MFリリカル・パン屋さん   作:mom

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骨の尖兵

「以上で報告を終わります」

 

「よろしい、下がってええで」

 

「はっ。失礼します」

 

 お互いが敬礼を返すと、部下と思われる男は踵を返し退室する。部屋に残る女性の手には、先日の『アーク襲撃』についての報告書が数十枚のレポートが。報告と合わせ、パラパラとめくりながら目を通してはいるが、この量には辟易しているようだ。

 

 

「失礼します」

 

 機械音と共にドアが開く。部屋主に訪問者の姿が映る。茶色のサイドポニーが特徴なその女性は、管理局独立MF部隊きってのエース。

 

「高町大尉、御苦労さまです」

 

「ありがとうございます、八神大佐」

 

 そこに流れる不思議な間。次は頬笑み。

 

「他に人がおらん時は、いつも通りでええよ。なのはちゃん」

 

「分かってはいるんだけど、つい癖でね。はやてちゃん」

 

 お互いのいたずらも終われば、そこにあるのは、戦場など似つかわしくない可憐な二人。だが現実、二人は軍属なのだ。

 

「それより、なのはちゃん。例の新型MFの調子はどうや?」

 

「フレーム自体は今まで以上にいい感じ。機動性も、魔力効率もかなり。ただ、試作のライフルはショートしちゃったけど」

 

 「てへっ」と答えるなのはに、やれやれといったはやて。それもそのはず。このエースにはよく壊す癖があるからだ。

 

「なのはちゃん、ほんまフレームは壊さんといてな。サナリィからの新型なんやから」

 

「分かってる。Fシリーズ90。それにミッションパックの設置で多様な状況に対応できるからね。まだパックは開発中だけどね」

 

 分かってるなら、壊すなと言いたそうなはやてだが、正直なところ諦めているところはある。機体を限界までイジメルことでスペックを越えることを得意とするなのはだからこそ、止めることはしづらい。

 

「程々に頼むで。……さて、これからは真剣な話にしよか」

 

 緊張が走る。これから告げられる内容はおそらく、なのはも理解はしている。だが、今までにない忌々しき事態に直面していることは間違いない。

 

「昨日の交戦記録……当然見てるとは思うけど、まずはあのMF。魔導師がいない完全な無人機やった。二つ目、うちの魔導師が4人亡くなった。つまり、殺傷。そして最後は、あの機体のマーク……骨が交差するあれや」

 

 魔導師が必要としないMF……魔力が必要なMFを無人で運用できるということは、何かこちらの持っていない技術を持っているということ。それに殺傷能力がある……つまり非殺傷など設定されてはいないということ。

 

 

「それにあのマーク。地球の昔に出てきた海賊みたい……海賊たちの尖兵……クロスボーン・バンガード」

 

「あの無人MFの技術を解析出来る範囲でしてみたけど、サナリィやアナハイムとは違う技術体系なのは間違いない。それに今度からそいつらの呼称はそれにしよか」

 

 

 軽く情報をまとめ、スタッフと情報の共有に入る。少数精鋭だからこそ、個人間での情報共有は必須でもある。

 

「はやてちゃん……戦争……だよ」

 

 分かってると頷くはやてにも緊張や不安の色は隠せない。いままで、ミッドチルダを攻めようとした者達は存在しないといってもよかった。だが今回は、こちらにない技術と、明確な殺意を持って戦争を仕掛けてきた。そのことに危機感は十分感じる。命が一瞬で散って行く世界を知らない者が多すぎることに。いや、本当は知らないことが幸せなのだから。

 

「私にも前線で戦える力があればよかったんやけどな……。こっちはこっちで準備を始めるから、なのはちゃん、MF部隊、頼むで」

 

「はやてちゃん……分かった。任せて!」

 

 部屋を後にするなのはを見つめ、一つ溜め息を落とす。今回の襲撃の裏にある大きな組織……クロスボーン・バンガードと名付けたあの謎の無人機を要する組織がどうして攻めてきたのか。今はそれすらも分からない。ただ、このまま待っていても何も始まらない。だから打つ手は打つ。けど……無人機は圧倒的に不利や。

 

 

「もしもし、あっ、私や。八神です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じく、アークから離れた、我が家でパンを焼く二人。早朝にもう一度アークを訪れていた。幸いなことに通貨についての心配はなかった。なんでも、様々な世界の物資が取引されるので、その世界に合わせて瞬時に決算できるシステムが開発されているらしく、地球の通貨も使用可能だ。なので、小麦や水などを買い込み、パンを焼いているところだ。昨日、色々と教えてくれていた女性がちょうど雑貨屋を経営していて、なんでも俺達の焼いたパンを店頭に置いてくれるそうだ。

 

 

「セシリー、行ってくるよ」

 

 

「気を付けてね、シーブック」

 

 

 分かってるよと、手を上げ、バイクにまたがる。これも雑貨屋の女性が「不便だろうから」と貸してくれた物だ。旅行で来たのは実は嘘で少し変なことに巻き込まれた程度に素情を明かしていない俺達にこうまで協力してくれることに、本当に感謝している。そんな彼女にも借りを返していかないとな。

 

 

 

 街まではバイクで10分程度。その間、セシリーが今朝色々と調べてくれた事を改めて思い返すことにした。ここは惑星ミッドチルダと呼ばれる星で、首都クラナガンから数km離れた場所に位置するアークという田舎町。さらにそこから数km離れた場所に俺達の家がある。ミッドチルダという星は聞いたこともない。ただ地球が存在することは、確からしい。だからこそよく分からない部分も多い。その地球は俺たちがいた地球なのか……。それにMSではなくMFとよばれる機体。そして約10年前に俺が体験した世界に似通っていること。

 

「今は考えていても仕方ない。それに、MFは魔導師でないと動かせないからな」

 

 俺とセシリーには魔力がなかった。雑貨屋の女性から、リンカーコアが感じられないと告げられた。別段驚くことではなかったが、言い換えれば、この世界で俺達は戦う術を持たない。別に義賊のように思いあがるわけでもないが、この似通った世界で何も出来ないのは悔しいと、正直に思う。思い返したくもない友との別れ、両親との……それに、セシリーとだって。

 

「……考えすぎだ。とにかくパンが冷めないうちに届けないとな」

 

 思ったより、物思いに耽っていたらしく、アークに到着していた。すぐに雑貨屋へと脚を運び、パンを店頭に並べてもらった。

 

「今回は食パンとあんパンです。牛乳とセットだと美味しいですよ」

 

「おいしそうね、シーブックさん。ねぇ、一つもらってもいいかしら」

 

 もちろん、準備はしてますよと笑いながら、シーブックはあんパンを女性に渡す。それを嬉しそうに頬張る女性を見て、嬉しく思うは焼いた本人だからだろう。

 

 

「これなら売り切れ間違いなしね。シーブックさん、いつでも並べますから、持ってきてくださいね」

 

 満面の笑みとサムズアップが眩しい女性に、「もちろん」と返すシーブック。

 

「お世話になりますよ。そういえば、名前を聞いてなかったですね。よろしければ」

 

「あっ、すっかり忘れてましたね。私はレアリー。レアリー・エドベリです。よろしくね、シーブックさん」

 

 

 ドクンっと胸の音が聞こえるなんて思いもしなかった。まさか、レアリー艦長代行と同じ名前の女性だなんて。それに顔はあまり似ていない気がする。流石に10年も前のことを鮮明に思い出すことはできない。だが……もし思いちがいでないならば、この先起こる事は……。

 

 

「レアリーさん、この街に博物館や学校はありますか?」

 

「ええ、工業系の高校と古いMFや戦車とかいった古典的な展示物を置いてある博物館が。急にどうしたの?」

 

 やっぱりか……けれど、俺にはどうすることもできない。ただ、そうならないように願うだけだ。

 

「いえ、ありがとうございます。少し、散策をしてから帰ります。また明日、パンを持ってきますから」

 

 そういうと、店を後にするシーブックの後ろでは、「またね~」と手を振ってくれている。「俺の知っている彼女とは違うな」と呟きながら、その足は博物館へと。

 

 

「これは、あのときのタンクじゃないか」

 

 入口の正面に展示されるのはMFなのではなく大型の戦車。しかしそれは、シーブックの知るあの機体。

 

「ガンタンクR‐44……まさかこいつをもう一度見るなんてな……」

 

 フロンティアⅣでの一件は忘れはしない。こいつでMSとやりあって、友を亡くした。初めて人が亡くなるところをこいつで見たんだから。ここには長くいるつもり無い。すぐに表のバイクに乗り、家への帰路につく。その後セシリーに心配されるくらい俺は疲れ切った表情をしていたようだ。心配かけてすまないと謝れば少し休むとベッドで子どもたちと昼寝を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ宙域から少し離れた暗礁地帯に存在するコロニーが一つ。だがこの暗礁地帯さえもステルスの一部として生み出されたに過ぎない。このコロニーを拠点とするは複合企業集団『ブッホ・コンツェルン』。創設者シャルンホルスト・ブッホは民主主義社会の退嬰を嫌い、貴族による社会運営を理想として考え始めた。そしてその息子マイッツァー・ロナにより『コスモ貴族主義』として貴族精神を昇華し、父の理想国家『コスモ・バビロニア』の建国に向けて行動を開始した。

 

「諸君、この多元世界において、中核をなす時空管理局の退嬰な姿勢をどう思うか。力を振りかざし管理するといった横暴な態度。自分たちの考える正義のためには犠牲もやむなしといった考え。甚だ遺憾である。私はこの腐敗した管理局に変わり、この次元世界に革命を起こす日が来たのだと宣言する。高貴な者がその力を持って、民衆を世界を、正しく導かねばならない。そのために我々は立ち上がったのだ。今より、我らクロスボーン・バンガードは管理局を打倒する」

 

 

 現当主マイッツァー・ロナによって一方的な宣戦布告がなされた。ただ一方的に、だがそれは無謀などではない。それはブッホ・コンツェルンが持つMFの生産ラインと運用方法。魔導師でないと動かせないMFを無人で運用する技術を手に入れたこと。そして……

 

「魔導師でなくても、MFは運用できるところまで来ているのですよ」

 

 紫の髪でくせ毛が特徴的な男、ドレル・ロナ。直接的な血の繋がりは無いものの、マイッツァー・ロナの孫にあたる。ドレルもまた魔力を持ち合わせてはいなかった。だが、魔力がなくてもMFを運用できるクロスボーン・バンガードでは指揮官を担う1人だ。

 

「管理局のMFの数などたかが知れている。ドレルよ、すぐに片付けてこい」

 

 その後ろから無機質な声と鉄仮面の男カロッゾ・ロナ。マイッツァーの息子であり、ドレルの父でもある。

 

「はっ、すぐに片付けて参ります。ザムス・ジェスとドレル大隊、出撃します」

 

 敬礼一つ、直ぐに戦艦へ。それはすぐにミッドチルダへと発進する。

 

「ベラを連れてこい……ただし、殺しても構わんがな」

 

 不敵に笑う後ろに、もう一人。それは同じく鉄仮面をつけた男。

 

「貴様のおかげやもしれんな」

 

「いえ、貴方様のおかげですよ」

 

 表情の無い仮面越しの会話だが底知れる闇を感じさせるに十分だった。この二人が何を考えているのかは、今は誰もしることはない。

 

 

 

 出港してから20分後、ステルス機能を搭載したザムス・ジェスはミットチルダへと降下する。当然、管理局の技術では到底感知することもままならず。

 

 

「腐敗した正義など駆逐するのみ。ドレル・ロナ、UMFベルガ・ダラス、出るぞ。ドレル大隊、全機発進」

 

 有人のUMF3機、そして無人MF12機が母艦より発進した。それはすでにクラナガン上空であった……。

 

 

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