訳あり新人トレーナー、目指すは全地方制覇です!   作:白野蒼

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閲覧ありがとうございます。
第四話です。
凄く大きく区切るとここまでがプロローグ。
次からはカントー地方編になると思います。
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。



第四話『多重トリップ者と泡沫の事』

タケシくんに会うまではポケモンセンターに寄った後、再びトキワの森に戻ってピカチュウとは別れるつもりだった。

 

その理由は私がいつまた元の世界に戻るか分からない、それを自分で決める事すら出来ない転移者だからに他ならなかった。

泡沫のように消えてしまう存在のために誰にも心を痛めて欲しくなくて、今までの世界でだって既存キャラ達とあまり深く関わらないよう気をつけてきたし、それはこれからだって変わらない。

だからピカチュウともそうするつもりだったけど、実際はそうはならずここまでずっと一緒にいる。

尚且つ釘を刺された以上、これから一人でトキワの森に行くことは少なくてもタケシくんはさせてくれなさそうだし。

 

……それになにより。

 

今日出会ったばかりの私をあんなに必死になって助けてくれたピカチュウに対して何にも説明せず別れだけを告げるのは物凄く不義理な気がした。

 

とは言っても『実は私は別の世界から来た人間で、いつこの世界からいなくなるか分からないから私とこれ以上関わらない方がいい』って伝えて何人がすんなりと同意するだろうか。

や、主に魔法や異能や超能力や宇宙人や各種神が当たり前に存在する世界だと後半はともかく前半はあっさりと受け入れてくれた人達も結構いたけど、それはそれとして。

 

でも……――

 

「あ、そう言えばリオちゃん。」

 

「ん、あ、はい。どうしました?」

 

不意にハナコさんに名前を呼ばれてそこで思考が一気に現実に引き戻された。

何だろうとハナコさんに向き直ると大した事じゃないんだけど、と前置きした上で彼女が口を開く。

 

「ほら、さっきまでの話だとリオちゃんってピカちゃんをゲットしないまま一緒にいるんでしょう? ゲットはしないの?」

 

「…………ゲット。……その、私、ポケモントレーナーじゃないんです。モンスターボールもないですし、図鑑も持っていませんし。」

 

『ゲット』という単語にぴくりとピカチュウが耳を揺らしたのを横目で見ながらも、いずれピカチュウを置いてこの世界からいなくなるのが分かりきってる、二度と会えなくなるのが確定している最低なトレーナーの元にピカチュウを縛り付けるようなその選択肢だけは取りたくなくて小さく首を横に振って答えれば返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「あら、そうなの? ならこれを機になっちゃえばいいじゃない、ポケモントレーナー。リオちゃんはもう十歳を超えてるんだから、貰おうと思えばポケモン図鑑もモンスターボールも貰えるんじゃないかしら。ね、博士。」

 

「おおそうじゃの。丁度研究所に最新式のポケモン図鑑が一台余っとるからあれを使えばいい。リオ、後で取りに来なさい。その時にピカチュウ用のモンスターボールも進呈しよう」

 

「……ピ!」

 

「え!? 」

 

さらに予想外な展開に思い切り動揺し、そう言えばオーキド博士ってポケモン博士だったと我ながら何を当たり前の事をと考えながら思考を巡らせる。

 

や、例えそうなったとしてもピカチュウには本当の事伝えてゲットされるのは諦めて貰うつもりだけど何とか事前に回避できないものかと必死に弟と幼馴染みに聞いたポケモンの知識を掘り起こしているうちにアニメのみの所謂裏設定的なものを思い出す。

 

「え、っ、あ、いえ、その。ポケモン捕獲には確か免許いりますよね、私それも取ってないんです。」

 

「免許? ああ昔はそう言う言い方をしておったが、つまりはポケモントレーナーになる資格じゃな。それなら今は十歳の誕生日を過ぎたら自動的に付与されるものじゃぞ?」

 

「え?! そうなんですか!??」

 

「ああ」

 

これはいけると思った設定まで論破され内心頭を抱える。

でもそうだよね、ゲームのNPCには園児のポケモントレーナーもいるって弟から聞いた事あるし、アニメだけポケモントレーナーのハードルが跳ね上がるとかないよね。

でも、なら、どうしようと考えてるといつの間にかこちらへ振り返り真っ直ぐに私を見上げるピカチュウの真ん丸な黒曜石の瞳と視線が絡む。

どこまでも真っ直ぐで真摯な視線から目を逸らす事なんて出来なくて一つ息を付いた。

 

……あー、もう……。仕方、ないかな。

 

「……ピカチュウ。」

 

「ピカ。」

 

一つ決心してぐっとお腹に力を入れて声をかけると膝の上の彼が肩越しに振り返る。

緊張のため口か乾いて行くのを感じながらも、あのさ、と切り出した。

 

「私を助けてくれた君だったら分かると思うけど。私は、『普通』じゃない、んだよね。」

 

「ピカチュ。」

 

「……だから、正直に言えば私は君をゲットしたくない。……ううん違うな、しちゃいけないんだと思う。君をゲットする資格が私には、ない。」

 

「リオ?」

 

「リオちゃん?」

 

真っ直ぐピカチュウを見つめたまま話す私に不穏なものを感じたのかタケシくんとハナコさんの怪訝そうな声が耳朶を打ち、一度だけ小さく息を吐く。

 

分かってる。

こんな話ここですべきじゃない。

それこそマサラタウンに着いた後にでもピカチュウと二人きりになって話すのが一番良い事なんだろう。

 

……でも。

 

()()()()()()()()()()()私には分からなかった。

 

ピカチュウにだけ真実を話して、それで別れられたとしても。

その後、タケシくん達にどう説明すればいい?

既にタケシくん達には嘘を付いてるのに、また嘘を付いて誤魔化す? それを元の世界に帰るまでずっと続ける?

 

……今までの世界ではそうしてきた。

一つ嘘を付いてそれを誤魔化すためにまた嘘を付いて、そうやってどんどん大きく膨れ上がっていく嘘に押し潰されそうになりながら笑う事だって苦じゃなかった。

苦じゃないって思い込もうとしてた。

 

でも。

 

タケシくん達に……タケシくんにそうやっていくのは、もう、少ししんどかった。

 

……だから。

 

何も言わず私を見上げるピカチュウの頭をそっと撫でゆっくりと口を開く。

 

「――ピカチュウ。はっきり言うね。私は、この世界の人間じゃない。別の世界の人間なんだ。……私は世界と世界を隔てる壁を呆気なく飛び越える事ができる体質で、でも私にはそれがコントロールも制御も出来ない。だから、 今日ピカチュウと出会った時のように、突然空から降ってきて。……突然いなくなる。そんな泡沫の存在なの。ッ、だから、君をゲット出来ない。ゲットしてしまったら私は君を傷つけちゃう。突然君を置いていって、それで二度と戻ってこない、そんな事をいつか平然としてしまう。私はそれがどれだけ残酷で、切なくて、苦しくて、悲しいものか知ってる。ッ、身を持って、知ってるのに。だから、だからね。そんな思いをさせるような最低な奴のもとに、君を縛り付ける事なんて出来ない。ッ傍にいて欲しい、なんて言えない。だから……。」

 

「――リオ」

 

ともすれば震えそうになる声を押さえつけて、ごめんね、と続く筈の言葉は助手席から後部座席へと思い切り身を乗り出したタケシくんに遮られ、伸ばされた温かな掌が優しく頭に置かれた事で明確な音にはならなかった。

 

「ッ、タケシくん?」

 

「リオ。……だったら、リオが少しでも長くピカチュウと一緒にいられる方法を、この世界にいられる方法を見つけよう。大丈夫、俺も協力する。だから、全部一人で背負い込もうだなんてしなくていいんだ。リオは、一人じゃない。」

 

「……ッ……!」

 

ゆっくりと私の頭を撫でるタケシくんの声はすごく優しくて、温かくて。

 

まるで地面に水が染み込むように心の奥に染み渡るそれに目の奥が熱くなって視界が水の膜に包まれて揺れるのを誤魔化すように顔を俯かせると、隣に座るハナコさんの手がタケシくん同様にそっと優しく背中に添えられた。

そのほっそりとして柔らかくて優しい手は随分久しぶりに感じる「お母さん」の手でさらに喉の奥がぐぅっと鳴るのを感じて奥歯を噛み締めるとリオちゃん、と優しく呼びかけられる。

 

「そうね、お別れは凄く淋しくて悲しいものだものね。リオちゃんはピカちゃんにそんな思いさせたくなかったのね。……でもね、リオちゃん。お別れを理由に出会いを怖がっちゃ駄目よ。だって、リオちゃんは今こうして、この世界に来て、この世界で生きてるんだもの。ピカちゃんやタケシくん、オーキド博士、それに私とバリちゃんと出会ったようにこれからもっともっと沢山の人やポケモンと出会って、仲良くなって。時に出会いと別れを繰り返しながら色んな事を体験して貴方の世界を広げて、色を増やしていかなくちゃ。 それにね、例え僅かな時間しか一緒にいられないとしても、ピカちゃんはリオちゃんと一緒にいたいみたいよ?」

 

「ピカ!」

 

それに同意するようにピカチュウの鳴き声が耳朶を打ち俯いた視界の中にピカチュウの顔が入り込む。

 

「ピーカ、ピカ。ピカ、チャーー。」

 

「……ピカチュウ……ッ……。ッ、――――ッ!」

 

私の膝の上で背伸びをしてすりっとその赤いほっぺを頬に擦り寄せる彼のやっぱり小さな肢体を抱き締めるとぽろりと瞳から涙が一粒落ちて、そこからはもう止められなくて。

彼の柔らかい毛並みにぼとぼとと音が聞こえそうな程大粒の涙を落としながらただ嗚咽をあげるしか出来ない私の頭と背中をタケシくんとハナコさんはずっと撫でてくれていた。

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