっきりと否定しながらも、よくよく考えればピカチュウやリオルには自分の気持ちを伝えてたものの、二人にはカスミと喧嘩したあの時に売り言葉に買い言葉的なやりとりの中以外ではしっかりとそう伝えてなかった事に気が付いて肩を落とす。

 

そりゃあこの世界の事で色々協力してる相手が一緒にいたいって伝えるのがポケモンばかりだったら不安にもなるよね。

こんなんの、二人を蔑ろにしてたのと変わらない。

 

勿論そんなつもり毛頭なかったけど、自分の不甲斐なさに内心で深く息を付きながらも真っすぐにタケシくんを見つめて改めてそう告げる彼の顔にはっきりと分かるほどの安堵が浮かんだことに申し訳なさ倍増で眉を下げた。

 

「私、何か二人に余計な気回させちゃってたね。カスミにも後でちゃんと伝えておくから。」

 

「ああ、そうしてやってくれ。俺から言うよりもリオが直接言う方がカスミも安心するだろうから。」

 

「ん。あ、あとさ。さっきタケシくん私がこの世界に来てからの日にち気にしてたけど、それについてもごめん。言ったつもりになってたんだけど、その、時の流れについては大丈夫なんだ。前に詳しい人に、世界を越えた際私のいた世界と越えた先での時間の流れ方が同じで一定だとは限らないから、そこで空野理生(わたし)という存在に矛盾が起きないように越えた先の世界で過ごした時間の積み重ねが元の世界に戻った時点でリセットないしは調整するように世界の修正力が働いてるって教えてもらったことがあって。その頃は何か難しすぎてよく分からなかったんだけど、とりあえず『そういうものなんだって思ってればいい』みたいなんだ。 実際前に落っこちた世界では色々あって七年間過ごしたんだけど、戻ったら三分しか経ってなかったって事もあったし。」

 

「七年が三分!? じゃあ今もしリオが戻ったとしても――」

 

「……多分一秒にも満たない時間しか経ってないと思う。」

 

そう並行世界がどうだとか時間の流れがああだとか理路整然とはしてるものの当時の私で頭がパンクしそうな話を述べながら説明してくれた彼女を思い出しながら、あっけらかんと言い放ちまたごめん、と繰り返せば僅かに眉を下げたタケシくんがはは、と乾いた笑いを溢した。

 

「そっか。でもそれを聞いて安心したよ。ならリオがこの世界にいる事に問題はないわけだ。」

 

「うん。それに私の家族の事は気にしなくていいよ。……ううん。違うな。正確に言えば私の家族は私が十才の時に全員いなくなっちゃったから、気にする必要ないよ、かな。」

 

「…………え?」

 

「ピカ!?」

 

「って、ピカチュウ!? 起きてたのか!」

 

瞬間ゴゥッと音を立ててその場を吹き抜けた風は微かな湿気を含んでいて、天気予報当たりそうだなあなんて瞳を細める。

さらにぽつりと零れ落ちるように耳朶を打った声と驚きに満ちながらも少し固い声にやっぱりか、と苦笑して二重の意味で驚いているであろう彼の膝の上で真っ直ぐに私を見つめる相棒に小さく息を付いた。

 

「……全く。タケシくんと話してる途中あたりからやけに耳が揺れてるなと思ったら、案の定寝たふりしてたか。って事は当然、こっちも起きてるよね?」

 

「――リオ。」

 

未だ目を閉じたままのリオルに視線を向けそう尋ねると同時にタケシくんの手を握ったままだった私の両手の上に青い両手が重ねられ軽く握られる。

そのままゆっくりと瞳を開け力強く一声だけあげた彼に小さく肩を竦めた。

 

「リオルもか! リオ、気が付いていたのか?」

 

「……ん、まあ何となくね。と言うのもリオルって前の環境も関係してるのかもしれないけど眠りが浅い、ってか気配に敏感でさ。夜中私がトイレに行ったりちょっと身動ぎするだけでも起きてるんだよね。……そんなんじゃ気が休まらないだろうから、本当は夜寝る時だけでもボールに戻した方がいいんだろうけど戻してもすぐ飛び出してきちゃうし。だから私がベンチに近寄った時点で起きてはいたんだろうなあって。で、ピカチュウとリオルが寝たふりしてたのは多分、直接言ってもらえてなかったら大切な友達二人を傷つけてた事も気が付かない頼りないトレーナーとは違って、ちゃんとタケシくんとカスミの心の機微に気が付いてて。私とタケシくんが二人でちゃんと話す機会を作りたかったってところかな。……私と同じようにピカチュウとリオルもタケシくんとカスミが好きだからね。」

 

「ピカチュ!」

 

「リオッ!」

 

そう付け足して笑いかければそれぞれタケシくんに向き直ってしっかり頷いた二人にふわりと破顔した彼がピカチュウとリオルの頭を順番に撫でてからそうか、と呟いた。

 

「ありがとうな、ピカチュウ、リオル。お陰できちんとリオに俺達の思いを伝える事が出来た。俺もお前達が好きだよ。」

 

「ピカ!」

 

「リオ」

 

それにさらに嬉しそうな声をあげタケシくんの肩に駆け上がるピカチュウに瞳を細めると彼から私に視線を移したリオルの赤い瞳には出会った時から変わらない強い意思が宿っていて、あの時と同じようにビシバシと伝わってくる感情にはいはい、と眉を下げる。

 

……あーー、うん。まあ、仕方、ないかな。

 

「……分かってる。ちゃんと話すよ。私も、あんな事言っておいて誤魔化すような真似する程馬鹿じゃない。それに何より。私がそうする事を。――私が逃げる事を君達は許してはくれないんでしょ?」

 

「リオ」

 

「ピカ」

 

無理だろうなとは思いつつ念のために確認を取れば当然と言うように頷かれてやっぱり、と肩を落とす。

そのまま視線をずらせば少し眉を寄せてどこか心配そうなタケシくんと目が合い、そっと彼の手を握り直した。

 

「……リオ、いいのか。リオの家族の事を知りたいと言ったのは俺だけど、無理に聞こうだなんて思わないぞ。さっき言ったように言いづらかったり、言いたくない事は無理に話さなくていいんだ。」

 

どこまでも真っ直ぐで優しくそう言ってくれる彼に小さく笑いかけると緩く首を振る。

 

「……例え今ここで話さなかったとしても、結局いつかは誰かに話さなくちゃいけない事だろうからね。なら、私はタケシくんに。()()()()()()()。この世界で出会った時からずっと傍にいてくれる君達に話したいと思うし、聞いて欲しい。それに私の事、私の家族の事、知って欲しいからさ。だから大丈夫。」

 

「リオ……。分かった。俺で良ければ。――いや。()()で良ければいくらでも聞くさ。だから教えてくれないか、リオの事、リオの家族の事。俺もリオの事がもっと知りたいからな。」

 

「……ん、ありがとうタケシくん。――って事で。カスミ、ハナコさん。こっちに来て聞いて貰えると嬉しいです。荷物抱えたまま、屋上のドアのところに立ってるの大変だし。」

 

「ピカチューー。」

 

「リオッ。」

 

私の言葉の意図をしっかり理解して、言い直してくれたタケシくんと小さく笑い合うと視線を屋上のドアへと移し呼び掛ける。

さらにピカチュウとリオルが続けばカチャリともう聞きなれた音を立て屋上のドアが開いた。

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