旧式鎮守府物語   作:あおさ海苔

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かわいいは正義









策謀の海!

『こちらは海上自衛隊横須賀基地所属潜水艦、野蒜鎮守府潜水艦娘、応答されたし』

 

「は、はい、こちらU-125じゃなくってええと」

 

『任務中は艦名を名乗らなくても大丈夫だ。今日は現代潜水艦戦を学ぶぐらいの気持ちでついてきて欲しい。今回は米軍も見学したいみたいだ。まぁ、気にせずやろうや』

 

「が、かんばりますって!」

 

 

後から提督や浅間教官から教えてもらった船団襲撃作戦『群狼作戦』に参加する為、ゆーは偵察機からの通信情報をもとに予想進路先海域で半分潜航しながら待機してます。

 

シュノーケルのおかげで潜ったままでも主機が使えるからずっと潜っていられそう。でも、吸気口に波が被らないようにするのはなかなか大変だなって。

 

そうして待機していると装備させてもらってる現代のハイドロフォンからすっごく静かだけど、通常型潜水艦の音がしてきたので近寄ってみたら海上自衛隊の潜水艦だった……ゆーが船だった頃とあんまり長さは変わらないけど、すっごい音が静かです。

 

そしてその潜水艦の近くには随分と急いでこちらに向かってくる米軍の駆逐艦も居る。潜水艦娘の事、ゆーの事気になるのかな?

 

 

潜水艦の人からも気にするなって言われたし、艦娘になったからか『泳ぐ』事により静粛性はとても高いので、シュノーケル深度のまま8ノットで行動し、潜水艦と待ち伏せの態勢に入る。

 

 

『今回は演習だから実際の魚雷は発射しない。代わりにピンガーをうてば『お前は今魚雷が当たったぞ』って伝えることができる。まぁそんなところだ、気楽に行こう』

 

 

「頑張りますって! がるるー!」

 

 

『その意気だ……まて、後方から接近する潜水艦は野蒜側の物か? こちらには情報が無い』

 

 

──コポリ

 

とても小さな音。でもゆーは知ってる。この音は発射管に注水する音。つまりゆー達は───『ダイブダイブ! 艦娘! 全速で本艦に掴まれ! 回避行動!!』

 

 

なんで!? どうして!? 

 

 

 

「同じヒトなのにっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───海上自衛隊 潜水艦そうりゅう

 

 

「初っ端からぶっ放してきやがったなチクショー!!」

 

「U-125本艦に掴まりました!」

 

「深度60まで一気にダイブ中! 敵魚雷デコイに向かいます!」

 

「現場判断だ! 反撃するぞ敵の場所と艦種は!」

 

「魚雷音より国籍はロシア! 艦種不明!」

 

 

 

海上自衛隊横須賀基地所属の潜水艦3隻は、野蒜沖海戦の後も警戒を続けており、今回の船団訓練に参加していた(山本提督にはイニコの護衛と溺れた時など救助の為、あとお手本を見せるために一隻つけるとは伝えてある)。

 

実際には残弾不足の1隻は帰還させ、もう1隻は所定の任務についていたため、今回は『そうりゅう』がこの任務にあたっていた。

 

 

しかし秘密裏に受けていた『潜水艦娘の拉致阻止命令』についてこんな自衛隊の裏庭たる野蒜沖で本当にやるとはと、そうりゅう艦長深町ニ佐は指揮台を叩きつけた。

 

 

「艦娘の嬢ちゃんが掴まってる以上深くは潜れねぇ! 一撃で決めろ!! 1から4番魚雷撃て! 接近中の米駆逐艦にも緊急電!!」

 

「1から4番魚雷発射! 発射!」

 

「U-125より通信! 前方にも潜水艦『見ゆ』!」

 

「水の中でも『視える』ってのは有り難いな! 何処の船だ!」

 

「IFF反応! 米軍シーウルフ級コネチカット! 味方だ!」

 

 

 

味方だぁ? なんでこうも都合よくロシアと俺達がドンパチ始めたタイミングで『進路上』に居る? しかもなんで今の今まで『隠れてた』?

 

 

「こちらの魚雷かわされました! 敵艦は本艦の真後ろにつくつもりです!」

 

 

ちっ! 前方の米軍が敵にバレてやがる! お互い誤射を躊躇って撃たせない気か「前方コネチカット魚雷発射! 本艦にも向かってくる!!」なんだと!?

 

 

───あぁそうかよ、『日本とロシア潜水艦の偶発的な衝突事故』ってやつにしたいのか!

 

 

「緊急浮上! 艦娘だけでも逃がすぞ!!」

 

「深町艦長!! 前方水上に艦艇確認! 米軍アーレイ・バーク級フィッツジェラルド!」

 

 

くそっ! フィッツジェラルドも最初から艦娘を拿捕するつもりだったのか!

 

 

「魚雷来ます! インパクト!!」

 

 

 

───体が天井に叩きつけられる 爆音 体が壁に叩きつけられる 轟音が 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───野蒜鎮守府 潜水艦 公称第2900号 通称『イニコ』

 

 

味方だって聞いてた『米軍』からの攻撃。浮上中の潜水艦の艦尾付近で炸裂した魚雷で、艦首を軸にして圧し折れた艦尾を振り上げるようにして味方潜水艦が水上にとびでた。ゆーは空高く放り投げ出されて着水する。

 

 

痛い

 

 

障壁がうまく張れなくて左から身体を打ち付けた。

 

 

肘から逆に曲がった左腕を見たのと同時に凄まじい痛みが襲う。脳が焼ききれそう……っ!

 

 

沈みたくない、そう思って前を見ればそこにはさっき全速で走ってきていた『米軍』の巡洋艦サイズの駆逐艦が居た。

 

距離はほぼ至近。艦橋の双眼鏡でこちらを見ている人が見えるぐらいだ。

 

ねぇ、提督、悔しい、悔しいよ提督……祖国ドイツに貢献する事もできず、日本でも戦場で奉公する事もできず……提督にも呼ばれてからまだ何もできてないよぉ……

 

 

「提督、ごめん……なさい……ゆーはまた戦えなかった……」

 

 

でも、でもだからこそっ!! ゆーは、ゆーは護りたい!!

 

壊れた艤装に無理やり推力を発生させて半ば沈みかけているそうりゅうを背にしてアメリカ駆逐艦の前に立ちふさがる。

 

もし私が目当てなのだとしたら……せめて、この人たちだけでも……っ!!

 

 

 

 

「撃たないでぇええええーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───アメリカ合衆国海軍 第7艦隊 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 フィッツジェラルド

 

 

 

「おい、これはどういう事だ?」

 

 

無言の艦橋に1水兵からこのフィッツジェラルド艦長にまでのし上がった事で知られるスプレイグ大佐の声が響いた。

 

 

「前方で吹き飛んだ海上自衛隊のそうりゅう型に対して攻撃したのは友軍潜水艦の『コネチカット』のようです……」

 

 

 

スプレイグ大佐に伝えられていた命令は在日米軍司令部からではなく本国からの緊急命令だった。

 

核戦争の危機でもない限り行われないはずの緊急命令により野蒜近海へ急行していたが、彼は詳細は全く知らされていなかった。

 

 

「副長、もう一度緊急通信を読み上げてくれ」

 

「しかし通信の秘匿性を鑑みて──「もう一度読めと言ってるんだ!!!」は、はっ!!」

 

 

叩き上げのスプレイグ大佐にはもう一つ有名な特徴があった。

 

そう、『キレたら止まらない』のである。

 

 

「フィッツジェラルドは直ちに現在の任務を中止し、野蒜近海指定座標にて待機。また同海域に展開する友軍潜水艦に対する最大限の支援を行うべし。併せて艦娘が居た場合は保護せよ……であります」

 

「で、駆けつけた結果が海自の潜水艦のケツに魚雷をブチ込んでる味方潜水艦を援護するってか!? あぁ!?」

 

 

 

スプレイグ大佐は頭にきていた。しかし本国からの緊急命令である事を理解しており、これでも必死に堪えていた。

 

 

「コネチカットより通信! 後方に所属不明潜水艦が居るため援護されたし! またあわせてそうりゅう型への艦砲射撃と艦娘の拿捕要請です!」

 

 

スプレイグ大佐は頭にきていた。

 

それでも我慢していた。

 

 

「艦長! 本当に撃つんですか!!」

 

「ちくしょう! なにがどうなってるんだ!!」

 

 

スプレイグ大佐は我慢していた。己の限界を既に4000倍は超えるほどの自制心をもって我慢していた。

 

 

「コネチカット魚雷発射!」

 

 

『撃たないでぇええええーーーーー!!!』

 

目の前には大破した共に絶望的な戦いをくぐり抜けてきた同盟国海軍の潜水艦と、腕を骨折しながらなお、そうりゅう型を守るために泣き叫び立ちふさがる潜水艦娘が居た。

 

 

スプレイグ大佐は我慢できなくなった。プッツン来たのだ。

 

 

「命令だ、俺の命令だいいな。『被弾した友軍潜水艦』と『負傷した艦娘の保護』のため『被弾した友軍潜水艦』を狙う『敵魚雷』と『IFFをコネチカットに偽装した敵潜水艦』と『その一味らしき所属不明潜水艦』に対して魚雷発射だ!」

 

 

「こ、コネチカットも撃つんですか!?「うるせぇ!! 命令だ!!!」し、しかし!」

 

 

「俺は1水兵として横須賀時代からこのフィッツジェラルドに乗ってる。そして横須賀で育った。合衆国と日本の友情と、合衆国海軍の誇りってやつと共に生きてきた、それをブチ壊そうとしてる奴らがいる。しかもあんな怪我をした幼い娘に魚雷をブチ込もうとしているクソ野郎がいる。もう一度言うぞ、今すぐあのクソ共のケツに短魚雷をブチ込んでやれ!! ブチ殺せ!! 文句がある奴は一緒に魚雷発射管に叩き込んでやる!!」

 

 

「「「Aye, aye, sir!!!」」」

 

 

スプレイグ大佐はキレた。

 

乗組員もキレた。

 

 

そこには政治的陰謀も、国際的配慮もなかった。

 

 

ただ幼子と戦友を守るために戦う『アメリカ合衆国海軍軍人』達が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どろどろしてまいりました。


感想ありがとうございます。すごく嬉しいです!
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