防衛省と大本営のトップや、政府の関係者が集まった会議室で、できれば認めたくない現実がプロジェクターで映されていた。
「空母3はともかく、戦艦水鬼に率いられた戦艦20に巡洋艦20だと!? 駆逐の20も含めてこんな戦力相手では残存兵力ではまともに戦えん!」
「横須賀を含めて根こそぎ動員した場合、艦娘戦力の総数はどうか?」
「訓練鎮守府を含めても戦力はこの通りだ、接敵した段階で蹴散らされるよ。それに肝心の空母がみな訓練生だ」
「自衛隊も陸の移動が間に合わない、西日本の部隊で間に合うのは近畿までだ、北陸や東北からの転用が間に合うかどうか……」
「空は誘導弾の残弾がない、在日米軍から融通できないだろうか」
「在日米軍を代表して申し上げるが、こちらも余裕は全くない、むしろこちらが融通してほしいぐらいだ」
「海保は艦艇数こそあるが戦闘力は皆無です。対潜程度なら既存の改良型でできますが艦隊決戦などとても……」
「海は故障艦か人員不足で係留している老朽艦ばかりだ。そもそも76mmや3インチ速射砲では戦艦相手にどうしようもないっ!」
深海棲艦の大艦隊が首都圏に向けて小笠原から真っ直ぐ北上していると報告があって3時間という大急ぎで開かれた会議では、全く結論がでなかった。
プロジェクターに映し出された人類側の戦力は以下の通り
※他海域に展開している為参加できない艦娘・艦艇がほぼ大半であるため、極めて少数である。
■大日本帝国海軍(艦娘)
空母 阿蘇(訓練生) 生駒(訓練生)
重巡 青葉 伊吹(訓練生)
軽巡 夕張(退役済) 酒匂(訓練生)
雷巡 木曾(退役済)
駆逐 早霜 若葉 初霜 楢
記念 三笠(戦力外)
保管 富士(戦力外)
練習特務 浅間
海防 見島 択捉 占守
試験重巡 鈴谷
試験駆逐 不知火
■海上自衛隊
DDH りゅうほう しらね(故障中)
DDG はたかぜ さわかぜ
DD あさぎり やまぎり
DE ひろせ ななきた のしろ くまの
SS たいげい(訓練中) おやしお みちしお
■航空自衛隊(海上自衛隊航空隊含む航空戦力)
F-4EJ改×12(りゅうほう艦載機含む)
F-1CCV×12
F-15×2
F-35×8(りゅうほう艦載機含む)
P-1×12
T-4改×12
F-2×2
■陸上自衛隊(対戦車戦力)
第2〜第5対戦車ヘリコプター隊(AH-1S他 約40機)
首都防衛集団(16式機動戦闘車他)
富士教導団(10式戦車 16式機動戦闘車他)
関東圏各駐屯地部隊(普通科対戦車ミサイル等)
■在日米軍
空母 マイケル・ウィルソン・Jr.
イージス巡洋艦 シャイロー
強襲揚陸艦 ブルーリッジ
ミサイル駆逐艦 カーティス・ウィルバー フィッツジェラルド ベンフォールド
「せめて戦艦5ぐらいならばなんとか……しかし戦艦水鬼が居るようではどのみち……」
「首都圏を放棄するしかないのか……ハワイの艦隊は戻せないのか?」
「二兎追うものは一兎をも得ず、戻したところで間に合わんしハワイまで奪還できなくなる」
「海上戦力と航空戦力でぎりぎりまで抵抗し陸上兵力の集結を待って長期持久体制は無理なのか」
「首都圏避難を行えばどうせ交通は完全麻痺する。関東圏の部隊すら移動が困難になるんだそ。国民の車を戦車で踏み潰しながら進路開拓でもするかね?」
長くしかし決定的な結論が出ないまま、首都圏沿岸住民の内陸避難と合わせて、全戦力の集結までありったけの誘導弾による空海からの遅滞戦闘を行う事で決定した。
敵目標は首都、または横須賀鎮守府
誰しもがそう思っていた。
これほどの国家非常事態では、東北統合隊からの上申など些細なことであり、後回しにされたのだった。
───東北統合隊 陸上自衛隊 仙台駐屯地
「さて、結論から出そう。事実上の命令無視になるが各員その覚悟はあるか」
スキンヘッドに丸淵眼鏡、休日はゴルフに盆栽と『見るマイナスイオン』『好々爺という漢字は根本陸将から作られた』とまで親しまれている東北方面総監の根本陸将が、これまで誰も見たことのないような鋭い視線で参加者を見渡した。
「山本提督の直感は間違いないでしょう。さらに艦娘鈴谷が既に野蒜での深海棲艦による偵察を撃退しています。狙いは首都圏や横須賀ではなく山本提督です」
「正直緊急召集されても航空隊を百里に送り込むのがやっとですよ、松島に大型輸送機はないんです」
「海上自衛隊も間に合うのは最大限急がせてもりゅうほうだけです。あとはDE2隻しか実質動かせません……それも間に合わないかと……」
陸海空部隊司令官の現状認識に間違いはない。
首都の危機に際してあるだけ根こそぎ動員をしているため、あと12時間で首都圏に展開できようもない部隊まで名前があがっていたのである。
そして真夜中に襲撃を受けたとされる山本提督の姿はここにはなかった。まだ恐怖から動けないでいたのだ。
「県警としては沿岸部避難について『襲撃警報の誤作動』として事前の対処はできますが……間違いはないのですね」
「海保としては以前、山本提督の直感によりはぐれ艦との偶発戦闘を回避しています、信用に足るかと」
「なによりあの頭の上にたんぽぽが咲いているような山本提督があの様子です。部隊をすべて首都方面に動かしてからでは遅いでしょう、陸上部隊は福島あたりまで出して引き返せるなり、北東北の部隊を事前に野蒜に集結させる必要があるのでは」
「少なくとも山本提督と共に野蒜で決戦を行う限り、首都圏を戦禍に巻き込むことは回避できる。それだけでやる価値はあるはずだ」
「我々が野蒜で粘れば敵の背後から首都に集結した部隊が攻撃して挟み撃ちだ、悪くないだろう」
実質的な命令違反を話し合っている雰囲気ではなかった。この作戦会議室に集まった誰もがあの野蒜沖海戦を山本提督と共に戦った者達だ。皆、山本提督を信頼し、国民の生命を最大限護るべく全力で知恵を出し合っている。
「まったく……わかった、陸は直ちに出撃準備。快足な機動戦闘車を先行させて言い訳にしたまえ。普通科は沿岸部陣地構築資材を片っ端から積み込んで待機、ホームセンターまで残らずだ。福島・郡山はそのまま首都へ向いたまえ、隊員は最小限で車両は最大限だ。北東北は青森と弘前を除き全て野蒜に集結!」
「はっ!」
「海は艦娘戦力を北方よりヘリコプターにて松島まで輸送せよ、故障中のしらね乗組員を用いてなんとかはたかぜを使えるようにしたまえ」
「艦娘は三沢に届けて貰えれば直ちにジェット機で松島に送ります、民間もぜひ協力させていただきたい」
「助かります。あと在庫全部と一緒に八戸の地対艦ミサイルは野蒜へ向かいたまえ。宮古と釜石の泊地にある武器弾薬も使えそうなものは片っ端から持ってくるんだ」
「海軍も北方対潜水艦戦に必要な海防艦数隻を除き、全艦娘を投入します。三沢での民間機乗り換えを理由にして艦娘の木更津方面への展開は先延ばしますので」
各自が持てるすべての力を使い防衛態勢を整えていく。
負ける戦いだとは誰も思っていない。たとえどれだけ相手が強力であったとしても。
あの時と同じだ。やれることは全てやる。それでもあの時、深海棲艦に対して根本陸将達は護れなかった。
ペンを握る手に力が入る。全身を震わせる覚悟が溢れ出す。
「山本艦長、摂津さん……今度こそ、今度こそ護り通します……っ! 必ずっ! 必ずっ!!」
根本陸将はそう小さく呟くと作戦指示書に決裁印を捺した。
戦わなければ生き残れない!