第五話です。
前回でプロローグは終わりみたいなこと言ったと思いますが、あれは嘘ですすみませんorzorz
ここまでで本当にやっとプロローグ終了です。
次回から少し時間が進んでのカントー地方編です。
では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
結局、ニビシティのポケモンセンターを出た時にはまだ真っ青だった空はマサラタウンに付く頃にはオレンジ色に染まっていた。
これからオーキド博士の用事を済ませてまたニビシティまで帰るとなるとかなり帰宅時間が遅くなるタケシくんはその時点でオーキド博士の研究所に泊まる事が決定し、そのタイムロスの原因はタケシくんが身を乗り出した時点で博士が車を路肩に止め、その後泣きじゃくる私が落ち着くまで発車出来なかったからと言う完全に私のせいでとにかく申し訳なくて仕方なかったけど、助手席に座り直したタケシくんには気にしなくていい、と首を振られた。
「今日は家に母さんがいるから弟達の食事も心配しなくていいし大丈夫だ。それに、そもそもリオをマサラタウンに連れて行こうとしたのは俺だからな。リオともっと話がしたかったし丁度いいよ。」
「私と?」
「ああ。実はリオと初めて会った時、ピカチュウ以外の事でも何か困ってる事があるように見えたんだ。それで、あの時はそれが何かは分からなかったけど、俺で出来る事なら協力するって言うつもりだったんだよ。」
「……タケシくん。」
あっさりとそう言う彼に瞳を瞬かせるけど、何か色々バレバレだったんだなって事とか知り合ったばかりなのに当たり前に力を貸してくれるつもりだったのが嬉しくて、胸のあたりがポカポカして。
その気持ちのまま笑いかける。
「……タケシくんって凄いね。何か私、タケシくんには嘘つけなくなっちゃいそう。……ありがとう、モーモーミルク割っちゃったし、いっぱい迷惑かけちゃったけど。あの時出会ったのがタケシくんで良かった。」
「ピカピカ。」
思わず心の底からの気持ちを伝えると腕の中のピカチュウも同意するように頷いたのを見てねー、と二人で笑い合う。
「……ああ。俺も二人に。リオとピカチュウにあの時出会えて良かった。」
そんな私とピカチュウに一瞬だけ照れ臭そうな表情を浮かべるもやっぱりあっさりと返してきた彼にこっちのが照れ臭くなったのは内緒の話。
と言うかアニメだとタケシくんいつも年上のお姉さん口説く時歯の浮くような台詞言ってるけど、そうじゃなくて自然体にしてた方がモテると思うんだけどなぁ。
……実際そうなったら何かアレなので絶対教えないけど。
※※※
――マサラタウン。
「マサラは まっしろ はじまりのいろ」という有名なキャッチコピーにあるようにゲーム版の初代やそのリメイク作品等においての主人公の故郷であり、アニメ版ではサトシの故郷である始まりの町に着いた時、予定を変更しようと言ったのはオーキド博士だった。
「初めはハナコさんとバリヤード、リオ、ピカチュウを家の前で一旦下ろし、わしとタケシのみ研究所に向かう予定だったがリオとピカチュウもこのまま研究所に行った方がいいじゃろう。先程まではポケモントレーナーになるのを渋っていたようじゃが決心が付いたのなら、善は急げというからのぉ。」
「ですね。なら、研究所での用事が済んだら皆で家にいらして下さい。今日はリオちゃんがこの世界に来てくれた記念日ですもの。腕によりをかけた夕御飯を作りますわ。あとリオちゃんのお洋服も用意して置かなくちゃ!」
「料理なら自分もお手伝いさせて下さい。」
「あの、私も……!」
「ありがとうタケシくん。あとリオちゃんは今夜の主役なんだからいいのよ。」
「え」
そんな感じにトントン拍子で話が進み、家の前でハナコさんとバリヤードと一旦別れて私達はオーキド研究所に向かう事になり、アニメで何度か見たことはあるものの実際に見るのは当たり前なんだけど初めてなオーキド研究所の建物内をきょろきょろと見回していると、またせたな、とピンポン玉くらいの大きさのモンスターボールが六つと赤を基調としたカード型の機械――XYでサトシ達が使用していた第六世代型のポケモン図鑑を乗せたトレイを持ったオーキド博士が研究所の奥から戻ってくる。
「では、改めて。リオ、これがお前さんのポケモン図鑑とモンスターボールじゃ。トレーナー一人が同時に所持できるポケモンは六匹まで。それ以降はこの研究所に転送されるようになっておる。ポケモン図鑑はこれ自体が身分証も兼ねておるのくれぐれも紛失せんようにな。」
「ありがとうございます、オーキド博士。」
「モンスターボールは中央のボタンを押すことで使えるようになる。やってみなさい。」
「はい。」
おほんと咳払いをした博士が説明をしてくれるのを聞きながらちらりと横目で左肩を見ればそこにはモンスターボールをキラキラした瞳で見つめるピカチュウがいて、何とも言えない気持ちで胸がいっぱいになっていった。
教えられるままモンスターボールを一つ手に取りボタンを押すとどういう仕組みかは分からないけど掌サイズになったそれに、アニメで見たのと同じだ!と密かに感動して、手に持ったままのボールを何となくくるくると回しながら観察する。
「……凄い。大きくなった。でも、こんな小さなボールの中でポケモン達ってぎゅうぎゅうに詰まって窮屈じゃないのかな。」
「……ピカチュ……。」
モンスターボールの中は快適って設定なのは知ってるけど実際に見るとどうにも心配になって呟くと実際にボールに入る側のピカチュウもどこか不安げな顔になっていく。
そんな私達に大丈夫、と笑いかけてくれたのは隣に立つタケシくんだった。
「モンスターボールの中は快適だと言われていて、狭かったりぎゅうぎゅう詰めにはなったりしないさ。ただポケモンによってはモンスターボールに入るのを嫌がって常に外に出てるポケモンもいる。あと普段はモンスターボールに入ってても時折自由にボールから出てくるポケモンもいるんだ。俺のパートナーのグレッグルもその一匹さ。」
「へえー。色んな性格のポケモンがいるんだね。……ってそれはそうか。一言でポケモンと言ったって一匹一匹違う個体なんだから。あと、グレッグルってどんなポケモン?」
「ああ。グレッグルは、そうだな、マイペースだけど頼りになる良い奴だよ。そうだ、明日俺の友達で一緒に旅をしていたハナダシティにあるハナダジムジムリーダーのカスミもここに来るみたいだから俺も一度家に戻ってグレッグル達を連れて来るよ。リオとピカチュウの事、カスミにも俺のポケモン達にも紹介したいしな。」
「本当? ――ありがと!、明日楽しみにしてるね!」
タケシくんの説明にそう言えばダイヤモンド・パール時代年上のお姉さんをナンパする彼を止めていたのがそのどくづきポケモン・グレッグルだったなあなんて感慨深くなる。
そんなタケシくんとグレッグルのコンビを『スパイスの効いたユニークなコンビ』って評したのはベストウィッシュのデントだったっけと考えながらお礼を言いバレないように心の中だけで息を付いた。
『別世界の住人』って事はついさっき話したけど、私の世界ではこの『ポケットモンスターの世界』そのものがゲームだったり、アニメだったりの物語の世界だって事は今までの世界同様口が裂けたって言うつもりはない。
自分が『物語の中の登場人物』って知って戸惑わない人はいないし、何より彼らや今の私にとっての現実はこの世界だけだ。
わざわざそれを壊すような事言う必要なんて微塵もない。
ただポケモン図鑑がXY仕様って事は時系列的にははXYなんだろうけど、今テレビで放映されてるのは新無印ってファンの間では呼ばれてる最新シリーズだから、過去に当たるベストウィッシュまでの出来事は勿論、この世界ではいずれ訪れる未来であるアローラ地方のZ技やガラル地方のダイマックス。
そうじゃなくてもアローラでサトシの仲間になるポケモンスクールの皆とか、新無印でコンビになるゴウとかその他色々下手な事言わないように気を付けなくちゃと密かに肝に銘じる。
……その過程で今みたいに我ながら色々白々しく感じちゃうのは仕方ない事だろう、うん。
「んん゛、そろそろいいかな? 話を続けるぞ。さて、野生のポケモンをゲットする方法は至極単純でその大きさにしたモンスターボールを投げ、ポケモンに当てればいい。そうすれば後は自動でモンスターボールがゲットしてくれるんじゃ。」
「は、はい。えと、体のどこに当ててもいいんですか?」
そう自分自身を納得させていると軽く咳払いをしたオーキド博士に続けられる。
すみません、と眉を下げて謝りながら尋ねればそうじゃとしっかり頷かれた。
そっか、投げて当てればいいんだ。じゃあ……。
「ピカチュウ、おまたせ、っわっ!!?」
「ピッカ!!」
百聞は一見にしかずとも言うし早速左肩のピカチュウをゲットしようと声をかけた瞬間、モンスターボールを持った右手をぐいっとピカチュウの手によって彼の方に引っぱられた。
いきなり過ぎて録な反応も出来ないうちに、思い切り身を乗り出したピカチュウがこつんとモンスターボールに額をぶつけかと思ったらパカリと開いたモンスターボールから飛び出してきた赤い光に包まれたピカチュウがボールに吸い込まれると同時に蓋が閉じて……って。
「ええっ!?」
さらに私の手の中で二、三回だけひゅいひゅいと音を立て揺れ、カチッという音を立てた後は沈黙したモンスターボールを唖然として見つめる。
「……嘘……。って、え、これでゲット出来たって事?」
「ああ。……ピカチュウ、待ちきれなかったみたいだな。」
あまりにも唐突で一瞬の出来事に同じく隣で驚いているタケシくんに尋ねると眉を下げて苦笑された上で言われ、そっかだ、とポケモンセンターの時同様何か脱力しそうになりながらボールを見遣る。
本音を言えば、ピカチュウをゲットするとは決めたものの本当にこれでいいのかって往生際の悪い気持ちは心のどこかにあった。
きっとピカチュウはそんな私の弱さをを見抜いていたんだろう。
だからこそ『いいからさっさとゲットしろ』と言わんばかりに自らモンスターボールでゲットされるという有無を言わせない行動を取った。
だとしたら……。
「……もおお……。敵わないなあ……。」
後悔も躊躇も、する隙すら与えてくれないパートナーに小さく苦笑しモンスターボールを掌で包み込む。
って、あ、そうだ。
「ゲットの方法は分かりましたけど、モンスターボールから出すのと入れる方法は……。」
「ああ。モンスターボールから出す時はボールをポケモンを出したい方向へ投げるんだ。そうすれば自動でボールから飛び出してくるさ。」
「さらにボールに戻す際はボールの真ん中にあるボタンを押して出てくる赤い光線をポケモンに当てれば、自動でモンスターボールの中に戻るようになっとるぞ。」
「成る程、分かりました。じゃあまず……。」
タケシくんとオーキド博士の説明に頷きながらまずはボールを前方に軽く投げると音を立てて開いたモンスターボールから白い光に包まれたピカチュウが飛び出してきた。
「ピカ、ピッカチュウ!!」
「……っと。全く、君は。まあいいや。――改めて。これからよろしくね、ピカチュウ。」
「ピッカ!!」
次の瞬間当たり前のように私の体を駆け上がり左肩に乗ると、満面の笑顔でこっちを真っ直ぐ見つめてくるピカチュウに一つ息を付き、そう笑いかける。
力いっぱいに頷いた彼の声はやっぱり可愛らしく勇ましい声で。
そんなこの小さな相棒が無性に頼もしくなって、瞳を細めた。
――そんな訳で。
私、空野理生はこの日ポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出したのである。