『わははは!!ガープの野郎!センゴクとおつるまで連れ出してきやがったぞッ!』
『笑ってる場合じゃないぞロジャー…このままでは囲まれてしまうが、どうするんだ?』
『う~む…後方にはガープ、左右にはセンゴクとおつる…そして前方には巨大な嵐か!』
『強引に一点突破しようにも、一人と戦ってる間に他の二人が挟撃にくるだろうな…うむ、敵ながら見事な布陣だ』
『冷静に分析してる場合じゃねェぞ
『ギャアアアッ!!砲弾がマストに掠ったァ~~~!?』
『よォ~~~~~し………』
『……長い付き合いだ。お前が今から何を言おうとしているのか、言われずとも
『わはは、流石はおれの相棒だ!!ま、このままここに居てもガープ達に取っ捕まるだけだしな』
『それでも無駄を承知で聞くが…過去、唯の一度としてこの嵐に踏み入って生きて帰ってこれた奴はいない…それでも行くか?』
『上等じゃねェか!この先に待ち受ける存在を知る者は誰も居ねェって事だろう!?ならおれ達が一番乗りして!そして必ず生きて帰ろうじゃねェか!!野郎ども!!前方の嵐に突入するぞ!覚悟を決めろッ!!』
『え~~~~~~~~~!!?正気か船長!!?』
『見ろレイリー!ギャバン!海王類が打ち上げられてるぞ!』
『あの巨体をいとも容易く飛ばすとはな…!なるほどこれは誰も生きて帰れん訳だ!』
『どうすんだロジャー!?このままだと海王類に圧し潰されるぞ!!』
『
『ちんたらしてるとおれ達も海王類の二の舞になっちまうよォ~~~!!!』
『つべこべ言ってんじゃねェ!トムの造ったオーロ・ジャクソンを信じろッ!!!………大丈夫だよな?』
『『『『いやそこは言い切れよ!!!』』』』
『うるせェ!とっととこの嵐を抜けるぞ野郎共!!』
『『『『アイアイ船長ッ!!』』』』
『……ぬ、抜けたか?』
『……信じらんねェ、おれ達まだ生きてるよな?』
『見てくれ船長!島が見える!』
『島を覆い隠すかのように嵐が常に発生しているようだな、あの島を守っているのか?』
『兎にも角にも修理が必要だぜ船長!さっきの嵐で大分傷んじまった!』
『おう!一先ずあの島を目指す!さあ行くぞ野郎ども……って勝手に動いてねェか?』
『どうやら…あの島に引っ張られてるようだな』
『『『『…………………は?』』』』
『そして我々は巨大な嵐を抜け、一つの島に辿り着いた……』
『クロッカスさんこんな時に呑気に日誌か……大物だなおい』
『日誌なら俺も書いてるぞ!ワノ国に戻ったら息子達に見せるつもりだ!』
『凄まじい覇気を向けてきているな……ロジャー、お前に匹敵するんじゃないか?』
『わはは!向こうさんは喧嘩する気満々みたいだな!』
『せ、船長~~~!!』
『おう!住民達の姿は見えたか?』
『見えましたが…相手全員女だ!しかも額に角が生えてらァ!!』
『『『『なにィ~~~~!!?』』』』
『歓迎するぜ!久方ぶりの男どもッ!!』
『わはは!いきなり殴り掛かってきやがった!!さっきの覇気はお前か!?』
『だったら何だァ!!?男ァ黙って…子種差し出してりゃァ良いんだよッ!!!』
『面白れェ奴だな!おれに勝ったらいくらでもくれてやるぞッ!!!』
『上等だッ!!ぶっ潰す!!』
『………………………』
『おい、いつまで拗ねてんだ?初めて負けたのがそんなに悔しいのか?』
『拗ねてねェ!!船の上だったらアタイが勝ってたんだ!!調子乗んなよクソヒゲ野郎がッ!!』
『わはは!船を壊されちゃあ困るんでな、陸の上でならいくらでも相手になってやる!』
『余裕ぶっこいてんじゃねェぞッ!!もっかい勝負だ!!』
『……さて、ロジャーがじゃじゃ馬娘の相手をしてる内に我々は船の修理を進めておくとしようか』
『あァ~~それなんだが
『……………この嵐を抜けるのは厳しい、か……ふむ』
『なぁじゃじゃ馬娘、聞きてェ事があるんだが良いか?』
『誰がじゃじゃ馬娘だ!?アタイの名はウズメってんだ!覚えとけッ!』
『おうウズメ!聞きたい事は一つだ!この嵐を安全に抜ける方法を知りたい!』
『………はっは~ん?引っ張るだけしか出来なかった時は驚いたもんだが…さてはお前ェ等の船、限界が近ェんだな?』
『…付き合いの長ェ船でな、オーロ・ジャクソン号っていうんだが…うん十年と過酷な旅を共に歩んできた大事な仲間なんだ。これ以上の無茶はさせたくねェ』
『………島の女しか知らねェ嵐を安全に抜けられる秘密の航路がある』
『本当か!?教えてくれ!頼む!』
『ただし!アタイ等の要求を引き受けるのが条件だ!!』
『なるほどな、女しかいないからそうではないかと考えていたが…』
『遥か大昔にこの島に追いやられてからというもの、何故か生まれてくるのは女ばかり…昔は大勢いた一族の男も死に絶えて久しく…だから嵐を乗り越えてきた男達を襲って無理矢理子孫を増やしていたと言う訳か』
『しかしウズメの世代が生まれてからは嵐を抜けてくる男達は現れず、一族の数は減少してしまったらしい』
『一族の掟とかで嵐の外に出るのは禁じられているらしいが…もうそんな下らない掟は廃して外に"男漁り"に行くとこだったんだとよ』
『物騒だなおい…船長と真っ向から殴り合ったウズメって女もそうだが、他の女も滅茶苦茶強かったぞ』
『外に出てきたら…一波乱起きるのは間違いねェな…』
『んで、どうするよ船長?』
『決まってんだろ!女が子供を孕ませてくれって頼んできてるんだぜッ!応えてやらなきゃあ男が廃るってもんだッ!!』
『鼻の下伸ばして言うセリフじゃねェ!!あんたやりたいだけだろ!!?』
『う、うるせェ!!おいおでん!お前はどうなんだ?黙ってないで何か言え!』
『…ロジャーの言う通りだ!据え膳食わぬは男の恥という!俺も続くぞロジャー!!』
『ワノ国の言葉か!?何となく意味分かるのが悔しいぜちくしょう!!というかあんたトキさんは良いのかよ!?』
『うっ!ト、トキには黙っててくれ!後生だ!!』
『一生の願いを此処で使うんじゃねェ!!』
『わははは!行くぞおでん!!』
『おう!』
『……行っちまった』
『あ、女達がおでんさんに群がって…すげェな、もう見えなくなったぞ』
『ロジャーの相手はウズメか…あの二人の子ならさぞ強い子が生まれるだろうな』
『冷静に予想してる場合じゃねェよ
『お、おいシャンクス!おれ達もとうとう大人の階段上る時が来たようだぞ!!』
『んなことァ言われなくても分かってる!!おいバギー!吸い尽くされて干乾びて死ぬんじゃねェぞ!!』
『おれの台詞だ馬鹿野郎ォ~~~~~~~~~!!?』
『は、初めてだから優しくしてくれェ~~~~!!?』
『見習い二人が連れ去られたァ!?』
それから一週間の時が流れ、ロジャー達は見送りに来ていた島の女達に別れを告げ出航した。港まで見送りに来た女達は皆一様に下腹部に手を置き、涙を浮かべ別れを惜しむ。
この島から男達が脱出するのは過去例を見ない初めての事態である、本来ならば精根尽き果てるまで搾り取り、力尽きれば島の猛獣の餌としていたのが通例。しかし、今回は違う。
数十年ぶりに現れた男達は女達の予想を超えて遥かに手強く、そして床の上でも強敵であった。いつも通り搾り取ってやると意気込んだ女達の多くが、逆に骨抜きにされ気を失う異例の事態。島一番の腕っぷしを誇っていた族長のウズメも同様で、情事を始めてから飲まず食わずに交わり続けること一週間…ついにはウズメまでもが陥落してしまうのであった。
『あ、あのゴリラ娘が喪神しおった!?』
『うそ!?あのゴリラがッ!?』
『し、信じられん!あのゴリラ様がッ!?』
固唾を呑んで二人の情事を見守っていた──ゴリラゴリラとそこはかとなく馬鹿にしているように見えるが尊敬している──女達は驚愕に慄いた。
何故ならウズメは島一番の怪力の持ち主であり、そして唯一の"覇王色"の覇気を持つ気高く美しい娘であったからだ。まだ
ロジャー達を先導するのは、こうして族長になったばかりのウズメである。
船首に角の生えた女の顔の意匠が施された特徴的なガレオン船は、"男漁り"の遠征に用いる為に建造された船である。しかし本来ならば甲板にあるべき帆柱は無く、帆柱が無いという事は当然風を受けて進む為の帆も存在しない…甲板上にあるのは大砲のみという奇怪な船であった。
このガレオン船は、ウズメの"悪魔の実"の能力によって動かすことを前提に建造されていた。
〝フネフネの実〟
島の中心に聳え立つ巨大樹の根本に生えていた実をウズメが発見し興味本位で口にした結果、ウズメは船を自在に操る能力を獲得したのである。とは言っても、漁で近海に出る事はあれど沖にまで出ることは滅多に無い閉鎖的な一族だ。ウズメがその能力に気付いたのは、"悪魔の実"を口にしてから実に数年後の事だったという。
そして、ウズメが駆るガレオン船に引っ張られるロジャー達を乗せたオーロ・ジャクソン号は、最短ルートで嵐を抜ける為の秘密の航路がある海域に到達した。
船を泊め、ウズメはじーっと目を凝らして目の前の嵐を観察する。
ロジャー達が来た時と変わらず、嵐の中は相変わらず荒れ狂っていた。薄っすらと浮かび上がる海王類らしき巨大な影が、遥か上空へと打ち上げられているのが垣間見える。そして数多の海賊船の残骸達が弾丸の如く縦横無尽に飛び回り、打ち上げられた海王類に容赦なく襲い掛かっていた。
ロジャー達は一歩間違えていれば自分達も今頃は同じ末路を辿っていたのだと、この嵐を抜けられたのはまさに奇跡としか言いようがないほどだと、改めてそう認識し冷や汗を浮かべる。
『嵐を抜けるまではアタイが引っ張ってってやるよ、あぁそういや敵がいるかもって言ってたな?そいつらもアタイが蹴散らしてやる』
出航前に言っていた言葉を信じ待つ事数分──動き始めたウズメに引っ張られ、オーロ・ジャクソン号も嵐へと吸い寄せられるように近付いていく。そして嵐に再度突入したロジャー達を待っていたのは、驚く程に穏やかで静かな…嵐の外まで続く一筋の水のトンネルであった。
分厚い積帝雲と海王類に遮られ、陽光が届くのはほんの僅かな間のみ。されどその一筋の陽光が差した瞬間の光景は、二度と忘れる事は出来ないだろう程の絶景。
常に水飛沫が舞う水のトンネルにいくつもの陽光が差し込むと、ロジャー達の前に姿を現したのは七色に輝き幻想に揺らめく──虹色のトンネルであった。
『参ったな…こりゃあ宴が終わった次の日になっても、この光景は決して忘れるこたァないだろうよ……世界は広いぜ、相棒』
『ああ…そうだな』
ロジャーの小さな呟きに、レイリーは咲き乱れては刹那に消えゆく虹を眺めながら頷いた。
◇
凡そ数十分に及ぶこの世の全ての神秘を凝縮したかのような絶景とも、ついに別れの時が迫る。
恐らく嵐の外にはガープとセンゴクが待ち構えているとロジャーは予測した。
一週間という期間は死亡したと判断するには十分な時間だが、あの二人がそのような判断を下すとは到底考えられない。この程度で死ぬ筈がないと判断し、嵐から出てきたところを迎え撃つべく監視を続けるだろう。
相見れば即座に殺し合いに発展する間柄ではあるが、それ故に『こいつなら絶対そうする』という奇妙な信頼感を両者は持ち合わせていた。
故に嵐を出た直後に二人が出逢うのは、必然であった。
『やはり生きとったかロジャー!!!』
『ガープ!お前の事だ!絶対待ち構えてると思ってたぜッ!!』
最初に姿を現したウズメのガレオン船に驚いたのも束の間、後に続くように嵐の中から現れたオーロ・ジャクソン号を見て獰猛な笑みを浮かべるガープ。嵐を包囲するように監視に当たっていたセンゴクとおつるを召集するよう部下に命じ、ガープは砲弾を鷲掴んで投げ付けようと身構える。
『じゃあなロジャー!お前との交尾、愉しかったぜ!』
『俺もだウズメ!慌ただしい別れになってすまねェが…おれ達は行く!』
『露払いは任せておきな!世界の秘密とやらを暴く前に死ぬんじゃねェぞ!』
『わははは!当たり前だッ!!あばよウズメ!』
帆を広げ風に乗ったオーロ・ジャクソン号が、ウズメのガレオン船に追い付き追い越していくその刹那に、二人は思い思いの別れを告げる。一晩どころか一週間もの間交わり濃密な時間を共にした関係なれど、二人の別れは拍子抜けするぐらいに非常に淡泊な最期であった。
恐らくもう会う事は無い。ウズメは島に戻り次代を担うロジャーとの子を産み、島を守る頼もしき族長、そして良き母として生きていくだろう。そこにロジャーが介入する余地は無く、またロジャーの旅路にウズメが関わる事も無い。
両者の絆は今この場で永遠に、永久に断ち切られたのだ。
『待てぃロジャー!絶対に逃がさんぞ!!』
『おっと、何処の誰だか知らねェが…ロジャーの邪魔はさせられねェな』
遠ざかるオーロ・ジャクソン号を逃がすまいと追跡を開始するガープが乗る船に、ウズメが掌を向ける。"フネフネの実"の恐ろしい点は数あるが、中でも特に恐ろしい点は海上で出会えば対処する手段が限りなく零に近いと言う点である。
『喰らえロジャー!…………ってんん?何の音だ?』
今まさに砲弾を投げ付けようとしたガープの耳に、聞き慣れない音が届けられた。
『ガ、ガープ中将!船が分解しています!』
『な、なんだとォ!?』
甲板の木材が次々と引き剥がされ、まるで命を吹き込まれたかのような動きで我先にと大海原に飛び込んでいく。遠ざかっていくオーロ・ジャクソン号から悔しげに視線を逸らし、ガープは嵐の中に戻ろうとするガレオン船を睨み付ける。
『…………女?』
ガープの無駄に良い眼が、甲板に佇む女達を発見する。多くは既に米粒程に小さくなったオーロ・ジャクソン号に手を振っており、中には別れを惜しむかのように涙を流す女の姿も見えた。
『……どいつだ?』
次々と引き剥がされ足場が無くなりつつある甲板から身を乗り出し、この現象を起こしている犯人を特定すべくガープは視線を走らせる。能力者の仕業なのは、最早疑いようもない。ロジャー海賊団にこのような能力を持つ者は居ない筈だ。となると必然的に犯人と考えられるのは、何故か女達しか乗り込んでいないあのガレオン船の誰かとなる。
『中将!脱出の準備は整っております!お急ぎをッ!!』
慌てふためいて脱出用のボートの準備を急ぐ部下達の声を遮断し、神経を研ぎ澄ませて能力者の特定に全力を注ぐ。
──この女ではない、この女も違う。
違う。
違う。
違う。
……──見付けた。
『………こやつか』
未だに手を振り続ける女達の居る甲板を見下ろす場所。本来なら操舵輪がある其処にはヤケに豪華な装飾が施された椅子が設置されており、その椅子には露出の激しい獣の毛皮を着た一人の女がふんぞり返って座っていた。
──刹那、その女…ウズメとガープの視線が交差する。
(ロジャー並に強ェなあの男……子種くれって頼んだらくれねェかな)
(ロジャー程ではないが強いなあの女……えらい別嬪だな、何者だ?)
ウズメとガープ両者の初めての邂逅は、ガープの乗る軍艦が完全に分解され沈んだ事によって終わりを告げた。その後、駆け付けたセンゴクに救助されたガープは、再びあの女と巡り合いそうだという、妙に確信めいたものを感じつつ…合流したおつるに『また船壊したのかいアンタは!?』とお説教を受けつつロジャーの追跡を再開した。
◇
そして二十六年の月日が流れ──……
「あのバカ娘ェ~~~!一体何処に行きやがった!?」
年中消える事のない嵐に囲まれたとある島は、未曽有の大混乱に見舞われていた。
「族長様ァーー!森の方も居ませんでしたッ!」
「集落もじゃ!何処にも御姿が見えぬ!」
「姫様ァ~~~!かくれんぼの時間は終わりですぞッ!」
島中の女達が〝姫様〟なる渦中の人物を見付けるべく奔走する、しかしその全ての涙ぐましい努力が報われることは決してあり得ない。何故なら既にこの島にその〝姫様〟は居ないからだ。
「族長様!姫様の御部屋に書置きがッ!」
「見せろッ!」
強引に奪い取った紙の四枚の内の三枚は随分と古めかしい手配書のようだった。此処に来るまでに握り締めていた所為か所々破けているし、懸賞金も掠れてしまって見えにくいったらありゃしない。しかし写真だけは不思議と擦り切れておらず、当時の懐かしい面々の顔を見てウズメの脳裏に当時の出来事が蘇る。
ロジャー達が去った後に、何度か迷い込んだ海軍と名乗る男達が持っていた手配書だろう。子種以外は特に興味もなかったので、男達から奪い取った食料と武器以外は全て乱雑に宝物庫に放り込んである。これが娘の部屋から見つかったという事は、宝物庫に忍び込み物色していたということに他ならない。
──いったい何のために?その答えは、残りの一枚に記されていた。
最後の一枚は随分と急いだ様子で書き殴っているが、文字の練習をする娘を横で見ていたお陰でこの書置きを残したのは娘で間違いないと、即座にウズメは気付く。
──その書置きには、こう記されている。
「ちちにあいにいく!しんぱいむよう!」
「あんのバカ娘がァ~~~!連れ戻すぞ!船を準備しろ!」
「「「「は、はいぃ~~~ッ!!!」」」」
大海賊時代が始まること二十四年──。
比較的平穏を取り戻しつつあった
一方その頃のモンキー・D・ルフィは…
・近海の主をワンパンKOしてフーシャ村を出発。