悠久の機甲歩兵・・・もしも、序盤からもう1人パイロットがいたら・・・ 作:てとるマン
ギャラギャラと喧しい音を立てながら進む大きな装甲車が一台荒野をゆっくり走っていた。
これは企業連合が開発したものだ。観音開きのハッチを車体後方に持ち、その内部には3機のマキナを搭載、整備するスペースがある。車体前方には荷物室も置かれていた。主にマキナの大きさに起因して車体の背が高く、挙句車体上に大口径機関砲の砲塔を乗せたために被弾面積が大きい。
遠隔操作式の機銃や発煙弾といった防御兵装はあったが、弱点の克服には焼け石に水であり、前線の兵からは戦闘に不向きな失敗作という烙印を押されてしまっている。
被弾面積を小さくすることを諦めたシャルトルズは、強固な装甲を搭載するために重量級の全装軌車として設計された。その重装甲を持ってなお、800年前の戦場においては脆弱性を拭いきれなかったが、自分たちの家としてならばどうかとダマルは考え俺たちが目を覚めるまでずっと準備を進めていた。
ダマル曰く、マキナ3機分もの整備スペースは必要ないはずだと1箇所潰して寝台を設置したという。
本来ならば運転手と砲手、車長とマキナ要員3名の計6人で稼働する車両だったことを考えれば、3名というのは随分余裕がある。おかげで、保管されていた弾薬や僅かな保存食と水などを積み込んでも空間にはまだまだ余裕があった。
因みに正式名称は装甲マキナ支援車シャルトルズなのだがダマルが『玉匣(たまくしげ)』と言う名前をつけた。
さて今の目標は食料と情報の確保だと恭一は言っていた。ダマルと俺もそれに関して賛成していた。だがそれと並行して大事な事がある・・・金がないのだ。
実は俺と恭一が目覚める前に一度、ダマルは全身を防護服で覆って外の探索をしたらしい。すると、野盗に襲われたのだと・・・いや比喩ではなく、本物の野盗に襲われたんだと。そんな可哀想な野盗はダマルの持つサブマシンガンで黙らされたらしいが、その時の野盗の装備と貨幣が自分達の時代のそれとは全く違った為、どうやら俺たちが暮らしてた頃の文明が滅びたのだと察したのだとか。
話を戻そう、つまり現代の金を全く持っていないのである。だからこそ金、あるいは金を稼ぐ手段が必要だろうと考えていた。更にそのためには、先の街道の交差点にポツンとあるような酒場ではそれも難しいだろうから、とにかく町を目指してみることにしていた。
それがどこにあるのかもわからないが、迂闊に人間と接触することもできないので悩ましいところである。
「俺って性別的にはどう見えるんだろうなぁ?」
運転席に座ったダマルは、前方の状況を映し出すモニターを頼りに車両を前進させながら呟く。
「そんなこと考えてたのかい君は」
「性別・・・ってなぁ、正直俺からしたら喋り方からして男にしか思えないが見た目の話ってならなぁ」
暇なんだろうな、俺だって暇だしなと納得する。
「名前から判断できないってのは痛いんじゃない?」
「見ても聞いてもわからんってぇのじゃあ、無理だな。温泉入りてぇ時はどーしたらいーんだろぉーなぁー……」
「新しく中性が入れる温泉を作ればいいんじゃないか?」
「おお、その手があったなぁ!!・・・って、俺は男だよ!!」
温泉なぁ・・・と俺はダマルから返しを軽く受け流し考える。
温泉は今の所知識でしか知らないが全身で浸かったら気持ちいんだろうと思う。さて、このまま温泉の事を考えてもいいのだが今の状況を整理しよう。
俺たちは街道から少し離れた場所は走っている。
機械を見たことがない人間が、いきなりこんな鉄の塊がすごい速度で突っ込んできた、なんてなれば腰を抜かすに決まっている。結果として現在の社会に溶け込める可能性を減らしてしまうのはいただけない。
人間は1人で生きるというのが難しい。農耕できる土地も技術も種苗もない、狩猟も経験したことがなく素人となれば、最早如何ともし難い。
だが、溶け込むには情報が必要だ。だから俺たちはそれを拾えるタイミングを待っている。
それは近くにあるのに、だが手が届かないようなもどかしい物で、ゆえに俺たちは暇を持て余す。
「連中に動きはぁ?」
ダマルが気が抜けたように恭一に聞いている。
レーダーを見ればわかるだろうに、と言いたいが、恭一はあえて「同じ」と答える。
俺は取り敢えずいつでもお客さんを迎える為の準備をしていた・・・要するに、ただ突っ立ているだけである。
「なぁ、もうこっちから仕掛けてもいいんじゃねぇかぁ?」
「そういう訳にもいかない。なんせ、あれが本当に“コレクタ”なのかがわからない」
「まさか昨日今日でこんな状況になるとわなぁ」
レーダーに映る10人ほどの集団に、ダマルは何度目かわからないため息を落とした。
事の発端は昨晩だった。
焚火を消して玉匣に入った時、対人レーダーが感を示したのである。
ダマルはそっとレーダーの表記を読み取り、恭一は翡翠に搭乗する準備を始めた。
「4人……6人か。ゆっくり近づいてる。発見状態は不明だが、普通この距離じゃ夜には見えねぇぞ」
「焚火の光だろう」
ついさっき踏み消した炎を思う。
星明りだけの夜。激しい凹凸が続く荒野とはいえ、高所から望む場所も多い。どこかから炎光が見えたに違いない。
「だとしたら、火を消すのを待ってたってのか?レーダーに映らないようにしながら?」
「意外と当てにならないからねぇ……衛星リンクが死んでるってのは」
地形の起伏があれば対人レーダーはそれに阻まれて相手を探知できなかったろうし。そんなことは昔の戦いにおいていささかも珍しいことではなかったらしい。
偵察衛星とリンクしてはじめてまともに稼働するのに、戦場となれば激しい電波妨害で役に立たず、リンク無しで利用することなど多々あったらしいので、それと同じ状況だと考えれば、腹も立たない。
「さて、どうする?夜這いのスケベ野郎どもは、今の速度なら10分くらいでこっちに来るぜ?」
ダマルは俺と恭一にその白い顔を向けて聞く。
だが、選べる道は少ない。それに、相手が不明瞭ではどうしようもない。
「僕とゼロはマキナで待機する。向こうがやる気なら……まぁ苦しませないように」
「はぁ、対人戦かぁ・・・気が進まないがしょうがない」
俺はため息をつき、だろうな。とダマルは笑う。
その笑顔に見える骸骨は、死神のようにしか見えないこと恭一が指摘し俺は悪魔かよと言う、ダマルはそりゃ不味いと口を結んだ。結局まともに表情なんてないが。
ターンテーブル上で背面を向いた翡翠に恭一が乗り込み、俺も黒鋼に乗り込み、システムを確認する。特に異常もなく、オールグリーンである。
車体後部のハッチ前、いつでも飛び出せるように身構えて、その時を待つ。
そう、待っていたのだ。
「あれから半日経つが、あいつらはなんなんだァ?」
つかず離れず追跡してくるだけで、向こうから手出ししてくることはなかった。
あとは徐々に数を増やしているという点だけが気がかりだが、数百人が相手でもこちらの優位は揺るがない。それも徒歩で追跡されている以上は振り切るのも容易だ。
「明らかに増援を待ちつつ、接触を続けてるって感じだね。潜水艦みたいだ」
「だとしたら随分ポンコツな潜水艦だぜ。隠れてるつもりらしいが、あれじゃ丸見えだ」
モニター越しに見えるお客さんは体勢を低くしながら進んではいるが、いかんせん丸見えだった。岩や枯れ木から移動する時なんて装備がちゃんと見て取れるほどだ。
何よりその装備がよくない。鎖帷子の上にベストのような胸甲を着込んでいるのだが、まず銀色の鎖帷子の反射が目立つ。ついでに胸甲も白いため隠れる気があるのかさえ疑問だ。
しかし、完全ではないものの統一された装備を見るに、ダマルが言っていた野盗なる連中とは毛色が大きく違っているように思う。
少なくとも冶金技術は明らかに上だろう。鎖帷子の製造は非常に手間だし、ベスト状の胸甲もそれぞれの体格に合わせて作っているとすれば、鍛冶師という仕事がしっかり成り立っているようだ。
「しかし兜はなんだろうねあれ」
「兜なんて時代錯誤があり過ぎるけどな」
バケツのような鉄製の兜、目の部分だけがくり抜かれた板金製と思われるそれを、先頭を進む者以外全員が被っている。しかも他の部位の鎧に比べて、大きさの調整ができていないのか比較的小柄な者も、ずんぐりした体格の者も同じサイズに見える。
不快ではないのかと心配になるくらいだ。この地域の気温は乾燥していて昼間は少し暑いくらいだが、鎧を着ていればそこそこ気が滅入るだろうに。サイズまであっていないとなるとあんまりだ。
その軍隊と言うには歪でありながら、賊というには統率の取れた格好の連中は、着かず離れずひたすら追跡を続けてきた。それこそ昼に車内で干し肉を齧り、日没が近づくその時まで、ずっとである。
こちらとしては玉匣を走らせ続けるだけなので、尻が痛いとダマルが言うから運転を交代しさえすれば特に問題もなかったが、謎の追跡者たちは時折落伍者が出ていたようだった。
可哀そうだと憐憫の情を感じなくもないが、それを向けられる相手かどうかを計るには、まだ情報が足りなかった。
◼︎
あれから時間が過ぎ、周り既に夕焼けで染まり、西の空は闇に包まれようとしていた。そんな中俺たちは玉匣を停車し、レーダーに齧りついていた。
先ほどまでコレクタと定義していた人間たちと、アンノウンが入り乱れているのだ。
「何があったんだ?生物反応が人間じゃねぇぞ」
「人間以外に襲われてる……なんてことある?」
「野生の動物に襲われたとかじゃないのか?」
うーん、と骨が唸る。
「それもあり得なくないんだけどね、でもあんな規模の人間がいる場所をわざわざ肉食動物が襲うかな?コレクタがわざわざ草食動物をこの状況で襲うなんて考えられないし」
恭一はそう言いつつ少し考え、行動を起こすことにしたようだ。
「目視してみよう」
そう言って恭一は砲塔天面のハッチを開けた。
すると恭一は少し震えた声でこちら声を掛けてきた。
「ダマル、ゼロ、君達、虫は好きかい?」
「おう。カブトムシとかなら」
「まあ、嫌いではないかな・・・見た事はないが」
「じゃ大きなザトウムシは?」
隣からカロンと骨の音がする。多分ぱっかりと顎を落としたのだろう。
俺だってそう言われたら――骨の音こそしないだろうが――同じような表情をするだろう。とゆうか理解不能である。
俺はダマルと一緒に砲塔に無理やり入り込むと機関銃と連動しているカメラを回し、レーダーが反応をしていた方見てみるとダマルが心底嫌そうな声を出す。
「……うげぇマジかよ、マジだよ、たまんねぇよ。肌もねぇのに鳥肌立ちそうだ」
この距離からあの大きさで見える虫なんで居てたまるか。と吐き捨てる。
俺は虫の事は良く分からないが、どうやらあれは相当デカいらしい。大きさ的にデータで見た、犬と言う動物の中型ぐらいのサイズはあると思う。
「あんなのがうようよしてるんじゃ、おちおち眠ることもできない」
「確かにあんなのが眠ろうとしてる時に近づいてきたら、ゾッとするな・・・」
「同感だ。こりゃ情報収集が必要だな」
ダマルがヘルメットの顎紐を締め、砲手席へ座りなおす。恭一はすぐに翡翠の背中に手を当てて搭乗ハッチに乗り込み、俺は砲塔から降り、恭一に続き黒鋼のハッチを開け乗り込む。
黒色の鎧に包まれると、真っ暗だった視界はすぐに周囲の映像を伝え始める。
機動シーケンスが行われている旨のプログレスバーが伸び、それが消えると玉泉重工と呼ばれていた企業のロゴが流れGH-M100D-5という型番と機体各部状況が表示された。
『武装は?』
恭一がマイクを通したくぐもった声で問う。
「近接戦闘だ。混戦になってからの流れ弾で人間をやっちまうってのは寝覚めが悪ぃ。射撃は戦闘評価のために、お前からの目標指示で玉匣から行う、戦闘評価が終わり次第、恭一は生存者の確認の為に離脱してゼロが周りの掃討に入ってくれ」
『了解』
『分かった』
恭一が翡翠の両前腕部に位置するハードポイントに、スライド式のブレードを取り付けている。俺は恭一に倣い装備するとシステムがハーモニック・ブレードを装備と、装備した場所を投影してくる。
それが展開状態にできることを確認して、両手足を軽く動かす。問題なし。
「短ぇのが好きなのか」
『相手が小さいなら小回りが利く武装でしょ』
『俺も戦闘事態初めてみたいなもんだからな、小回りが利いた方がやりやすいと思っただけさ』
「殴ったり蹴ったりして壊すなよ」
『君こそ、フレンドリーファイアなんてしないでくれよ』
言ってくれやがる、とダマルがカタカタ笑う。
恭一が玉匣の後部ハッチを押し開き俺もその後に続き、ゆっくりと黒鋼を歩かせる。
少しずつ加速していく翡翠を見送り、俺は各部アクチュエータに異常がないかを確認する。その間に翡翠は地面を蹴って飛び、急加速したのだろう、あっという間にザトウムシの群れに肉薄していた。
どうやら恭一がレーザー目標指示器で3匹程を照射したらしい。黒鋼のモニターにもカーソルが表示されている。すると隣の玉匣からドォンドォンドォンと3発発射され砲口から硝煙が上がっている。
『思ったより脆いみたいだね、1発で消し飛んだよ』
恭一から通信が来る。これで少なくとも徹甲榴弾を使用した大口径機関砲を弾くほどの装甲を持たず、撃たれた弾丸を回避する能力や発砲を探知する能力がないことがわかった。
『了解、後は引き継ぐ』
俺が短く返答すると恭一の方から頼むと言い生存者がいるかもしれない方向に向かい始める。
さて、ここからは俺の仕事か・・・
俺はゆっくりと足を踏み出す、そしてまた一歩踏み出し、ブースターを点火し急加速でザトウムシの群れに近づいた。どうやら俺の事よりも人間を捕食する方が大事らしい1匹に狙いを定め、右腕のハーモニック・ブレードを振り抜いた。胴体中央に接触する瞬間、軽く右腕に振動が走る。ハーモニック・ブレードは刀身が敵性存在に接触した瞬間に高周波振動を起こし対象を切断する兵器だ。
綺麗な切り口を残し、黒い液体を吹きながらザトウムシはぐしゃりと倒れた。
物理衝撃や切断による撃破は可能であると情報が更新される。同時にハーモニック・ブレードから伝わった衝撃等から暫定的な対象の強度、装甲厚、危険度などが自動で分類されていく。
そこから弾き出された答えは、ザトウムシの足や顎はマキナの装甲を貫通できないということだった。
必要な情報は揃った。あとは残りのザトウムシを撃破するのみ。
黒鋼は集合しつつあるザトウムシに躍りかかった。正面から飛びかかって来るザトウムシ。その足はどうやら人間の体なら容易く貫通させる事が出来るがマキナの装甲は貫けない。
取り付こうにも滑り落ちたそれを重い踵で踏み抜き、または飛びのいたところを一閃し、今度は背後から飛び掛かってくる。
そこで試したい事を思いつく。身体は動かさず、視線だけを後ろに向け、サブアームの突撃銃を使う。ダァンダァンと2発の弾丸が発射されザトウムシは弾け飛んだ。
マキナにはサブアームと言うものが二つ搭載する事がオプションで出来、突撃銃や盾を持たせ、視線で操作する事が出来ると聞いていたので試してみたのである。
すると残り3匹程いたザトウムシは発砲音で戦意を喪失したのか突然逃げ出した。
『もういいぜ、お疲れさん』
俺が追跡しようとするとダマルからの通信がきた。
『もういいのか?』
『ああ、周りからザトウムシはいなくなったみたいだしな・・・それに虫が弾ける所なんてもう見たくねぇよ』
『・・・虫嫌いなのか?』
『・・・ああ!!嫌いだよ!!なんだよあのぞわぞわした動き!!あんなの見てたら骨なのに鳥肌が立つわ!!』
ダマルが通信機越しで如何に虫嫌いについて力説していて俺は苦笑いで返すしか無かった。
それにしたって・・・むごいな。
鋭い爪も牙も、あるいは強靭な鱗も甲殻も持たない人間は、現代においてこうも脆いかと。そしてこの人間を襲ったザトウムシは武装した人間の集団を殺戮できるほどの力を持っているのかと。どちらにも驚愕した。
800年の時が流れたと聞いた。だが、その時の流れでこんなにも昔とは違うのかと思った・・・いや、データでしか昔の事は知らないのだが・・・
さてどうするかと考えていると恭一から無線が飛んできた。
『この戦場の全部隊が全滅。重体の生存者から、後方に残存している部隊が交戦中との情報を得た』
『落伍してた奴らか。その生存者は?』
『……助からないな。これから後方の救助へ向かう、ゼロも念のため応援に来てくれ』
『分かった』
『了解だ』
流れる視界。自動でモニターが暗視モードに入る。
あれほど地面を焼いていた太陽は地平の彼方へと消え、反対の空に月が輝きだしていた。
次は2日以内に投稿したいなぁ。