訳あり新人トレーナー、目指すは全地方制覇です!   作:白野蒼

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閲覧ありがとうございます。

第六話です。
時系列はXYですが新無印のネタバレありです。
一万人以上のトレーナーが参加してる大会なら準備とかかなりかかるんじゃないかなと思ってます。
特に最近マスターズエイト入りしたドラゴンストームさんも一からスタートしてるので多少の時間かかってるよなぁ……と。

では今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。



第六話 『新人トレーナーとジム戦』①

「――クサイハナ戦闘不能! よって勝者チャレンジャー・リオ!!」

 

 

 

周囲を囲むように木々と草花が植えられたバトルフィールド内に朗々とした審判の声が響き渡った。

 

「ピッカアア!」

 

それと同時に嬉しそうな声をあげ一直線に駆けてくる小さな相棒の為に膝を付き軽く腕を広げ、少し手前で跳び上がったピカチュウをしっかりと胸元で受け止める。

 

「ピカチュウ、よく頑張ったね!!」

 

「チャア!!」

 

そのまましっかりと抱きしめて労うと嬉しそうに声を上げその頬を私の顔に擦り寄せてくるのがくすぐったくて顔が綻む。

 

うん、今回も本当に頑張ってくれた。

何せたった一匹でタマムシシティジムリーダー・エリカの手持ちポケモンであるモンジャラ・ウツドン・クサイハナを相手どったのだ。

それを誉めないなんてトレーナー失格だろう。

 

ただ……。

 

「まさか三匹とも『そらをとぶ』一撃で倒すとは思わなかったけど。」

 

間違っても目の前でどこか唖然としているジムリーダーのエリカさんには聞こえないよう呟き肩越しに背後を振り返れば、四回目ともなれば流石に耐性が付いたのか、眉を下げて困ったように笑うタケシくんとカスミと視線が合い、どう反応したものかと三人で小さく肩を竦ませあった。

 

……と言うわけで。

 

この世界に来てから早十日。

新人トレーナー・空野理生とその相棒ピカチュウ。

ただいま成り行きでカントー地方のジム巡り真っ最中です。

 

 

 

+++

 

 

 

「やったわねリオ! これで四つ目のジムもクリアよ!」

 

「ああ。何はともあれこれでレインボーバッジもゲットだな。」

 

「ありがと、ピカチュウが頑張ってくれたおかげだよ。」

 

「ピカチュウ!」

 

タマムシジムを出た後、既にお約束になりつつあるやりとりをこなしながらエリカさんに受け取ったばかりのレインボーバッジを軽く空に翳す。

一つの大きな八角形と色相環図の如くそれぞれ色を振られた八つの六角形から成る何かの花を模したようなそれはレインボーバッジの名に相応しくとてもカラフルだ。

太陽の光を受けキラキラと輝くバッジから視線を横にずらせば私の左肩でそれに負けないくらいとても強い意思を宿した黒曜石の瞳をキラキラと輝かせバッジを見上げるピカチュウの姿があり小さく笑う。

 

それにしても……。

 

「残るジムはあと四つ。ヤマブキシティのヤマブキジム、セキチクシティのセキチクジム、グレン島のグレンジムにトキワシティのトキワジム。……まさかここまでピカチュウだけで来るなんて思いもしなかったなあ。」

 

元の世界の弟曰く、ゲームだとそうやって特定のポケモンとか特定のタイプのみを使用してストーリーを攻略する『縛りプレイ』なるプレイの仕方もあるらしいけど、それはあくまでゲームのプレイヤーの立場での話であって、現実でそうするトレーナーなんてほとんどいないと思う。

 

「ピカ、ピカチュウ。」

 

「あはは、はいはい。本当に凄いし、頼りにしてますよ。相棒殿?」

 

「ピッカチュ」

 

どやぁ、という効果音が付きそうな程得意顔のピカチュウに笑いながら少し恭しく伝え、その頭を撫でさせて頂く。

気持ち良さそうな彼から『苦しゅうない』と聞こえてきたのはきっと気のせいじゃないだろう。

 

「でもほーんと凄いわよね、リオとピカチュウ。ここまでジム戦全戦全勝じゃない? しかもハナダジムはタイプあいしょうもあってたった一撃で勝負決められちゃったし! リオ! バッジは渡したけど、それはそれ、これはこれって事できっちりリベンジさせて貰うからね!」

 

「それなら俺も、ニビジム元ジムリーダーとしてリベンジさせて貰おうかな。現ニビジムジムリーダーのジロウとのジム戦も≪にどげり≫でピカチュウの圧勝だったしな。」

 

「……さすがに本気のジムリーダー相手にピカチュウ一匹ってきつすぎない? あと私がここまで勝つ事が出来てるのは、ピカチュウと、バトルのバの字も知らなかった私にバトルの基本を教えてくれた二人のお陰だからね。いつもご指導本当にありがとうございます、『先輩方』。」

 

何やら物凄く不穏な内容に反論しながらもそう付け足して両隣を歩く二人に笑いかける。

さらにくすくす笑いながらぺこりと軽く会釈し、一瞬きょとんとした表情を浮かべた後に「……と、当然でしょ! リオにはこのあたしが付いてるんだから! さあ、これからもガンガンいくわよ!」と少し頬を朱に染め胸を張るカスミと「ああ、そうだな。」とそんな彼女を眉を下げて見遣りながらもしっかりと頷くタケシくんと三人で笑い合う。

 

 

――そもそも私が何故ジム巡りをする事になっているのかというと、きっかけはカスミの一言だった。

 

この世界に落っこちてきた次の日。

オーキド博士に呼ばれてマサラタウンにやってきたカスミと、昨日は用事があって研究所を留守にしていたケンジくんをタケシくんと博士に紹介されてすぐに二人とも打ち解ける事が出来た私は二人にも自分の体質の事を明かしていた。

その理由は至く明快で、ハナコさんの提案で彼女の家――言い換えればサトシの家にこの世界に居る間居候させて貰う事になったからだった。

 

「だったらリオちゃん、うちにいらっしゃいな。研究所に住むと言ってもリオちゃんは女の子だし、お互いに何かと気を遣っちゃうでしょ? その点、うちはサトシ――あ、サトシってのは私の息子ね? リオちゃんと同じでピカチュウをパートナーにしてるポケモントレーナーなの。そのサトシとバリちゃんと私の三人暮らしだし、当のサトシも一昨日カロス地方ってところに旅に出たばかりで当分戻って来ないでしょうから、気兼ねしなくて済むわよ?」

 

違う世界から来た私に家と言うものは勿論なく。

それならばオーキド研究所に……という流れになりかけると同時にぽん、と手を打ったのはハナコさんでオーキド博士とタケシくんが即賛同したためあっという間にもそう決定した。

ちなみに私自身住む場所には拘りがないと言うか、キャンプ用品だけ手に入れてのキャンプ生活とか野宿でも全然構わなかったし、これ以上ハナコさんに迷惑かけたくなくて自分の留守中に他人が自分の家に居候するなんてなったら息子さんが嫌がったりしないかと言う意見は「大丈夫。息子には私の方からうまく言っておくし、そもそもサトシってそういうの全く気にしないタイプだから。」と一蹴されただけでなく、ハナコさんの後ろにいたタケシくんとオーキド博士もうんうんと頷いてるのは少しだけ面白かった。

 

うん、まあサトシって確かにそういうの気にしないタイプっぽいよね。

テレビ画面を通して見た感じ。

 

それでマサラタウンに住むんだったらまずケンジくんと顔を合わせる機会もしょっちゅうあるだろうし、その度に嘘を積み重ねるのはデメリットの方が大きいとオーキド博士にも助言され、それはカスミについても同様だという話になった。

 

「カスミはたまに鋭いところがあるからな。誤魔化し続けるより事情を話して協力して貰った方が早いだろう。――大丈夫。カスミもケンジも凄くいい奴らだ。きっと二人ともリオの力になってくれる。俺が保証するよ。」

 

そう私の肩に手を置いて力強く頷いたタケシくんに反対する理由はなかったし、何よりアニメ越しとは言え二人の人となりも一通り知っててたから大丈夫と判断した。

案の定カスミもケンジくんも当たり前のように私の体質を受け入れて協力を申し出てくれたし。

で、話し合いの中で取り合えず私がどういう時に世界を越えるかのデータを取って傾向を探っていこうって話になった時、ふと思ったのだ。

 

『私はこの世界で何をすればいいんだろう』って。

 

 

「リオ?」

 

「や、改めて考えてみると私が世界を越える時って、越えた先の世界で何か大きな事が起こってたり、起ころうとしてる時が多いんじゃないかなって思ってさ。それで否が応でもその大きな事に巻き込まれて、それが解決したりすると元の世界に戻る気がする。」

 

そうだ。

それで前回の世界では私の方に色々事情もあって全てに決着が付くまでの七年間をずっとあそこで過ごすことになったし、逆にその前はそもその事にいくつかルールが定められていたからか半月くらいで元の世界に戻ったんだった。

そう皆に説明していると一人思案顔で口に手を当てていたカスミがふと何か閃いたようにああ、と口を開いた。

 

「ねえタケシとケンジは『ポケモンワールドチャンピオンシップス』って知ってる?」

 

「ポケモンワールドチャンピオンシップス? 聞いた事ないな?」

 

「カスミ、なんだいそれ?」

 

カスミの問いに顔を見合わせて首を傾げたタケシくんとケンジくんに彼女がふふーんと胸を張る。

 

「いーい? 二人も知っての通り今までもカントー地方は勿論、他の各地方でポケモンリーグが行われて各地方最強のトレーナーが決められてきたでしょ? それを世界規模でやっちゃおう!ってのがポケモンワールドチャンピオンシップスなのよ。」

 

「世界規模!?」

 

「つまり、世界一を決めるポケモンバトルの大会って事か!? 凄いな、それは。」

 

「でしょー! でね……!」

 

……あれ? 待って、これ何か物凄いヤバイフラグ立ってない?

 

そのままポケモンワールドチャンピオンシップスの説明をし出すカスミに嫌な予感しかなくてバレないように頬を引きつらせる。

 

てかポケモンワールドチャンピオンシップスって今絶賛放送中の新無印に出てくる設定じゃ……。

あ、でも大会の規模とか考えると準備はもう始まっててもおかしくないのかな?

新無印で決勝戦のチケット貰った時ゴウが知ってたって事はあの時点でかなりメジャーな大会になってる訳だし。

 

「ピ?」

 

そこまで考えふと視線を落とすと私の膝の上でタケシくんがくれた紙袋に入っていた彼お手製のポケモンフードを頬張っていたピカチュウと目が合ってその口回りについてるフードのカスを指で拭い笑いかけた。

 

「美味しい? ピカチュウ」

 

「ピカ!!」

 

「そっか、良かった。なら後でタケシくんにお礼を――」

 

「だからね。リオの体質が大きな事が始まる時と終わった時の何かの影響を受けてるんだったら、言い換えれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事でしょ? それで、近々始まる大きい事って言ったらポケモンワールドチャンピオンシップスしかないじゃない!!」

 

「え゜」

 

カスミ達から意識を少し逸らしていたうにとんでもない話になってる事に気が付いて慌ててそちらに視線を戻す。

 

「……ま、待って、待って。あの、カスミの話、筋は通ってるよ。言われて見れば一度越えたらその大きな事が終息するまで、元の世界に戻ったりした事ないし。でももし大きい事がそのポケモンワールドチャンピオンシップスなら、終息点はどこになるの?」

 

XYで大きな事って言ったらフレア団とそのボスであるフラダリが巻き起こすあの一連の騒動だとしか考えてなかったため、予想外過ぎる展開に声を上げた。

 

うん、まあ私はこの世界に関しては未来から来たようなものだしこの後何が起こるか知ってるからそう思うけど、カスミ達はそんなの知らないもんね!

ただそれもサトシがカロスに旅立ってまだ十日も立ってないの考えるとまだ結構先の話だし!? 言える筈ないけど!

 

「……んーー、そりゃやっぱり世界一じゃない?」

 

「なっ!!? む、無理だから!! それってつまり戦う相手も相当な強者って事だよね!? てか私ポケモンバトルが何なのかさえ分かってないのに!?」

 

あっけらかんと言われた言葉に一瞬絶句し少しだけ強い口調で言い返すと少しだけ彼女がム、と眉を寄せる。

やば、と思った時にはずんずんと大股で歩みよってきたカスミにきっと半眼で睨み付けられた。

 

「何よ、その言い方。何で始める前から無理だって決めつけてるのよ!? じゃあリオはこのままいつピカチュウと離ればなれになってもいいって言うの!?」

 

「ピッ!!?」

 

「!! そんな事言ってない!!! ただ、私はそのポケモンワールドチャンピオンシップスが今回私がここに来た理由だとしたら壮大過ぎるって言ってるの!!! いきなり来た世界で世界一目指せってどんな無茶振りよ!! まだ『世界征服を企む悪の組織の企みを阻止しろ』とかの方がよっぽど現実味あるわ!!」

 

「ピカッ!?」

 

「何言ってんのよ、そんな事! ……ないとは言いきれないけど!! 早々ある訳ないじゃない!!! それに、世界一以上の大きな事ってないでしょ!! チャンピオンシップスの受付ももう少しで始まるから、それにエントリーすれば少なくとも暫くはリオが『元の世界』に戻るって事はないんじゃないの!!?」

 

「ピカチュ、ピカ、ピ!」

 

「まず言い切れないのが驚きなんだけど!!? 確かにそうかもしれないけど!! それだと戻る条件が世界一のトレーナーになるって事でしょ!? そんなの何年かかるか……!」

 

「ピカ、ピカ、ピカチュ!」

 

「ッ、リオはピカチュウと!! ピカチュウや私達と一緒にいたくないの!?」

 

「何言ってんの!? いたいに決まってるでしょ!!?」

 

「カスミ! リオ! ストップ!」

 

「二人ともちょっと落ち着け!!」

 

「「タケシ(くん)とケンジ(くん)は黙ってて!!」」

 

こんな事で言い合いすべきじゃないってのは分かってるけど確かサトシと同い年だから十才の筈のカスミの妙な迫力と物言いにカチンと来てついキッと睨み付けて言い返す。

さらに売り言葉に買い言葉で今すぐにでも取っ組み合いに発展しそうな勢いで口論を始めた私達二人に慌てて駆け寄ってきたケンジくんとタケシくんにカスミと全く同じタイミングで怒鳴り、また睨み合った。

 

うん。ただ、この時点で気がつくべきだった。

 

私とカスミが言い争いを始めた時点でピカチュウが私達の顔を交互に見てかなり困惑してた事。

 

その後激しくなっていくそれを何とか止めようとして声をあげていた事。

 

でも誰もそれを気に止めてなかった事。

 

――つまり。

 

「…………ピカ。」

 

「って、ピカチュウ? っ、あ……!」

 

一オクターブは低くなったピカチュウの声にやっと気が付いた時には既にもう遅かった。

 

バチィとその赤い頬の電気袋から電気が弾けたのは一瞬。

 

「――リオ!!」

 

「逃げて、カスミ! 皆! は――」

 

「ピィィィカァァァチュウウウウウ!!!!」

 

脳裏にピカチュウの代名詞とも呼べるあるわざの名前が過り、喧嘩してた事も忘れて私に手を伸ばすカスミに向かって叫んだ声がピカチュウの勇ましすぎる声にかき消される。

 

次の瞬間全身に電気を纏ったピカチュウの十万ボルトが炸裂し、私とカスミ。そして完全に巻き添えでタケシくんとケンジくんにピカチュウからきついお灸(物理)が据えられたのだった。

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