訳あり新人トレーナー、目指すは全地方制覇です!   作:白野蒼

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閲覧ありがとうございます。
第十五話です。
シリアス回な筈でした。
主人公の過去話をあまり重くしないようにするのが大変でした(´・ω・)←
主人公自身すでに過去のことは自分の中で決着がついているので、結構あっさりと語ってます。

では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。


※今回少し事故描写等あるので苦手な方はご注意ください。
またこの小説は完全フィクションな二次創作であり現実世界の全ての事とは無関係です。




第十五話 『新人トレーナーと儚く尊い願いの事』③

――ざあざあざあと雨が降る。

 

ごつごつとした大岩があちらこちらに転がる川辺にある全てに平等に容赦なく初春の凍てつくような冷たい雨が降り注ぐ。

 

鼻を衝くのは噎せそうになる程の木々と土の匂いに溶けたガソリンと血の臭い。

耳に響くのは雨音と川の音に混じる痛みに叫び呻き、悲しみに慟哭する人々の声。

手に残るのはどれだけ強く握りしめてももう握り返してくれない、頭を撫でてくれない温かくて大きくて大好きだった手と、一緒にいるのが当たり前だった、二人でいれば何でも出来るのだと最強なのだと馬鹿みたいに信じていた私と変わらない大きさの、それでも私とは違う手からゆっくりと温もりが薄れて、消えていく残酷な感覚。

 

……世界を越えるなんて厄介でしかない体質のせいで、それより酷い光景なんてその前もその後もいくらでも見てきたし経験してきた。

 

……でも。

それでも。

 

私にとっての『地獄』は間違いなくあの日、あの時のあの川原だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……――と、まあつまるところ。六年前、仕事人間だった父が珍しく、本当に珍しくその当時遠方の高校……えとスクールに通ってて一人暮らししていた兄まで呼び戻して『家族旅行に行こう』って言い出したまでは良かったんだけど。その道中の山道で乗ってたバスがその前日から降り続いていた雨でぬかるんだ道でスリップして谷底に落ちて。運転手と乗客併せて三十一人中、命を取り留めたのはたった五人っていう大事故に巻き込まれて。私の家族――両親と八つ上の兄、三つ下の妹、そして私の二卵性双生児の兄は誰も、助からなくて。その後は私の体質を薄気味悪がってる事を隠そうともしない母方の親戚中を三年間盥回しにされてたんだけど、十三歳の誕生日の少し前にたまたま街で父方の従兄と再会した事がきっかけで色々あって、今は母方の実家や親戚とは完全に縁が切れて父の実家の支援を受けながら父の兄である伯父さんがオーナーを務めるマンションの一室で一人暮らししてるって訳なんだけど。……その。……あの、カ……カスミ、リオル。だ、大丈夫?」

 

「ッ~~! うるさいわね! ッ何も、何も大丈夫じゃないわよ!」

 

「リオッ!!」

 

「……ええーー……。」

 

シンと静まり返った屋上に朗々とした私の話の締めくくりの声だけが響いていた。

 

もう随分話してる気がするし、実際話した事は山のようにあった筈なのに纏めてしまえば思ったよりずっと短くて。

呆気ない程簡潔に終わってしまったそれにこんなものかと内心で自嘲しながら話が進むにつれてベンチに座っている私に真っ正面から抱きついてきて私の肩口に顔を埋めたまま動かなくなったカスミと、話をする前にずっと握りっぱなしだったタケシくんの手をそっと離し体勢を整えた際に膝の上に乗ってきたものの、こちらもこちらで話が進んでいくうちにとくるりと体の向きを変え私の背にしっかりと腕を回し胸元に顔を埋めたままになったリオルに声をかけると返ってきたのは、何故か私よりも、ずっと悲痛に満ちた二人の声だった。

そのまま一つ息を付くと、少しの理不尽さを苦笑で受け流し瞳を伏せると強く私にしがみつく二人の背に腕を回しそっと抱き締める。

 

……と言うかリオルはいいとしてもカスミは体勢きつくないのかな。

 

そんな事をぼんやり考えながらふと横を見ればいつかのポケモンセンターの時のような、でもそれよりずっと孕んだ痛みに耐えるような顔で私を見遣るタケシくんと視線が絡み、こっちもか、と手を伸ばすと指先で彼の頬に触れる。

……仕方ないなあと内心で呟き宥めるようにそっと撫でれば少しだけくすぐったそうに眉を下げた彼の温かくて大きな手でその指ごと優しく包むように握られた。

 

「……もお、何で君達がそんなに痛そうなのさ。」

 

「……ピィカ、ピカ。ピカチュウ。」

 

タケシくんとカスミ、リオルからそれぞれに伝わってくるぬくもりに瞳を細め、今自分がどんな表情をしているか分からないけどどうか笑えていますようにと祈りながら眉を下げて彼らに笑いかける。

瞬間、どこか泣き出しそうに顔を歪めた彼が握ったままの私の手に自らの額を押し付けて深く俯くのと相棒が声をあげたのはほぼ同時で。

タケシくんの膝の上でただただ真っ直ぐに濡れた黒曜石の輝きの瞳で私を見上げるピカチュウにそっか、と呟いた。

 

「……私、そんな平気そうな、いつも通りの顔してる?」

 

「ピカチュウ。」

 

そう尋ねれば返ってきたのはやっぱり力強くて可愛くて勇ましい声で。

私の体にしがみついたりなんだりしている三人が小さく肩を揺らしそれぞれの腕や手に力を込める中、しっかり頷きはするもののけしてそこから動こうとはしない相棒に苦笑する。

さらに視線を彼から真っ正面の空へと移すといつの間にか空色鼠色から今にも泣き出しそうな鈍色へと変化していた空とピカチュウ同様何を言うでもなく真っ直ぐに私を見遣るハナコさんと目が合い、この世界に来てからというもの一緒に暮らしている事もあるからなのか何かと頭が上がらないと感じている二人に叶わないなあと息を付いた。

 

「……リオちゃん。」

 

「…………――別に、強がってるとか無理してるとかじゃないですよ。だって今、ピカチュウに言われるまで私、自分がどんな顔してるか分かってませんでしたし。ただもう六年も前の事だし。十三の誕生日少し前までの『あの事故の時お前が死んでいれば良かったのに』って、わざわざ言われるまでもなく私が誰よりも一番そう思ってる事を日に何百回も繰り返して、ご丁寧に私がいかにいらない人間なのかを、誰からも必要とされてないのかを延々とご高説下さる人達に囲まれて生きなくちゃいけなかったのも過去の話で。だから、つまりもう乗り越えてますから! ………………って言えたら、かっこよかったんだろうけど。残念だけど私は、そんな強い人間でもない、ですから。」

 

「ピカ、チュ。」

 

――知ってる。

 

自分でも驚く程淡々といつも通りの口調でそこまで話した時、今までで一番強くはっきりと明確に、何なら人の言葉として聞こえた気さえする相棒の声に思わず苦笑する。

 

君ねぇと瞳を眇て見遣るもどこ吹く風で全く動じない相手に一つ息を付きせめてもの仕返しにひっど、と呟くと空を仰いだ。

 

――ああ、もう本当に。

 

「…………家族の事は自分の中で折り合いがついてる。それは本当だよ。……でも、だからって平気なわけじゃないんだ。胸が痛まないわけじゃないんだ。……ッ、あの日から、雨が嫌いになった。川に近付けなくなった。救急車やパトカーのパトランプを見ると足が震えるようになった。……それで、どんなバスであろうと乗れなくなって、他人の体温が苦手になった。……だって私は。私が助かったのは、お兄ちゃんと、双子なのにいつも兄貴ぶってたあいつが、私を庇ったからなんだから。私は大好きで大切だった二人の犠牲の上に、生きてるんだから。……後にも言われたよ。私が助かったのは二人の体が割れたガラス片や事故の衝撃から私を守る、クッションになったからだって。だから『お兄さん達には感謝しないといけないね』って。……ッ笑っちゃうよね。それで、お兄ちゃんとあいつがッ……! 二人が、犠牲になるならッ、あんな姿になるんだったら!! ……そんな事、私はあの時、これっぽっちだって望んでなんていなかったのに。」

 

……六年前のあの日。

あの事故の瞬間の事は正直よく覚えてない。

 

ただ、物凄い衝撃でバスががくんと揺れると同時に最後部座席の一番窓際に座っていた私に覆い被さった並んで座ってたあいつの体温や息遣いと。

そのあいつごと痛いくらい強く胸元に抱え込まれて、しっかりと背に回された大好きだった腕の温かさだけはいつまでも経っても忘れる事なんてできる筈もない。

 

その場にいる私とピカチュウ以外の全員が息を飲む音が聞こえ、そう言えばさっき話した時は流石にこれを言うのは自分の感情が抑えられそうになくて避けたんだっけと思い返した次瞬、私の体に触れている三人の手に明らかに先程までとは違う力が籠り、ギシッとかミシッとかヤバイ音が自らの体から聞こえた事にハッとして空に固定していた視線を下げた。

 

……や、てかそれ以前に!!

 

「ちょっ、ま!! 三人とも!! 待って痛い痛い痛い痛い!!! カスミ! リオル! 二人がかりで肋に圧かけないで! ってタケシくん! 痛いって!! ピカチュウ! 何とかして!」

 

「ピーッカチュ!」

 

「何で!? って、三人とも!! 本気で痛い! 本気で痛いから!! いい加減にやめっ……」

 

「――――バカッッ!!!!!!」

 

それぞれがそれぞれにギリギリと締め上げてくる痛みに耐えかねて悲鳴をあげ随分平然とその様子を見ているピカチュウに助けを求めれば、しーらない!とぷいっとそっぽを向かれ思わず声をあげる。

その間にも全く力を緩めない三人にさらに制止をかけ、パッと私からカスミが手を離したかと思うと同時に周囲に響く程の力一杯の怒鳴り声に目を見開いた。

 

「……カ……、カスミ……?」

 

「…………の。」

 

ハッとして顔をあげればオーキド研究所で喧嘩した時のように思い切り眉を吊り上げて。

あの時とは違ってその綺麗な水色の瞳をうっすら張った水の膜で潤ませ、あと一回でも瞬きすればこぼれ落ちてしまいそうな程の涙を目尻に溜めたカスミの顔がすぐ前にあって思わず息を飲む私に構わず、少し顔を俯かせてぼそりと呟いた彼女の声はこの距離でも聞き取れないくらい震えて掠れていて焦燥感が胸の中に沸き上がる。

 

「っ、え……?」

 

「~~~~ッ!! 『望んでいなかった』って何よ!! じゃあ、リオはッ、リオは! リオの家族が巻き込まれたその事故で、助からなくてもよかったって思ってたの!!? お兄さん達を犠牲にするくらいだったら、自分が犠牲になった方が良かったってッ……! それなら今こうして生きてて、この世界に来た事も、私達と出会った事も、全部全部リオは望んでなかったっていうの!?」

 

「……ッ!!!? ち、違う! 違うよ、そんな風に思ってない!!」

 

「――――嘘ッ!!!!! 」

 

思わず聞き返せばギッと鋭く睨み付け叫ばれた言葉は一年前の私だったらきっと黙り込んでしまうくらい的確に、図星を衝いていた。

 

だって、本当にそう思っていたのだ。

 

私が死ねば良かったと。

私が犠牲になってお兄ちゃん達が助かるならそっちの方が良かったと。

 

…………一人ぼっちになるのなら、生き残りたくなんてなかったと。

 

でも、今は違う。違うのだ。

だって、教えてもらったんだから。だから、家族の――少なくともお兄ちゃんとあいつの事には折り合いがついたのだ。

 

ああ、結局私たちは似た者同士だったんだな、って。

 

それに、後半に至ってはさっき私タケシくんにあれだけの事言ったよね!?

本当にそう思ってなきゃあんな事言えないんだけど!?

 

何体温が好きって! プロポーズか何かかよ!!

 

って、ああ、そうか。あの時は――――!

 

だから、一瞬言葉に詰まりつつも叫び返した言葉は一瞬で否定されて。

嘘じゃない、と返したいのにカスミのその気迫に圧されたのかうまく出てこない声に気持ちばかりが急いて歯噛みする。

 

そんな私を真っ直ぐに見つめたままのカスミの瞳からボロリと大粒の涙が溢れ落ちた。

 

「ッ、カ……」

 

「――嘘よ。だってリオはいつもッ、いつも! ピカチュウ達やあたしやタケシの話は嬉しそうに聞いてるのに、リオ自身の話ははほとんどしないし、避けてたわよね!! リオルの時も、最初誤魔化したり隠したりして大切な事を私達に話すのを躊躇ったじゃない!! ――何で、何でよ!! 私達、友達じゃないの!? 何で話してくれないのよ!! 何で話してくれなかったのよ!! 私達がそんなに信用できないっ!?」

 

「違うッ!! カスミ、お願いだから聞いて!! 私はカスミもタケシくんも大切な友達だと思ってる!! 信頼だってして――……」

 

「リオのそれは口だけじゃない!! もういいわよッ!!!」

 

瞬間バシッと乾いた音が響き渡り、咄嗟に伸ばした手をカスミに思い切り弾かれた事に目を見開く。

 

「……カスミッ……」

 

「……ッリオなんて、もう知らない!! ガラルでも元の世界でもどこへでも行っちゃえばいいのよ!!」

 

刹那ハッとしたような表情を浮かべたもののそのまま二、三歩後ずさった彼女の涙に濡れた絶叫が耳朶を貫くと同時に踵を返したカスミがダッと地を蹴って走り去っていく。

 

――――…………嘘。

 

「カスミッ!!」

 

「リオッ!!」

 

早く追いかけるべきなのにまるで金縛りにでもあったかのように体が動かなかった私よりも早く地を蹴ったのはリオルだった。

 

すでに屋上から出ていったカスミの後を追いながらちらりと私を見遣った赤い瞳にさっさと着いて来いと言われたようで、それが合図だったかのように弾かれたように思い切り地を蹴って走り出す。

 

「カスミ!! リオ!! リオル!!」

 

「ピィカ!!!!」

 

リオルに続いて屋上から出る途中に聞こえたタケシくんとピカチュウの声に立ち止まる余裕も振り返る余裕もなく、もうすでに目の前の階段にはいない二人の姿を追ってほとんど飛び降りるような勢いで階段を下り始めた。

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