───野蒜築港
明治11年より日本初の近代港として築港が始まったが、明治17年の台風により被害を受け築港は断念され、度重なる天災や深海棲艦の攻撃により一部の遺構のみ現存する。
と書いてある紹介パンフレットを読みながら、緑の服の自衛隊の人に連れてこられました『野蒜仮鎮守府』なる建物。
鎮守府と言いながら、まだ建物や施設は海に面していないところまでしか着工してないようだ。
ご武運を! という声がかけられた方向を見ると、ここまで海沿いを警備してくれていた吹雪さんと神風さんが手を振りながら離脱していくのが見えた。
こちらも手を振り返しておこう、彼女たちは私達の命の恩人なんだから。
───さて、別れは惜しいけど、今は鎮守府の事に戻ろう。
仮って言う割にはレンガ造りの倉庫とかしっかりした建物もあるみたいだけど……
「提督、それでは簡易的にではありますが着任式を行うのでこちらに着替えてください」
三笠さんが渡してきたのは白い軍服だ。なんでも提督の正装らしい。まぁ形から入るのは私も嫌いじゃない。
車の中でいそいそ着替えていると、三笠さんは手持ちのタブレットでなにやら資料を読んでいるようだ。
さっき勉強したけど、三笠さんは明治の軍艦なのに現代のタブレットとかなんで使えるんだろう?
「あぁ提督、これでも私は明治から深海棲艦に破壊されるまでずっと人々を乗せ続けた『記念艦』です。現代の事も得意なんですよ? 最後に乗っていたのも記念艦の職員さんでしたし、鎮守府運営やバックオフィス、接客もお任せくださいね」
初めて呼び出した艦娘は『初期艦』と呼ばれ、提督と特別な絆があるとの事だけれど、初期艦が三笠さんな私はもしかしてすんごい幸運なんじゃなかろうか?
なんかすっごいできるお姉さんなんですけど、私絶対要らない子になりそう……
「少し制服直しますね……よし、お似合いですよ提督。では行きましょうか」
慣れない帽子をかぶったらいざ出発! ……だけど、まずは三笠さんの車椅子を降ろさないとね。
へー今は車からアームがでて自動で車椅子のまま乗り降りできるんだ……ほへー……
「では我々はここで失礼いたします。今後もよろしくお願いします!」
「は、はい! 陸の事もよくわからないのでまた色々とお世話になります!」
乗せてきてくれた緑の服の自衛隊のみなさんのとお別れして、いよいよ鎮守府に向かう。
入口の門には『野蒜仮鎮守府』の木看板が立て掛けており、入口はまだ砂利と鉄板がひかれているだけのいかにも工事中って感じだ。
三笠さんが電動車椅子でそっと私の斜め後ろについたので、多分こうメイドさんみたいに後ろからついてくるつもりなんだろう。
でもこんな砂利や鉄板道だし、やっぱりこうしないとね?
「て、提督!? そんな押していただかなくても!」
「いいのいいの、道も良くないし。じゃあ行こっか」
砂利道を三笠さんと進むと、とても小さな人? みたいなのが建物の入口の両側に整列してこちらを見ていた。
これが妖精さん? な、なんかカワイイ……
「提督に捧げぇー銃!」
一糸乱れぬ動きと共になんというか敬礼だったり手持ちの長い銃を持ってこちらを見てくる妖精さん。
す、すごい圧を感じる……え、えっとこれはこのまま進んでいいのかな?
「提督、まずは敬礼しながら左右の彼等を見て進んでください。着任挨拶はあの建物の入り口にあるひな壇で行う予定ですが……できそうですか?」
「う、うん。がんばる……」
右手と右足が同時に出ちゃうぎこちなさながらなんとか敬礼しつつ建物入口のひな壇へ向かう。ひな壇付近には白い服の人も居て、なんだかすごく偉い人感の出ている人が敬礼と共に近づいてきた。
「私は横須賀鎮守府首席参謀の島村だ。今回山本君にはここ、野蒜仮鎮守府へ着任してもらい、以後の設営を指揮し戦力化に努めてもらいたい」
「は、はい! 微力ながら最善を尽くします!」
なんとか敬礼を返しながら返事をすると、島村参謀は辛い顔をしながら私の横にいた三笠さんとアイコンタクトして頷きあうと、再び敬礼して一歩下がった。
多分これで着任の辞令的なのが終わったんだろう。
よ、よし。ち、着任の挨拶やるぞぉ……
「───
───3ヶ月後
やぁ山本提督だよ。着任してから3ヶ月、何してたかって言うとね
「美しい汗をかこう〜汗をかくってすばらしい〜」
土木工事まだやってたよ!!
だって道とかは陸上自衛隊の人(緑の服の人、やっと組織名覚えた)に手伝ってもらえたけど、肝心の建造ドックや工廠は妖精さんの手作りじゃないと駄目らしいんだもん!
最初は甘味とか妖精さんに差し入れしてたけど、運動好きな私はついつい工事を手伝ってしまい……妖精さんいわく提督は手伝っても大丈夫らしいけど、おかげで午前中は三笠さんの座学、午後は土木工事、夜は自習とリカバリの軽い運動と花も恥じらう乙女とはとても思えない生活を続けてました。
……痩せたね!(遠い目)
「ていとく、こうじおわったからけんぞうどっくでおふねつくれるって」
「はじめてのけんぞうだー」
「「「けんぞうだー!」」」
周りの妖精さん達がなんだか喜んでいる。ついに建造ができるんだね!? これで三笠さん一人に任せっきりの体制から脱出だーーー!!
「よーし! 者共であえー! であえー! 建造するぞー!」
「「「おーーー!!」」」
さぁ、どんな人が来てくれるのかなぁ?
───建造ドック
「あぁ提督お呼びだてしてすみません。建造ドックの工事が完了しましたので、試験も兼ねてまずは一隻建造をお願いしたく」
建造ドックには三笠さんや妖精さんが集まっており、工事監督妖精さんから竣工検査証と書類を受け取りサインする。うん、予定より少し早くてかつ資材も抑えられたし、検査の結果も大丈夫そうだ。
「建造には『縁の物』が必要になりますが、今は提督のお守りしかないのでこちらで建造をしてもよろしいですか?」
そう、建造には『縁の物』が必要らしいのだ。
例えば艦船に縁のある物(私のお守り、三笠さんの甲板に使われた木材片)だと、その艦船やその艦船の姉妹艦。または深いつながりのある船が建造できるそうだ(雷撃処分したとか、共に困難な戦いに挑んだとか)。
一方で『所属箇所に縁のある物』だと多くの艦船が建造できるそうだ(鎮守府のレンガや机など。所属していた艦艇すべて建造可能)
まぁその分所属箇所に縁のある物は大変貴重で、現在ほぼ各鎮守府にて使われているため、私達のような辺鄙で仮鎮守府みたいな所には回ってこないのである。
「ていとくのおまもりなら、あとじゅうすうかいけんぞうできるよー」
「つかいきったらかわいそうだからじゅっかいぐらいにしておこうねー」
「おまもりだもんねー」
「「「ねー?」」」
そう、そして建造する度に縁のある物は消費されてゆく……限りある資源で建造するため、建造は大変ハイリスクなのだ。失敗は許されない。
そしてできれば戦えない三笠さんの代わりに戦える艦娘が来てくれれば嬉しいなって……よし、では建造開始!
───一時間半後
「Hello? 練習特務艦『浅間』ヨ、三笠さんと一緒に教鞭を執れるなんて幸せネ!」
えっ、また武装ない人ですかーーー!?