第七話です。
主人公は高一なのでタケシとカスミより年上なのですが、新人トレーナーの自覚が強いためポケモントレーナーとして先輩である二人には全く頭が上がらないと思います。
それでは今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
で、その後は。
たまたまお茶を入れるために席を外していたオーキド博士が凄まじい光と音に驚いて駆け付けた時には全身黒焦げになりピリピリと体から電気を発してる私達とその中央でふんすふんすしてるピカチュウの姿があり、そうなった経緯を説明したら今度は博士からお説教とところどころ焦げた部屋の掃除を言い渡された。
でも……。
「……カスミ。」
「……何よ。まだやるってんなら……!」
「――さっきはごめんね。」
何だかんだ大声で言いたい事言い合ったせいか、気持ちはかなりすっきりしてて。
だからか、黙ったまま窓を拭いていた彼女のところに言って素直に頭を下げる事が出来た。
「…………リオ?」
「カスミは私とピカチュウがどうすれば長く一緒にいられるか考えて、ポケモンワールドチャンピオンシップスの話をしてくれたのに。カスミの言う通り始める前から無理って決めつけてちゃ駄目だよね。私、臆病になってたみたい。だから、ごめんね。」
パチパチと瞳を瞬かせた彼女に改めてそう伝えれば、むぅーーと顔をしかめとてつもなく気まずそうに私から視線を逸らした彼女が口をもごもごと動かした。
「……あたしも……。リオはたった一人でこの世界に来たばかりで。この世界の事やポケモンの事、ポケモンバトルについても知らないの当たり前なのに。……その……。」
ごめん、と言う最後の謝罪はほとんど聞き取れないぼそぼそ声だったけど、それでもちゃんと届いたのが嬉しくて小さく笑う。
「ううん。それでねカスミ。私、ポケモンワールドチャンピオンシップス、受付始まったらエントリーしてみるよ。だからさ、私に教えてくれないかな。この世界の事。ポケモンの事。ポケモンバトルの事。私ピカチュウともカスミ達とも一緒にいたいし、もっともっと仲良くなりたいから。」
そう言いながら片手を差し出せば一瞬目を見開いて私の顔と手を交互に見られたもののすぐ口元に不敵な笑みを浮かべたカスミに手をしっかりと手を握られた。
「………… 仕方ないわね。そう言う事ならビシバシ教えてあげるから覚悟してよね! あと、あたしが教えるんだから、簡単に負けたりしないでよ、リオ!」
「――うん!」
――そんな感じで。
私とカスミが青春まっさかりです!みたいな雰囲気で仲良くなってる最中、ほとんど蚊帳の外&色々とばっちりだったタケシくんとケンジくんには色々申し訳なかったと思ってる。
で、それが何でジム巡りなのかと言えばカスミとカスミ同様私にポケモンバトルを教えてくれる事になったタケシくんの意見が『ポケモンバトルは経験を積むのが一番手っ取り早い』でぴったり一致したからで。
しかもそれならより強いジムリーダーとのバトルの方が色々学べるって話になったのだ。
バッジやリーグ挑戦のためじゃなく、そんな理由でジム戦に挑んでいいのかなぁって気持ちは少しあるけど。うん。
「しかし、順番で言えば次のジムはエスパータイプの使い手であるナツメがジムリーダーを勤めるヤマブキジムか。となると、ピカチュウじゃ厳しいかもしれないな。」
「そうね、それにその後のジムの事も考えると少なくとも三匹は絶対ゲットしておいた方がいいわよね。」
「そんなに強いの? そのナツメさんって。」
「ピカチュ。」
そう思いを馳せていると真剣な声音で話し合う二人に意識が引き戻される。
エスパータイプって事は抜群が取れるのはあく、むし、ゴースト技で逆に効果がいまいちなのはかくとうとエスパー技って事かとオーキド博士やケンジくんに叩き込まれたあいしょうを思いだしながら話しかければああ、とタケシくんが頷いた。
「俺達が以前行った時のナツメのパートナーはユンゲラーで、あのサイコキネシスはなかなか強力だったよ。そこでなんだが、カスミの言うようにこれからの事も兼ね備えて明日トキワの森にポケモンをゲットしに行かないか? 弁当は俺が作って持っていくから。」
「ピカ!!」
「ああ分かってる。勿論ピカチュウ達のポケモンフーズもな。」
「ピカピッカ!!」
「……ピカチュウ。私が作ったポケモンフーズはあまり食べないくせに……。タケシくんの料理が最高なのは分かるけど」
タケシくんの提案のお弁当の部分に誰よりも早く反応し、ちゃっかり自分のポケモンフーズまで頼んでるピカチュウに頭痛がした気がして片手で顔を覆う。
さらに怨み言の一つでも言えばまあまあ、とタケシくんに宥められた。
「それで、どうする? リオ」
「ん、そうだなあ……。ポケモンはそろそろゲットしたいって思ってたし一緒に来て貰えるのは私としては凄く嬉しいけど、本当にいいの? ポケモンドクター養成学校の長期休暇、あと半月なんでしょ?……タケシくん私にかなり時間割いてくれてるし、迷惑かけてない?」
そう。
実はタケシくんに出会った時に思い出したんだけど、ベストウィッシュ本編が終わった後の番外編で、サトシ達と別れてカントー地方を旅し始めたデントがジョウト地方のポケモンドクター養成学校に通ってるタケシくんに出会うストーリーがあるんだよね。
あれが具体的にいつかは名言されてないけど、サトシが最終回でカロスに発った事を考えると丁度今頃かもう少し先の話で、ならその頃には彼はジョウト地方にいなくちゃいけない筈なんだ。
それでさりげなく聞いてみたら今は学校が長期休暇中で故郷のニビシティに戻ってきてるんだって教えてくれた。
サンムーン時には見習いドクターになってるし、そうじゃなくても彼はきっと凄く優秀な生徒なんだろうけど、それでもタケシくんの夢の邪魔だけはしたくなくて尋ねれば、リオ、と眉を下げて仕方ないなと言った表情の彼に軽く頭を撫でられた。
「タケシくん?」
「そう思ってるなら自分から誘ったりしないさ。俺がリオ達と一緒にいたんだよ。リオが俺達ともっともっと仲良くなりたいといってくれたように、俺ももっともっと、リオと仲良くなりたいからな。」
「…………ありがとう」
さらりと言い放ち笑いかけてくれるタケシくんに物凄い嬉しさと照れ臭ささが同時に沸き起こり、少し顔を俯かせてお礼を言えばさらに笑った彼に頬が少し熱くなる。
……う~~……敵わない……。
あ、てか、あれ?
「カスミ? 随分静かだけどどうかした? って、カスミ……?」
心の中で白旗を振っていると普段ならここらで茶々を入れてくるカスミが先程から黙り込んでいる事に気が付き、彼女へと振り返るとそこには物凄く難しい顔をして腕を組み何事かうんうん唸っている彼女の姿があって、首を傾げた私にああ、と何かに気が付いたように苦笑したタケシくんが口を開いた。
「カスミはむしポケモン嫌いだからな。トキワの森にはむしポケモンが多く生息しているから悩んでるんだろう。」
「むしポケモン嫌い? そうなんだ……。」
そう言えばアニメでカスミがむしポケモンから逃げて『虫は無視なの』と言うシーン見たことある気がして納得するように頷いた。
まあ私も元の世界での虫ってあまり好きじゃなかったし、いくらポケモンとは言えそのうちどうしても駄目っての出てくるんだろうな。
例えばGがつくあいつとか。
だとしたら。
「ねえカスミ、誰でも苦手なものってあると思うし無理はしなくていいよ。カスミがいないのは寂しいけど、私に付き合わせてカスミに嫌な思いさせたくないし。ね、ピカチュウ。」
「ピカピカ」
「……リオ……、ピカチュウ……。って何言ってんのよ!行くわよ、あたしも!!」
私とタケシくんのやりとりにも気が付かないまま未だに唸っているカスミの肩を軽く叩きそう伝えると、一瞬視線を逸らしたもののすぐに私へと向き直りぐっと拳を握ったカスミが力一杯言い放った。
「カスミ、でも……。」
「大丈夫! トキワの森にいるむ、むむむしポケモンはキャタピーやビードルとその進化系達だし、見慣れてるわよ!」
や、そう言っても確かサンムーンの時点でキャタピー相手に逃げ出してたし、と内心呟きながらさらに言葉を募ろうとすると、青ざめさせた顔を強張らせ全く大丈夫そうじゃないカスミに少し食い気味に答えられて眉を寄せる。
本当に 無理だけはしないで欲しいんだけど、これ以上言うと逆に意固地になりそうだし。
……しょうがない。
「分かった。なら明日トキワの森にいる間はピカチュウがカスミのボディーガードになるから。いいよね、ピカチュウ。」
「ピッカ!!」
そう提案して左肩の相棒を見遣れば任せろと言わんばかりに胸を張る彼に小さく笑い頼んだよ、とその頭を一撫でする。
「待って、でもそれだとリオが何かあった時危険じゃない? トキワの森にいるポケモンは決まってるけど、何があるか分からないんだし!」
「うん、だからそういう時はピカチュウに前に出てもらうよ。でも、ピカチュウがトキワの森にいたからなのかこの世界に来てニビシティに向かってる最中も、一昨日同じ目的でケンジくんと森に入って何の成果も得られなかった時も、向こうからいきなり飛び出してくるポケモンいなかったんだよね。それにもし万が一飛び出してこられてもピカチュウはむしタイプに効果ばつぐんな飛行わざを覚えてるから安心でしょ?」
「ピッカ!」
少しだけ狼狽えたカスミにそう説明し、さらに私から彼女の肩へと移動したピカチュウがチャアーと彼女の頬へ自らの赤い頬を擦り寄せると、葛藤してるのか彼女がう~~……と唸り声をあげ出した。
「はは、まあまあカスミ。ここはリオの提案に乗ってもいいんじゃないか? 俺もクロバットを連れていくし、不測の事態には備えられるさ。それに、当のピカチュウがやる気みたいだからな。」
「ピカチュ!」
「…………分かったわ。ならピカチュウ、あたしのボディーガード、お願いね!」
「ピッカ!」
さらにタケシくんがそう言ってくれた事で、ぴたりと押し黙ったカスミがやがて諦めたようにはぁーーと息を付きピカチュウに笑いかけたのをみてほっと息をつき、ちらりとタケシくんと視線を交わし笑い合う。
やっぱタケシくんってこういう時のフォロー凄くうまいんだよね。
「よぉーし! 明日はリオに絶対ポケモンゲットしてもらうわよ!」
「ピカチュ!!」
「あはは、うん。頑張るよ。」
一気に元気を取り戻したカスミとやる気を漲らせたピカチュウに答えたところで、ふと何かに気が付いたかのようにそう言えばさと不思議そうに彼女が私へと視線を向けた。
「さっきリオ一昨日同じ目的でケンジと森に入ったって言ってたけど、それってポケモンをゲットしにトキワの森に入ったって事よね? 何でその時ゲットしなかったのよ?」
「言われてみればそうだな。『成果は得られなかった』とも言ってたけど何かあったのか?」
続いてタケシくんにも尋ねられ、あー……と少し苦笑しながら頬をかく。
「……初めはポケモンゲットするつもりだったんだけど。トキワの森に入ってすぐに、あの森に稀にフシギダネが出現するらしいって噂を聞いてゲットしにきたトモカさんって言うトレーナーと出会ってさ。話の流れで、そのお手伝いをしてたらついそっちに夢中になっちゃって自分のポケモンゲットするのすっかり忘れてて。研究所戻ってからオーキド博士にも流石に呆れられた。」
「そりゃそうよ。自分のポケモンをゲットしに行ったのにそれをそっちのけで他のトレーナーの手伝いしちゃうなんて。」
「ああ。だけどそう言うところ、凄くリオらしいな。」
「ほんとね。」
「あはは……。」
「ピカチュ」
そう説明すれば二人の顔が段々仕方ないな、と言うような表情に変わっていく。
そのまま誰かが小さく噴き出したのをきっかけに三人と一匹で声を出して笑い合っていると不意にピカチュウの耳がぴくっと揺れ、カスミの肩の上でどこかに視線を向けるのが見えピカチュウ?と呼び掛ける。
「どうかした? 誰か知り合いでも……ってそれはここにほぼ揃ってるか。」
「ピカ!」
その行動にきょとんとして尋ねると私達のいる場所とは車道を挟んで反対側の道をピカチュウの小さな指が指し示し、三人同時にその方向へ顔を向ける。
そして丁度私達と向かい合う位置にある店の前に立ちこちらを見つめている、目元をベネチアンマスクのような形の黒に覆われた赤い瞳が特徴的な青い体に前に飛び出たマズルを持つ小柄な獣人のようなポケモン――はもんポケモン・リオルが立っている事に全員が気が付いた。
「わあ、あれリオルよね? あたし実物初めて見た! トレーナーか誰か待ってるのかしら!」
「ああ、どうやらそうみたいだな。しかしやけにボロボロだな、どこかでバトルでもした帰りか?」
歓声をあげるカスミと顎に手を添えて観察するタケシくんの会話を聞きながら、そのリオルを見つめていると不意に左肩に重さが加わった。
ハッとして見ればカスミの肩から私の左肩へ戻ってきた真剣な表情のピカチュウの黒曜石の瞳が真っ直ぐに私へと向けられる。
と、言うことは……。
「ピカチュウ、あの子、こないだの?」
「ピカチュ」
隣の二人に聞こえないように少し声を潜めて尋ねるとしっかりと頷いた相棒にそっか、と改めてリオルを見遣る。
真っ直ぐこちらを見る赤い瞳はこの前同様に意思の強い光を宿し輝いているもののその体はタケシくんが言うようにボロボロで、左腕には血まで滲んでいるのが見えて眉を寄せる。
やがて店から出てきた見覚えのある中肉中背で猫背気味な男性トレーナーに声をかけられたリオルが最後にもう一度だけこちらを振り返り歩いていくのを見送っていると「リオ? ピカチュウ?」と言うカスミの声にハッと我に返り、慌てて二人へと向き直った。
「ピカ?」
「……へっ? あ、えとごめん、何だった?」
「『へ?』じゃないわよ。リオとピカチュウがあのリオルをあまりに熱心に見てるからどうかしたのかなと思って! あのリオルとトレーナー、何かあるの?」
「え、あ、う、ううん。カントーでは見ないポケモンだったから興味を引かれただけ。ね、ピカチュウ?」
「ピカピカ!」
訝しげなカスミに尋ねられ、慌てて首を振り同意するように声をあげたピカチュウとね、と頷き合う。
「ふぅ~~~……ん。」
「確かにリオルはカントー地方にはいないからな。ここらへんでは珍しいポケモンだろう。ところで、『こないだの』っていうのはどういうかか教えてくれないか、リオ?」
「……あ゛」
「ったく、私達がそんな良いわけで誤魔化される訳ないでしょ。きっちり説明してもらうからね。リオ?」
「ああ、絶対逃がさないから観念した方がいいぞ、リオ。」
どうやらばっちり聞かれていたらしい呟きに言い訳する間もなく、左手をタケシくんに、右手をカスミにがっしりと掴まれる。
そのままやけに圧を放ちながら笑みを浮かべる二人に逆らえる筈もなく、がくっと肩を落とした。
「…………はい。」