今回はタケシとの出会い編ですね。
タケシは個人的にかなり好きなキャラなのでこれからも贔屓していくと思います。
それでは少しでも楽しんで頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。
落下地点の森はとても気持ちがいいところだった。
木々の隙間から降り注ぐ木漏れ日はきらきらと輝き、時折森特有の清々しい香りを纏った心地良い風が辺りを吹き抜ける度にさわさわと木々や草むらを揺らしていく。
前回の世界にも森はあったけどあそこはそもそも生徒立ち入り禁止だったしなかなかに危険生物とかいたしなあ、なんてぼんやり考えながら辺りを見回せばあちらこちらにテレビの中で見たことがある『地球上のどこにでもいる不思議な不思議な生き物』達の姿が見て取れて、改めてここがポケットモンスターの世界だと言うことを実感する。
ただ私のポケモンの知識レベルってたまに弟に付き合ってアニメの方のポケモン見るくらいで、ゲームの方だと弟や幼馴染みからあらすじとか聞くぐらいだなんだよなー。
まあ、ポケモンの世界では「地方」って名前で都道府県や国が区切られていて、最新のゲームまでで九個くらいの地方が発表されてるってくらいは知ってるけど。
って事は……。
「ここ、何地方のどこなんだろう?」
「ピカ?」
思わず口を突いた疑問にどうかした?と言わんばかりに顔のすぐ横から返ってきたのはやっぱり可愛らしい鳴き声で、そちらを見遣れば私の左肩に乗ったピカチュウの真ん丸な瞳と視線が絡み、何でもないよと曖昧に笑いその背中を撫でるとチャー!と嬉しそうに声をあげられた。
うん、可愛い。
そもそもピカチュウってアニメでは主人公の一番のパートナーって事でめちゃくちゃ可愛く描かれてるし、たまに行くショッピングモールのポケモングッズが売られてるお店のピカチュウのぬいぐるみとかも凄く可愛いけど、実物はそれに輪をかけて可愛い。
……じゃなくて。
思わず斜め上方向にぶっ飛びそうになった思考を軽く頭を振る事で戻し改めて思考を巡らせる。
ちなみに何でこんな状態になってるかと言うと理由は至極単純で、枝を離し着地した後もピカチュウが私の側を離れなかったからだ。
「ピカチュウ、ありがとうね、本当に助かったよ。」
「ピッカ!!」
一度はそう言って別れようとしたものの当のピカチュウはえへんと胸を張ったまま動こうとしないし、私が歩き出せば付いてくる始末だし。
何でピカチュウがそこまで私に付いてきたがるかは分からないけどで仮にも命の恩人……や、恩ポケ?を無下にも出来なくてどうしようかなって考えた時に思い付いたのがポケモンセンターだった。
確かゲームだとポケモンってわざを使える回数が決まってて、回復するためにはポケモンセンターとかで休ませるしかなかったし、アニメではそうじゃなかったとしても無理をさせちゃった事に代わりはないからポケモンセンターで回復して貰って。
あとはポケモンのご飯を何とか手に入れて食べさせるくらいすれば恩返しにもなるし、満足すればピカチュウも元いた場所に帰ってくれるんじゃないかって魂胆だった。
さらに彼が肩に乗ってるのは「ねえピカチュウ。この森から出て街に行きたいんだけど出口はどっちかな?」と聞いたところ「ピカ!」と掛け声一発のもと私の体を登り肩に乗られた上であっち、と道を指されたからだ。
「ピカ!!」
「ん?」
そんな事を考えていると不意にピカチュウが道の先を指差し声をあげた。
小さな黄色の指の先へ視線を向ければ、あと五メートル程先で森が途絶えている事が分かりほっと息を付く。
その先がどうなっているかまだ木々に遮られて分からないけど、どうやらあそこが出口で間違いないらしい。
「ピカ、ピカ! ピカチュウ!」
「あそこの先に町があるって事だよね? じゃあ行こっか!」
「ピカ!」
さらに何事か告げてくるピカチュウに確認の意味も込めて尋ねればしっかりと頷かれ小さく笑う。
肩に乗る温かな体温とあと少しで別れなければならない事に感じた一抹の寂しさを押し込め、善は急げと言わんばかりに地を蹴った。
※※※
そこは山間部にある町だった。
森の出口が町を見下ろせる位置にあり、そこから見た感じでは周囲を自然に囲まれながらも中心部にはビルや建物が建ち並びなかなかの賑わいを見せているような印象で、早速そこに向かった……までは良かったんだけど。
「……うーー……ん。ないなあポケモンセンター」
「ピカピカ」
町に入ってから約数十分。
私は目当てのポケモンセンターを見つけられず完全に迷子になっていた。
もしこれが弟や幼馴染みだったら街の様子とかからここが何地方の何ていう町かは勿論、ポケモンセンターの位置もぱぱっと思い付くんだろうけど、残念ながら『ポケモンセンターは赤い屋根の建物』くらいのぼんやりとした知識しかない私ではそんな芸当できる筈もない。
ちなみに最悪店の看板とかで判断すればいいやって楽観的な考えは実際看板見た時点で霧散した。
そう言えばポケモンの世界で使われてる文字って日本語じゃなくて創作文字じゃんって。
つまり何が言いたいかと言うと。
全く読めない。
「完全にまずったなあ。誰かに尋ねようにもあんま人歩いてないし……どっか適当なお店入って聞くしかないかあ。」
「……ピカ」
キョロキョロと辺りを見回しながら言うとさっきから返事を返してくれていたピカチュウの声に急に元気がなくなった気がしてハッと立ち止まる。
慌てて左肩を見ればつい少し前まで私同様辺りを興味深げに見ていたピカチュウが今やその耳を下げどこかぐったりしているように見えて息を飲んだ。
……嘘。
「ッ、ピカチュウ!? 嘘、ピカチュウどうしたの!?」
「…………ピ……。」
呼び掛けるけど反応せず、ずりっと肩から滑り落ちそうになった彼をすんでのところでキャッチし胸元に抱え直すも弱々しく鳴くだけのその姿に心臓に直に氷でも押し付けられたかのような気がして息を飲んだ。
ザッと全身から血の気が引き、ばくばくとうるさいくらい脈打つ心臓に落ち着け落ち着けと言い聞かせながら腕の中の存在をしっかり抱き締める。
でも何で急に……。
「もしかして元気に見えてただけで、本当は私を助けた時かなり体にダメージがあって、離れないんじゃなくて離れられなかったんじゃ……。」
ぐったりとしたピカチュウの姿にそう確信めいたものを感じぐぐっと奥歯を噛み締める。
もしそうなら、彼が私の肩に乗ってきたのも分かる気がする。
きっと自分ではもう歩く事すら出来なかったんだ。
「……ッ、これは私が招いた事。私と出会ったから、私のせいでピカチュウはこうなった。だからこれは私が負うべき責任。そうでしょ、理生。」
――だから。こんなところで立ち止まってる暇なんて、ない筈でしょ。
震えそうになる膝を叱咤し自分に言い聞かせるように呟くと思い切り地を蹴って走り出す。
とにかく今見えてる中で一番近い店に飛び込んでポケモンセンターの場所を聞かないと……!
そんな風に焦って周りが見えていなかった為か勢いに任せて角を曲がった瞬間、向こうから買い物袋を両手に下げて歩いてきた人物と思い切り正面衝突した。
「うわっ!!?」
どこかで聞き覚えがある落ち着いた響きの少年の焦ったような声の後、ドスンと音を立て尻餅を付いた彼の両手の買い物袋からガチャンと何かが割れる音と共に買い物袋の底からじわりと液体が滲み地面を濡らしていく。
まさか、あれって……。
「……ああ~~~~!!? 買ったばかりのモーモーミルクが!!!」
その音に嫌な予感を覚えるよりも早く少年の絶叫がその場に響き渡った。
嘘でしょ!? と内心叫びながらもいくら急いでいるとは言え無視できる筈もなく買い物袋を呆然として見ている彼にごめんなさい!と勢いよく頭を下げる。
「あの、私急いでて! 前よく見てなくって本当にすみません!! あの、後で弁償でも何でもするしお望みなら土下座も辞さないので、お願い教えて! この辺にポケモンセンターは!?」
「え? あ、ああ、ポケモンセンターならこの道をまっすぐ行けばすぐにある……ってどうしたんだそのピカチュウ!!」
勢いのまま少年に畳み掛けるとその細目を白黒させながら歩いてきた方を指し示したところで彼の声音が変わった。
がばりと立ち上がり私の腕の中のピカチュウの額に熱を測るように手を伸せた彼に分からないの、と首を振る。
「さっきまでは元気だったの、でも急にぐったりして、体に力が入らないみたいで……! 私のせいなの、ピカチュウ私を助けるために無理をして…! だからポケモンセンターに……!」
後半になるにつれ気持ちばかりが急いてパニックみたいに叫ぶ私に分かったと頷いた彼が私の腕の中からピカチュウを抱き上げた。
「君、名前は?」
「ッ、へ、あ、リオッ、空野理生です、あの、それより……!」
「ああ、分かってる。俺はポケモンブリーダー兼ポケモンドクター養成学校の生徒のタケシだ。ポケモンセンターはこっちだ、着いてきてくれ!!」
「は、はい!!」
それだけ言うと両腕の買い物袋がガチャガチャ音を立てるのも構わずに走り出した彼の後に続いて走り出す。
その瞬間、前方を走る彼――タケシくんの腕の辺りからぐうううう……と何とも間抜けな音が聞こえた気がして首を傾げた。
「『ぐううう……』」?」