第2話です。
まだまだ導入部分+説明回です。
タケシはハイスペックだと常々思ってます。
それでは少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「ピッ、ピッ、チュ、ピッ――。」
「……新手の掃除機か何かかな?」
ポケモンセンターの一角。
ジョーイさんのご厚意により置かれた小さなカフェテーブルの上に器に入れて置かれた山盛りのポケモンフーズがが次から次へと物凄い勢いでピカチュウの口の中へと消えていく。
中々に凄まじいそれを同じくご厚意で置いて貰ったカフェチェアに腰を下ろし完全に脱力して眺めながら呟いたのも致したかない事だと思う、うん。
――あの後。
血相を変えて飛び込んできたタケシくんと私に驚きながらもすぐにピカチュウを診てくれたジョーイさんによると、ピカチュウの症状はわざの過度使用による多少の疲労と空腹によるものであると告げられた。
「……空、……腹?」
「ええ、つまりお腹が空き過ぎて体に力が入らなかったみたいね。だから高栄養高カロリーのポケモンフーズを食べさせれば大丈夫よ。」
「……そ、ですか……。」
ジョーイさんの説明を聞きながら膝から崩れ落ちそうになる程の脱力感に襲われながら返事を返す。
ちなみにこの頃になるとジョーイさんの助手であるというたまごポケモン・ラッキーに抱えられたピカチュウのお腹からはぐうううとかくきゅるるるとかぐぅぅぅるるとか切ない音が絶えず響いていて、それもさらに脱力する要因だった。
「……もおお、ピカチュウうう~~……」
「まあまあ。病気とか怪我じゃなくて良かったじゃないか、な?」
もうどうつっこんでいいか分からず呻く私を励ましてくれたのはタケシくんで、そう言う彼も苦笑ぎみで申し訳なさが増していく。
「……それはそうだけど。てかタケシくん本当ごめんね、モーモーミルク割っちゃった上にこんな事に巻き込んじゃって。」
「いやなに困った時はお互い様さ、リオ。」
そう言ってポン、と肩に乗せられた手はとても温かくて知らず知らずほっと肩の力が抜けてありがと、と笑いかける。
「じゃあ後はポケモンフーズと、ラッキーのたまごを処方するから。ラッキーのたまごは栄養満点で味も抜群だからピカチュウもすぐ元気になるわ。」
「ありがとうございます。でもいいんですか? ラッキーって確か一日に一回しかたまご産まないから、そのたまごは高級品って……。」
「確かにそうね。だからこそピカチュウみたいな患者さんには効果抜群なの。じゃあちょっと待っててね。」
以前弟がそんな事を言ってた気がしたし、空腹で目を回しただけのピカチュウにそれを処方してもらっていいのかと思わずジョーイさんに聞き返せば、一度ぱちりと瞬きした彼女がすぐに勿論と頷いてくれて、今に至るという訳だ。
さらにいえば、ピカチュウってあっという間にラッキーのたまごを平らげた後ポケモンフーズを食べてるんだけど、一体あの体のどこにあれだけの食べ物が入ってるのかは多少疑問でもある。
……まあ、本人が幸せそうだからいいけどさ。で、後は――。
「『ポケモンブリーダー兼ポケモンドクター養成学校の生徒』って事はあのタケシくんはアニメ版の方のタケシくんで。今彼は買い物袋を置きに行くのと私に渡すものがあるからって一旦家に帰ったからつまりここは彼の故郷であるカントー地方のニビシティ。で、確かタケシくんがそう名乗ってたのは『ベストウィッシュ』以降かつ『サン&ムーン』以前だから時系列もそれくらい。それが分かっただけでも僥倖だよね。」
周囲に聞こえないように声を落とし瞳を細める。
何か色々それどころじゃなくてしれっと知り合いになっちゃったけど、ポケモンにおいてウニのようなツンツン頭に糸目の十五歳くらいの少年・『タケシ』と言えばゲーム版ではそれこそニビジムのジムリーダーとして。アニメでは主人公の旅仲間として、知らない者はいないくらい有名なキャラクターだ。
アニメでは少し三枚目に描かれていて、年上のお姉さん好きなキャラだけど、大家族の長男ってことで面倒見もよく、家事も得意。
さらにポケモンブリーダーの知識や経験は確かなもので、旅の道中とかではすぐ熱くなる主人公を抑えるストッパー役も兼ねたいわゆる縁の下の力持ちタイプ。
で、今はポケモンドクターを志すポケモンドクター養成学校の生徒。
こう考えるとタケシくんって年上のお姉さんに関するあれやこれや以外は結構ハイスペックなんだよね。
それに実際会ってみて分かったけど、結構背もあるし顔の造りも整ってる方だ。
「……普段女子の間じゃ『いい人だよねー』止まりがデフォだけど、バレンタインとかになると本人も気付かないまま本命チョコレートいくつか貰ってそうなタイプかな。」
「チョコがどうしたって?」
「わっ!?」
すでにあれだけあったポケモンフーズの三分の二を食べ尽くしながらも尚勢いの衰えないピカチュウを眺めながら何となく呟いた内容に背後から返されびくっと肩を跳ねさせ、思わず声をあげてバッと振り返れば紙袋を抱えたタケシくんが少し驚いた表情で立っていた。
「タケシくん! あの、チョコは大した事じゃないから、うん! あと驚かせちゃってごめん! ……ってあれ? もしかしてタケシくんここまで走ってきた?」
「ああ。ピカチュウのあの勢いだと俺が戻ってくる前にポケモンフーズ食べ終わってそうだったから、待たせちゃ悪いと思ってさ。」
「そんな、気にしなくていいのに。あ、これまだ使ってない綺麗なやつだから良かったら使って?」
慌てて立ち上がり弁明しながらも彼の息が少しあがってる事に気が付き尋ねると、そう笑って呼吸を整える彼は結構汗だくでそこまでして走らせた事が申し訳なくてスカートのポケットに入れっぱなしだった数少ない所持品である白いハンカチを差し出せば、少しだけ躊躇してからハンカチを受け取った彼がそれで顔の汗を拭う。
「ありがとうリオ。このハンカチきちんと洗濯して返すから待っててくれ。」
「ううんいいよ、そんなハンカチの一枚や二枚。」
「ピッカああ……」
そんなやりとりを交わしてると不意にピカチュウの野太い声が聞こえてきてそちらを二人同時に見ると、見事ポケモンフーズを食べ終わったピカチュウがもう食べれないと言わんばかりに仰向けに机の上で寝転がったところだった。
思い切り膨れたピカチュウのお腹とその様子に顔を見合せプッと噴き出したのはやっぱり二人同時で。
一頻り笑った後、何で笑われてるのか分からないと言った表情のピカチュウの側に行きその頭を撫でる。
「ピ?」
「あはは、ごめんごめん。で、ピカチュウ。満足した?」
「ピカ。」
瞳を細めるピカチュウに改めて尋ね、返ってきた満足そうなその声に先程の弱々しさはどこにもなくて、心の底から安心してほっと息を付いた。
「……良かった。」
「ああ。けどその腹じゃ暫くは真面に動けないだろうから休憩が必要だな。」
「だね。ピカチュウ、暫く休んでていいよ。」
「ピカ!」
さらにそう付け足せば元気一杯で返事をして少し体を伸ばしチャーー……と欠伸をするピカチュウにああこれこのまま寝そうだな、なんて考えて小さく笑う。
ったく、食べてすぐ寝ると牛になっちゃうんだからね。この世界に牛いないけど。
内心で誂いながらもピカチュウの頭を撫でてると小さな笑い声が聞こえて振り返ればタケシくんと目があった。
「タケシくん?」
「いや、リオとピカチュウは本当に仲が良いんだなと思ってな。俺の親友もピカチュウをパートナーにしてるから色々思い出すよ。二人はどれくらいの付き合いなんだ?」
「へぇ、ピカチュウを……。そうなんだ。……んと、どれくらい、と言えばついさっきから、かな? ピカチュウにはニビシティに入る前の森で出会ったばかりだし。あとピカチュウは私のポケモンでもないんだ。私、トレーナーじゃないし。」
「そうなのか!? 二人の様子からだと息の合ったパートナーにしか見えなかったぞ?!」
どこか懐かしそうな彼の様子にその親友って十中八九赤いキャップがトレードマークの彼だよねと内心呟き、言葉を選びながら伝えられる範囲で今の自分の状況を伝えるとかなり驚いたのか身を乗り出してきたタケシくんにあははと誤魔化すように笑いながらも頷いた。
「実はそうなんだよね。まあピカチュウに本当に危ないところを助けて貰ったのは間違いないんだけど。」
「危ないところを? そう言えば俺に道を聞いてきた時にもそう言ってたけど具体的には何があったんだ?」
「……んーー……足踏み外して崖から落ちたところを助けられた、みたいな?」
「何だって!!?」
「ピッ?」
流石に空から降ってきたなんて言える筈もなくて適当に暈して答えれば余程驚いたのかかなり大声で聞き返され、ポケモンセンター内の人たちがバっとこちらに視線を向けるのと同時に微睡んでいたピカチュウが頭をあげる。何事かと言うようにこちらを見たままの視線が気まずくてタケシくん!と慌てて彼の腕を軽く引いたところで、ガーー……と僅かな自動ドアの開閉音が妙に静まり返ったポケモンセンター内に響き渡った。
「んん? 何じゃ皆さん静まり返って。どうかしたのかね?」
その渋い声に周囲の視線が私達からそちらへ移り、つられるように視線を向けるとポケモンセンター内に入ってきた赤いシャツに白衣姿のきりりとした上がり眉が特徴な白髪の初老の男性――ポケモン研究の第一人者であるポケモン博士――オーキド・ユキナリ博士がそこには立っていた。