旧式鎮守府物語   作:あおさ海苔

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劣勢の上、戦力分散とか勝てる気がしない









針路変更!?

『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます。現在、深海棲艦による東京湾へ敵侵入が予測されます。沿岸部にお住まいの皆様は直ちに政府の指示に従って避難を開始してください。臨時ニュースを申し上げます───』

 

 

 

まもなく東京湾に深海棲艦の大艦隊がやってくる。

 

 

 

そのニュースを聞き、首都圏の住民は震え上がり交通は麻痺しデマが飛び交い、まさに国全体が大混乱に陥っていた。

 

 

「5年前の攻撃では千葉もやられたんだろう? 茨城に行くか?」

 

「百里とかあるから危ない、那須まで逃げないと」

 

 

「厚木や横田は基地があるから……より離れるなら伊豆まで行けば……だめだ、高速道路が封鎖されてる」

 

「下道で高尾山とか山の方に行く?」

 

 

『敵の戦艦100隻とかオワタ』

 

『多く見積もって20隻だろデマ乙』

 

 

 

官民それぞれ混乱の中にあった。

 

そしてその混乱は根こそぎ動員された部隊も同じだった

 

 

 

 

「あなた、まぁ、その……ぱぱっとやっつけてくるから! ……その子の事、お願いね」

 

 

退役していた夕張が、まだ幼い子供と夫を残して出発する

 

 

 

「提督、俺とお前、久々の舞台だ。鈍ってないだろう?」

 

「ああ、最期のご奉公といこうか。木曾と一緒なら悪くない」

 

「……ばかっ、ついてきてくれてありがとう」

 

 

引退したばかりの提督と木曾が横須賀に到着する

 

 

「葛城先輩も居ないのに無理ですよぉ……」

 

「訓練生だってやるっきゃないよ! やるっきゃないんだよ!」

 

「青葉さん、ど、どどどどうしましょう!」

 

「青葉にお任せください、これでも青葉は激戦に身を置き続けてきたベテランなんですよ?」

 

 

まだ海に出たばかりの訓練生と教官職だった歴戦の艦娘が覚悟を決めていた。

 

 

 

「俺たちの部隊名はなんだっ!」

 

「「「「首都防衛集団!!」」」」

 

「俺たちが沿岸を守ってやらにゃ艦娘の嬢ちゃんが安心して戦えない! 首都を守り抜くぞ!!」

 

「「「「おぉーーー!!」」」」

 

 

各自衛隊も士気を上げ決死の覚悟で防衛準備を始める。

 

 

 

 

戦力を集中し、士気を上げ、時間のない中で最大限の準備を行い、まさに今『首都決戦』の機運が限界まで高まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊が針路を変えた!?」

 

 

 

 

 

 

触接していたP-1より、首都防衛作戦司令部並びに首相官邸、市ヶ谷、大本営に連絡が入ったのはまさにそんな限界まで緊迫感が高まっていた時だった。

 

 

「P-1より報告! 敵艦隊三宅島で針路を東に変え大幅に増速! 敵目標は九十九里浜以北の太平洋沿岸何れか!」

 

「馬鹿なっ、太平洋沿岸なんぞ九十九里浜から福島まで何の攻撃目標もないだろうが! 何が狙いだ!」

 

「戻ってくる事を考えれば首都の陸上部隊は動かせない……艦娘と海自は動けるか?」

 

「敵空母がある以上空輸は危険だ、今から追いかけても……それにもしこれが戦力分散を狙った作戦だった場合各個撃破されるだけになる。狙いがわからない以上静観するしか……」

 

「原発跡を狙われたら大変なことになる、可能性はないか?」

 

「イギリスで原発が狙われた事があります、既に廃炉とはいえ否定はできんでしょう」

 

 

 

 

作戦会議室は大混乱に陥った。

 

もはや交通麻痺により陸上部隊は動かせない。いや、敵の動きがわからない以上首都に貼り付けておくしかない。

 

目的不明の敵大艦隊。なんでもいいから情報を得ようとしていたある職員が、東北統合隊からの上申書を発見したのは敵艦隊が福島沖に差し掛かろうとしていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───東北統合隊 野蒜訓練鎮守府

 

 

 敵大艦隊が針路を変え、真っ直ぐ野蒜へ向かっている頃、野蒜訓練鎮守府周辺では地元有志の協力もあり総力をもって陣地構築を行っていた。

 

 敵は戦艦を主力とする以上、沿岸に展開すれば艦砲射撃で吹き飛ばされる。

 幸い松島湾は海からすぐ山がある地形であり、海に対して山の反斜面に陣地展開し、射線を切った状態からトンネルを使った逆撃や稜線射撃を行う沖縄戦のような作戦を取るつもりだった。

 

 

 鎮守府の警備部隊も、内勤スタッフも総動員で陣地構築や物資集積を急ぐ。漁船に発破用のダイナマイトを満載した無人漁船爆弾などありとあらゆる抵抗準備を行っていた。

 

人は出払い、車両移動の効率化のため門は開け放たれていた。

 

 そう、野蒜訓練鎮守府の警備は今『手薄』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、落ち着きましたか?」

 

「鈴谷温かい飲み物とってくるね」

 

 

 

みんなに心配してもらいながら、鈴谷さんと三笠さんにずっと抱きしめてもらってなんとか体の震えは落ち着いてきた……やっぱり、やっぱり来るんだよね?

 

 

「はい、敵は戦艦水鬼を含む戦艦20、総数約60隻の大艦隊です」

 

 

野蒜の戦力は……まずは地域の避難を……

 

 

「提督、もう少しだけ、もう少しだけこのまま、お願いですからっ!」

 

 

けほけほっ……うん、わ、わかったごめん……「謝らないでください提督、顔色が余りにも……これでは……」

 

 

なんでだろうね、なんだか病院で襲撃を受けてからずっと……けほっ、あぅ。

 

 

 

 

 

───キシュッ

 

 

 

銃声

 

 

 

 

悲鳴

 

 

 

 

三笠さんが艤装を展開して私を庇う。

 

 

───キシュッ

 

 

 

私の脚を狙った銃弾が三笠さんの装甲で弾かれる。

この音はサイレンサーだ。しかも小銃の。

 

 

 

廊下を走ってきて私の部屋のドアを蹴り開けた覆面の男達に対して、血だらけの自衛隊員が窓を突き破って転がり込むと覆面の一人に銃剣を突き刺した。

 

 

「山本提督! にげ」

 

 

───ダァン!

 

 

あぁ、死んじゃった。

 

いい人だったのに。お祭りで楽しそうに野菜を切ってたんだよ?

 

 

───ダァン!ダァン!ダァン!

 

 

もはや消音なんてお構いなしに大口径の銃で何発も覆面のゴミが撃ち込んでくる。

 

 

ワタシを庇う艦娘の装甲で弾かレる。

 

 

 

ドうシテ? ワタシから『たいせつ』を奪わナイで

 

 

奪わレるぐらいなラ

 

 

 

ワタシ がゼん ブ───「させるかこんにゃろーーー!!」

 

 

 

 

覆面の男達が天井をぶち抜いて来た鈴谷さんの艤装から放たれた7.7mmで蜂の巣になってゆく。

 

数人が生き延びて遮蔽物に隠れたが、その後小さな悲鳴と併せて血が遮蔽物の床から流れてきた。

 

 

鈴谷さんが紅い焔を纏った艤装を向けている先から、両手を挙げて一人の白いヒゲの外国人のおじさんが歩いてきた。敵意はないみたい……?

 

 

「なんとか間に合ったようだね。こんばんわ山本提督。私は名無しのロシア連邦海軍潜水艦艦長だ。身内のクズを掃除しに来たところでね」

 

───パンッ

 

 

「ギャッ!」

 

 

動作が見えなかった。

 

さっき自衛隊員さんが突き破ってきた窓から手榴弾を投げ入れようとしていた覆面の頭に深々とナイフが刺さっていた。

 

 

「スペツナズナイフという物だよ、初めて見るかね? さあ山本提督、艦娘の皆さん、まずは格納庫へ向かおう。西も東もまだまだゴミが多くてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「警備班! 高山! 宮田! 各分隊応答しろ! 死んでも死なせんからな!」

 

「樋口一佐! 敵は手練です! このままでは押し込まれます!!」

 

 

 

鎮守府入り口の車止めや阻止機材を一時的に撤去し、搬入効率を上げていたところ、空からの無音降下と入り口からの車両強襲により鎮守府は予想外の『人類から』攻撃を受けていた。

 

 

既に私含め5名まで追い詰められており、無音降下してきた連中に、提督の居る部屋がある宿舎への侵入を許し、この鎮守府司令室も30名近い敵車両部隊により押し込まれていた。

 

 

「これだけドンパチやっているんだ、もうすぐ高野や周りの部隊が来る! もう少しだけ持ちこたえろ!!」

 

「敵車両TOW(対戦車ミサイル)発射っ!」

 

 

 

 

 

爆音、激痛。

 

 

 

咄嗟に持っていた小銃を構えようとしたが、右手が動かない。

 

視線を向ければ瓦礫に右腕が銃ごと挟まれていた。

 

 

 

「松井……高畑……大野ぉ……」

 

 

さっきまで共に戦っていた部下達を呼ぶ。

うめき声だけで、明確な答えはなかった。

 

 

車両のエンジン音が聞こえる。

 

 

いやだ、部下の仇をうちたい。まだ終われない。

 

終われないというのにっ!!

 

 

「先輩っ、どうか力を貸してっ!」

 

 

動く左腕で懐の拳銃を引き抜き近づいて来る車両へ向けて発砲する。

 

だか防弾仕様なのか効果はない。

 

車両の銃座にあるチェーンガンの銃口がこちらを向く。

 

ここまでか、そう覚悟した時、物凄い大きな発砲音と共に敵車両が吹き飛んだ。

 

次々と吹き飛ぶ敵車両。すると米軍のストライカー装甲車と共に16式機動戦闘車が突入してきた。

 

 

「ご無事ですか樋口さん」

 

ストライカー装甲車から降りてきた高野一尉が右腕を挟んでいた瓦礫をひょいと押しのけると、いつものように笑みを浮かべながら私に手を差し伸べてきた。

 

 

「まだ勤務中だぞ、階級をつけんか……先輩、ありがとう」

 

 

まったく、どうしてこう人たらしなのだろうかこの先輩は……これだから奥さんはいつもヒヤヒヤしてるんだぞまったく。

 

 

 

「樋口一佐! あのCIAのド阿呆共は我等正義の味方! アメリカ合衆国軍がケツ穴に鉛玉をブチ込んでファックしてやる!! あとは任せろ!!」

 

 

 

なぜかストライカー装甲車の上に立って軽機関銃を乱射していた在日米海軍のスプレイグ大佐が大声で私に話しかけてきたと思えば、合衆国の国旗を構えまるで絵画のように宿舎に突撃していった。

 

 

……なにがどうなっているんだ? CIA?

 

 

 

「手隙のところを狙われましたね……しかしながらまだまだ人間捨てたものではないですね、こうして国を超えて仲間が集まりましたから」

 

 

 

そうか……手隙のところを狙われた、か……ざまぁないな。私もまだまだか。

 

 

「「「USA! USA! USA!」」」

 

「「「ураaaaaa!!」」」

 

 

宿舎から勝鬨が聞こえる。そうか、随分と世界には馬鹿が多いんだな……

 

 

「さて、それでは我々も向かいましょうか。抱っことおんぶどちらにします?」

 

 

高野先輩が冗談を飛ばす。ふん、なら答えは一つだ。

 

 

「お姫様抱っこで頼むよ先輩、あとで奥さんへの言い訳を考えておくんだな」

 

 

 

 

この時こっそり録画モードにしていた携帯はバレていて、あとで取り上げられてしまった。




U S A ! U S A !
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