旧式鎮守府物語   作:あおさ海苔

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お久しぶりです。
そして前半ちょっとグロ表現注意。


《カエリタイ》

 

 

───北海(オークニー諸島沖) 大英帝国海軍 防空巡洋艦キュラソー

 

 

 その日も私達は北海で護衛空母艦娘達の訓練を行っていた。

 

 大英帝国は今はもう無いけれど、私達『国王陛下』の海軍はこの世界でまた戦っている。

 

 シアリーズ級軽巡洋艦の一隻として生を受け、ドイツ軍と勇ましく戦い、最期は味方の輸送船と衝突し艦生を終えた。

 

 私は大英帝国海軍 防空巡洋艦キュラソー

『王妃(クイーンメリー)』に沈められた私は、艦娘として今は女王陛下に仇なす深海棲艦と戦っている。

 

 不思議なものね……「ねーねーキュラソー、随分と霧が濃くない?」

 

 この訓練護衛空母艦隊で私と同じく教官を担当している大英帝国海軍 A級駆逐艦アカスタが近づいて来た。

 

 確かに霧は濃い。でもそれは北海の日常だった。

 

 

「これじゃ暫く発艦訓練ができないヨー」

 

 

 訓練生の一隻、アメリカ生まれの大英帝国海軍 アベンジャー級護衛空母ダッシャーがまた北海の日常にぼやく。

 

 去年行われたノルウェー沖攻略戦により、今や北海はフランスのビスケー湾と並ぶ安全な訓練海域となっていた。

 だがアゾレス諸島が未だ深海棲艦の支配下にあるため、護衛空母艦娘と航続距離の長い護衛艦艇の需要は一向に減らない。

 

 そのため海が広く使えて『波が高く安全』な北海で護衛空母艦娘や護衛艦艇の訓練を行うのは理にかなっていた。

 

 

『ぼやくなダッシャー、また北海の荒波で吐くぞ。さっきも朝食の───「Hey Hey Hey!!??」全く、北海で海に慣れておかないと、大西洋じゃやっていけないぞ』

 

 

 今回の訓練艦隊指揮官メーケイグ・ジョーンズ大佐が、乗艦している新型の45型駆逐艦『ダイアデム』から通信を飛ばす。

 

 この訓練艦隊は

 

 

■大英帝国海軍(艦娘)

 護衛空母ダッシャー、オーダシティ、アヴェンジャー

 防空巡洋艦キュラソー

 駆逐艦アカスタ、キース、バシリクス、ブレイズン、ウェイクフル、キャメロン

 

■英国海軍(艦艇)

 駆逐艦『ダイアデム』

 フリゲート『グラスコー』『エディンバラ』『ロンドン』

 

 

で構成されている。

 

 艦艇の方はみなピカピカの新品で、中身もまたピカピカの雛鳥達だ。ジョーンズ大佐もデスクワーク畑を中心に歩んできてこの訓練艦隊で初めての艦隊指揮官とのことだ。

 

 それは艦娘達も同じで、私とアカスタ以外は建造されてまだ日が浅く、北海の荒波で訓練生たちが体調を崩したため一旦オークニー諸島近海まで退避してきたところだ。

 艦艇側が風下に行ってくれたのはまだ向こうの艦内で悶え苦しんでいる乗員が多数いるからだろう。流石に私も『そんな海面』を航行したくはない。

 

 しかし艦艇時代の経験からしてもここまで霧が濃いのは初めてだ。艦艇時代の事もあるし、衝突事故がおきないように十分注意しなくては。

 

 後ろに目をやるとぐったりしている訓練生達が濃い霧で見えづらくなってきた。何度か発光信号や声掛けで集合を指示するが反応が薄い。艦艇側も衝突事故防止の為かなり距離をあけはじめている。一度寄港すべきだろう。この状況では訓練どころの話ではない。

 

 

「ジョーンズ大佐、こちらは防空巡洋艦キュラソー。意見具申、訓練を───

 

 

 

 

 

《カエリタイ》

 

 

 

 

 

 声が聞こえた。背筋が凍りつくような声色で、確かに『帰りたい』と言っていた。

 私は本能的に機関出力を上げて戦闘態勢に移行する。続いて振り返り訓練生達の様子を確認するが、足を止めてその場で無防備にキョロキョロしている。動けと声をかけようとしたが、そしてそんな姿もさらに濃くなった霧に覆われて見えなくなる。

 

 

「えっ? 機関が欲しい? どうし、きゃ、キャッ!?」

 

 

 訓練生である駆逐艦キースの悲鳴が聞こえた途端、声のしたほうから霧越しにぐちゅぐちゅと気色の悪い音がする。

 

 

 「shoot! shoot!! shoot!!!」

 

 

 誰の声がはわからない。その声に反応して同士討ちも恐れず気色悪い音のする方へ照準もつけずに全力射撃を行う。主砲に副砲、機銃まで総動員の狂乱的攻撃だった。

 

 暫く発砲し続けふと我に返る。皆も同じタイミングで我に返ったようだ。

 

 

 「キュラソー! 今の声なんだかわか──グチュリ

 

 

 駆逐艦アカスタが駆け寄ってきて私の左腕を掴んだ途端、また気色の悪い音が聞こえた。

 自分の身体ではないような感覚のままゆっくりとした動きで左側を見る。私の左腕には『誰かの右腕』がついていた。

 

 

 「あ、ああああああああああああ!!!」

 

 「ままま待ってバシリクス! 僕に当たって───グチュリ

 

 

 『ナニカ』を見てしまっ駆逐艦バシリクスが狙いもつけずに発砲を始め、流れ弾に当たったと思われる駆逐艦キャメロンの声が途中でまた気色悪い音で突然終わらされた。

 

 訓練生は完全に恐怖に支配されて動けない。

当たり前だ、また北海の荒波で満足に航行すらできない練度なのだ。こんな攻撃なんか対処できるわけがない。

 

「へ? た、たま……? 弾ならあるよ!! だから助け───《コレジャナイ》 イギッ」

 

 

 声と共に今度は何かが私の足元に転がってくる。それが左腕に取り付けていた対空ポンポン砲を左腕ごと引きちぎられた護衛空母オーダシティであることを私はしばらく理解できなかった。

 

 僅かに痙攣していたオーダシティが動かなくなり沈み始めるのにあわせて、英海軍艦艇のいるはずの方向から爆発音が響く。

 

ひとつ、ふたつ、みっつ『キュラソー!こちらダイアデム! 直ちに──《オマエジャナイ》

 

 

 ジョーンズ大佐の声はまた背筋が凍りつくような声によって爆発音と共に途絶えた。

 

 

「全艦全速離脱! 全速離脱! 我に続け! 我に続け!!」

 

 

 私は声のした方向へ再び全力射撃をしながら半分以上沈みかけていたオーダシティの右手を掴み全速離脱を開始する。

 サーチライトを点けて私の現在位置を示すと、濃い霧の中ながら護衛空母ダッシャーと駆逐艦ウェイクフル、ブレイズンが私に続く。

 他の艦娘はどうなったかはわからない。オーダシティも握った手から僅かに脈があるのはわかるが意識はない。

 

 

 《ネェ》

 

 

 咄嗟に声のした方へ主砲を指向する。濃い霧の向こうに緑……いや翠色の髪の……

 

 

 《カエリタイ》

 

 

 ぐちゅりぐちゅりと不快な音をたてながら、ゆっくりとナニカが歩いてくる。でもなぜか撃つことは躊躇われた。

 この濃い霧の中でもこれ程近づけばよくわかった。なぜ私が撃つのを躊躇ったか。だって貴方のその姿は───「ごめんね」

 

 

グチュリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───野蒜訓練鎮守府 山本提督

 

 

 ねむ……ねむい……

 

 

「提督、朝ですって!」

 

 

 う〜ん、イニコ〜あと600分〜

 

 

「ダメですって! 起きてくださいって!」

 

 

 ベットに飛び乗ったイニコが全身を使って私を揺する。こんな極楽なかなかあるまいて。

 ということでちょっとイジワルしようそうしよう、やだ〜イニコ抱っこしておこして〜

 

 

「んもう! 提督は今朝も甘えん坊さん───「不知火です提督おはようございます」Alter!?」

 

 

 ……おはようございます。野蒜訓練鎮守府より山本キャスターが最新の状況をレポートします。

 

 いつも朝起こしに来てくれるイニコにいじわるして極楽を楽しんでいたら、凛々しい顔をした不知火さんにお姫さま抱っこされました。ほわーい?

 

 

「おはようございます。不知火です」

 

 

 うん、わかるよ不知火さん。すっごいキリッとした表情でかっこいいね。でもなんで朝からお姫さま抱っこなのかな? かな? 私まだパジャマなんだけどなぁ。それと視線が完全に私の胸元ガン見してるのわかるからね?

 

 

「提督、ご飯の準備が……不知火さん、何をしてらっしゃるんですか?」

 

 

 中でわちゃわちゃしているのに気がついた三笠さんまで私の部屋にやってきた。朝からモテモテだね私!

 

 

「ほら、不知火さんも提督も朝から変な事してないで執務を始めますよ」

 

 

 そうして私をお姫さま抱っこしたままの不知火さんごと私は執務室へ連れて行かれる。そんな感じで今日も平和な野蒜訓練鎮守府の一日が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、執務室で着替えをすまして寝癖の髪を三笠さんにすいてもらいながら今朝の報告書を読む。

 

 自衛隊情報、海軍情報、東北統合隊情報、在日米軍情報、ヨーロッパ方面情報など、朝のうちに頭に叩き込んでおかないといけない情報は多岐にわたる。

 既に情報のうち重要なものはタブレット内に整理されいつでも読み返せるようになっており、目を通しておく程度のものは紙媒体で机の上に置いてある。

 

 机の上にあるクリアファイルの一つに付箋がついているので、誰かのちょっとしたお願いとか補給要請とかの書類でも入っているんだろう。後で見ておかないとね。

 

 それにしても朝早くからこんなに仕事しもらってありがとね。三笠さんだいすき!

 

 

「ありがとうございます。少しでも提督のご負担が少なくなれば幸いです」

 

 

 むぅ、最近の三笠さん照れてくれない。もうちょっとこう、かわいい反応をですね……?

 

 

「きゃーていとくはずかしいですわー ていとくだいすきー」

 

 

 視線を書類に向けたまま真顔かつ棒読みで言う三笠さん。違うそうじゃない。でもこれはこれで───

 

 

「話は聞かせてもらったわ。三笠ちゃんの『だいしゅき』を言ってもらえる権利は姉の私達だけよ提督!」

 

「提督も三笠の姉に名乗りを上げるのね、覚悟はいいかしら?」

 

「ね、姉様たち!? へ、へへへ変な事言わないでください!!」

 

 

 突然バァン!という大きな音で開かれた扉から完全装備の敷島さんと朝日さんが執務室に突入してきた。

 

 風圧で机にあった先日の硫黄島の戦いの資料が机から落ちてしまった。

 この前はあんなにかっこよく戦ってくれたのになぁーなーんでこんな残念美人なんだろうなぁー

 

 

「……提督がそれを言いますか?」

 

 

 アーアー三笠さん、きーこえなーい

 

 

「まぁいいわ。次の休みの日にお料理対決よ! どちらが三笠のおねぇちゃんにふさわしいか勝負!」

 

「それか提督も私達の妹になりなさい。では」

 

 

 ……謎の捨て台詞と対決フラグを残し、嵐のように二人は消え去っていった。

 ところで屋内で艤装展開されてしまったのでものすごく煤煙で煙いんだけど。あの二人どうしてくれようか。

 

 

「今日は窓を開けてて助かりましたね。ただ───提督の白い提督服に煤をつけた姉を少し叱りつけてきますので離席します。よろしいですね?」

 

 

 あっはい、どうぞ。

 

 

「ありがとうございます。それでは───Pillooooocks!! 待ちなさーーーい!!」

 

 

 ……三笠さん額にお怒りマークをつけて抜刀しながら姉の二人を追いかけて出ていってしまった。やっぱり姉といるとすこし三笠さんも末っ子な感じというか、可愛いところが出てくるものである。

 

 

 さてさて、誰もいなくなって静かになった執務室で改めてタブレットにまだ登録されていなかった『硫黄島防衛戦』についての紙報告書を読む。

 

 うん、有力な敵任務部隊を旧式艦娘の野蒜鎮守府部隊が一方的にボッコボコにしたあげく、損害ほぼゼロで硫黄島防衛に成功したと書いてある。

 

 実際その通りで、しかも任務部隊撃破後に上げていた対潜ヘリ部隊も敵潜水艦撃破1を記録しており、なぜかはよくわからないけど乗り物に乗れるウチの娘たちによる航空・艦艇に乗せることによる機動部隊の初戦は大成功に終わったわけだ。

 

 ここまでが海軍と自衛隊情報。次の紙をめくるとそこからは三笠さんの『噂話』が書き込まれていた。

 なんでも硫黄島に向けて日本側に報告のない米軍の艦娘と艦艇連合部隊がグアムより出港していた『らしい』。

 

 在日米軍の反応もいまいち不明瞭なので『よくわかっていない』そうだ。いやーコワイナー。あんなにぱぱっと一方的に撃滅できてなかったらどうなってたのカナーフーシギーだなー

 

 

 ……冗談はさておき、米国本国艦隊は正直私にとっては信用ならざる味方といったところのようだ。さきほどのグアムからの艦隊も戦艦ワシントンほかハワイ決戦で米国本国艦隊から派遣されそのままグアム配備された艦娘達のようだし、先日の鎮守府強襲を考えると南太平洋にウチの娘を出撃させるのはちょっとためらわれる。

 

 人類側が深海棲艦を押し込んだ途端こんなんである。大丈夫か人類?

 

 

「Hi 失礼しますネー? Hmm...三笠さんがすっごいSpeedで出ていったケド、どうしました?」

 

 

 書類を読んでいると困り顔の浅間さんが入ってきた。扉は三笠さんらしくもなく開けっ放しにしていたようだ。

 

 

 まぁ三笠さんだってそんなこともあるよ。せっかく歩いたり走れるようになったんだし。

 

 

「軍刀片手に走り回るのはイカガなものですけどネー」

 

 

 ま、まぁ三笠さんだって完璧超人なわけではないんだから、あとでちょーっと怒った上で胸揉んでおくから今回はこのぐらいで勘弁してあげましょう。

 浅間さんはどんな御用で?

 

 

「……胸については提督の趣味だから触れないでおくヨ。話は今回はヨーロッパ方面から正式な依頼が来てるみたいネ」

 

 

 浅間さんが海軍の命令書を手渡してくれる。うわぁ、偉い人からの命令書だこれ。見る前から断れないやつだね。さーて、中身は……

 

 

「ただでさえ足の遅い私たちが欧州遠征とかだったらDaftネ」

 

 

 フラグ乙。とりあえず命令書と添付されていた戦闘報告書をさっそく読んでみよう。

 えーっと、なになに~……うん。なんか英国に行く必要があるみたい……ロシア上空の制空権は確保できているから、飛行機で移動できるし長旅にはならなそうだけど。それと……たぶん、いやきっと、今回は私が行かなきゃ行けないんだと思う。

 

 

「Why!? 本当にEurope! ……ソノ顔、何か心当たりでも?」

 

 

 

 報告書を深く読み込む。

 うん、きっと呼んでるんだ。私のことを、呼んでるんだ。

 

 

 

 北海の異常な濃霧と共に現れる翠色の髪をした深海棲艦

 

 襲われた艦艇も艦娘も被害甚大なれど誰一人死者も轟沈もない

 

 襲われた艦娘は艤装の一部をはぎとられている。機関・対空砲・主砲・飛行甲板……

 

 被害者は口をそろえて言う。「カエリタイ」という深海の奥底から響くような聲と「ごめんね」という温かくも悲しみのこもった声がしたと

 

 

 

 だから、きっと私が行かなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───まっててね、鈴谷。

 

 

 

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