───野蒜訓練鎮守府 記念艦 三笠
「全艦隊!! これより再び山本提督が指揮を執る!! 暁の水平線に勝利を!!」
一度目の前で喪った提督。
鈴谷と共に海へ消えた提督。
でも、でも今、彼女はここに居る。
戦艦の艤装を装備し、提督服を身に纏った彼女が。
だけどどうやら帽子は忘れたようだ。私が借りたままだったからでしょうか?
借りていた提督帽を返し、再び自らの帽子を被る。
つばを深めにかぶって顔を隠したけれど、私は悪くない。
だって提督の嬉しそうな笑顔が眩しすぎるのだから。
さて、思考を切り替えよう。まだ戦いは終わっていない。
提督が艦娘となったからといって一緒に海では戦えない、でもさっきまでみたいに戦闘指揮ならできる。動かぬ脚に絶望している暇なんてない、提督と共に勝利を。
そして……はい、あとで思いっきり叱ってあげましょうか。
「三笠さん、おいで?」
うつむく私にかけられた声にあわせて上を向けば、提督が私に手を差し伸べていた。恥ずかしさを感じながら上半身を伸ばし提督の手を掴む。
「征こう、三笠さん。あいつをぶっ潰してやろう?」
手をひかれる。そのまま提督に抱きしめられてしまった……えっ、あ、あれ? 私、立ってる……?
「征こう、『敷島型戦艦四番艦 三笠』 那由多の果てまで、私と征こう───大好きだよ」
提督を中心に光が広がる。これはまた『改ニ』の光っ!? 提督これは一体!?
「『富士型戦艦一番艦 富士』『浅間型装甲巡洋艦一番艦 浅間』 征こう、あいつをぶっ潰してやろう!」
光が広がる。鎮守府も、海上もまるで野蒜のすべてが光に包まれる。
はい、征きましょう。提督、貴女と伴に何処迄も、何処へでも。
心にあふれる闘志と共に機関の出力が上がる。あぁ、何世紀ぶりだろうか。やっと、やっと私もあの海へ帰ってきた。
「艦隊! 先頭は三笠! 続いて富士、見島、摂津で単縦陣!」
「「「了解! 単縦陣へ!!」」」
「浅間、楢、イニコは援護を! 特に浅間! 石炭炊きの心意気を見せつけてやれ!!」
「Aye aye ma'am! 浅間は衝角による近接戦闘を行うネ! 楢、イニコ付いて来るヨ!」
「いっくぞー!」
「頑張るって!」
提督の言葉で艦隊は蘇った。今まで通常兵器による攻撃で時間を稼いでいた、超弩級戦艦3隻がかりですら戦力不足である強力な戦艦水鬼を含んでさえ、劣勢だった盤面は一気にひっくり返る。
敵艦隊
戦艦水鬼1
戦艦4
空母1(航空隊壊滅)
味方艦隊
超弩級戦艦3(リヴェンジ:小破 カナダ センチュリオン)
弩級戦艦1(摂津)
前・準弩級戦艦7(三笠 富士 敷島:中破 朝日:中破 シュレジェン:中破 シュレスヴィヒ・ホルシュタイン:中破 ヘッセン:中破)
海防戦艦1(見島)
装甲巡洋艦1(浅間)
潜水艦1(U-125 zwei)
駆逐艦1(楢改二)
ハバロフスク航空団(Su-34 Kh-35空対艦ミサイル×12)
戦闘不能
重巡洋艦1(伊吹:大破)
軽巡洋艦1(夕張:大破)
駆逐艦1(不知火:大破)
護衛艦隊(残弾なし)
海上保安庁(有効な装備なし)
航空自衛隊(空対空装備のみ)
陸上自衛隊(戦車砲他有効射程外 AH-1S、地対艦ミサイル残弾なし)
ウラジオストク航空隊(空対空装備のみ)
米第7艦隊(対艦ミサイル残弾なし)
ロシア潜水艦 ユーリイ・ドルゴルーキイ(残弾なし)
「三笠さん、先頭をお願いできますか?」
提督の周りに各艦が集まり単縦陣を組む。もちろん、決戦なら艦隊先頭、受けさせてもらいましょう。
敵戦艦4隻と超弩級戦艦組3隻が撃ち合っているため、通常兵器による足止めが終了した戦艦水鬼に向う。
中破した前・準弩級戦艦組も、中破の中でも比較的損傷の少ない朝日を先頭に梯形陣で近づく。
水鬼と空母は一緒に居て動かない。多少障壁への損傷があるようだけれど、ただただこちらを嘲笑っている。
ばかにしてっ!!
「朝日、そちらの艦隊は任せる。タイミングを見計らい突入してくれ。まずはこちらからしかける」
『承知しました、妹を傷物にしたら提督でも許さないから覚悟しておいて』
もう! 朝日姉様! 冗談言ってる場合じゃありません!!
「こちら楢! 改二になったらなんか魚雷残弾回復したよ! 酸素なんとかってやつらしい!」
「ゆーもG7es魚雷増えたって! 戦えるよ! がるるー!!」
「こちら見島、改三とでも言うのだろうか……自分でも信じがたいが、重油混合機関になって出力と加速力に大幅な向上がみられる。そして三笠さん、また共に海で戦えて光栄です」
見島さん、こちらこそ光栄です。
他の艦も改二や改三?にあわせて損傷や燃料弾薬が回復・補充されて万全な状態になったようですね。
───ミツケタ、ワタシノカワイイコ
背筋か震える、恐ろしいまでの寒気が、虫唾がはしる。
戦艦水鬼が防御態勢だった艤装を展開し主砲をこちらに向ける。
───ミンナワタシニカエリナサ「うるさい黙れお母さんの仇め、私のママは今や鈴谷だ誰がお前なんか母親だなんて思うかヴァーーーーッカ!! バブみを感じられるだけの母性を地獄で勉強してこいアホ!!」
単縦陣の最後尾から摂津……提督の罵声。内容的に苦笑いするしかないけれど、摂津になってからちょっと凛々しくなってた気がする彼女も、やはり何時もの山本提督だった。すこしホッとする。
───ガァン!
戦艦水鬼の発砲音だ。水鬼もこちらへ動き出しすでに距離は5500m 流石にこれほどの近距離では初弾から至近弾。相手もすぐに斉射へ移行する。
水鬼の障壁は一気に火力を叩きつけなければ壊せそうにない……一撃でこの艦隊火力を叩きつけて『クリティカル』を狙わないと。でなければ我々前弩級の主砲どころか、摂津の30.5cm連装砲でもダメージを通すのは難しい。
やはりイニコと楢の魚雷をラストとした各艦の魚雷も合わせる必要性が………「三笠! 危ないネ!」
考え事をしながら敵艦との距離をつめていた報いか、一発大破確定の直撃弾が飛来する。しかし楢やイニコを伴い隣を併走していた浅間が『かばい』私は難を逃れた。
「hey...あとは頼んだヨ……うーん、復活してもかばうしか出来なかったネ」
「浅間さんありがとう、ありがとう! 後は私達に任せて!」
距離は既に4000m 提督からの無線が入る。
……なるほど、承知しました!
「艦隊主砲を右舷へ取舵いっぱい!!」
艦隊が一斉に回頭する。艤装の前後にある主砲の射線が水鬼へ通った!
「全艦目標水鬼撃てぇ!!」
───ガァン! ガァン!
脱落した浅間含む全艦からの一斉砲撃。少し離れている敷島姉様達もあわせて発砲している。
砲撃はすべて水鬼へ………BINGO!
「やったか!?」
「富士さんそれはフラグですよ……」
「イニコ! 楢! 魚雷も撃ち込め!」
爆炎が晴れる前にさらにダメ出しの魚雷攻撃。
「艦隊そのまま敵艦隊に突入! 衝角で奴らの首級をあげろ!!」
高速で放たれた魚雷も次々と直撃してゆく。これで、これで───オワリダトオモッタァ?
爆炎と水柱の中から発砲。敵にはこちらが見えていないはずなのに、その砲弾はまっすぐ見島へと撃ち込まれた。
「ぐあっ!?」
「見島大破!!」
「撃て撃て撃ち続けろ!!」
艦列が分断される、私、富士さんは取舵をとったまま。見島は大きく面舵をとり脱落する。楢やイニコは魚雷発射後退避行動のためすでに距離をとってしまっていた。
浅間さんと提督がこのままでは!!
姉様達が必死に砲撃しヘイトをこちらから外そうとするも、水鬼はただ一点、提督を見続けている。
……障壁はヒビが入っている。あと少し、あと少し削りが足りなかったようだ。
「ネェ、ドンナキモチ? ゼンリョクデコウゲキシテ、ダメダッタキモチハドォ?」
水鬼が嘲笑う。それにつられて提督も笑う。
「うるさいバーカ、足元がお留守なんだよ」
大きな水柱。よし、『提督の魚雷がうまく決まった』
高速で放たれた楢達の魚雷に対して、提督の魚雷はわざと低速で発射し時差をつける作戦だった。
「ナッ、ガッ……ギョライ!?」
「前弩や弩級は戦艦でも魚雷があるんだよやーいやーい! よし三笠さん富士さんやっておしまいなさい!!」
「Aye aye ma'am! 富士全門斉射!」
「Aye aye ma'am! 三笠全門斉射!」
我々の主砲副砲すべてを水鬼へ叩き込む! よし! 障壁を割った!!
「バカナッ! フルクサイッ、カンムスドモガァ!」
「提督!」
「提督!」
「まっかされたぁーーーーー!!!」
300mからの全門斉射により障壁の割れた水鬼へ提督が一気に距離をつめながら発砲する、命中! 命中! 効いてます! あと一歩! あと一歩!!
「カンムスガァ! セツコヲカエセェ!!」
水鬼からの砲撃を提督は艤装で受ける、そのまま艤装はちぎれ飛ぶが右腕に装着したパイルバンカーは残っている。腰を落とし右手を振り絞り水鬼へ───「サセナイ!」
くそっ! こんな時に空母が高角砲を乱射しながら割り込んでくるなんて!! このままでは距離を離されてしまう! 富士さん、そちらから狙えますか!?
「駄目だこの距離じゃどう撃っても巻き込んじまう!」
『任されたぁ! 行くぞてめーら!!』
『アメリカの空母じゃなくて残念だが空母が喰えるなんて最高だなぁオイ!!』
『撃て撃て空母だ狩れぇ!!』
ハバロフスク航空団のSu-34がKh-35空対艦ミサイルを真横から空母に撃ち込む、しかも最初の数発を弾頭無効にして撃ち込み空母を弾き飛ばすと、残りのミサイルで吹き飛ばした。距離は少し取られてしまったが、これでこちらも射線がまた水鬼へ通った行ける!
「富士全力射撃! 提督行けぇ!」
「三笠全力射撃! 提督! 提督!!」
『こちらも負けるな撃て撃てー!』
『ドイツ帝国海軍の誇りを見せるは今ぞ!』
『これで終わらせて!!』
『妹に砲を向けたやつは死ね』
『もう怖いのはヤダーーー!』
『敵戦艦を全て撃破した! Grand Fleet各艦はこれより提督を援護する!』
『殴り合いなら交ぜろ交ぜろ!!』
『痛みを……感じなさい!』
次々と水鬼へ砲弾が送り込まれる、やつの艤装がちぎれ、弾け飛び、効いている、効いている!!
「セツコォ、カエセ……カエセェエエエエエエ!!」
信じられないほどの耐久力をもって水鬼が反撃してくる。狙いは一撃必殺のパイルバンカーを装備する提督だ。
水鬼の放った砲撃からすかさず転舵し提督を『かばう』
───武装全損
───機関停止
───大規模浸水
───大破 危険 危険 危険
がっ!! ぐぅっ!! 至近距離での20inch砲弾の直撃はたった一撃でこれ程の威力かっ!!! 痛みと衝撃で意識が遠のく……でもっ!
「てぃと……く! 行って!!」
「行ってくるね三笠さん!!」
提督も大破した状態ながら水鬼に突入する。
「アッ……アハッ……セツコォ!」
武装は衝角型パイルバンカーのみ。水鬼も副砲や機銃で反撃しようとするがもう遅い。
「───さよなら、『お母さん』!!」
提督のパイルバンカーが水鬼の胸を貫通すると同時に、野蒜鎮守府の戦いは終わった。
もうちょっとだけ続く