悠久の機甲歩兵・・・もしも、序盤からもう1人パイロットがいたら・・・ 作:てとるマン
さて…俺たちは二つの問題を抱えていた。
先ず一つは今回の依頼の内容であるミクスチャと呼ばれる化物の討伐だ。
なんでもこのミクスチャは現在の国家を壊滅させるぐらい恐しい存在で、過去に小国が一つミクスチャに滅ぼされたらしい。
それに最近では、今俺達が向かっているユライア王国でも割れて増える者と呼ばれたミスクチャが出たらしい。その際はテイムドメイルという…オートパイロットのマキナを扱って何とか相討ちのような形で討伐したようだが、太古の技術がない現在では直す事が出来ずにいるとシューニャから聞かされた。
その説明をシューニャが終えた時、問題の一つを我らが骸骨が指摘したのである。
「今回の依頼よぉ…シューニャたちを巻き込んでまでやることなのかぁ?」
俺はそのセリフの意味を理解するのに少し時間を要したがダマルが何を言いたいかに気づいた。
俺達はまだ出会ってから、一週間ちょっとしか経っていない即席部隊である…要するに信頼関係の構築が出来ていないコミュニティなのだ。今回の依頼の内容的に俺達だけが討伐に行き、シューニャ達は何処かの街で待機してもらおうと恭一は考えていたようだが、それでもし俺達が帰っこなかったら?これが信頼のある相手ならともかくそれ以外なら前金を持ち逃げしたとも捉えるだろう。だからこそ考える骨は言うのだ、相手の気持ちになって考えろと。
まあ、俺も人の事を言えるような考えはないので、特に恭一に言うことは無いし、寧ろ俺は恭一の似た事を考えたいので今後の教訓にしようと思う。
まぁ、俺がお前の立場に居ても、同じ選択をしただろうよ、とフォローもする辺りやっぱりこの骨は出来た人間だなと思う…骨だけど。
そんなダマルの考えを聞いた後にシューニャは俺達を信じてみたいと助けてくれた事に恩を感じてると言ってくれた…そして、ミクスチャを相手に勝算はあるのかと。
その信用答えようと何やら吹っ切れた恭一は言葉を紡ぐ。
「勝算はある。それも五分じゃきかない。情報収集が主目的、可能ならば撃破するという条件なら、九分は勝ってみせるさ」
そう恭一は言って、朗らかに笑って見せる。
そんな恭一の言葉と表情を正面からまともに受けたシューニャはしばらくポカンとしていたが少しだけ頬を赤くしたかと思うさっと視線恭一から逸らす。
…これが天然のたらしってやつかよ。データの中で見た小説とか漫画の中だけの話だと思ってたんだがなぁ。
ダマルは膝を叩きながらカッカッカと笑いつつ恭一に対してその勝算の理由を説明してやりなと言う。
その後、2時間程掛けて説明が終了した…え?長すぎるって?しょうがないだろう。
機械高度文明を知らない人間にマキナの性能だったり、800年前の人間が生きているという事実を説明しようとする事がどれだけ難しい事か…まあ、俺は偶に助言する程度で、殆ど恭一が説明を頑張ってしたのだが。
何はともあれシューニャ達が納得したので、問題の一つは解決した。
そして二つ目の問題というのが、この前捕虜にした彼女…アポロニアというキメラリアの兵士の扱いである。俺と恭一が掃除をしている時に、彼女が目を覚ましたので軽く自己紹介と俺達を追跡した目的やら何やらを聞いた後、取り敢えず、俺達や玉匣の事を口外したり、逃走する様な事をしない限りは無碍に扱ったりはしないという事にはなっていたのだがいつの間にか、彼女が恭一の事をご主人と呼び始めた。俺は無言で大岩の裏側に呼び出し、恭一を問い詰めてみたが本人も良く知らないと言う。成果は得られなかったがデータの中にあった校舎裏に呼び出すみたいなシチュエーションを体験出来たので満足である。
…話を戻そう。
どうやら彼女と何らかの話をした恭一の事を信用する事にしたらしく、アポロニアが隠し持っていた地図…正確にはこの辺の地形図を情報提供という形で持ち出した。
シューニャが彼女の様な斥候兵はこの世界では国家間の重要軍事機密にあたる、正確な地形図を持っているとは思えないと言っていたが。
アポロニア曰く、昨日お帰りしてもらった小悪党は思ったよりも立場が偉く。
それに実力主義で通していた為、斥候兵として優秀だったアポロニアは重宝され、貴重な地形図も渡されていたのだとか。
俺も覗いて見た所、等高線やら正確な縮尺はされてないようだが軍事作戦で使うには支障が無いレベルの地形図であった。
「百兵長から貰った複写の地形図ッス。これは差し上げるんで、自分を信用してもらえないッスか?帝国軍に戻る気も、ここで見聞きしたことをばら撒く気も無いッスから、ご主人の下働きにでもさせてほしいッス」
「それは……うーん」
恭一は頭を悩ませている。確かにこの地形図は今回の討伐に行く予定の場所描かれているのであればありがたい。
だからといって、昨日襲ってきた部隊の一人を簡単に信用していいものかと俺は思う。だが、彼女は重要軍事機密を渡してきたということは帝国軍に戻る気はなく、俺達の信用を勝ち取りたいという思いなんだろう。
その後恭一は、取り敢えず地形図は受け取るがそれだけだ、信用はまだ無理なのでこれからの行動で示してくれてとアポロニアに伝えた。
俺としては正直、ここで消す判断をしても仕方がないと思っていたが、恭一の言葉に少し安堵した気もし、何とか二つ目の問題も俺達は解決した。
そして俺達は現在、依頼された現地に向かう為に玉匣に乗って移動していた。
ダマルが運転をし、恭一達は地形図を眺めながら現在地を確認している。
地形図を眺めてるのを飽きた俺は玉匣に後部ドアの近くにあるグラップラー付きのワイヤーの強度確認をしていたのだが…
「うぎゃ!?」
「うぉっ!?」
「う゛ニ゛っッ!?」
突然、玉匣が急制動した。俺は咄嗟にワイヤーの巻き取り装置にしがみ付いた為、倒れる事は無かったが、地形図を眺めていた面々は揉みくちゃになって倒れていた。
シューニャは恭一が受け止めていた為、無事だった様だがアポロニアは壁に激突したようで伸びていた。
「おにーさん……い、痛い。あと重くて苦しい」
「す、すまない!大丈夫か!?」
ファティマにのしかかっていたのに気づいた恭一が慌てて床を転がった様だがファティマも特に怪我をしてない様だった。
その背後では正面から壁に貼りついたアポロニアの姿が見て取れた。あまりに珍妙な恰好で突っ込んでいる…あれは大丈夫なのだろうか?
「き、キョウイチ…そろそろ放してほしい」
「あ、あぁ、ゴメン。大丈夫かい?」
恭一はシューニャを放すと。密着していたのが暑かったのか、それとも気恥ずかしさからか、彼女の頬は僅かに赤みを帯びている。
はぁ…リア充爆発しないかな…といけないいけない、早く事態を把握しないと。
「ダマル、報告!」
俺が馬鹿な事を考えている間に恭一が運転席に座るダマルを覗き込んでいるのだが、骨は固まっていて微動だにしない。急制動をするくらいのショックがあったのは間違いないらしく、ダマルはカタと小さく体を揺らすと、恭一と俺の方に振り返り何とか言葉を絞り出す。
「カバは……ヤベェだろ」
「カバ?一体なんのことだい?」
カタカタと震える手でダマルはモニターを指し示しているので、俺も気になりモニターを覗いて見たのだが、実の所俺はカバを見た事がない。
名前や人間と同じ哺乳類である事しか知らないがモニターに映っていたのがダマル達の常識のカバとは違うのだと理解した。何故かって?何故ならそのカバはどう見ても玉匣よりも巨大であったからである。
そんな巨大でやけに大きく立派な牙を持った何かが玉匣が行く道の中央に、その巨体をどっしりと沈めてこちらを眺めていた。
「カバ、だね」
「どうするんだよ……避けたら通らせてくれるかアイツ」
「…大きいが温厚だったらいいなぁ」
普通なら避けたりすればいいのだが生憎立地が悪く、谷間を走っている道の半ばにその巨大カバモドキは鎮座している。相対距離にしてざっと100メートルくらい。左右の隙間から玉匣が通過することは無理ではなさそうだが、どう考えてもあのカバを刺激しそうな気がする。
普通の野生動物なら、車などが近づいてきたら恐れて逃げるだろう。だがあれだけ大きいと逆に俺達に襲い掛かってくる危険性が高い。
「シューニャに生態でも聞いてみようか」
恭一が頼れるシューニャ先生に意見を聞こうと提案してくるがダマルが首を横に振る。
「そんな暇、ねぇらしいわ」
「「へ?」」
俺はダマルが何を言っているのか分からなかったので、もう一度モニターを眺めてみると、ダマルが何故そんな事を言ったのが分かった。
いつの間にか立ち上がっていた巨体は体ごとこちらを向き、丸太のように太い前足で数度地面をガリガリと引っ掻いている。ああ、あれは知ってるなぁ、確か闘牛が突進する前にする予備動作だったようなぁ…
俺がそんな悠長な事を考えているとその巨体とは到底思えない速度でこちらに向かって突進してくる。巨大カバモドキは、何が気に入らなかったのか雄たけびを上げながらこちらへと突っ込んできたのだ。
咄嗟にダマルがバックギアを入れ、アクセルを全力で踏み込む。
「こ、後退後退後退!!ダマル急げ!」
「馬っ鹿野郎!やってるっつーの!」
「あんなにのしかかられたら玉匣がペチャンコだぞ!!」
今までにない急加速だが、俺達はシャルトルズの設計者を恨んだ。何故装輪装甲車としなかったのか、と。
いくら速いとはいえキャタピラ駆動では限界がある。しかも舗装された道ではないオフロード走行では余計にスピードが出ない。しかもカバもどきは今の玉匣の最高速度より少し早いときた。
僅かずつ詰まる巨大カバモドキとの距離。うねる渓谷の道を、バックモニターだけを頼りに全力で駆け抜ける玉匣は、空から見れば見事な運転だったに違いない。
「総員警戒態勢!座席についてシートベルトを着用するんだ!」
「な、なんですかぁ?」
「いいから早くしてくれ!」
恭一が叫びながらファティマとアポロニアを着席させてシートベルトで固定していく。
「シューニャ!」
いつの間にか砲塔に上っていた少女に怒声を投げる。
しかし、返ってきたのはあまりにも嬉しくない冷静な報告だった。
「あれがブラッド・バイト」
「なん……嘘だろ」
「お、おい恭一…ブラット・バイトって何だ?」
「…この付近で大量発生している生物らしい」
俺はマジかよと言いながら悪態をつく。あんなのが大量発生してるとかヤバすぎるだろこの世界…
「ダマル!進路そのまま、砲戦用意!」
「げぇっ!?あれと戦う気かよ!野生動物でもいっちばんヤベェ奴なんだぞ!」
「四の五の言うんじゃない!これも戦力評価だ!」
「恭一!念のため着装しておいた方がいいか?」
最悪の場合チェーンガンも通用しない可能性がある為、俺は恭一に確認をする。
「ああ!頼む!!」
恭一はそう言うと砲手席に滑り込む、俺は黒鋼に乗り込みシステムを起動する。
「はぁ、こんな事になるとはねぇ」
俺は誰にも聞こえない愚痴を言いながら黒鋼の起動を終える。その間に恭一は発煙弾を発射していた様だが効果はなかった様である。
『発煙弾効果認められず!』
『動物って考えるのが馬鹿みてぇに思えてきたぜ!』
ダマルの言う通り、どう考えても動物としての範囲を超えた怪物の様な存在である。
恭一はどうやら自動迎撃システムを起動し、それに連動した機関銃で攻撃を始めたようだが無線から聞こえる声から成果は余り芳しくないようである。
『……あれって装甲目標だったりするのかい?』
『カバの頭が傾斜装甲になってるなんて聞いたことねぇけどなぁ』
ああ、これはいよいよ不味いかも知れないな。
『恭一!ダマル!今から後部ハッチを開けてそこから狙撃態勢に入る!』
俺はそう言うと後部ハッチに向かいながら立て掛けてあった狙撃銃をひったくりグラップラー付きのワイヤーを黒鋼に固定をして、蹴破るようにハッチを開け半身を外に出しながら狙撃銃を構える。
俺がブラットバイトの眉間を捉え、何時でも発射出来る様に待機していると無線機からシューニャの声が聞こえてきた。
『口の中』
どうやら恭一のいる砲手席から喋っているらしくその声が俺にも聞こえていた。
『だが、機関銃の発射と同時にアイツは口を閉じたぞ?』
『それは本能。自分の弱点を知っているから。でも、攻撃の時には必ず口を開く。口の中に火矢を射かけるのは常套手段』
無謀ともいえる戦術で、人はこれを駆除してきた。と彼女は言った。
いや、確かに俺達より昔の人間は石槍と石斧だけでマンモスを討伐してたらしいがこの世界の人間達も負けてないなと俺は感心した。
『分かった!!ゼロ、聞こえてるかい!? カウント3で焼夷榴弾を奴の口に叩き込む!!ゼロも同時に撃ってくれ!!」
『了解』
俺は恭一の声に短く反応しながら息を整える。
『距離残り10!恭一かゼロ!どっちでもいいから早く撃て!飛び込まれたら、横転させられちまうかも知れねぇんだぞ!』
『カウント、3!!」
ブラットバイトが真っ赤な大口を開ける。
『2!!』
距離が後5メートルまで迫る。
『1!!』
俺はブラットバイトの大口越しに頭があるであろう部分を狙う。
『撃て‼︎!」
俺と恭一が同時に射撃し発砲音と共にブラッド・バイトから雄たけびが上がる。俺は射撃の反動で一瞬仰け反るが、直ぐに態勢を立て直し目標を確認した。
放たれた焼夷榴弾は、柔らかい口の中の粘膜を切り裂いて体内へ侵入したようでブラットバイト大口は炎に包まれ全身が焼けようとしており、どうやら俺が放った徹甲弾は頭を撃ち抜いたらしくブラットバイトは前のめりに倒れながら地面に突っ込み、動かなくなった。
『……目標、沈黙。あ、危なかった』
はぁ、と俺は今日二度目のため息を吐きながら脱力した。取り敢えずグラップラーは取り外し、戦果を確認する事にした。
2日、3日には間に合わせる