十八話です。
主人公が自分の手持ちとカスミとタケシが好きすぎて困ります(´・∀・)←
でも一応今のところこの小説に恋愛要素を入れるつもりはないので全部友愛+親愛というあれですね!
とりあえずカントー編はあと2、3話で区切りがつく……はず_(:3」∠)_
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
その閃光は一瞬だった。
次いで今までは自分達の話に夢中になっていた事に加え店のBGMやざわめきに掻き消されていたのだろう雷鳴が耳朶を打ち、窓へと視線を向けると同時に天の底が抜けたかのような勢いで降り始めた雨があっという間に窓の外を白く煙らせていく。
まさに土砂降りと言う言葉がぴったりなその様子に確かに天気予報では午後から天気は下り坂だと言っていたけども、と内心呟き視線を窓から戻せば丁度同じような動きをしていたのだろうタケシくんと目が合い何となくお互いに眉を下げて笑い合った。
「凄い一気に荒れてきたわね、天気。」
「ああ、ここまで激しいのは一時的だろうけど暫くはここで雨宿りだな。」
「そうね。荷物もある事だし落ち着くまでゆっくりしていきましょ。そうだ、折角だからデザートも追加注文しちゃわない? こういう時じゃないとなかなか食べる機会ないのよね!」
「……ピッ!!」
「……ピカチュウ……。」
さらにポンッと手を打ったハナコさんの提案に一番乗り気な声をあげた相棒に苦笑し明らかにポケモンフーズを食べるスピードが上がった彼に肩を落とす。
……ま、この方がピカチュウらしくていいんだけどさ。
「決まりね。ほら皆、メニューからデザート選んで選んで。カスミちゃん、タケシくん遠慮しないでね。 勿論リオちゃんもよ!ピカちゃんとルカちゃんはポケモン用のメニューね。」
「はい!」
「ありがとうございます、ハナコさん。」
「ありがとうございます。」
ピカチュウの口元の食べかすを取りながら答えハナコさんに手渡されたポケモン用のメニューを受け取りまずは隣のルカリオに見えるように開くと膝元からピカッ!と抗議を多分に含んだ声が耳朶を打った。
……全く。
「心配しなくてもちゃんと君の分も頼むからまずはご飯をきちんと食べなさい…………ってもう三分の二以上食べてるし。」
「ピカチュウ。」
「……もーー、早食いは駄目だっていつも言ってんのに。あ、ルカリオ食べたいのあったら言ってね?」
「ワウ。」
そこまで言ったところでピカチュウの前に置かれた器を見遣ればすでにほとんど食べ終わっている事に気が付き小さく眉を下げる。
それに何故かドヤ顔で返してくる相棒に仕方ないなと息を付き興味深そうにメニューを眺めているルカリオに一声かけ、ポケモン用と言う割にはボリュームやデコレーション等も人間用とあまり遜色のないデザート達についつい見入っていると再び耳朶を打った雷鳴につられるように窓の外へと視線を向けた。
――あの日から雨が嫌いになった。
灰色の空も、雨の匂いも、雨の温度も、雨音も。
何年経とうが記憶の中から薄れようとすらしないあの川原を思い出すには十分過ぎる要因で。
簡単に思い出せる凍てつく雨に打たれ私の手の中でぬるくなっていく二つの手と凍え切っているはずなのに全く熱が消えない己の体がただただ悔しくて、悲しくて。
――ああ、置いていかれたのだ、と。
否が応でも分かってしまったから。
一人になってしまったのだと、痛い程理解してしまったから。
だから私にとっての雨は、私が独りである事を何度でも再確認させてくるような存在だった。
…………なのに。
何でだろう、今窓の外で降っている雨にはいつも感じる心臓を抉りだしたくなるような深い絶望も、暗闇の中にいるような孤独感も感じる事も何もなくて。
むしろ雨に洗われていく町が綺麗だとさえ思う自分がいて。
瞬間、ああ、そっか、と。
私、もう独りじゃないのか、と。
胸の中に当たり前のように呆気ないくらいストンと落ちた言葉と確かな痛みに一つ息を付くと、視線を膝の上のピカチュウの後頭部に移し瞳を細める。
さっきまでの落ち込みはどこへやらの勢いでポケモンフーズを咀嚼する彼の動きに合わせて小刻みに揺れるその頭に、やっぱドリルだよなあなんて内心で誂い小さく笑うと気配を察したのかポケモンフーズを両手に持ったまま振り返った彼の濡れた黒曜石の輝きを宿す瞳と視線が絡んだ刹那。
じわりと胸の底から沸き上がった衝動に突き動かされるまま苦しくない程度に力を入れて自分の腕の中に閉じ込めるように彼を抱き締めるとぽすりとその後頭部に顔を埋めた。
「ピィカ? ピカチュ……ピカッ!!?」
私の突然の行動にきょとんとした彼がきっと自分の後頭部が濡れていく感覚に気が付いて焦ったように声をあげるけど、今それに答える余裕が私には一切なくて。
その黄色い毛並みにさらに顔を擦り寄せるとぼとぼとと瞳から溢れて止まらない『雨』をいくつもいくつも落としながら瞳をぎゅっと閉じる。
ああどうしよう、温かい。
「リオ? リオ、どうしたのよ!? ねえ!」
「ピカッ! ピカチュ、ピカッ!」
「――ワウ。」
次いで左隣から聞こえたかなり焦燥に満ちたカスミの声と、余計混乱する相棒に私の肩を揺さぶる彼女の手の温かさにさらに瞳から次から次へと『雨』が溢れて顔が上げれない私に代わって大丈夫だと告げてくれたのは右隣のルカリオで。
きっと私の心なんてさっきみたいにお見通しの癖にそれを言う事もなく、ただ一言だけテレパシーを介さずに伝えてくれた彼に心の中でありがとう、と呟けばきっと伝わったのだろう彼の鋼に覆われた手がそっと腕に添えられると同時にきっと私の異変に気が付いて近寄ってきてくれたんだろう、多分今どうしても離せないピカチュウと同じように私にとって少しだけ特別な存在なんだろう彼の温かな手が肩に乗せられた事にまた大粒の『雨』が一粒だけ溢れ落ちた。
「リオ、何があったのか話せるか?」
そう穏やかに問いかけられた声に緩く首を横に振る。
うん、ごめん。今はきっと口を開いても声にならない。
「……そうか。どこか痛いとか具合が悪いとかじゃないんだな?」
それには肯定の意味を込めて一回頷けば少しだけ彼の手に力が籠った事に苦笑した。
うん。そりゃあ皆にしたら何でいきなり泣いてる分かんないだろうし、私の事だからまた言わないつもりかって思われてそうだけど。
でも、そうじゃない。
そうじゃないんだ。
これは……ッ、今溢れて止まらない涙の意味は。
辛いとか、痛いとか、苦しいとか、悲しいじゃなくて。
ただ。そう、ただ……ッ。
「……ッ、ごめ、違うの……っ。うれし……いの。」
「リオ?」
「嬉しいって……。一体どうしたのよ。」
「ピカ、ピカチュッ? ピ、ピカッ、ぴかア、チュああアアアッ!!?」
そう胸の奥から押し出されるように口から溢れた声は情けない程に震えていて。
タケシくんとカスミの後の相棒の問い掛けににぃっと口元を吊り上げ、彼を抱き締める腕をほどくと同時にその小さくて黄色い体を思い切り擽った。
……全く。
「ピィカ!! ピカ、ピカチュウ!!」
「……ッ、誰が、デザートがッ食べられる、嬉しさ……で泣くっのさッ、それ、君じゃないッ、ピカチュウッ。」
ひとしきり擽り倒したところでバッと彼が私へと振り返った事でその後頭部から顔は離れてしまったけど、あまり気にする事なく怒り心頭で喚く彼に震える声でつっかえながらそう返し私の相棒へと笑いかける。
そのまま瞳から溢れて止まらない『雨』ごと目元をごしごしと擦っているとピ、と耳を下げた相棒が少しだけ背伸びをして私の頬を伝う雫をその小さな舌でチロリと舐めあげた。
「……ッ、ん、くすぐ、ったいよ、ッピカチュウ。」
「チャアア……。」
擽ったさに笑いながら何度もそれを繰り返す彼の頭を安心させるように撫でると一度自らの気持ちを落ち着かせる為に息を吐く。
……ああ、もう本当。気付きたく、なかったなあ。
「……ピィカ。」
「……ッん、急に泣きだした事はごめんね。でもね、ピカチュウ。涙ってね痛い時や悲しい時や、辛い時だけに流れるものじゃないんだよ。……ッ、私、今凄く嬉しいの。……君とルカリオに、ッタケシくんと、カスミとハナコさんに出会えた事が、ッ今こうして一緒にいられる事が、ッ凄く嬉しくて……ッ幸せだな、って。その想いが溢れて止まらなくなって……ッ涙が出るの。」
「ピカ……。」
「……ッ、家族を失ってから、私はずっと一人だった。ッもしかしたら、そうじゃなかったのかもしれないけど……ッでも、一人なんだって。……ひとりぼっちなんだって。……いくつの世界に落っこちようがッ、そこで、どれだけ良い仲間に恵まれようが……ッどれだけ、救われようが。元の世界に戻れば、私はひとりぼっちのままで。きっと一人で生きて……独りで死ぬんだろうな、って。だから、ッ、落ちた先の世界の人達と関わるのが、凄く怖かった。自分が惨めにッなるのが嫌で、そんな自分勝手な気持ちで綺麗事を建前に、拒絶してた……ッ。」
みっともない程に震えて仕方ない喉で懸命に紡ぐ言葉は涙で濡れきっていた。
誰かの息を飲む音が耳朶を打ったのを感じながらも嗚咽を堪えて続け、小さく震えた両肩に乗った二つの手に自らの手を重ね少しだけ力を入れて握り締める。
……ごめんね。こんな話、本当はするつもりなかった。
言えば二人を苦しめるって分かってたから。
だけど。
でも――。
「……ッでも、この世界に、来て。ッ皆に出会ってからは、ッそう考える事が減って……。いつも心のどこかにあった孤独や疎外感なんて忘れるくらい、毎日が楽しくて、愛おしくて仕方なくて。ッ……ああ、私、もうひとりじゃないんだって……ッ。……ッそんな風に思えたのは、タケシくん、カスミ。二人のお陰なんだよ。いつも真っ正面から私に接してくれる。名前を呼んでくれて、笑いかけてくれるっ、私の事を心配して叱ってくれて、ッ、側にいてくれる友達がいてくれるから。……ッ自分の体質ずっと大嫌いだったけど、でも、この世界に来れた事だけはッ、皆に出会えた事だけは、感謝してるんだ。――貴方達に出会えて良かった。……だからね、一つ決めた事があるの。」
最後にそう付け足し『雨』を振り払うように思い切り目元を擦り、顔をあげた。
一瞬目が合うと私の背を押すように小さく、けれどしっかりと頷いたハナコさんに小さく微笑み四人の顔を順に見回してから口を開く。
……うん、そうだね。やっと、見つけたと思うんだ。
だから、……
「……この世界に来てからの半月間。私の願いはこの世界に出来うる限り長く留まる事だった。少しでも長く、皆といられるように。そのための努力は惜しまないってずっと思ってた。……でも、そうじゃない。そうじゃなかった。私の、願いは……どんなに願っても、祈っても叶う筈がないって諦めてた本当の願いは。――この世界で、皆の側で、一緒に生きていく事。だから。私、元の世界に戻らない。これからの人生、生きていくならここがいい。ここじゃなきゃ、嫌だ。だからこれからは、元の世界に戻らないでいられる方法を。この世界でずっと生きていくための方法を探そうと思う。…………そう、決めたんだけど、どうかな? やっぱだ……わっ!……と。」
「っ、何で……。本当何であんたってたまにずるくなるのよ!! リオにっ、友達にそう言われて! あたし達が駄目なんて言うと思ってるの!?」
「ピカッ!!」
続きは言葉にならなかった。
ぐいっと制服のスカーフを思い切り掴み引っ張られ、少しだけ強引に上半身が向き直り視線が絡んだ瞳を潤ませたまま眉を吊り上げるカスミと、私の膝の上で真っ直ぐ此方を見て抗議の声をあげる相棒に小さく眉を下げて緩く首を振るとそっと両手を伸ばし彼女の肩に腕を回して抱き寄せた。
…………ああ、もう本当。……だから私はカスミに弱いんだよなあ。
「……思わないかな。カスミとタケシくんの気持ちはさっき屋上でタケシくんから聞いたし、ピカチュウとルカリオに関しては二人がどれだけ嫌がろうが、もう私から手を離すつもりはないから。……たださ、やっぱ『いつかはいなくなる泡沫の存在』として接されるのと『この世界にずっといたいって踠く存在』として接されるのって違うからさ。……それに。やっぱ言って欲しいじゃん? ……泡沫の存在でも、そうじゃなくても。私はここにいていいんだって。……じゃないとやっぱ不安だし。」
カスミの背を宥めるように撫でながら実は結構ずっと胸の内で燻っていた言葉を物凄く軽く言えばカスミは勿論の事、全員が息を飲み肩を跳ねさせた事に苦笑する。
……うん、だってさ。
さっきタケシくんにはタケシくんとカスミの思いとして『いて欲しい』って言って貰えたけど、それ以前は『この世界に長くいられる方法を』とか『この世界にいたくないの!?』とかしか言われてないからね、私。
まあそれだけ私がここにいるのが当たり前という前提で全てにおいて話が進んでたし、それってつまりここにいていいんだって皆から態度で示されてんだなあとは思ってたし納得もしてたけど。
【……リオ、一つ聞くが、お前いつ頃からその思いを燻らせていた?】
「いつ……。そうだなぁ、この世界に来て結構すぐだから三日目あたりぐらいから? でも流石にこれは私からは言えないし、皆の態度から察してはいたからそこまで燻らせてらないし、常に不安だった訳じゃないよ? ただまあ折を見てピカチュウぐらいには『私ってここにいていいのかな?』みたいに聞こうとは思ってたけど。」
「当たり前でしょ!!」
「当たり前だろ!!」
「ピッ!! ピカ、ピカチュウ!! ピカッ!!!!」
完全に呆れ返ったような響きを宿したルカリオの問いに肩越しに振り返り、少し考えてからあっけらかんと答えればピカチュウより先に返ってきたのはぴったりと揃った二人の声で。
一拍遅れて弾かれたように当たり前だ、当然だろうと私とカスミの間で大騒ぎする相棒の頭を落ち着いてとポンポンと撫でながらもじわりと胸に広がった安堵とどうしようもない嬉しさに顔が緩んだ。
「……まあ例え尋ねたとしても三人ならそう言ってくれるだろうなとは思ってたけど。……ん、やっぱちゃんと言ってもらうと嬉しいね。ありがと、三人とも。」
そうへらりと笑えば少しの沈黙の後タケシくんとカスミがどこか疲れたように大きく息を吐き出すのを見てきょとんと首を傾げると、カスミの手が背中に回されて今度は私が強く抱き締められる。
「……あたし、リオがどういう奴なのか今日やっと分かった気がするわ。」
「俺もだ。……やっぱり、目を離したら駄目みたいだな。」
「ピカ」
「ワウ」
「ん??」
さらに何故か四人だけで分かり合っているような会話に本当このパターン多いなと少しだけいじけた気分になっていたところでリオ、と呼ばれて少し体を離せば真剣な表情の彼女の空色の瞳と真っ正面から視線が絡んだ。
「……カスミ?」
「いい? 『ここにいてもいいか』じゃないの。あんたはここに、この世界にいるの。ずっと、あたし達と一緒にいるの。あたし達の側で生きていくの。……あたし達を置いていくなんて許さない。だから、覚悟してよね、リオ。あんたを、あたし達の仲間を一人にするような世界になんて絶対戻させない。もしリオが帰りたいって言っても絶対帰さないんだから!!」
「ああ、そうだな。リオ、俺は今までリオには帰る場所があると思っていた。だから今がどれだけ楽しくても、それが少しでも遠い日になるようにと願いながらもいつか来る別れの日を消す事は出来ないと。リオのためを思うなら、いつかが来たその時は笑って別れるべきだと思っていた。でも、そうじゃないのなら。そこがリオが一人になる世界なら、そんな世界にリオを帰したくない。帰させられない。だから、ずっとこの世界に、俺達の側にいてくれ。――俺達を置いてどこにも行かないでくれ。リオの居場所は、リオが生きていく場所は、ここだ。」
「ピカチュ!!」
「ワウ!」
そう言い切ると瞳を潤ませながらもバトルの時のような不敵な笑みを浮かべるカスミと。
続けられた声に肩越しに振り返ればしっかりと視線があったカスミと同じように不敵な笑みを浮かべタケシくんと。
そんな二人に力強く頷いて私を見るピカチュウとリオルの、皆の姿はどこまでも真っ直ぐで、温かくて、力強くて。
心の奥の奥、魂にまで染み渡っていくように感じたそれは途方もなくてでもとても温かくて愛おしい願いのようで。
「…………あーー、もおお。皆、ずるい、なあ。」
どうしようもない程、火傷しそうな程に温かくて仕方ない胸の奥に瞳を細めて思わずそう呟けば、一度は乾いた筈の瞳からほろりと大粒の涙が零れ落ちた。