十七話です。
主人公は基本的に考えるより先に体が動くタイプです。
カッとした時も本来は手が出るタイプだけどぎりぎり自制しているつもり。
ただ口が物凄く悪くなるのでそれを抑えるため十話や十一話みたいな高飛車な口調になる。
……という設定が実はあったりするのですがなかなか小説の中で描写できませんorz
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
あと、先週のアニポケ最高でしたね!
「え、じゃあハナコさんとピカチュウはリオの家族の事を知っていたんですか?」
「ええ。とは言っても詳しい事は私もさっき知ったんだけどね。ただ、それで今リオちゃんが一人暮らしをしていると言う事や、お部屋にそのマンションを管理している伯父さんという方の十歳になる息子さんがしょっちゅう遊びに来る事。そしてリオちゃんがその子の事を本当の弟のように可愛がってる事は聞いていたわ。ね、ピカちゃん。」
「…………ピ。」
タマムシデパートの側にあるファミリーレストランは丁度お昼時と言うこともありなかなかの賑わいを見せていた。
ざわざわと騒がしい店内で昼食を取りつつ少し驚いたように声をあげたタケシくんに彼の隣に座るハナコさんが頷きそう話しかけるも、注文したポケモンフーズに一切手を付けず、私の膝の上でしょんぼりと耳と尻尾を垂らし力なく座り込んだまま小さく頷いたピカチュウに苦笑する。
「へぇーー、あたし達にはその話すらしなかったのにママさんにはしてたんだぁ? あとピカチュウ、さっきのあれはリオがドジだっただけなんだから気にしないでいいのよ。ピカチュウのせいじゃないわ。」
「カスミの言う通りだぞピカチュウ。そもそもいくらカスミに追い付くためとは言えリオが階段からダイブなんて無茶しなければピカチュウだってあそこまで怒らなかっただろう? その後の事はリオの自業自得だからな。」
さらに明らかに気落ちしているのが伝わってくる黄色い小さな背中に眉を下げたところで私の左隣に座るカスミと向かいに座るタケシくんから飛んできたピカチュウへのフォローにしたって鋭すぎるツッコミに頬を引きつらせた。
まあ実際その通りだから反論も何も出来ないんだけど!
ってかこれもしかして……。
「……えと、ハナコさんにはこの世界に来てからずっと衣食住でお世話になってるし、食事の準備とか食事中とかによくそう言う話題になるからで。…………あの、二人とももしかしてまだ怒って――」
「当たり前でしょ。」
「当たり前だろう。」
「……ワウ。」
恐る恐る尋ねれば間髪入れずピシャリと言い切られがくりと肩を落とす。
正直あの後散々謝ったのに、って気持ちもなくはない。
でも、もし。
タケシくんとカスミがあの時の私と同じ状況になったらめちゃくちゃ心配するしやっぱり怒るだろうし、そう考えると下手に言い訳する気も起きなくてえー……と曖昧に笑うと右隣から伸びてきた鋼に覆われた手が頭に乗せられ、どんまいというようにぽんぽんと軽く叩かれた。
瞳を細めそちらを見遣ればこちらはしっかりと昼食のポケモンフーズを平らげてるルカリオの赤い瞳と視線が絡み、進化したからなのかリオルの時よりよりしっかりと伝わってきた彼の想いにも苦笑する。
……ん、大丈夫。ちゃんと分かってるよ、ルカリオ。
内心でそうしっかり頷き、まずは意気消沈しきっている相棒からだとそっと彼の頭に手を置いた。
「…………ピ。」
「ピカチュウ、その……君に凄く心配かけた事は分かってる。私は君の強さに甘えすぎていたね、ごめん。さっきも言ったけど私が階段踏み外したのはカスミとタケシくんが言う通り、私がドジっただけの自業自得だよ。だからそろそろ元気だして欲しいな。……私、君が幸せそうにご飯食べてるの見るの本当に好きだからさ。」
「……ピィカ……。」
そのまま軽く頭を撫で、まだ少し潤んだ瞳のしょんぼり顔のまま私を見上げる彼にね?と笑いかける。
そうして全く手付かずのポケモンフーズが乗った器を彼の前に差し出した。
「えと、ありがとう、リオル……じゃなくて。ルカリオ。お陰で助かったよ。」
「ワウ」
その赤い瞳を見つめてるうちにハッと我に返ったのは一瞬だった。
半ば唖然としたままの思考を頭を振る事で何とか切り替えると未だ私を横抱きにしたままの彼に礼を告げればそっと下ろされ、とっと軽い音を立てて床に足が付いた事に知らず知らず詰めていた息を吐き出すと改めて彼に向き直る。
……リオルがなつき進化でルカリオになると言うことはアニメ版メインかつ基本的に薄っすらとした知識しかない私でも知っていた。
だからこそあのトレーナーにそう言えたのだし、さらに言えばゲーム版ではなつき度をあげた上でレベルアップが必要だけどアニメ版ではそれこそサトシのピカチュウがピチューから進化した時の事を考えても必ずしもそうじゃないのだろうとは思っていた。
だから。
それがいつになるかは分からないけど、リオル自身が進化したいと思った時にそう出来るよう私なりに大好きだって気持ちを持ってこの三日間接してきたし、これからだって接していくつもりだったけど……。
「……いくら何でも早すぎない?」
【……言うに事かいて感想がそれか。トレーナーが危険に晒されたんだ。助けたいと思うのは当然だろう。】
「や、嬉しいよ! 嬉しいし実際助かったよ! でも…………って、え?」
思わずぽつりと呟くと完全に呆れた響きを宿した聞き覚えのない冷静で落ち着いた声にそう返され、脳内に直接響いたそれと当たり前にやり取りを交わしたところでピタッと口を噤む目を見開く。
……待って、何だ今の声。
――――まさか!!
「……ルカリオ、君っ!」
「ワウ。」
「――ピィカッ!!!!」
「って、ピカチュウ!?」
次の瞬間一つの可能性に思いあたりハッと声をあげるのと階段の上からの相棒の声が耳朶を貫いたのは同時だった。
あっさりとそうだ、と肯定したルカリオにも言いたい事はあったものの反射的にピカチュウの方をバッと振り返れば、先程の私のように階段の一番上からこちらに向かってダイブした彼の姿が目に入り、慌てて駆け寄ると腕を広げその小さな体を胸元でキャッチし両腕でしっかり抱き止める。
「……っと!」
さらに彼が私の胸元にぎゅっとしがみつくのを感じつつ殺しきれない反動でくるりと軽くその場で一回転してから息を付くとその背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「……びっくりしたぁ。もお、ピカチュウ! 私が言うのも何だけど流石にあぶな…………ピカチュウ?」
「…………ッ、ピ……ッ……」
正直先に同じ事しちゃってるし説得力は皆無なものの一応注意はしとかないと、とそう言いかけたところで耳も尻尾も垂らし私の胸元に顔を埋めたままの彼の体が小さく震えている事に気が付き言葉を切る。
どうかしたかと尋ねる前に感じた胸元がじわりと濡れる感触と涙に濡れきったその声に、ああ、そっかと眉を下げその体を優しく抱き締めた。
「……ごめんね、ピカチュウ。ドジっちゃった。何だか今日は君にずっと心配かけてるのにまた心配かけさせちゃったね。ごめんね。」
「……ピ……ッ、ピカ……チュ……ッ。ピ……。」
「何言ってんの。そんなわけないじゃない。うん、今のは絶対君のせいなんかじゃない。」
「……ピッ……。」
「リオッ!!」
「リオ!! ピカチュウも! 大丈夫!? 怪我とかしてないでしょうね!?」
「タケシくん、カスミ。ん、大丈夫。ルカリオのおかげで怪我もしてないよ。勿論ピカチュウもね。」
「ワウ。」
出来得る限り優しい声音で謝罪し自分のせいだと涙声で告げる彼の言葉をしっかりと否定し安心させるようにその背を撫でる。
次いで弾かれたような勢いで階段を駆け降りてきた二人にも同じように答え内心で嘆息した。
……何かさっきから私、本当にダメダメだなあ。
「…………あの、皆。その、今の事は私の不注意だった。あの時点で受け身も取れてなかったし、ルカリオが助けてくれなかったらちょっとやばかったと自分でも思ってる。申し開きもないです。以後気を付けます。ごめん。」
「…………本当よ。もうこんな事は絶対無しにしてよね! 今回はリオルがルカリオに進化して間に合ったから良かったけど、こんなに危なっかしいんじゃいくらピカチュウ達がいるとは言えリオ一人でガラル地方に行かせていいのか心配になるでしょ!? ホンットに気を付けてよね!?」
「いや、ガラルではこんな事はないと思う……から。うん。大丈夫、約束します、気を付けます。」
「本当ね! もし約束破ったらポフレじゃ許さないわよ!!」
そんな気持ちを押し込めて未だ顔をあげないピカチュウ以外の皆の顔を見回し改めて謝れば一番初めに思いっきり息を付いたのはカスミだった。
眉を吊り上げてそう迫ってくる彼女にたじたじになりながらも約束するからと繰り返し、その様子を眉を寄せ凄く険しい顔を黙ってみているタケシくんに気が付いて瞳を伏せる。
……うん、多分カスミとの事からこっち、一番心配かけてたのはピカチュウとタケシくんだって言うのは分かってる。
そもそも二人とも置いていっちゃってたし、私が何かと無茶なのはピカチュウと出会った時の事やあのポケモンセンターでのやりとりの時点で二人とも分かっているのだろう。
その上彼らの前で自分のドジで階段から落ちたとこも含めると、空から降ってくる私を助けてくれたピカチュウや、出会ったばかりの時でさえ私が自分の怪我を軽く考えた時に真剣に怒ってくれたタケシくんに対しては完全にやらかし案件だ。
……これ絶対後で改めてフォローする必要あるよね、と内心で再確認しつつタケシくん、と呼び掛ければいつもとは明らかに違った様子でリオ、と呼ばれ肩が跳ねる。
うん、正直凄く怖い。
「俺が言いたい事は分かってるよな。」
「……はい。……その、ごめんなさい。」
「それですむなら警察はいらないだろう。」
「…………分かってます。でも、今の私には、そう言うしか術がないから。ッ、タケシくんとピカチュウにどれだけ心配かけたかちゃんと分かってるし、ここでいくら言葉を重ねたところで二人からすればただの言い訳にしか聞こえないって事も分かってる。……きっともっと良い言葉もあるんだろうけど。……タケシくんに嘘や誤魔化しは、できる限りしたくないです。」
さっきの階段から落ちるような不注意は自分が気を付ければ回避できる。
でも、そうじゃなくて。
今回のような無茶は二度とするなと言われたら、私はきっと頷けない。
だってそう約束するのは簡単だけど、でも、きっと。
それが私に出来ることなら。
それに私の手が届くのなら。
私はまたその時が来ればいくらでも無茶をするだろうし、自らの体を張る事も目に見えていた。
だから、ごめんと繰り返せば彼が小さく息をついた。
「『出来る限り』じゃなくて、絶対にしないでくれ。何度だって言うが、リオは一人じゃない。俺達が付いてるんだ。それを忘れないでくれ。……頼むから、一人で全部背負おうだなんてするな。次、同じことしたら本気で怒るからな。」
「……タケシくん。」
私の瞳を見て話す彼の言葉はどこまでも真っ直ぐで力強くて。
彼を見つめる事しか出来ない私にふ、と眉を八の字に下げた彼にツキリ、と痛んだ胸を誤魔化すようにピカチュウを抱き締める腕に微かに力を込める。
……ああ、私また……。
【……タケシに負担をかけたと悩む暇があるなら、もう少し他人を頼る事に慣れろ。先程だってあんな無茶をしなくても例え進化前の私の身体能力でもカスミを引き留められる事が可能な事など分かりきってた事だろう。】
「……っ、な、なあ゛ぁッ!!?? ルカリオッッ!!!? さ、流石にそれは反則でしょ!?」
【ああ、私とてこんな事は不本意だ。人の心を本人の承諾なく語るなど無粋にも程がある。だが、リオは心にしまいこんでしまう思いが多すぎだ。――口に出さなければ思いは他者には伝わらないぞ。】
「……そ、それは分かってる、けどっ!」
「ピカッ!!」?
「って、ピカチュウ?」
次の瞬間明確に音にされただけでなく物凄い正論でばっさりと切り捨てられた心の奥底でぽつりと呟いた内容に思わず目を見開き、バッと勢いを付けてルカリオへと振り返る。
さらに言ってる事はその通りなものの、いくらポケモン図鑑の説明で波導で人の考えや気持ちが分かると説明されているとは言え今のは流石に駄目だろうと反論しようとしかけると腕の中で吃驚したような声をあげたピカチュウに視線を向ければ、私の胸から少しだけ顔をあげたまだまだ目尻に涙を浮かべ潤みきった彼の瞳と目が合った。
「ピカチュウ? どうかし…………あ゛。」
きょとんと首を傾げそう尋ねるとほぼ同時に背後から伸びてきた二つの手にポンッと肩を叩かれハッとする。
……そ、そう言えばつい当たり前のように会話しちゃってるけど、ルカリオの事まだ話してなかった!
「……あ、あの、違うよ? その、黙ってたわけじゃなくて、その、は、話すタイミングが……。」
咄嗟にそう弁解するも背後から明確に伝わってくる怒気は全く薄れることがなくて背筋を冷や汗が伝う。
そのまま壊れたロボットのようにギギギッと肩越しにゆっくり彼らへと振り返った後の事は……お察しという事でいいだろう、うん。
で、そこからは少し遅れてハナコさんも合流して。
またなんやかんやあったもののとりあえずお昼ご飯を食べに行こうって話になり今に至ると言うわけだ。
「それにしても。 リオルちゃんがこんなに早く進化するなんて驚いたわ。しかも、テレパシーで話せるようになるなんて。」
「……あはは。ですね、私も驚いてます。」
【テレパシーについてはそんなに驚く事でもないだろう。タケシから聞いた。以前テレパシーで会話をするルカリオに会った事があると。同じポケモンの彼らに出来るなら私にも出来るのではないかと考えたんだ。それで……。】
「……やってみたらあっさりできた、と? てかタケシくんから?」
「ワウ。」
やっとの事でポケモンフーズを手に取り食べ始めたピカチュウにほっと息を付いたところで食後のコーヒーを飲むハナコさんに水を向けられ、眉を下げて笑いながら軽く頬を掻く私の隣であっさりとルカリオが答える。
さらにタケシくんに視線を向ければ丁度ハナコさんと同じように食後のコーヒーを飲んでいた彼もまたああ、と頷いた。
「さっき屋上でリオ達を待ってる間、リオルにルカリオについて聞かれてな。俺がサトシ達と旅をしてる最中に出会ったルカリオ達の話をしてたんだ。他にも人の言語で人間と意志疎通を図るポケモン達がいた事は伝えたが、まさかルカリオ自身が話すとは考えてなかったな。」
「……だよね。」
「そうね。それにテレパシーにしても直接にしても人の言葉を話すポケモンって本来だったら珍しいのよね。あのロケット団のニャースを知ってるとあまりそう思わないけど。」
「ああ、そうだったな。そう言えばあいつらも今頃どうしてるんだろうな。……まさかまだサトシのピカチュウを狙ってるなんて事はないと思いたいが……。」
「まっさかぁ。そんなの流石にしつこ過ぎるわよ。またどっかで悪いことはしてそうだけどね。」
…………うん、まあ結論から言えばそのまさかだし、カロス地方において悪事を働いてはサトシのピカチュウ達に吹っ飛ばされてるんだけどね。
……絶対に言えないけど。
タケシくんとカスミのやりとりを聞きながら内心で呟き苦笑する。
そのまま私の前にも置かれているコーヒーカップを手に取り大分ぬるくなってしまったコーヒーを口に含んだ。
確かにアニメ版ではそれこそロケット団のニャースを筆頭として。
劇場版では準伝説ポケモンや伝説ポケモンと呼ばれる彼らの中に人と話せるポケモン達はいるしそう考えるとテレパシーを介しての会話はそこまで難しい事でも、珍しい事でもないのかもしれない。
……でもなあ。
「……ねえ、ルカリオ。」
【ああ、分かっている。テレパシーを使い会話をするポケモンはいるにしても、珍しい部類だろうからな。これを使うのは緊急時以外では今この場にいる面子の前だけにしておこう。……それに、こんなものに頼らなくてもリオとは意志疎通が大体とれてるしな。】
「……ん、ありがと。」
「ワウ。」
カスミの言う通りやっぱり珍しい部類だろうし目立つだろうなと結論付け口を開くと恐らくすでに私の考えが分かっていたのかさらりと答えられた内容に小さく苦笑しそっと彼の頭に手を置く。
そのままリオルの時とはまた違った手触りの頭を毛並みに添って撫でていると、調子が出てきたのか少しずつ掃除機のような食欲を発揮し出してきたピカチュウがその長い耳を揺らし、ピタッと動きを止めた事に気が付いた。
「ピカチュウ?」
「ピィカ、ピカ、ピカチュウ。」
さらに尋ねれば私を見上げ話す彼の言葉ににきょとんとする。
「……雷……と雨?」
「ピカチュ。」
そう聞き返すと同時に私達の席からは少し離れた位置にある窓の外がカッと白く閃光した。