悠久の機甲歩兵・・・もしも、序盤からもう1人パイロットがいたら・・・ 作:てとるマン
はぁ…いい天気だなぁ。空は青空、地面見渡す限り荒野、ドライブなんかに持ってこいだな…ダマルの隣に目を血走らせた恭一がいなかったらな…
俺達はあの後、シューニャ達にマキナの武装について説明をしていたのだが、突然ブラット・バイトが4匹程襲ってきたのだ。
だがそれも恭一が持っていた俺の愛用している対マキナ用の狙撃銃で撃退したので特に何も起きなかったが、問題は恭一にファティマが放った一言である。
「……おにーさん、ちょっとにおいますよ?」
この一言にまるで雷に打たれたかなように恭一はよろめき、シューニャ、アポロニアと順に自身の臭いついて聞いたのだが答えはファティマと変わらなかった。俺も反射で自分の臭いを嗅いでみたがすぐ横から「ゼロさんはあまりにおいがしませんね」と鼻をスンスンさせながらファティマが言う。
まぁ、俺の事は置いといて、そんな訳で恭一はよろめきながらダマルがいる運転席まで行くと大声でダマルに言う。
「ダマル!風呂だ!風呂を探そう!」
「ぁあ?あんだよ急に――」
「僕はねぇ……800引くことの27歳だと思っているんだ。まだ加齢臭とか言われたくないお年頃なんだよ……」
…加齢臭ねぇ、年齢や見た目からして青年って言ってもいい歳なのに何言ってんだがと思っていたが、恭一の言葉とオーラから尋常じゃない程の覇気が伝わってきて俺も骨も何も言い返せないでいた。
そっと恭一がダマルの左肩に手を置き、手に力がこもり出してダマルは僅かに震え出していた。
「これは緊急の問題だよダマル中尉!大尉の上位権限を持って命じる、直ちに周囲で入浴が可能な安全地帯を確保せよ!」
「りょ……了解であります!」
「それからゼロ!君は砲塔からモニターとレーダーを使って周囲を細く探索し、入浴が可能な安全地帯を見つけ次第報告せよ!」
「…了解、大尉殿」
…因みに俺達が軍属だった頃、恭一は大尉、ダマルは中尉、俺は分からないが最高で少尉だったかもらしい。
そんな訳でこの中で一番階級の高い、恭一が命令をすれば俺とダマルに逆らう余地はない…前に俺達がいた企業連合はもうないから階級は関係ないって、恭一が言っていた気がするが今それを言うのは藪蛇だろうなぁ。
とそんな経緯で俺は今、砲塔からモニターやレーダーを使い水源を探しているのだが出来れば水源ではなく、温泉が湧き出ていたらいいなと俺は思った。
何故なら昔の軍人達はガソリンエンジンを使い、その排熱を利用してお湯を沸かし風呂に入っていたが、今俺達の手元にあるのは玉匣のエーテル機関のエンジンだけである。
エーテル機関とは言ってしまえば、半永久に使えるエンジンだ。過剰な負荷で連続使用したら止まってしまうが時間をおけば大気中に広がるエーテルという物質が供給され、また動かせるようになるという物である。余談だがそのエーテル機関はマキナにも搭載されており、これのおかげで俺達がいた文明が滅びた後もリビングメイルとしてこの世界で稼働し続けている機体が残っているのである。
話が逸れたので戻すが、玉匣が積んでいるエーテル機関だと排熱での給湯能力が低く、人が入れる程の湯が沸かせないという理由で温泉があればなぁと俺は思う…期待した所でそう簡単に見つかるとは思えないが。
俺がモニターやレーダーを使って水源を探している中、アポロニアが恭一にフォローしているようでしてない発言をし、恭一は更に死んだ目になっていく。
俺はどうしたものかと考えているとモニターに映る前方の地平線の辺りに何か煙の様なものが見えたので拡大して見てみた。
「…マジかよ、普通こんな早く見つかるか?」
『ゼロ?何か見つけたのかい?』
「あぁ、まだ距離はあるが多分お前の求める場所だよ』
◼︎
その後、温泉が湧き出ているのを確認したので先ずは俺と恭一とダマルが入る事になった。その際に温泉が酸性の強いかもと誰かがいい、それをを確かめる為に骨を犠牲にして恭一達が調べようとしていたので俺が「別に布を浸せば済む話じゃないか?」と言ったらシューニャ以外が確かにそうだなみたいな雰囲気で納得していた。
「ふぅ〜久々の風呂は気持ちよかったぜ」
「思ったよりも温泉が早く見つかって助かったよ…」
ダマルが真っ白な頭をタオルで拭きながら、恭一は自分の臭いが落ちて安堵している様だった。俺はというと記憶を無くしてから初めて風呂に入ったのだが毎日入りたくなるぐらいには気持ち良く、恭一が必死になったのも少し分かった気がした。今は女性陣が入っている為、念のため砲手席からレーダーで監視をしている…モニターを使わないのかって?俺は紳士なのと変な疑いを持たれたくないのでモニターは使わない。
取り敢えず暇な俺は懐からウォークマンを取り出して曲をかけたのだが、何故か音楽が再生されなかった。あれ?と思い、俺はウォークマンの画面を覗くとそこには何故がパスワードを入力して下さいと表示されていた。
ウォークマンに何でパスワードなんか入れるんだよと俺は思いながら、適当に入れてみようかなと考えているとレーダーから警報が鳴り出した。
「…恭一、未確認の生物の大群をレーダーで捕捉。指示を請う」
『此方も確認した、取り敢えず警戒体制に加えて玉匣のスピーカーでシューニャ達にも状況を伝え次第動こう』
◼︎
ちょうど玉匣の後方に、派手な土煙が立ち上がっている。
車上で狙撃銃を構えた俺とその隣で恭一が双眼鏡でレーダーが捉えた目標であろうそれらを指向していた。
『鹿……か?』
『鹿…だな』
長距離スコープに刻まれた十字レティクルには、何かから逃げているあのアンヴとかいう軍獣が映り込んでいる。額に大きな角が1本生えていることから、多分間違いないだろうと思う。
『シューニャ、見えるかい』
「多分、野生のアンヴ」
大型の双眼鏡を覗きこむシューニャは、そう言って先頭を走る個体を指した。
にしても早いな。あれはただ移動しているというよりは命の危険でも迫っているかというぐらいどの個体もすさまじい速度で走っている。ただあのアンヴが数頭では起こせないような砂埃が起きているが。
「おっかしいッスね」
運転席側のハッチから頭を出したアポロニアも疑問の声を上げる。踏み台にされているのか、通信機越しには骨のうめき声も響いていた。
その手にはダマルが個人的に使っていたらしい単眼鏡が握られている。
「群れごと同じ方向にアンヴが走るなんて、連中散り散りに逃げて敵を撒くのがうまいのに」
『……ただ混乱しただけじゃないのか?』
「ですかねぇ?」
『それか群れが離散する余裕が無いとか』
そこまではわからないと、犬娘は首を振った。
まぁ、野生動物の気持ちを理解する事は難しいのでこの際どうでもいいのだ。問題はアンヴの群れの後方である。
『レーダー反応増加だ。今までのデータと照合したら、ブラッド・バイトっぽいんだが、数がヤベェ』
玉匣の持つリアルタイムのレーダー画像が転送されてくる。
背筋から寒気が走るとはこの事かと思う。
『これは……大発生も嘘じゃないねぇ』
『はぁ、B級映画顔負けの演出だな』
俺は見たこともないが取り敢えず驚きを通り越して呆れるような光景だった。何故なら敵味方識別不能を示す白の光点でわかるのだがその光点が画面全体を塗りつぶす勢いで、今もなおその面積を広げていた。
まるで蝗害が発生しているかのような状況だ。ブラッド・バイトが地面を埋め尽くしているのだろう。よくまぁ、この世界の人類は絶滅しないなと俺は思う。
『サーモバリック爆弾でも落としてやりてぇぞ』
『僕も近接航空支援を要請したいさ』
俺は取り敢えず逃げたいなぁと思う。それに今尚増加中のブラット・バイトの群れの規模が未だに把握できず、しかもこのまま広がり続けたら俺達が今いるこの場所も飲まれるかもしれないと感じた。
恭一もそう思っていたようで既にダマルに指示をし、玉匣は進路を西にとって全力での走行を開始した。正直群れをやり過ごせるかはどっこいどっこいだろうが最悪、強硬突破すれば問題は無いだろう。
全速力を指示されるエーテル機関が唸りを上げ、その履帯が地面を抉りながら車体を驀進させた。
その後俺達はブラット・バイト生態についてシューニャから仮説混じりの解説を聞いていたのだがその解説を遮る形でダマルが叫ぶ。
『レーダー上に新たな反応だ!あの巨大カバにしちゃ小さいぞ?』
レーダーの察知限界付近、ブラッド・バイトの群れの後端部に、それは映り込んだ。
俺は取り敢えず、スコープで確認してみると何かよく分からないものが走っていたのだがこの状況はまるで…
『群れを追っているのか……?シューニャ、ブラッド・バイトには天敵が居たりするのかい?』
「ない。幼獣を攻撃する生物は居ても、成獣を攻撃できるようなとなると、極端に限られる上にそれらはこの地域に居ない。それに、あんな群れを襲うような生物なんて居るわけ……」
ない、と言いかけて、シューニャは言葉を切った。一瞬の間を置いて、慌てた様子で恭一の方に向き直る。
「何が、見えたの?」
何かに気づいたらしいシューニャが震え声で恭一に尋ねている。
恭一はそんなシューニャを心配するそぶりをするが情報が大事だと判断したようだ。
『ブラッド・バイトの群れの後方に、明らかに小型の別生物の群れが確認された。人間より少し小さいくらいだと思うけど』
「それは……明らかにブラッド・バイトが逃げていると?」
『俺から見てもそう思うぜ。ブラット・バイトどもも必死こいてあのよく分からん奴から逃げてるように見える…シューニャ?』
双眼鏡を持っていた手が離れ、それが首からぶら下がる。瞳が揺れ、その口がきつく結ばれていた。
最悪の事態だと、何故予想できなかったと彼女は小さく呟いた。
『説明してくれ、何があるんだい』
シューニャの怯え方が尋常じゃ無いと察した恭一はシューニャの両肩を掴みどうにか説明させようとしているが俺にはなんとなく察しが付いていた。
なんでかって?俺にもよく分からんが何故かその答えにしか俺の頭は行きつかなかったからである。
やがてシューニャの震える唇が言葉を紡ぎ出した。
「……群体ミクスチャ」
次回!!ミクスチャ編!!期待してくれよな!!(上手く書けたらいいなぁ)