───野蒜訓練鎮守府 特殊艤装試験巡洋艦 鈴谷
「入渠ドック被弾! 総員退避しろぉ!」
戦艦の艦砲射撃による爆音の中、何時でもとびだせるように修復ドック(見た目は銭湯)に服のまま浸かっていたけど、さっきの砲撃で入渠ドックの天井が落ちてきた。
結構予想外の破片が落ちてきて、目の前に居た不知火はモロに頭へ当たり出血……まっずいよね、こりゃ……少ない戦力である以上私達が反復攻撃してなんとか敵艦に打撃を与えなきゃいけないのに。
「ぐっ……鈴谷、そちらの修復状況は?」
「まだ大破のまま、推進系がだめみたい。不知火は?」
「同じく大破のままで機関出力が上がりません。水上移動も無理ですね……」
ガラガラと崩れてくる入渠ドックから不知火に手を貸しながら出ると、すぐ近くには自衛官に担架で運ばれる浅間さんと見島さん。二人とも担架から血が垂れるほどの出血だ……あれじゃ戦えない。まいったなぁ……
「……鈴谷、その、大変聞きづらいのですが……その、艤装が」
あり? 不知火の視線をたどると腰の艤装に───あちゃー、『深海』の方がでちゃった。『鈴谷』の艤装が大破状態で無理に艦娘としての力を使おうとしたからかな?
「深くは聞きません、鈴谷……大丈夫なんですよね? 鈴谷は鈴谷で居てくれますよね?」
不知火の縋るような表情が見ていて辛い。
うーん、なかなか難しい質問だなぁ。きっかけはあの病院で鈴谷の姿形をした深海棲艦を殴ってからだけど、正直あの戦艦水鬼のせいだとは思うんだけどなんか知らないけど深海化がかなり進んでる。
ドロップ艦だから余計にってのはわかるんだけど、ここまで一気に浸食されるとは思わなかった。実は鎮守府襲撃事件の時に結構被弾してたんだよね。しかもそんな状態でフルパワー出したから余計に、ね?
いやーどうしようかなぁー深海棲艦にはなりたくないんだけどなぁ─────
「提督やめて!」
三笠さんの悲鳴。提督の声。
しばらくして無線で樋口一佐から提督の死亡が伝えられた。それとほぼ同時に味方艦隊の識別情報に数隻の戦艦が増える。
……そっか、提督。『艦娘』としてのすべて使い切っちゃったんだね。ドロップの私が使い果たせばまた深海に還るように、提督はたぶん『半分以上』人間だったから死んじゃったんだ。
「す、鈴谷……? 鈴谷! 鈴谷!!」
ごめんね、不知火。やっぱりさ、鈴谷はあんなに一生懸命に一人きりで生きようとする提督をほっとけないんだよね。
ぶっちゃけお母さんになりたいんだよね。だから、あんな水鬼なんかに娘をとられたくない。
「待って! 鈴谷! 鈴谷!!」
『艦娘』としてはもう動けない体を無理やり動かして提督に向かって歩く。
全身がドス黒く染まってゆく。半分以上『艦娘』が溢れ落ちる。
艦娘の艤装はもう動かなくなった、黒い艤装に呑まれた動かない足を引きずり、なんとか提督の下へ向う。
建造ドックの脇で、三笠さんが提督を膝枕しながら艦隊を指揮している。うーん、やっぱり実務じゃ三笠さんには勝てなかったなぁ。
「リヴェンジはもう少し攻め込めますか? 前弩級の接近戦に持ち込むためにも一時被害担当を……鈴谷?」
提督をしっかりと膝枕している。ソノこは私の
声が出せない。『艦娘』が溢れ落ちる。
艤装ガ勝手に艦娘ヲネラう。
「鈴谷! 鈴谷っ!? いや、そんな!」
───ガンッ!
一発自分をぶん殴る。よし、少しは頭が冴えた。
「ねぇ、三笠さん。後で提督が起きたら伝えて。『提督のママは鈴谷だ』ってね!」
膝枕されていた冷たくなった提督を抱きかかえて『建造液』に満たされた海に飛び込む。
ふふっ、これは提督のお母さんレース勝利間違いなしだね!
じゃあ建造妖精さん! 応急修理妖精さん! お願いね!!
───建造資源 艦娘鈴谷
不足
───建造資源 重巡ネ級
確認
───縁の物 艦娘鈴谷
確認
───応急修理
発動
ねぇ提督、全部、鈴谷の全部あげるから。だから帰ってきて。
───愛してる
うーん、うーんなんだか凄い眠いけどなんだかふにふにしててぷにぷにで……はっ!? こ、これは膝枕されている!!
「やっほー提督、鈴谷の膝枕はいかが?」
あれ、鈴谷さん? なんで? だって私さっき首カッ切って───
キスされた。えっ? 鈴谷? ちょっとエッチな方は提督びっくりかなって。
「だってさー流石に鈴谷頑張ったからご褒美じゃん?」
んーまー私的にもご褒美だからヨシ! ……って冗談やってないで、本気で鈴谷どうしたの? 私死んだでしょ?
「んー確かに、一気に『艦娘』の存在を使い過ぎちゃうんだもん。そりゃ死ぬよ」
あーなるほどやっぱり、血液じゃなくて血液に含まれるお母さん由来の『艦娘としての何か』が建造の縁の物になってたんだね。ほんでもって艦娘成分の使いすぎと出血多量で死んじゃったと。
「そーそー。つまりさ、その艦娘としての何かと血液を補充して、建造液に浸すとー?」
え、まさかの生き返り? 生き返りできちゃう系!?
「ふふーん、鈴谷にお任せ! と言う事で、提督をこれから鈴谷が産むから正真正銘、鈴谷が提督のお母さんね」
はぇ? 鈴谷が産む?
「提督に鈴谷の全部をあげる。だから……摂津さんと山本艦長を護れなくてごめんね、赦してね」
鈴谷? どういう事?
すると突然記憶が流れ込む。
海岸を背に戦う護衛艦と艦娘。同時戦闘で指揮を執るお父さんとお父さんの乗る『しらぬい』
艦娘には鈴谷さんの姿もある。
鈴谷さんの仲間達が次々と撃沈されてゆく。これは……戦艦水鬼!?
お母さんが水鬼に格闘戦を仕掛けて……『鈴谷、あの子をお願いね』
鈴谷さんは大破しながら怪我をした私を抱えて走って、走って、『おかーさん、おかーさん』
『ごめ、んね……せっちゃ……ごめ』
鈴谷さんが倒れる。ちょうどそこに自衛隊が来て……そっか、そうだったんだ。鈴谷さんも助けてくれたんだ。
「そーゆーこと。提督を最後まで送り届けられなかった悔しさ、自分への不甲斐なさ、そーゆー悪意に蝕まれて深海棲艦へ。そして沈んで、ドロップして、提督達と模擬戦して記憶がフラッシュバックしてってね。まぁ提督は大丈夫、三笠さん達、みんなが待ってるよ」
いやいやいや、鈴谷? 私は鈴谷が居ないと駄目だよ? ぶっちゃけると三笠さんはお姉さんで、不知火さんがお姉ちゃんで、鈴谷さんがママだよ? 鈴谷さんが居ないとバブみをどうやって補充すれば良いのさ!
「割とすんごい事真顔で言うよね提督。まぁ、その時は……実はイニコにお願いするといいよ! 実はあの子意外とママみ力あるから!」
小学生低学年の見た目なイニコにバブみを求める自分の姿を想像する……それ犯罪! 犯罪だよ!!
「さーさー山本提督。ううん、山本摂子。違うか、ねぇ提督、もう自分の名前、わかるよね?」
鈴谷さんが少しずつ薄くなってゆく、それあわせて私の中で、心が、叫んでる。私の名前。
これが富士さんが言ってた心の奥底から湧き上がる名前?
「じゃーねー! お母さんの座はわったさないよー!」
って鈴谷さん! 鈴谷!! お母さん!! 行っちゃやだ!!
「へへっ、鈴谷が提督のお母さんもーらいっ! ……大好きだよ、愛してる」
視界が真っ白に塗りつぶされる、これって改ニとかの時に出る光───
意識が冴える。周りを見渡せば、呆然と私を見つめる三笠さん。
体を引きずりながらこちらに向かって来ていたであろう不知火さん。
担架の上で目をこれでもかと見開いている浅間さんと見島さん。
鈴谷さんは居ない。というか私水上で立ってる!?
腰には艤装、右腕には衝角を模したパイルバンカー
うん、お母さんの現役時代の装備スロットだこれ。鈴谷さん、そこまで再現してくれたんだね……どうやったかはわかんないけど多分妖精さんパワーだね!
「しゅうりしたよー」
「すずやのきもちにこたえたまえ」
「じこしょうかいもせずすれたてとなー?」
そうだね。よ、よっし! 生まれ変わって一発目、ここは改めて元気に挨拶しとこっか!!
「河内型戦艦『摂津』! 鈴谷の力で帰ってきたよ! みんな、心配させちゃってごめんね!」
そういえば上着が提督服だ。お母さんは巫女服だったはずだけど……
すっと帽子が被せられる。三笠さんが被っていた私の提督帽だ。
そうだね三笠さん。
私は『摂津』
私は『山本提督』
野蒜訓練鎮守府の皆のお母さんだもんね!
深く深く息を吸う。これは親の仇でもあり、皆の仇でもある戦艦水鬼への宣戦布告だ。
「全艦隊!! これより再び山本提督が指揮を執る!! 暁の水平線に勝利を!!」
鈴谷、征こう。ぶっ潰してやろう。
今度は皆と一緒に!
鈴谷かわいい(目玉ぐるぐる)