悠久の機甲歩兵・・・もしも、序盤からもう1人パイロットがいたら・・・   作:てとるマン

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先ずはじめにkanixさんいつも誤字報告ありがとうございます、自分の文章の脱字や表現の至らなさなどを報告して頂き本当にありがたいです。この先もお願いします(すいませんゆるしてくださいなんでもしますから)


少女の事情、当面の問題

 次の日の朝、俺は度肝を抜かされた。

 何故かって?答えは簡単だ。昨日、ザトウムシ――ポインティ・エイトという化け物から救ったシューニャという少女が俺たちの旅に同行したいと言い始めたのだ。

 

 恭一やダマルも俺と同じ反応をしながら、唯一ファティマという少女は干し肉を咀嚼しながら欠伸を噛み殺す。

 一時、沈黙が支配したが、恭一はなんとか言葉を捻り出す。

 

 

「えっと、シューニャ、さん?」

 

 何の冗談だい?と言いたげな恭一の台詞にシューニャは改めて俺たちに提案をする。

 

「私を、貴方たちに、同行させてほしい」

 

 瞬間に恭一とダマルは彼女の前に飛び出した。

 ダマルは彼女の目の前で膝をつき、ドンゴロスごと頭を抱えてなんてこった!と繰り返し、恭一は彼女の両肩を掴んで揺さぶりながら正気か、もしかしてあの虫に毒でもあったのか、それとも食あたりでも起こしたかと連続で問い詰める。因みに俺は何とか状況を飲み込み整理する事だけで手一杯になっていたので飛び出しはしなかったものの、恭一達と同じくらい動揺していた。

 

 だってそうだろう。俺達はまだ知り合ってから1日程しか経ってない上、彼女達の常識からしてどう見ても外れている。そんな男連中と一緒に旅をしたいと言ったのである。これが動揺せずにいられない。

 

 ガクンガクンと揺れるシューニャの頭。あー、とか、うー、とか言葉にならない呻きが彼女の口から漏れ出す。

 これはいよいよいけない。彼女はきっと正気を失っているのだと恭一は麻袋と俺に顔を見合わせて頷きあう。医療嚢を取りに玉匣に戻ろうと恭一が動いた所で、シューニャは恭一の腹に一撃をかましてその場にしゃがみこませた。

 少々骨にも響く様な音がした気がした。ダマルと何とか正気に戻った俺が恭一に大丈夫かしっかりしろと声を掛ける。

 そうして恭一が座り込んだ原因たる張本人を見てみると無表情の仮面に怒りのオーラを乗せて俺達を見下ろしていた。

 それを見て横についていた骨と俺は、気配を消しながら後退する。

 

「いや、待て、置いていくな、こんな状況で!なぜか知らないが、シューニャさん怒髪天……ひぃ!」

 

「話、聞いて」

 

 そこからシューニャは何故俺達に付いて行きたいのかを話し始めた。

 

 取り敢えず聞いた話から彼女はどうやら知識の探求者らしい。元々彼女がコレクタでブレインワーカーなる者をしていたのは、現代の科学者集団に位置付けられる組織――テクニカに所属する為だったらしい。常人ならそれどまりだが、彼女はそれさえ通過点に過ぎないと語る。彼女はこの世界に遍く知識を吸収し、未来を知りたいと言った。そしてそれ以上の事は要らないとも。

 そして俺達の様な常識外れな存在を知り、信頼を勝ち取りたいとも思っていると彼女は言った。

 だからこそ、俺は彼女の事を知識の探求者と思ったしそれに対する情熱は本物だと思った。

 

 

「本気かい……にわかに信じがたいけど」

 

 

「いーや、俺は信じたいね」

 

 今までファティマの後ろに隠れていたダマルがガシャガシャと歩み寄ってくる。

 突然、ダマルが会話に口を挟んだ事で動揺した恭一が、何か言おうとしたがそれを制し、ダマルはシューニャの前に立った。先ほどの雰囲気に怯えていた時と同じ人物だとは思えない堂々たる仁王立ちだった。

 

「信じるではなく、信じたい?」

 

「そうだ。お前がこれを見ても今の意見を貫けると俺は信じたい。知識を悪い方向に向かわせず、知識に怯えることもなく、俺たちの前に立っていられると証明してみせろ」

 

 それは、とシューニャが言い切る前に、ダマルは彼女の前でドンゴロスを頭から抜き取った。

 純白の顔が太陽に照らされる。それでも彼の眼孔の闇は深く、表情は伺い知れない。カタカタと鳴る軽快な音は、そこに肉のない証拠だった。

 シューニャの無表情の仮面が剥がれ落ちる。一瞬の動揺と恐怖、そして同程度の好奇心に足は半歩下がったところで踏みとどまった。

 

「がい……こつ?」

 

「ビビったか?でも俺は俺、昨日から目の前に居た野郎から何も変わっちゃいない。俺はダマル。食い、眠り、動き回り、考える骨だ」

 

 どうだとばかりにダマルは胸を張る。なんなら麻袋の息苦しさから解放されたことを喜ぶように、大きく深呼吸して見せた。

 その衝撃にしばらく固まっていたシューニャだったが、やがて彼女はおそるおそるダマルの顔に手を伸ばした。

 小刻みに震える白い指が、血の通った肌のそれと大きく異なるカルシウムの塊に、やがて触れた。

 

「貴方は……死霊術で生み出された魔物、スケルトン?不死となった死霊崇拝者、ネクロマンサーの成れの果て?それとも……人の命を刈り取る死神?」

 

 最初は指先が触れるだけで、徐々に両の掌で包むように、シューニャはダマルの頭を撫でていく。

 それをダマルは、死神なんてのも痛くていいねぇ、と骨が当たる音をいつも以上にうるさく響かせながら笑ってみせる。

 

「俺にもわかんねぇのさ。さっきも言ったが、食い、眠り、動き回り、考える。だが、肉も内臓もねぇ、骨って以外はなーんにもわかんねぇ。でも俺は俺なんだよ」

 

 言い切るダマルに、そう、と呟いて手を放したシューニャは、何か満足したように微笑んだ。そこに恐怖の色はなく、侮蔑の感情も見られない。

 その表情見て少し驚きはしたが、だが俺は彼女の事を信じてみてもいいかと感じた…あの骨の理解者が増えるかもしれないと思えたからである。

 

「おぉー!人じゃないとは思ってましたけど、正解でした!なんですかこれ、どうやって動いてるんですか?どうして繋がってるんですか?」

 

 それを獣娘は見事一撃でぶち壊した。一気に現実に引き戻されたのは俺だけではなく、ダマルと恭一も同じであったらしく、格好をつけていた骨はあんぐりと下顎骨を開く。

 シューニャが離れたのを見計らって、無遠慮にファティマがダマルの身体を撫でまわす。なんなら手袋をはぎ取り、靴を脱がせてそれらをまじまじと見る。服の上から胴体を触ったところで、たまらず骨から声が上げた。

 

「カカカカ、カーッカッカッカッカッカッ!!ちょ、やめて!俺感覚はあるから!くすぐってぇんだって!待って、鎖骨返して、肩上がらなくなるか……イヤ―――俺の貞操が―――!あ゜―――!」

 

 しばらく全身を撫でまわされた挙句、左右の鎖骨に始まった骨の分解作業は最終的に頭骨以外のほぼ全てに至り、解放された頃にはダマルは本物もびっくりするぐらいの物言わぬ骨のようになって崩れていた。

 

「満足しました……昨日蹴っ飛ばした時に、おかしいなーとは思ってたんですけど、まさかこんな風になってるとは」

 

 満たされてツヤツヤと輝くファティマとは対照的に、小刻みに震える程度で動くことすらままならないダマルはやや哀れに見えた。遠目に見ればただの白骨死体だろう。てか、おい、終始圧倒されてたから黙って見てたがダマルは大丈夫なのか?

 

「俺、最後までカッコよく決めたかったんだ……でも、なんか弄ばれて、ちょっと嬉しかった気もする」

 

「君の性癖は聞いてない」

 

「心配して損した」

 

まあ、黙って分解される所を見ていた身としては俺も恭一も薄情者なのでそれ以上骨に対する発言は控える事にした。

 

「……これでも気持ちは変わらないかい?」

 

 コクン、と小さくうなずくシューニャに、恭一はやっと安心したのか微笑みかけている。

 

 彼女は言う。

 

「貴方達に付いていく。私も役に立ってみせるから、連れて行って」

 

 

 恭一や俺に最早反対する理由はなかった。

 それどころか、ダマルを知ってしまった以上は、むしろ懐に入れるべきだと思う。

 となればむしろ問題はファティマの方だった。その獣娘が居るであろう方向に180度向き直ってみれば、未だ復活作業中だったダマルから、左手をむしり取って再び解体していた。

 改めてダマルは部品ごとに解体されても大丈夫だったことを理解する。人骨ではなく、本物の全身骨格模型なのではないか。

 加えて言うなら、人骨を解体することに一切の躊躇を見せない、というかオモチャとでも思っていそうなファティマに少し引いた。

 

「その、ファティマさんはどうする?」

 

 恭一はおそるおそる聞いてみると、ファティマはこちらを向いて疑問符を頭に浮かべた。

 まるで何を聞いてるんだこいつはと言わんばかりの表情に、言葉の選択でも間違ったかと恭一が俺に振り返ってくるが、流れからすれば何もおかしなことは言っていないと、俺は恭一に伝える。

 

「ボクはシューニャの護衛を命じられていますから、シューニャが行くならどこへでもついていきます。その方が面白そうですし」

 

 あまりにあっけらかんと言うので、本当にそれでいいのかと聞き返すと、ファティマはうーんと腕組みをして考える仕草をしてから、何かを思いついたように困った笑顔を僕に向けた。

 

「コレクタがなくなっちゃいましたから、次の指令は誰がくれるんでしょう?」

 

「えーっと……もう誰かに命じられるようなこともないんじゃないか?」

 

 組織に属さないのであれば、命令という言葉はあまりに強制力がありすぎる。

 ここから先は仕事というわけでもないので、上下関係なんて存在しないと思ってそう告げたが、彼女は違いますよ。と首を振る。

 

「ボクはリベレイタです。ボクの大事なお仕事です。おにーさんは必要じゃないですか?雇ってはくれないんですか?」

 

 リベレイタ…昨日の会議の中でも聞いた言葉を俺は思い返す。この世界は彼女の様な獣人…キメラリアと呼ばれる者達の立場はとても低いらしく、今俺達がいる国において、殆どのキメラリアは奴隷として扱われていると聞かされた。彼女もその一人らしいのだがコレクタに同行して化け物やリビングメイルと戦うキメラリアは総じてリベレイタと呼ばれるらしい。

 果たしてそんな立場の彼女になんて言えば言いかと俺と恭一は悩んでいたのだが、そこでようやく体を起こしたダマルがカッカッカと笑って言った。

 

「雇ってやれよ恭一、ゼロ。仲間外れってのは可哀想だろ」

 

「この骨他人事みたいに……わかった。雇うよファティマさん」

 

「俺も特に拒否する理由はないしな」

 

「はい!よろしくお願いしますね、おにーさん」

 

 あと、さん付けはやめてください。気持ち悪いです。と告げられて、心でも抉られたのか恭一は顔を引きつらせる。

 俺は何とか笑いを堪えたがダマルは無理だったらしく大爆笑していたのだが、いつの間にか左手がないことに気づいて、オテテガー!と叫ぶ。年下に振り回されるのは俺も恭一もダマルも大して変わらないらしい。いや、ファティマが誰彼無しに、それこそ平等に全員を振り回しているのだろう。

 こうして俺達は道連れ2人と気苦労を増やし、ユライアへ向けて出発することになった。

 

 

◼︎

 

 

玉匣は左右2組づつ、計4組の無限軌道を軋ませながら軽快に荒野を進む。昨日のように追跡者の歩調に合わせるようなこともなければ、装甲に不安のあるほど悪条件な地面でもないため、全装軌車であるマイスイートホームは巡航速度を維持し続けていた。

 

 恭一は砲塔のハッチから全周囲の見張りをし、ファティマはそれに付き添う形で砲身に足を跨がらせて座っている様だ。どんなバランス感覚をしてりゃあんなとこに座れるのか俺には分からん。

 因みにシューニャは玉匣を運転しているダマルと一緒にいる。

 

 シューニャもファティマに誘われてタンクデサント(戦車跨乗)兵スタイルにされかけていたが、流石に怖いと言って拒否した。その代わりにダマルの横で玉匣の運転操作を眺めることに専念している。穴が開く程見つめられるダマルは、元々スッカスカなんだから許してくれ、と救いを求めたが、知識欲に手足が生えたと自負する彼女はまったく聞き入れない。ダマルの感じる恥ずかしさなど天秤にかけるまでもないことだと言わんばかりに、一挙手一投足へ意識を集中していた。

 そんな中、俺は何をしているのかと言うとマキナの整備をしている。ダマルに教わって簡単な修理修繕をこの半年間で出来る様になったので片耳にイヤフォンを付けながら不備が無いからチェックしていく。

 

「おぉい恭一ぃ、ゼロぉ、どっちでもいいからこのチンチクリン何とかしてくれ」

 

「ぶふっ!」

 

 唐突にあまりに情けない骨の声と乾いた音にファティマが噴き出す。ツボに入ったのか、上面装甲をバンバン叩いた音が響いたかと思うと、ひーひーという笑いを堪える声が聞こえてくる。

 一方で侮辱されたはずのチンチクリンこと、シューニャは一切意に介した様子を見せず、相変わらず骨の動きに集中している。

 

「まぁ、これも1つ彼女への恩返しだと思ってくれ」

 

「そんなご無体な!」

 

 にべもなく恭一は骨の救援要請にノーを突きつける。ま、特に悪さをしている訳でもないので俺も「程々になぁ〜」と言うだけにする。相棒の一人たるラフィンスカル君ではあるが、今後の進路を決める上で貴重な位置情報を提供し、食料事情改善を行うための方途をもたらし、あまつさえ資金難の我らに一筋の光明を与えて下さった女神様のご要望だ。むしろ尊い犠牲として、その栄誉を噛み締めてほしいところである。

 

 と言うのも、つい先刻俺達は『非常事態宣言中である我が家の食料事情について会議』を、走行する玉匣の中で行っていたのである。

 朝食を取り終えた俺達は、同行することになった彼女たち2人を乗せ、遠く東にあるというユライア王国へと進路をとった。

 動き出す鉄の箱にシューニャは緊張し、ファティマが面白がること数分。誰が言うともなく車内においてその会議が開かれた。当たり前である。硬く不味いと専らの評価を受ける食事でさえ、今の玉匣には最早欠片も残されてはいないのだ。飢餓状態の急速接近は、仲間と言うにはあまりに幼いコミュニティの心を僅かな時間で結束させるに至っていた。

 

 

 だが、何とかしないといけない状況ではあるのだが、俺や恭一やダマルに直ぐ思いつく良い案は出なかった。最初は近くの村か町で稼ごうかと考えたがシューニャから聞いた話によると、この俺達が今いるカサドール帝国とやらの法律があまりにも宜しくなく、奴隷制なども採用しているとの情報がありこの国で暮らすと言う案は没になり、俺達はどうするべきだかと悩む事になった。

 

 

 同行を求めたのはシューニャとはいえ、その申し出がなければ、あるいは断っていたならばと思うとゾッとする。目覚めてから初めて現代で会話した甲鉄連れの盗賊の真似事は、できる限り遠慮しておきたいのだから。

 

「とりあえず、これだけ渡しておく」

 

 シューニャはそう言うと、10枚ほどの銅貨を恭一に手渡した。

 今まで食いつないだあの粗食を正規価格で、実に10倍の量を買える金額である。判然としない現代における庶民を語るわけにはいかないが、間違いなく極貧の最底辺の自分たちにとっては大金だった。

 

「い、いや、子どもからお金を貰う訳には……こっちは自分たちでなんとかするから」

 

 精一杯の強がりで、恭一は手に乗せられた銅貨をシューニャに押し戻す。これを受け取れば完全なヒモ男の出来上がりだと、まあ、あんな小さな女の子から、お小遣いよと言わんばかりに渡されたら自分も同じ反応をするだろう。

 無論、恭一が構築したホイップクリームより柔らかい防御壁など、シューニャのじっとりした視線を前に儚くも崩壊する。大の男が情けなくもやや幼くすら見える少女相手に、すみませんとしっかり頭を下げる光景がその場に出来上がった。うん…しょうがねえよと俺は同情する事しか出来ない。

 シューニャのついたため息が、俺と恭一に追撃を与え俺たちは縮こまる事しか出来ない。

 

「貸すだけ」

 

 その言葉に俺と恭一は茫然とした表情を作ったまま頭を上げる。

 目の前に呆れたようなシューニャの顔があったのだが、俺の目には確かに大人のプライドを救済する女神の姿が、それはもうハッキリと映っていた。

 情けなさ100%であることは認めるが、滞りなく返済したその後に彼女たちが楽に暮らせる様にしてやりたいと思う瞬間であった。…何故かこれが初めてではない気がする。

 運転席に座っているダマルがカッ!カッ!と言いながら笑いを堪えていたので、アイツには馬車馬の如く働いてもらおうと心に決めたことも付け加えておく。大人げないと言われるかも知れないが、大人は大人に対して大人げないのである。

 

「大金を持ち歩くのは危険、だけど、まったくもっていないのも何かと危ない」

 

 青銅貨3枚ならとダマルが野盗から拝借(強奪)し、不味いメシを買った時のお釣りのことを恭一が言いかけてやめた。大人のプライドはとても脆く悲しいのである(遠い目)

 

 

「あぁ、わかった。ありがとう」

 

「すまん、必ず返す」

 

「ん」

 

 よし、と言わんばかりにシューニャは姿勢を正すと、改めて今後どうすべきかという意見を述べ始めた。

 

しかし、件のユライア王国を目指す上での途中の補給に問題があった。

 本来ならどこかの村か町に立ち寄って補給をするべきなのだがこの国の大地は元々から干上がっており、あまり自給率は高くない事に加え、現在この国は戦争中であるらしい。

 それにより戦争に必要な兵糧などを無理矢理接収されていて、村や町に食料が残っているのか分からないのである。こう言う帝国制が国民を干上がらせていく原因だろうなと俺は思う。

 

「食料を確保できる可能性は薄い、か」

 

「ボクは無理だと思います。前にロボゥって村を通った時に見ましたけど、あそこは地面がカラカラで、畑の草も元気がなかったですもん」

 

「ロックピラーは大体そう。だから人が住んでいる場所が少ない」

 

 恭一の言葉に戦争に加えて農耕に不適だと、2人は口を揃えた。

 こうなってしまえば芽生えたかに見えた希望は、瞬く間に霧散してしまう。可能性はゼロではないが、帝国の警備部隊が居るかもしれないことまで考慮すれば、分の悪い賭けであることは間違いない。

 

「近づいてみるべきだとは思う。だけど、期待はしないほうがいい」

 

「だが、それだと今日明日に食料の確保できる可能性は、どこへ行っても低いんじゃないかい?」

 

 あの街道にポツネンと佇んでいた酒場に戻ったほうが、希望が見える気がするほどだ。シューニャ曰くは、ロックピラー地域の中でもあまりにも僻地すぎて、食糧徴発の手間が大きいわりに回収できるものも少ないと判断されているからではないかとのことだった。

 そんな僕を見て、シューニャがもう1つ方法がある、と言った。

 

「バックサイドサークルに寄ってみる、という方法」

 

「なんだいそれ?」

 

 まったく未知の名詞らしき単語の出現に、恭一と俺はは首をかしげる。

 ファティマの方はあー、と納得した様子だったが、それでもなんだか微妙な表情を浮かべていた。

 

「バックサイドサークルは流浪民族が出す市場のこと。場所を転々と移動しながら、合法非合法を問わず、あらゆるものが売買される。各国の法律では一応規制されている、けど、色んな情報が集まる場所でもあるから事実上黙認されている」

 

「闇市ってやつだなぁそりゃ」

 

 運転席から興味深そうな声が響いた。俺たちにはもってこいじゃないだと、ダマルは笑う。

 心情的には飢餓状態にあるだけの真っ当なトラベラーのつもりだが、俺らの手元にある過剰な戦力と不足する社会常識は、容易にその真っ当という部分を突き崩していた。

 シューニャはポーチをごそごそと漁ったかと思うと、小さな破片を取り出して続ける。

 

「コレクタが集めた物の中でテクニカや国が買い取らなかった物もここで売られるから、私たちも行ったことはある」

 

 掌の上で遊ばれるそれは、その買い取られなかった物の類なのだろう。事実、小指の爪ほどの大きさの黒い塊は、俺から見て明らかに価値がないことが理解できた。

 見覚えがあった。名前はなんだったかと、悩んでいると恭一が答えてくれた。

 

「あぁ、コンデンサだ」

 

「お、確かそうだったな」

 

 と、恭一が呟いてからしまったという顔をする。俺は察しシューニャの方を見ると目を輝かせている。

 受動素子の説明を求められても、俺も蓄電放電を行う部品ということくらいしか知らない。必要ならば後でダマルにでも喋らせることにして、俺は恭一に助け舟をだし話を何とか戻した。

 ハッとしたのはシューニャも同じらしく、薄く頬を染めながら小さく咳払いすると説明を再開する。

 

「バックサイドサークルなら、こちらの身の上事情は関係なく売り買いができる。食料徴発も彼らには関係がないから、お金さえあれば問題にはならないはず」

 

「村に行くよりはよっぽど安全ってことか」

 

「トラブルも多いですけどねぇ」

 

 闇市なのだから、ややこしい客も多いとファティマは言ったが、それを特に困っていないという風に笑ってもみせる。

 頼もしいことこの上ない彼女たちの提案に、骨からもそれでいいんじゃないかと同意を得たところで、俺達の進路は決定した。

 

 

 それ以後、走行中は周囲の警戒くらいしかすることもないため、先に語ったような状況が生まれている。

 未だにシューニャによる運転手観察会は続けられ、苦情を言ってもビクともしねえと諦めたダマルは疲れたように運転を続けていた。目的地に着くころには彼は骨粗鬆症になっているかもしれない。中身スカスカになったら風船みたいに飛んでいくのだろうかと想像していたら笑いが込み上げてきたが何と堪える。

 恭一は彼女が手渡してくれた銅貨を、ポケットから1枚取り出してぼんやりと眺めている。俺は両耳にイヤフォンを付け直し、整備を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 




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