第八話です。
今回ポケモンに対して暴力・虐待的表現があるため少しでも苦手な方はご注意ください。
あとそれに対して主人公の殺意がとんでもなく高いです。
てか油断するとすぐ主人公とタケシとカスミがわちゃわちゃしだすの何とかしたい。
それでは今回も少しでも楽しんで頂けると幸いです。
「「はあああ!!?」」
「三日前ケンジとトキワの森に行った時あのリオルを連れたトレーナーに喧嘩を売られてポケモンバトルしたぁ!?」
「しかもそのバトルにもし負けていたらリオ達が手伝ったトレーナーがゲットしたフシギダネと、ピカチュウが奪われていたかもしれなかっただって!?」
「「リオ!!!」」
今更ながら。
本日もどこまでも広がる青空の下、タマムシシティタマムシデパートの屋上にぴったりと揃った(一人は元)ジムリーダー二人の声が響き渡った。
さすがに道の真ん中で話す事じゃないとここに移動したけど、代わる代わる声を荒げる二人の大声に驚いたポッポたちが一斉に飛び立つのをぼんやり横目に捉えつつ前方に視線を移せばベンチに座った私の前には思い切り眉をつり上げた二人が仁王立ちで立っていてぴゃっと首を竦める。
……うん正直めっちゃ怖い。
「……すいません。」
「それで済んだら警察はいらないのよ!!」
「ああ! それに何故俺達にそれを今まで話さなかった!? いくらでも話す機会はあっただろう!」
「…………はい。」
さらに完全に頭に血が上ってる今の二人には何を言っても逆効果でしかなく項垂れる私の横では、ピカチュウが先ほどカスミから買ってもらったミックスオレを美味しそうに飲んでいて全く我関せずな態度に泣きたくなってくる。
てか君、私の相棒だよね? 酷くない?
「ちょっとリオ聞いてる!?」
「う~~……聞いてるよ! だってあのトレーナー、トモカさんがやっとの思いでフシギダネゲットした頃に急に来たかと思ったら『フシギダネを探す手間が省けた。怪我したくなかったらこっちに渡せ』って。」
「何それ、完全にチンピラかなんかじゃない。あのトレーナーそんな奴だったのね。」
「人のポケモンを奪おうだなんて、トレーナーの風上にもおけない奴だ。それで、フシギダネをとられないようバトルしたのか?」
タケシくんの問いかけに小さく首を横に振る。
確かにいきなり出てきて、当たり前だと言わんばかりに手を差し出してきた時には横っ面に一発ぐらいお見舞いしてもいいんじゃないかって考えたけど。
何より許せなかったのは……。
「トレーナーがそう言った時、あのリオルはトレーナーを止めようとしてた。それをあいつ……!『うるせえ』って怒鳴って、リオルを思いっきり蹴り飛ばしたの。」
「リオッッ!!!!」
それは一瞬の出来事だった。
トレーナーの一切躊躇も容赦もない蹴りで私達の足元まで吹き飛び地面に叩きつけられたその小柄な体に息を飲んだのはケンジくんとトモカさんと私だった。
「リオルッ!!」
「ピカチュ!」
「…………リオッ……」
咄嗟に膝を付きリオルを抱え起こすと痛みに顔を歪めながらも薄く開かれた赤い瞳と目が合い、傷に触らないようにそっと胸元に抱き寄せる。
「……っ、自分の、ポケモンに……。パートナに、なんてことを!!」
ふつふつと胸に沸き起こる憤りそのままに顔をあげギッとトレーナーを睨み付ければ私の気迫に一瞬怯んだ彼がうるせえ!!と叫び声をあげた。
「自分のポケモンをどうしようがオレの勝手だろうが! そもそもここらへんでは連れてる奴がいなくて注目されっからボールから出してるだけなのにうぜえんだよそいつ!! いつもオレのやる事にケチ付けやがって、全然言うこと聞かねーし、その上ちっとも進化しねえ! そんな奴ゲットすんじゃなかったぜ!! 」
「……ッ貴方……!」
「ピカ!!」
さらに放たれた暴言に左肩のピカチュウの頬にバチリと電気が弾け、あまりの怒りにいっそ歯の一本ぐらいはいいんじゃないかと立ち上がろうとした私を背に庇うようにしてトモカさんとケンジくんが一歩前に踏み出した。
「あんた!! ポケモンを何だと思ってるのよ!」
「ポケモンはトレーナーのアクセサリーじゃない!」
「うっせえ!! ならポケモントレーナーらしくバトルで決着つけようぜぇ! オレが勝ったらお前らのポケモンは頂くぜ! ついでにそのピカチュウもな!」
「ピカ!!?」
二人の怒声に顔を歪め何かの悪役のテンプレかと思うような事をほざくトレーナーに『ついで』扱いされた事に怒りの声をあげた相棒はともかく、黙ってモンスターボールを取り出した二人に慌てて待って!と制止をかける。
「二人とも!! あんなポケモンバトル受けちゃ駄目だよ! それにきっとあの人は勝っても負けてもポケモン奪ってくる! っ、ロケット団と同じだ!」
「おいおい、あんな奴らと一緒にすんなよ。オレは優しいんだぞ?」
「――――!! リオルにこれだけの事をしておいて、どの口が!」
むしろ、アニメではお馴染みのあのロケット団三人組と比べたらこのトレーナーの方がよっぽど最悪だ。
彼らも彼らでなかなかにえげつない事はするけれど、でも。
少なくともあの三人組はポケモンに本気で暴力を振るったりしない――!
奥歯をギリッと噛み締めさらに睨む私に表情を歪め口の端に笑みを浮かべたトレーナーが二つモンスターボールを取り出したのを見て再び二人にかけようとした制止はリオちゃん、と言うトモカさんの声で遮られた。
「大丈夫よ。だからリオルをお願いね。」
「リオ、ボクのリュックに傷薬が入ってるんだ。それをリオルに。」
「トモカさん、ケンジくん!! ってリオル!!?」
「リオッ!」
私じゃどうやっても止められない二人に声を張り上げた瞬間、それまでぐったりとしていたリオルが目をカッと開き、≪でんこうせっか≫か何かを使い凄まじい勢いで私の腕からすり抜けるとトレーナーを背に私達の前に立ちふさがった。
「リオル!?」
「リオルどうして!」
「待ってリオル!」
「……何だよリオル、お前があいつらの相手するってか?」
私達の声を黙殺したまま、訝しげな表情のトレーナーに私達を――私を見据えたまま頷いたリオルの強い意思を宿した赤い瞳から何かが伝わってきた気がして目を見開く。
……まさか、あの子……。
「……まあ、いい。ならいけよ、リオル! 勝てよ!」
「…………。」
トレーナーの言葉に肩越しに振り返り微かに頷いただけですぐ前方に視線を向けのリオルにくっと拳を握る。
そしてリオルの行動に戸惑っているトモカさんとケンジくんに声をかけたのだ。
「私がバトルする」と。
「……その後はピカチュウの≪そらをとぶ≫で一撃で戦闘不能になったリオルを使えないとか弱いとか罵りながらモンスターボールに戻しての『覚えてやがれ』だったの。……あの、タケシくん、カスミ。二人が今怒ってるのは私とピカチュウの事を凄く思ってくれての事だって分かってる。心配かけてごめんなさい。でもこの事を二人に話さなかったのはわざとじゃなくて、私も今日のジム戦で頭がいっぱいになってて言い忘れてたの。それでさっきは、その、楽しい話してたのに水を差すような話をしたくなくて……。ごめん。」
改めてそう謝罪して座ったまま深く頭を下げると二人が同時に息を付き、びくっと微かに体を強張らせる。
リオ、と二人に呼び掛けられ恐る恐る顔をあげればぽすんぽすんと二人の手が頭に乗せられた。
「……カスミ? タケシくん?」
「……ったく。事情は大体分かったわ。あのトレーナーが最低最悪な奴だって事やリオが頑張ったって事もね。だから、そんないつまでも叱られたガーディみたいな顔しないの。」
「そうだな、とりあえずリオやピカチュウ達が無事で良かった。頑張ったなリオ。」
「ん? うん?」
叱られたガーディの意味はよく分からなかったけど
そのまま私の頭を撫でだした二人の手のぬくもりが心地よくて仕方なくて。
暫く瞳を細め、されるがままになっているとぷっと噴き出して私から手を離し声をあげて笑い出したカスミにきょとんとして、同じく不思議そうな顔をして彼女を見遣るタケシくんと二人揃って首を傾げた。
「カスミ?」
「どうかしたのか?」
「あ、ううん、違うのっ。あたしね、少し不思議だったんだ。タケシがリオの頭撫でるの。タケシって年上で美人なお姉さんにはでれーっとして、手とか握っちゃってるけど、そうじゃなくてあたしやサトシと旅してた時に何気なくするスキンシップって肩に手を置いたりとかその程度だったでしょ? だからリオに気軽にスキンシップ取る理由が気になってたんだけど。やっと分かったわ。今みたいな顔されたらそりゃあ撫でたくなるわよね!」
「んん?」
目尻に涙まで浮かべて笑いつつ納得しているカスミにますます首を傾げながらも、言われてみればアニメ越しで彼を見てた時、年上のお姉さんや同性であるサトシは別としてだし、サトシがスキンシップやボディタッチに抵抗がない分余計そう見えてたんだろうけど旅仲間で異性のカスミやハルカ、ヒカリにタケシくんからスキンシップを取る描写ってあまりなかった事に思い当たった。
特に頭を撫でる描写なんてそれこそ彼の兄弟かポケモン達に対してくらいな気がするし。
んんん?
今までタケシくんに頭を撫でられるの何も気にしてなかったけど、改めて指摘されると無性に気になって彼に視線を向けるとカスミの言葉に少し気まずげな表情で私の頭からソロ~~っと離そうとしているタケシくんの手をがっと掴むと彼の肩がびくっと跳ね、それが面白くなくて掴んだ手をきゅっと握り直す。
てか逃がすか。
「リ、リオ?」
「や、確かにカスミの言うように、タケシくんって私の頭はよく撫でるけどカスミにはそういう形のスキンシップは取らないなぁって。あと勘違いされるのやだから先に言うと、私タケシくんに頭撫でられるのが嫌なわけじゃなくてむしろ好きだからね。タケシくんに頭撫でてもらうと胸の辺りがポカポカになって、撫でてくれるの嬉しいとか手から伝わってくる体温が心地良いとか気持ちいいとか楽しいとかとかそういう気持ちをぎゅっと凝縮した幸せな気持ちで心がいっぱいになるの。それは今カスミに撫でられた時も同じで、二人がいやじゃなければこれからも撫でて欲しい……ってあれ?」
そこまで言ったところで二人が黙りこくっている事に気が付きふと顔をあげれば、私から思いっきり顔を背け顔どころか首まで朱に染めてふるふると震えている二人の姿があってもう意味が分からなくてまた首を……ってもういいやそれは。
「えと、二人とも?」
「……~~リオ、あんたねぇ! あたしとタケシは今まさにリオが言ったそう言う感情駄々漏れのリオの顔を見てるの!! それだけでも照れ臭いのに、それを口で言われたらもうどうしていいか分からないんだけど!?」
「だからその顔って」
「~~~~! ピカチュウがリオに撫でられた時の顔よ!!」
「ピカチュウが?」
「ピ?」
とりあえず気を取り直して話しかければ耳まで真っ赤なカスミに何か理不尽っぽいのを言われた挙げ句、ズビシとピカチュウを指差した彼女に倣い丁度ミックスオレを飲み終わり一息付いていた相棒に視線を向けた。
カスミの言うことはよく分からないままだけど、百聞は一見に如かずと今までの話の流れをミックスオレに気を取られ全く聞いていなかったのだろう長い耳を揺らしこてんと首を傾ける彼の頭に手を伸ばす。
「美味しかった? ピカチュウ」
「ピカ!」
そう尋ねると元気一杯に返ってきた声になら良かったと一つ笑い、そのままいつも通りに頭を撫でていると不思議そうにしながらも真っ直ぐに私を見つめていた彼の黒曜石の瞳がきらきらと輝きを増していく。
もっともっとと言うようにぐいぐいと頭を手に擦り付けチャアアアと声をあげる彼の顔は嬉しそうで、心地よさそうで、楽しそうで、気持ちよさそうで、幸せそうで。
そして。
「ピカチュウ!」
とっておきの笑顔を見せてくれた彼の顔からは紛れもないほどに『大好き』って気持ちが思い切り伝わってき……………!?
「ひょっ!!?」
それを認識した瞬間ぼんっと音が確実に聞こえたような気がする程顔とは言わず寧ろ首から上が火が出たように熱くなる。
カスミが言うピカチュウの顔がここまでセットなら、つまり私は今までタケシくん、さっきカスミにもこう言う顔を見せていた訳で……。
「~~~!!」
恐る恐る顔を二人に戻すと顔を朱に染めたまま何とか笑いかけてくれようとして失敗して口元をひきつらせたタケシくんと、多分照れ隠しやらなんやらで眉を吊り上げて怒っているように見える同じく顔の赤いカスミとばっちり目が合い、何か言わなくちゃとは思うけど下手言ったら全員精神的に大火傷どころじゃ済まないのが目に見えていて、はくはくと口を動かすのが精一杯になり、その場に沈黙と微妙な雰囲気が流れ出した。
「ピカ? ピィカ? ピピカ? ピカチュピ? ……ピ?」
唯一被害を免れ私達の名前を呼び顔を見ながら不思議そうに首を傾げていたピカチュウの耳が小さく揺れ、何かに気が付いた彼が屋上の出入口を振り向いた次瞬、バンッと大きな音を立てて開いた屋上のドアのおかげでその雰囲気が霧散した事にホッと息を付く間もなく屋上に飛び出してきた小柄な影に目を見開いた。
…………嘘、あれって。
「リオル!?」