悠久の機甲歩兵・・・もしも、序盤からもう1人パイロットがいたら・・・   作:てとるマン

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 1000UA突破です。趣味で始めたので最初のうちは特に気にしていなかったのですが、自分の書いた話を見てくれている人がいるって分かると楽しいですね。このままの調子で頑張りたいです。
 さて、本当ならこの回にゼロの容姿やらなんやら掘り下げようかと思ったのですが、そうすると長くなりそうだったので次回に移行します…今回の話、上手く書けたかは少々不安なてとるマンです。


テイムドメイル

◼︎

 

徹甲榴弾に抉り返された地面を均し、刃に倒れた者から吹き飛んで肉塊になっている者まで一様に回収して焼いていく作業が行われている。

 コレクタユニオンの衛兵たち監視の下で帝国軍敗残兵も武装解除の上で投入され、大天幕の復旧作業まで同時並行で進んでいた。

 それを横目にババア…恐らく恭一達が言っていたグランマというコレクタユニオンの支配人と思われる人物が一人の女性を従えながら俺達の前に立つと、手に持って煙管を吸い、溜息をつくかのように紫煙を吐いた。

 

「連中が速かったこととお前たちが遅かったこと、さてこれはどっちを責めるべきだい?」

 

「僕としては今晩にも到着すると予想されたグランマも含んでいただきたいところですが」

 

「痛いところを突くじゃないか。それじゃあアンタたちに責任も問えないねぇ、全部ゲーブルに着てもらうかい」

 

 

 ゲーブルという奴は知らないが取り敢えずご愁傷様とだけ思っておこう…うん。俺がまたどうでもいい事を考えているとババアが俺と…正確には黒鋼と玉匣を交互に見返しているのに気付いた。どうやら相当に興味があるなと察した。

 

「こいつは獣の力も借りないで走れるのかい?」

 

「ええ。失われた神秘の技術ロストテクノロジーというやつですよ」

 

「ふん……これじゃ矢も槍も通らんというわけだ。その上には人間をひき肉にしちまえる飛び道具まで備えてるときた。真っ向から戦って勝てる相手は少ないだろうね」

 

 

 チェーンガンの砲身を見上げて目を細め、やがてグランマは踵を返した。

 

 

「ま、それよりも本当にテイマーとはねぇ…キメラリア・キムンを倒せる程強い癖にテイムドメイルを従えているたぁ、油断も隙もありゃしないね」

 

 

 ババアはそう言いながら俺にゆっくりと近づいてくる。隣で待機していた女性は慌てて「危ないです!グランマ!」と静止を求めるが全く従わず、俺の目の前に立つとニヤニヤした顔つきのまま口を開く。

 

 

「アマミ達から聞いてるかもしれないが一応は名乗ろうかねぇ。あたしゃこのコレクタユニオン、ロックピラー支部の支配人、ボルドゥ・グランマ・リロイストンだよ、周りの連中にはグランマと呼ばせているよ」

 

 

突然名乗り出したババア…グランマはさあ、あたしが名乗ったんだからアンタも名乗りなという視線を送ってくる。

 普通に名乗ってもいいんだが、先程グランマが言っていたセリフからもしかたらある程度、情報が筒抜けなのかも知れない…だが、何処まで把握しているかは分からない。

 なので俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『お初にお目にかかります、グランマ。私は天海恭一のテイムドメイル、ゼロと言います。よろしくお願いします』

 

 

 俺がそう答えるとグランマは目を丸くし、側にいた女性を含めた周りにの人間はおっかなびっくりしている雰囲気になっていた。

 

 

「いやはや…事前に知っていたとはいえ、本当に喋るとはねぇ…ヘンメは黒と青を見間違えたってことかい?」

 

 

 周りに聞き取れない小さな声でグランマは呟くが側にいた俺には良く聞こえていた。ヘンメ…聞き覚えがないな…後でシューニャに確認してみるべきかな?

 ま、それはさておき、そもそもなんで俺がテイムドメイルと名乗ったかというと、この世界の人間はマキナが人が乗って運用する事は知らない。そんな状況で自分はマキナに乗り込んだ人間です、など言ったらどうなるだろうか?

 間違いなくその使い方を知る為にいろんな奴らに狙われるだろう。考え過ぎかも知れないが、目の前の相手から不穏な雰囲気しか感じず、自分の欲しい物はなんでも手に入れようとしてくる気がした。

 

 ふと、俺は恭一の方見てみると、そんな話聞いてないぞ、という視線を感じたのでグランマから見えないように片手を後ろに回し、話を合わせてくれとハンドサインを送る。

 

 

「唐突な話だが…お前さん、あたしのテイムドにならないかい?」

 

『…それは一体どういう事でしょうか?』

 

 俺はとぼけた様に言うとグランマはまた煙管を吸い、ふっーと紫煙を吐きながら俺に言う。

 

 

「言葉通り意味さね、アマミがどうやってお前さんを手懐けたかは知らないがお前さんが欲しい物をなんでも用意するし、立場だって保証してやろう。どうだい?悪い話じゃないだろ」

 

 

 答えは勿論決まっているのだが少し考えた素振りしながら返答をする。

 

 

『申し訳ございませんグランマ、私は恭一のテイムドです。ですので譲渡に関する権利は私の一存では判断出来ません』

 

「そうかい、アマミ。お前さんはどうなんだい?もし、このテイムド渡してくれるていうなら今回の討伐の報酬の3倍…いや4倍を用意しようじゃないかい」

 

 

 グランマが俺から恭一に向きながら問いかけるが直ぐに恭一は言葉を返す。

 

 

「申し訳ないのですが、お金をいくら積まれようと渡せる物ではありません。ですのでお断りさせて頂きます」

 

 

 恭一がそう言うとグランマは今までの老獪な雰囲気から少し警戒が解けた雰囲気で笑い出した。

 

 

「ミクスチャを殺せる男というだけなら、お前たちを手駒にするつもりだったが……つけられる首輪のネタがなくなっちまったよ」

 

 

 うわぁ…怖このババア。前に見たなんか企んでそうな顔を見た時から嫌な予感はしてたんだが自分からそれを口に出すなんて予想外すぎる。

 もう、こっちに手札はないからネタバラシといったところだろうか?油断するのは不味いとは思うが。

 

 

「首輪と、言いますと?」

 

「この小娘を人質にしてやろうかと思っていたのさ」

 

 

 そう言うと先程からグランマの隣立っていた女性の尻を思いっきり叩き周りに中々にいい炸裂音が響く。

 ぴぃと何だそれ見たいな声を出しながらその女性は涙目でグランマを睨む…が、グランマは表情は相変わらず不気味な笑顔のままである。

 俺は恭一達がバックサイドサークルでどんな人達と触れ合ったかは知らないがそこまで深い関係になったという人物はいなかったと聞いていた、が当の本人たる恭一も困った顔をしていた。

 

 

「そう素直に顔に出すもんじゃないよ。乙女心に傷でもついたらどうするんだい?」

 

 グランマが指摘し、しまったなぁと顔をする恭一…多分そういうところだぞとは俺はいわない紳士だからね…紳士って何だっけ?まぁ、女性の方も事情が呑み込めてないらしくキョトンとしている。

 

 

「頭は切れるくせに察しの悪い男だねお前は。この田舎娘をお前に嫁入りさせてやろうと思っていたってだけさ。ちょっとドンくさいし尻もデカいが、器量だけはいいからね」

 

 静寂が流れた。

 

 空気が凍ると正にこの事だろう。いや、うん多分みんな頭の処理能力がキャパオーバーしたんでしょうね、俺もそうだもん。まぁ、いきなり嫁入り話を始められた女性が一番混乱しているようだったが。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっとグランマ!急に何を言い出すんですか!?あとお尻はそこまで大きくないです!」

 

「おや?多少は気があると思っていたが、そうでもないのかいマティ・マーシュ?」

 

「そういう問題じゃありません!」

 

 

 先程からグランマと言い合っている女性…マティというらしい。そういえばシューニャがコレクタユニオンの受付の人がマティとか言ってたなと俺は楽観的に考えていたが、恭一は頭が痛いのか手で額を抑えながらグランマに改めて聞く。

 

 

「あー……つまり、僕に無理矢理家族を作ってそれを人質にしようと?」

 

「単純だが効果的な手だろう? 年齢の割に身を固めてないようだしね」

 

「ほっといてください」

 

 

 年齢ねぇ…それどころか結婚なんか面倒くさいと俺は思っている。まぁ、恭一がどう思っているかは知らないが、俺はこの目の前の気の抜けない相手が唯のお節介焼きの婆さんにしか見えない…隙を見せないところがまた嫌らしいが。

 そんな話をしているとウチの家族は眼光を輝かせ、恭一に厳しい視線を送りながらダメージを与えていき、明らかに恭一の顔が引きつっていく。

 

 

「振られちまったねぇマティ・マーシュ?」

 

「勝手に失恋させないでくださいよ……あの、ロール氏もリベレイタ・ファティマも、私はそういう目でアマミ氏を見ていたというわけでは」

 

「ぐぅ……」

 

 いや恭一、なんでそこで悔しそうな顔すんだよ。ほら、後ろ見てみなよ、2人の視線どころかオーラが溢れ出しているぞ…確かにマティは美人とはいえ、うちの2人も美人さんな上に好かれているのにちょっと欲張りすぎなんじゃないか?

 俺は修羅場というのを経験したくないので羨ましくはないが。

 

 

「公私混同」

 

「油断も隙も無いですね」

 

 

 ありゃりゃ、これは不味いな…あの婆さんが勝手に言ってた事だろうに、シューニャとファティマがマティに向けて敵意を向けており、彼女はどうすればいいかわからないようで2人の視線から逃れようと後ずさりをしている。

 俺が上手くフォローすべきかと考えていたら、この状況を作り上げたババアが大笑いし出した。

 

 

「ハッハッハッハァ! なんだなんだ愛されてるじゃないかアマミ!」

 

「え、えぇ……?」

 

 

 恭一はグランマの言葉に困惑しながら返していた。

 この朴念仁は全く理解できていないみたいだが、側からみたら2人の好意の目線に気づくだろうに…いや、意図的に避けているだけかもな。

 俺やダマルが前に恋愛やら結婚やらの話を振った時、適当な言葉を並べて直ぐにはぐらかしていた。もしかしたら、恭一の失くしている記憶は…と俺がそこまで考えていたところで恭一は大声で叫ぶ。

 

「じ、自分はそろそろ出発致しますので! お世話になりました、マティさんもお元気で!」

 

 うわぁ…綺麗に回れ右にしながら逃げてやがる。しかもその勢いでファティマを連れて行って玉匣に逃げ込むとそのまま後部ハッチを閉める…いや、俺まだ外にいんだけど。

 

 

「逃げたね」

 

「アマミ氏は判断早いですよね」

 

 

 俺もそう思う。とババアとマティの意見に賛同しながら俺も玉匣の戻ろうと歩き出すと後ろから声を掛けられた。

 

「テイムド…いや、ゼロと言ったね」

 

 俺は足を止め、振り返りながら声を掛けてきた人物…グランマを見据える。

 

『はい、なんでしょう?』

 

「あたしの誘いを断ったんだ…アマミ達をしっかり守ってやんな」

 

 グランマは俺を見ずに暗に俺達の心配をしてくれているらしい…全く、食えない人物である。

 

『ええ、言われなくても…私は彼等を守る騎士(ナイト)ですから』

 

「一丁前に言うじゃないさぁねぇ」と言われつつ俺はまた歩き始め、玉匣に帰還するのであった。

 

 

 




次回は少し時間を巻き戻そうかなと考えております。

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