───ドイツ連邦ラムシュタイン空軍基地 山本提督
お空の旅でえんやーとっと、はるばるやってまいりました。ドイツですよドイツ!
三笠さん、ドイツですよ! もはやこれは実質新婚旅行だね!
「はいはい、提督はしゃぎすぎですよ。」
「ずいぶんと元気じゃのぅ……」
「とはいえ、艦娘としてこの時代に来てから初めての祖国だ、私も嬉しくてたまらないよ」
「このあと英国には行くんだよな? 行くよな!?」
「紅茶が飲みたいわ……」
只今私たち野蒜鎮守府緊急即応部隊は、空路ロシアとポーランドを越えてドイツに到着です。
今回一緒に来てもらったのは三笠さん、リヴェンジさん、シュレスヴィヒ・ホルシュタインさん、ヘッセンさん、カナダさん。
北海で暴れ回る正体不明の深海棲艦対策の為、訓練艦隊や近海用の艦娘しか居ない欧州に空路で送り込める私達が第一陣として投入された次第。
欧州主力艦隊がインド洋で作戦中の隙を突かれた形だね。野蒜からはそのため欧州艦娘の娘を中心に来てもらった。海自の特殊装備や通常艦艇と艦娘の連携に詳しい人達も相乗りしてきたので、このC-130で来れた第一陣はそのぐらいになってしまったのだ。
私含めて超弩級戦艦2、準弩級戦艦1、前弩級戦艦2と超重量級の編成。ただ、主力が出払ってるとはいえ欧州海軍の艦娘達、特に補助艦艇が今回一緒に行動してくれる。
■スウェーデン海軍(艦娘)
フギン級駆逐艦(対空護衛艦)「フギン」「ムニン」
■ドイツ海軍(艦娘)
ケーニヒスベルク級軽巡洋艦「ケルン」
1934型駆逐艦(Z1型)「リヒャルト・バイツェン」
■ポーランド海軍(艦娘)
ブルザ級駆逐艦「ブルザ」
グロム級駆逐艦「ブリスカヴィカ」
■ノルウェー海軍(艦娘)
スレイプニル級駆逐艦(水雷艇)「スレイプニル」「オーディン」
■ロシア海軍(艦艇)
ウダロイ級駆逐艦『ヴィツェ-アドミラル・クラコフ』
※作戦指揮旗艦
ソヴレメンヌイ級駆逐艦『グレミャーシチイ』『ブールヌイ』
今回参加してくれた各国艦娘達は、能力的には外洋は苦手だし、速度も出ない娘もいる。しかしそういう娘は前弩級戦艦を含む私達とは速度的に連携しやすいし、ポーランド海軍のブリスカヴィカさんは39ノットの快速で、偵察から水雷戦の指揮まで幅広くこなしてくれると思う。
また、先日の鎮守府襲撃の一件で貸しの有ったロシア海軍が艦艇については用立ててくれた。対潜装備を降ろした駆逐艦にしては大型のウダロイ級駆逐艦を旗艦として、野蒜鎮守府の娘達は乗艦する流れだ。
それと突貫工事ではあるものの、艦娘射出用火薬式カタパルトも片舷だけではあるけど設置したとかなんとか。
なお欧州海軍の艦艇は開戦劈頭に大部分がやられてしまい、今は新造艦艇か、ムルマンスクやノルウェーのフィヨルドに居た小型艦艇を残すばかりとのこと。そういう意味では駆逐艦とはいえ大型の船を回してくれたあたり大盤振る舞いである。ヨホドウシロメタインデスネー
「ははは、私もドイツ艦娘のお二人に、同じ欧州の艦娘であるお二人に会えて嬉しいですよ」
今回この空軍基地から作戦の拠点となるドイツの軍港ヴェルヘルムスハーフェンまでご案内してくれるドイツ海軍士官のお兄さんが気さくに話しかけてくる。
しかしなーーーーんか胡散臭い。なーーーーーんか、なーーーーーーーんか胡散臭い。
艦娘としての勘と提督としての勘がビビビッと来てるよ。
「どうした提督、変な顔して」
「いやなーんかね、なーんか」
「ははは飛行機酔いでもされましたかね? では山本提督、早速軍港へ向かいましょう。各国の艦娘達が待っていますよ」
うん、間違いない、この爽やかイケメン感、すーーーーーんごい胡散臭い。渋々と輸送バスに乗り込むけど、なんか後ろで急にモメ────「自衛隊の皆様は別の車両に乗っていただきます」「いや、本官らは山本提督直属の警備分隊だ同乗する」「困ります」「困るとはどう言う意味かな?」「ここはドイツ連邦軍の基地です、指揮系統は別ですが指示には従ってもらおう」「空軍基地で海軍士官がローカルルールとはドイツ人もジョークが言えたのですな」「日本人はルールを守ると聞いていましたがどうやらそうでもない事もあるようで」
ワイワイガヤガヤスッタモンダ
……やっぱり欧州コワイ
───数時間後、ヴィルヘルムスハーフェン某倉庫 艦娘三笠
「さて、お声がけいただきありがとうございます。自己紹介はしていただけるのでしょうか?」
空軍基地からの輸送トラックに乗り込む前、ドイツ海軍士官と自衛隊の警備分隊が同乗に関して揉めていると、空軍基地所属のドイツ空軍士官が仲裁に入ってくれました。
その際その空軍士官からこっそりと手渡されたメモ書きに書かれていたのは日時と場所。なるほど、ロシアがああだったのです。提督を手に入れる事で第一次大戦型艦娘やそれ以前の艦娘が建造可能であれば、欧州各国はそれはもういかなる手を使っても欲しくてたまらないでしょう。
そしてメモ書きを空軍基地で手渡してきた、目の前にいるドイツ空軍士官は苦笑いを崩さない。
「艦娘三笠、もちろんですとも。私も自己紹介のために名刺を出したいのですが、懐に手を入れると向こうの屋根にいるお兄さんたちに頭を吹き飛ばされてしまうかもしれないので」
……目は良いようです。確かに陸自の狙撃兵が警備のために展開しています。
私が手を挙げて合図をした後、それを見た空軍士官はゆっくりと懐から名刺入れを取り出して地面に置くと爪先でこちらへ蹴り渡してきた。
陸上なので薄くしかはれないが艤装を展開し障壁をはって警戒しつつ名刺入れを開く。
名刺に書かれた文字を見て冷や汗が一筋流れる。なるほど、余計今回の件はきな臭さが増してきた、ということでしょうか。
「私の『故郷』は随分と娘想いなのですね。それに心配性とみますが?」
「送り出した『娘』がこんなに立派になって欧州に帰ってきたんです、手土産の一つでも持って顔を見に行きますよ」
「私も今回の一件が終わったら『Furness Abbey』でも見に行こうかと思ってたんですよ。その時は案内よろしくお願いしますね、『ジェームズ・ボンド』さん」
目の前の『ドイツ空軍士官の制服を着た男』がウインクをする。するとキシュッという小さな音にあわせて、倉庫の梁から一人の男が落ちてきた。
「まったくやんちゃな娘です。おかげてこちらも聞かれた以上はコレを始末しないといけなくなりました。面倒なんですよ? 友好国の軍人がこんな所で『事故死』してしまうだなんて」
「いえいえ、こちらだけ警備がバレバレというのもShadyなので」
落ちてきた男の服装はどこかで見た海軍士官の服でした。他人の空似でしょうが偶然はあるものですね。
そして私の『故郷』は目の前の男だけでなく、しっかりとしたメンバーで旅行に来られているようです。頼もしいですね。
「さて、お掃除が終わったので『お節介なおばあさま』からの伝言です。北海に発生している敵深海棲艦の巣に対する強行偵察がまもなく山本提督に下令される。
その強行偵察にあわせてNATO欧州司令部と欧州議会首脳陣を乗せた輸送機がオランダからスウェーデンに飛ぶらしい。
色々と面倒な事になりそうらしいから、ついでに護衛して欲しいとのことだよ」
……ふむ、先程渡された名刺の裏にはその輸送機が予定している空路が大雑把ではあるが描かれている。艦艇を使えるので、非ステルスの輸送機ならこの大雑把な図からでも探知はできるでしょう。
「まったく、山本提督はトラブルに愛されていますね。スウェーデンでの国際会議、無事に終わる事を願って『深海棲艦』から輸送機を護るよう頑張らせていただきますね。艦艇にはしっかりとした迎撃、防空装備の補給をお願いしますよ」
「ははは、迎撃装備か。心配性だなぁ……深海棲艦が『艦対空ミサイル』を使い始めたら人類は終わりだよ」
「ふふっ」
「ハハハ」
二人の笑い声が倉庫に響く───いいでしょう、人類相手だろうと深海棲艦相手だろうと、護ってみせます、山本提督。
───翌日、ヴィルヘルムスハーフェン 山本提督
……なるほど、つまりまた私は狙われているわけだね!
「提督は人気者じゃのう、まーぁ欧州は英国に頼ってばかりじゃーし、提督が手に入れば夢の帝政ドイツ艦隊の復活も、もーしかしたら夢ではなくなるからのーぅ……くぁぁ……」
「フランスやイタリアも、もしかすると『ハプスブルク家』の皆さんも目をギラギラさせてそうですね、あぁヤダヤダ。これだから大陸は」
「私達は確かに祖国に忠誠を誓ってるけれど、今は山本提督の艦娘だよ。欧州艦娘の私達を信じるのは難しいかもしれないけれど、……その分行動で表すよ」
「……何だかよくわからんが、愛されてるな、山本提督」
三笠さんからの報告を聞いた我らが野蒜鎮守府の皆様の反応は以上のとおりでした。
ヘッセンさんはコーヒーを飲みながらリクライニングチェアでうにょーんと伸びて遊んでるし、カナダさんは紅茶を飲みながら凄くしかめっ面。シュレさんは休めの姿勢のまま直立不動で苦笑いしてるし、リヴェンジさんは海図と今の欧州情勢を纏めたタブレットを使いづらそうにしながらにらめっこしている。
三笠さんもタブレットを読みながらウロウロして黙っている。きーまーずーいー
……リヴェンジさん、ここで一つブリティッシュジョークを頼むよ
「いや無茶振りすぎるだろ!?」
うーんダメか。ではヘッセンさん、ここは一つジャーマンジョークでお願いします。
「メロンパン買ってこいなのじゃ。一昨日来やがれなのじゃ」
「こ、こらヘッセン!」
無茶振りしたヘッセンさんはコーヒーをぐびーっと飲み切るとそのまま倒しきったリクライニングチェアで横になってしまった。
休めの姿勢を解いたシュレさんがアワアワしている。なんかごめんなさい。
そんな茶番劇をしていると、立ち止まった三笠さんが深刻そうな顔をしてこちらを見てきた。思考がまとまったらしい。
「……提督、既に在日米軍側や東北統合隊ほかに確認を取りましたが、ほぼ間違いなくこれは政治的策謀です。話はこうです」
かくかくしかじが、まるまるうまうまと。ふむ、
①北海対策会議のため偉い人いっぱい乗せた輸送機がオランダからスウェーデンに向けて飛ぶ
②北海の深海棲艦への強襲偵察に向けて移動中の私達近くを視察を兼ねて飛ぶ
③突然『山本提督』の命令で野蒜鎮守府が輸送機を撃墜する
④鈴谷の一件(深海棲艦化)から山本提督が裏切った! 北海の件も山本提督が仕組んだ! となる
⑤輸送機に乗ってた偉い人が亡くなり指揮権を握った悪いやつに襲われて捕まって私はひたすら艦娘を無限にぽんぽん生み出す生産奴隷にされる
こういうことね、完全に理解した。
この前の鎮守府襲撃の時も思ったけど海外怖すぎ。
「わざわざ私たちの『故郷』の皆さんが『対空ミサイル』について触れてきたあたり、水上艦かしら?」
「いえ、『IDAS』など潜水艦より発射可能な対空ミサイルもあります。足の遅い輸送機ならそれでも十分でしょう」
三笠さんに言われるとカナダさんが早速、我々に攻撃をなすりつける事ができそうな通常兵器のスペック表リストを確認し始める。しかしよくもまぁ主力艦隊が不在なのに仲間割れする気になるなぁ。
北海の深海棲艦根拠地から各国の首都めがけて侵攻してきたらどうするつもりなのやら。
「欧州の首都は海に近かったり大きな河川沿いだから危ないね」
「山本提督とそこから手に入る戦力を考えれば致し方ない被害とでも考えているのでしょうか……私の提督をモノ扱いして…… bastard!!」
「いや怖えぇよ落ち着けよ三笠」
三笠さんが荒ぶっておられる。誰かボスけて。
「なんというか、ほんと大変だな、山本提督」
アホの子枠のリヴェンジさんに哀れまれるとなんか辛い。
ま、まぁとりあえず輸送機さえ撃墜されなければ勝ちと言うことで。幸い欧州艦娘の皆も対空に強い娘居るし、なんなら艦艇の方も対空マシマシだし。
「そして対潜装備がっつりウダロイ級駆逐艦、おっと今は降ろして旗艦装備でしたね。対潜はいったい何処の艦娘がやるのかしら?」
「しかも身内に空母が居ない。欧州艦娘や近隣の航空基地は今回の謀略を考えると航空戦力はむしろ危ないだろうね」
「駆逐の娘共の年式を考えると、対潜はちとキツいのではないかぇ〜?」
うぐぅ、カナダさんのジト目がイイ……じゃなくて、シュレさんやヘッセンさんの指摘は大変ごもっとも。目前の深海棲艦より同じ人類に警戒しながら強行偵察しないといけないだなんて、トホホ。
「まぁなんとかなるじゃろ。提督の悪運は誇ってよいのじゃぞー」
「確かに、幸いボレーニン艦長の息がかかったロシア航空隊がカリーニングラードに展開しています。
フラブロヴォ空港には確か……そうですね、一応対空戦闘も自衛態度には可能な戦闘攻撃機隊が居ますね」
そういう意味では信頼できる航空隊がいるのは不幸中の幸い。
あとは今回一緒に戦ってくれる欧州艦娘を知らないとね……と言うことで三笠さん!!
「おっとと、はい、何でしょう提督?」
急に大きな声で話しかけられた三笠さんが、手に持っていたタブレットを落としそうになり焦っている。かわいい。いいぞこのまま勢いで行こう。
───今回指揮下に入る可愛い娘達の顔写真リストちょうだい!!!
顔真っ赤にした三笠さんにタブレットぶん投げられて腹にクリーンヒットした。痛い。
欧州編スタート!