翌日。
久しぶりに街へとやって来たメルクは、早速ホテルグルメへと向かった。
がやがやと賑やかな街の中を、地図を片手に歩いている。
(ふ~、暑いなあ)
眩しい太陽の日と人々の熱気に当てられて、メルクは少し額に汗をかいていた。
「この後さー、ちょっとタピってかな~い?」
「いいね!ウチも飲みたかった~!」
横を過ぎ行く女の子たちの格好を、メルクは見つめていた。
すらっとした細いズボンや、ひらひらのスカート、水色の可愛いパーカーや、大人っぽい白色の薄手シャツ……
(み、みんなお洒落だなあ。どうしよう、オレ普段の服で来ちゃった。今更ながらすっごい恥ずかしい……)
(ダサく思われてないかな?変に見られてないかな?)
そんな不安が頭の中をぐるぐると巡っていく。
前までは全然、そんなこと気にもしなかったのに。
「小松シェフ~……」
まるで迷子になった子どもみたいな気持ちで、ホテルグルメへとメルクは向かっていた。
……数分後。
なんと彼女は、本当に迷子になってしまった。
「うーん、おかしいなあ。地図ではこの辺りにあるはずなんだけど……」
メルク自身があまり地図を読むよが得意ではないことと、慣れない街に来たという緊張感から、上手く目的地へとたどり着けないでいた。
「はあ、仕方ない。人に尋ねるしかないか」
そう思い、周りに訊けそうな人がいるか見渡した。
「……ん?」
ふと、小さく小柄で、大人しそうな女の子を見つけた。
この子なら、優しく教えてくれそうだ。
「あの、ごめん。ちょっと道を訊きたいんだけど」
メルクがその子に近寄り、話しかける。
「ホテルグルメってレストラン、知ってるかな?」
「……ホテルグルメ、ですか?」
「うん。実はこの辺、オレよく知らないんだ。良かったら道案内をしてほしいんだけど……」
「ええ、良いですよ」
「ありがとう。助かるよ」
「いえ、私もちょうど“ホテルグルメに行くところでした”から」
そう言って、その少女……ののは、にこっと優しそうに笑った。
……ホテルグルメへと向かう二人。
少し前をののが、その後ろをメルクがついていく形で歩いている。
互いに会話はしていないが、実は少し相手のことが気になっていた。
(学生なのかな?この子は。まだだいぶん若そうだ。でもホテルグルメに用があるってなんだろう?高級レストランに食事へ行くようには見えないし、もしかしたら職員の誰かが知り合いで、訪ねに来たとかなのかな?)
メルクはののを見つめながら、そのように推察していた。
また、ののはのので、メルクのことを考えていた。
(背が高くてとってもスタイルが良い。なんだか、スレンダー美人って感じ。ああ、羨ましいなあ……。私、自分が寸胴体型なのがコンプレックスだから、この人みたいな体型憧れる……)
と、それぞれ様々なことを考えながら、ホテルグルメへと到着した。
「こちらです」
「ああ、ありがとう!」
メルクは“ホテルグルメ”の看板を見つめながら、改めてののへ礼を言った。
メルクとののは、二人同時に店内へと進む。
ガヤガヤガヤガヤ……
「すみません、にんにく鳥のチキン南蛮をひとつ」
「かしこまりました」
「あの~、イカマグロの活け作りを追加で注文良いかしら?」
「はい、承りました」
ガヤガヤガヤガヤ……
……レストラン内部は、今まさに大繁盛中。
店員たちがせわしなく働いているのを見て、メルクとののは思わず足が止まった。
明らかに忙しそうにしている店員。ということは、無論小松も忙しいだろう。
であれば、自分の“会いたい”という気持ちだけで、会いに来て良かったのだろうか?という疑問が、彼女たちの頭に再び現れ始めていた。
(私、やっぱり来ちゃ行けなかったかな?で、でもせっかく来たし……)
(うーん、どうしよう。オレ、店が終わるまで待ってようかな?)
彼女たちが逡巡していると、ウェイトレスが声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「「あ、いや違います」」
メルクとののが、咄嗟にそう答える。
「えーと、その……」
「わ、私……」
二人とも、なんとも言えない困った顔をしながら、頬を赤らめていた。
「あ、あの、ウェイトレスさん」
だが、ののが先に言葉を整理したらしく、とうとうこのように告げた。
「小松シェフは、今いらっしゃいますか?」
「!?」
その言葉に、思わずメルクがののへ顔を向けた。
「料理長、ですか?はい、今は調理場で作業をしておりますが……お知り合いの方でしょうか?」
「は、はい。その、知り合いと言えば知り合いですけど……」
もじもじしながら、ののは次の言葉を探していた。
その姿を、メルクはじっと見つめている。
「……………………」
「あの、そちらの方も料理長のお知り合いですか?」
メルクにもウェイトレスが尋ねてきた。
「は、はい。そうです。私も小松シェフに会いに来ました」
「!?」
今度は、ののが驚いていた。
「うーんと、すみません。このレストランは何時に閉店しますか?」
メルクがウェイトレスへ尋ねる。
「午後3時に、一度お昼の部を終了いたします。その後、午後六時より夜の部を開始いたします」
「じゃあ午後3時過ぎなら、小松シェフはお暇ということですね?」
「はい」
「わかりました。また改めて伺います」
メルクはそう言うと、出入り口に向かって歩き始めた。
その瞬間、ちらりと横目でののを見ていった。
「……あの、私も後程、また来ます」
ののもそう言って、メルク同様にレストランから出ていった。
「「………………」」
ホテルグルメの外で、二人の女性が見つめあっていた。
互いに何も言わない。
だがその頭の中は、相手のことを測ろうと必死に動いていた。
(知り合い、か。小松シェフの妹さんとかかな?でも、それなら初めから“妹です”とか名乗るよね?“知り合いと言えば知り合い”というような言い方はしないはず)
メルクはののを分析し。
(……小松シェフのお友だち、とはちょっと雰囲気が少し違う気がする。お友だちの職場に訪ねてきたにしては、なんだか照れ臭そう。まるで“旦那さんの職場へ初めて来た奥さん”みたいな……)
ののもメルクを観察していた。
「「……………………」」
両者、動く気配がなかった。
「…………ふう」
だがとうとう数分後、痺れを切らしたメルクが、ののへ次のような提案をした。
「……君も、小松シェフに用事があるんだね?」
「はい、そうです」
「なら、午後3時になるまで、一緒にどこかで時間を潰さないか?“聴いてみたいこと”もあるし」
「……わかりました。私もあなたと、“お話したい”と思っていたところです」
二人とも、互いの顔を見つめながら笑いあう。
だが、その眼は少しも笑っていない。
(……直感だけど、この子はオレの)
(……たぶん、この人は私の)
((ライバルだ))
……同じ者に想いを抱く二人。
それ故に彼女たちは、今ここで相間見えることとなったのだ。