鬼っ子痴女海賊団ドタバタ珍道中   作:黒雲あるる

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書いては消して書いては消してを繰り返してたら前回の投稿から1か月経ってた\(^o^)/

書きすぎて1万文字超えちゃったぜ☆彡


第十話

「…………じゅる」

「…………あ~~嬢ちゃん、店の真ん前で陣取られると商売の邪魔なんだが……」

 

 

 時は少し遡り、ウォーターセブン"商店街"にて。

 

 人目に付かない場所を探して降りる場所を探す時間を待ちきれず、サクヤはマルコの背から飛び降り大海原に着水。泳いで一足先にウォーターセブンに入り"商店街"にその姿を見せた。

 

 

「…………じゅる」

「…………保護者とはぐれちまったのか??困ったな……」

 

 

 弟の弟を探すという目的を忘れた訳ではない。しかし、腹が減っては戦は出来ぬとも言う。一先ずは腹ごしらえを優先し、然る後に弟の弟を探すとしよう。

 

 

「…………じゅる」

「…………嬢ちゃん??金は持ってねェのかい?」

 

 

 だが、ここで問題が発生する。なんと旅費が入ったリュックをマルコの背に乗せたまま置いてきてしまったのである。つまり、今のサクヤは無一文の状態。そんな訳でサクヤはこの島の基本的な移動手段である"ブル"に乗ることも出来ず、下半身を水に浸らせながら店先にしがみ付いて水水肉を至近距離でじっと見つめる事しか出来ないでいた。

 

 

「……あァ~~~わーったよ!!少しだけなら持って行って構わねェよ嬢ちゃん!!」

「ほ、ほんとか~~~~~~~~!!!!???」

「途端に元気になりやがったなオイ………少しだけ(・・・・)だぞ」

「分かった!!!」

 

 

 とうとう根負けした店主が少しだけなら持って行って良いと許可を出した。サクヤが店先に陣取っている所為で"ブル"が店先に寄れず、客足が途絶えた現状をどうにかしたかったのだ。少女の見た目からして精々二、三個が限界だろう、それだけならば大した損失ではないし十分取り返せる筈だ。そう判断してのことなのだろうが、サクヤを見た目通りの少女だと思った店主はこの直後、地獄を見る事になる。

 

 

「ありがとう店主!!!!ここからここまで貰う!!!」

「何言ってんだ馬鹿野郎!!!!少しつったろうがおれァよ!!!」

「これが儂の……少し(・・)じゃ!!!!」

「んな訳あるかァ!!!!!待てコラァ!!!!」

 

 店先に置かれていたほぼ全ての水水肉を両手一杯に抱え込み、器用に両足だけを使って水路を泳いで中心街の方面へ水路をぐんぐん進んでいく。瞬く間に姿を消したサクヤを呼び止める店主の声が商店街に空しく木霊していた。

 

 

「もぐもぐもぐ………うぅ~~~ま~~~~~い~~~~……!!!」

 

 

 その後、水路が張り巡らされた商店街を抜けたサクヤは水路から陸に上がり、水水肉を頬張りつつ目的を果たすべく歩き始める。現在地点は商店街を抜けた先の市街地。建物と建物の隙間から「1」と描かれた高く聳え立つ巨大な壁が垣間見える。

 

 

「うまうま~~……るふぃは何処におるのじゃ~??」

 

 

 キョロキョロと彼方此方に視線を移しながらルフィを探し続けるが、この広い島で闇雲に探し回っても見付かる可能性はほぼ皆無。となれば、最も手っ取り早い手段は見聞色を用いてそれらしい気配の持ち主が居るかどうかを探るか、もしくは市民に聞いて回るかのどちらかだ。

 

 

「あの壁の向こうにちょっと強い気配が複数……む、マルコも無事に上陸したようじゃな!!」

 

 

 サクヤは使い慣れた見聞色を用いてルフィを探し始めた。

 

 他者の気配を読み取る力に特化したサクヤの見聞色はウォーターセブン程の島なら全体を容易く覆い尽くせる程に広い。早速、「1」と描かれた壁の向こうに複数の強い気配を感じ取り、そして島の外縁部に上陸したマルコの気配を感じ取る。目的が同じである以上その内合流出来るだろうとマルコは放置だ。今のサクヤの心を占めているのは、もうじき弟の弟に会えるという期待感のみ。

 

 

「るふぃはあそこか!!」

 

 

 女鬼族自慢の身体能力を活かしてその場から屋上へと跳躍し、更に建物から建物へまるでスキップするかのように移動する。目指す先はウォーターセブンの中心部。一つ建物を飛び越える度に胸の高鳴りが一層激しくなる。だが、不思議と心地好く全く嫌な気分にはならない。

 

「もぐもぐもぐ!!うまぁ~~~!!」

 

 水水肉を全て平らげ巨大な壁を飛び越え空を駆ける。着地したその先には先程の壁と同様に「1」と描かれた巨大な門の姿。間もなく陽が暮れるからか、大通りを歩く市民の数は疎らだ。市民と市民の間を縫うように素早く走り抜け、門の前へと辿り着いた。

 

 ルフィと思われる者の気配はこの巨大な門を抜けた先にある広場から感じ取れる。その周囲にも強弱様々な気配が動いているが、恐らく麦わらの一味だろう。ルフィの兄の姉として、彼等にも挨拶せねばなるまい。

 

 スゥ~っと息を吸い込み、サクヤはありったけの大声でルフィの名を呼ぶ。

 

 

「る~~~~ふぃ~~~~~~~~~!!!!!」

『!!!?』

 

 

 強引に抉じ開けられて拉げた門が敷地内へ吹き飛び壁へ激突。幸いにも巻き添えになった者は居ない様子だ。ちゃんと人が居ない場所へ向けて吹き飛ばすぐらいの理性は残っていたらしい。それならば普通に開けろと言いたいところだが、暴走気味のサクヤにそれは無理な相談である。

 

 

「うお何だ!?」

「敵か!?」

「下がってろナミさん!!」

 

 

 ドタバタと慌てた様子で三人の男が前に出る。変な眉毛の奴。三本の刀を腰に差す緑髪の男。そして最後の一人、麦わら帽子を被った男。記事に載っていた男が今、サクヤの目の前にいる。

 

 

「おぬしが麦わらのルフィじゃな!!会いたかったぞ!!!」

「……知り合いか??」

「いや知らん誰だお前???」

「てめェルフィ!!!こんなカワイ子ちゃんに知られてるだけでも罪なのに更に罪を重ねる気か!!!!」

「知らねェもんは知らねェよ!!ほんと誰だお前!?」

 

 

 ルフィの知り合いじゃないとなれば、考えられる線は賞金稼ぎか。つい先日、麦わらの一味は全員が賞金首になったばかり。早速その情報を仕入れた賞金稼ぎがその首を狩りに来た可能性は十二分にある。ガレーラカンパニーに匿われている事は公然の秘密となってしまっているし、居所を掴むことなど造作もないだろう。それにしてもこんな幼女が来るとは流石に予想の範囲外だが。

 

 

「エースに弟が居ると聞いてな!!居ても立っても居られず会いに来たのじゃ!!!」

「エース!!?」

 

 

 一味にとっては少し前にアラバスタで本人と会ったばかり。ルフィの兄とは思えない程の常識人っぷりだったのを良く覚えているし、ナノハナで海軍の追っ手から逃げる際に助けてくれた恩人でもある。その後、重罪人を追っているとのことですぐに立ち去ってしまったが、今もまだその重罪人を追っているのだろうか。

 

 

「お前エースの友達なのか!?」

「ワハハハ!知りたいか!知りたいのじゃな!?ならば教えてやろう!!!」

 

 

 ルフィからの問い掛けに、サクヤは腰に手を当てて胸をドンと張って声高に己の正体を宣言しようと口を開いた。

 

 

「儂の名は木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)!!何を隠そうお主の兄であるエースは…儂の弟なのじゃ!!!」

『は、はァ~~~~~~~!!!!??』

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

ぶべぇふびふぁふばあふぇふぃあぼふぁ!!(エースに姉がいたのか!!)んぐ!!おれ知らなかったぞ!!!」

ふぁしふぐぃふぁぶごぃふぁびぃふばぁ!!(儂も知ったのはつい最近じゃ!!)

「……会話が成り立ってるのが不思議でならないわ」

「エースの姉って言われても信じ切れねェな…妹の間違いじゃねェのか??」

「どんどん食べてってくれよサクヤちゃん!!食材はこのあと宴に参加する奴等が大量に持ってくるから心配すんな!!」

 

 ガツガツと次々と目の前に差し出される食事を平らげつつ、対面に座るお互いを見ながら会話を行うサクヤとルフィ。吐き出される言葉は到底理解出来ぬ言語だが、どういう訳かこの二人の間では会話が成り立っている。

 

 

「ロビンとチョッパーもそろそろ帰ってくるかしら…ていうかこの状況どう説明すれば良いの」

 

 

 何処からどう見ても幼女なのにエースの姉と名乗る謎の幼女。見た目からしてルフィより年下なのは明らかなのだが、さりとて嘘をついてるようにも見えない。かつて海賊相手に泥棒稼業をしていたことと、そうして盗んだ金銀財宝を現金に換金する際に数多の商人達と交渉した経験が裏付けている。

 

 だからと言って、サクヤと名乗る幼女の様相を見るとそう易々と信じられるものではないのも確か。額に生えた角からして人間ではないようにも見えるが、巨人族のように寿命が長い種族で見た目通りの年齢とは限らないのだろうか。

 

 

「ンマー……どうして表の門があんなところに転がってるんだ??」

「あ、市長さん」

 

 

 うんうんと悩むナミの元へ、頭に包帯を巻いた男が近寄っていく。市長と呼ばれた男──アイスバーグの両手には食材がこれでもかと詰め込まれた袋があり、言うまでもなく宴に参加する為に持ち寄ってきた食材だろう。彼の背後にはガレーラの職長達の姿もあり、アイスバーグと同様に大量の食材を抱えている。

 

 

「……あの人だれ??」

「……知らねェのか??」

「え??…有名な人?」

「……ンマー、麦わらと角の生えた女の子を探してるって言ってたんでな、行き先が一緒だったから連れてきた」

「ルフィを…??知り合いかしら……」

「その点も含めて後で自己紹介させよう」

 

 なにやら見慣れぬ…頭にパイナップル乗っけたような髪型の人物がパウリーやフランキーと親しげに会話しつつナミとアイスバーグの元へ歩いてきている。その人物も例に漏れず、大量の食材を抱えていた。アイスバーグは彼の正体を知っているようだが、知り合いか何かだろうかと、ナミは謎の人物の正体に当たりを付ける。

 

 

「ねぇ、角の生えた女の子ってあのサクヤって女の子じゃない??」

「あいつがそうか──おいマルコ!!」

「ん??」

 

 

 パイナップル頭の男はマルコというらしい。アイスバーグに呼ばれたマルコが、ナミとアイスバーグの元へ歩み寄る。

 

 

「お目当ての女の子はあの子か?」

「お、やっぱここに居たか」

「あなた、あの子の知り合い?」

「そうだよい。エースの奴を一緒に探してんだ」

「じゃ、じゃああの子の言ってる事って本当なの?ルフィのお兄さんの姉って言ってたけど……」

 

 

 ホッとした様子でサクヤを見つめるマルコにナミが質問を投げ掛ける。内容は勿論エースの姉とサクヤが宣言した件についてだ。親しげにエースの話題に花を咲かせているルフィは信じている様子だが、一味の仲間達は半信半疑といったところか。

 

 

「ん、本当だよい。エースとサクヤは腹違いの姉弟だぞ」

「ほ、本当なんだ……わたしちょっと頭が残念な子なんだなって思ってたわ」

「そう思っちまうのも仕方ねェがド直球で辛辣だなおい」

 

 

 かくかくじかじか。

 

 エースとサクヤの父親が"海賊王"である点だけ伏せ、二人の生い立ちを簡単に伝える。この秘密を知るのは"白ひげ海賊団"と極一部の者達だけに留めておいた方が良いとの判断だ。この秘密が広まれば確実に海軍の耳に入ってしまい、必然的に命を狙われることになるからである。

 

 島に近付く前に父親が"海賊王"である事を伏せておけと言ったからか、父親に関しては何も喋らなかったらしい。うっかり口を滑らせるのではないかと不安なマルコだったがその心配は杞憂に終わった。

 

 

「あ、チョッパー!ロビン!おかえり!」

「今帰ったぞーーっ!フランキー一家のケガ診てきた!あとロビンから目を離さなかったぞ!!」

「ありがとチョッパー!」

「………これは…どういう状況かしら」

「──ん?オヤジからだ……」

 

 

 麦わらの一味や大勢の人間達が続々と集まりつつある中、マルコ達が出発した際に白ひげ本人から渡された連絡用の電伝虫が着信を知らせる。何か用事があれば連絡すると言っていたが、本隊の方で何かあったのかもしれない。マルコは一先ず電話に出る為、両手に抱えていた食材と電伝虫をテーブルの上に置いて通話に出る。

 

 

「もしもし、オヤ「んん!!!んん!!ん~~~~うめェ!!」

「ふぁふふぉ!!んん!!はふはふはふ!!!うん~まい!!」

「………ルフィと張り合える人初めて見たわ」

「サクヤちゃんイイ食いっぷりだな!!飯作る甲斐があるってもんだ!!」

「おいアホコック、こっちにもメシ寄越せ」

「あァ!?てめェは其処らへんの雑草でも食ってろアホ剣士!!!」

「……"不死鳥"が何故楽園に…?それにあの子は…」

「??──ロビンあの人のこと知ってるの??」

 

 

 冷や汗を浮かべながらロビンが絞り出すように呟いた言葉を、すぐ傍に居たナミが拾い上げる。ロビンの視線は真っ直ぐマルコとサクヤへ向かっており、眉間に皺を寄せて只ならぬ雰囲気を醸し出していた。当然、彼女のすぐ傍に居たナミが真っ先に彼女の異変に気付き、声を掛ける。

 

 

「…………」

 

 

 だがそれでも、ロビンは何も答えず視線を二人の来訪者へと注いだままであった。アイスバーグが正体を知っている様子だったが、ロビンもまた、彼等の正体について何かしらの情報を持っているようだ。冷や汗を浮かべつつ警戒した面持ちで視線を注ぐロビンを見る限り、この二人は彼女にとって敵に近い存在なのかもしれない。

 

 

「……ロ、ロビン??」

「ん、どうしたんだいナミさんロビンちゃん??」

「??」

 

 

 ナミとロビンの様子がおかしい事に気付いたサンジを皮切りに、宴の様相を帯びつつあった広場は異変を察知し、次第に静寂を取り戻していく。フランキー一家、ガレーラの職長。そして麦わらの一味達。皆が皆、ロビンの一挙一動に注目する。この状況に気付いてないのは未だに目の前の食事に夢中になってエースの話題に花を咲かせるルフィとサクヤだけである。

 

 やがてロビンが重々しく閉ざされた口を開く。絞り出すかのように紡がれた内容は、驚くべき内容であった。

 

 

「"不死鳥のマルコ"……"白ひげ海賊団"の一番隊隊長よ…懸賞金は13億7400万ベリー」

『じゅ…13億ぅ~~~~~~!!!!??』

 

 今日に至るまで様々な強敵達と相見え、そして打倒してきた強敵達を容易く抜き去る巨額の懸賞金に驚きを隠せない。つい先日、ロビンを奪還する為にエニエス・ロビーを襲撃したことによって一味全員に懸賞金が懸けられたが、全員の額を足して二倍にしても尚届かない額なのだから当然だ。

 

 

「ど、どうしようロビン!!わたし失礼なこと言ってないよね!?こ、殺される!!!?」

「えーーーーーっ!?ナミ殺されちゃうのかーーーー!!!??」

「気分を損ねたら……八つ裂きにされるんじゃないかしら」

「────!!!!」

「いちいち表現が怖ェんだよニコ・ロビン!!」

 

 

 一見気の良さそうな兄ちゃんにしか見えないのに、その実とんでもない懸賞金を懸けられた大物だということが判明した衝撃は凄まじい破壊力を齎した。特にそんな大物だなんて思わずに普通にマルコと会話したナミの顔面は蒼白に染まっており、年頃の娘がしてよい表情の範疇を超えてしまっている。

 

 

「なんで教えてくれなかったのよ市長さん!!」

「ンマー……面白そうだったからつい」

「殴るわよアンタ!!!」

「殴ってから言うな」

「ア、アイスバーグさんに何しやがんだハレンチ娘ッ!!!」

「喧しい!!!」

 

 

 静寂に支配された広場がその支配から解き放たれる。特に騒がしいのは直接声を掛けてしまったナミ本人だ。大粒の涙を溢しながらロビンに縋り付くも、冷静に紡がれたロビンの言葉に魂がすっぽり抜けた抜け殻のようになっていく。かと思えば次の瞬間には物凄い剣幕でアイスバーグの元に怒鳴り込むと同時に強烈な平手を一発お見舞いしていた。完全に我を忘れている。

 

 そんなナミに触発されて、広場はてんやわんやの騒ぎへと発展した。マルコが此処に来た目的は何なのか、まさか麦わらの賞金を狙いに来たのか、またはアイスバーグを暗殺しにきた等々。様々な憶測が流れては空に消え、また新たな憶測が流れる。

 

 

「あ~~……困ったな」

 

 

 そんな広場の状況を、思いがけず渦中の人となったマルコが困った様子で眺めている。人目の付かない場所を探して降り立った"廃船島"で新たな船を建造していたアイスバーグ等と出会い、即座に正体を見破られた時から嫌な予感を感じていたのだ。

 

 こうなることを恐れて軽い変装を施していたのに、最後の最後に油断して変装を解いてしまった。確かに、ニコ・ロビンならば自分を知っているのも当然だと言える。なんせ八歳という…サクヤよりも幼い頃から賞金首になり、たった一人でこの世界を生き抜いてきたのだ。きっと生き残る為にありとあらゆる手段を取らなければならなかったに違いない。それがどれだけ過酷なことか、想像するだけでも恐ろしい。

 

 ともあれ、一先ずはこの騒ぎを収めるのが先決。麦わらの一味の元へ向かう道中でアイスバーグ等に此処に来た目的は話してあるし、敵対意志がない事は理解してくれている。フランキーやパウリー達が事態の鎮静化に協力してくれているのもあるし、自分から説明するような真似はしなくて良いだろうと、マルコは深く考えずにとりあえず静かになってくれれば良いやという気持ちで口を開いた。

 

 

「あ~…別に気にしてねェから構わねェよい。それよりオヤジの声が聞こえねェから少し静かにしてくんねェか?」

『はいッ!!!!!!!……………はい??』

 

 

 勿論、そんな訳がある訳が無い。

 

 何かとんでもない事を口走ったのは気のせいかと、サクヤとルフィを除いたこの場に居る全員の時が止まる。"白ひげ海賊団"はそれ自体が巨大な家族と言って差し支えない集団である。加入した者は皆例外なく"白ひげ"の息子娘となり、その絆は固く結ばれ並大抵の謀略では揺るがない強固なものとなる。

 

 そして船員達は皆、敬愛と敬意を込めて"白ひげ"をこう呼ぶ──"オヤジ"と。

 

 

『グララララ!!随分と喧しい場所にいやがるじゃねェか…えェマルコよ??』

『────!!!!!!!』

 

 

 電伝虫の姿が白い三日月の口髭をたっぷりと蓄えた威厳のある顔つきに変貌する。つい最近、麦わらの一味はその特徴的な口髭を目撃したことがある。そう、アラバスタで遭遇したルフィの兄であるエースの背に刻まれていた刺青のモチーフとなった人物の顔だ。当然マルコの背にも同じ刺青が刻まれているだろう。

 

 

「……う、噓でしょ…ちょっとわたしもう無理吐きそう」

「し、しっかりしろナミさん!!」

「電話越しでも……存在感パネェな」

「白ひげ………今最も"海賊王"の地位に近い男…」

 

 

 かつて、"海賊王"ゴールド・ロジャーと幾度となく死闘を繰り広げ、数々の逸話を築き上げた伝説の男が、電話越しとは言え目の前にいる。その存在感は今まで相手にしてきた強敵達と比べるまでもなく、数々の死線を潜り抜けメキメキと実力を伸ばしつつあった麦わらの一味であろうと、震え上がらせるには十分な効果を齎した。

 

 

「………ばいもふもぉう(かいぞくおう)??」

「ふぉ??──まぁぶご(マルコ)!!」

 

 

 今まで我関せずな様子でテーブルに並ぶ食事を貪り喰らっていたルフィがある単語に反応し、食事の手を止め視線を仲間達の方へ向ける。突然のルフィの行動に首を傾げつつ、サクヤも同じ方向を見て漸くマルコの存在に気が付いた。

 

 ロビンの小さな呟きを聞き逃さず、的確に拾い上げたルフィの地獄耳は称賛に値する。そして、普段は小難しい話には即座に白旗を上げる筈のルフィの頭脳が、どういう訳かここぞととばかりに状況の整理を迅速に行っていく。

 

 白ひげ、海賊王、三日月の口髭を蓄えた威厳たっぷりな電伝虫。

 

 アラバスタで別れた兄エースと交わした言葉が蘇る。

 

 

『おれはあの男を"海賊王"にならせてやりてェ…ルフィ、お前じゃなくてな…!!!』

 

 

 一足先に海に出た兄が惚れ込んだ男。どのような経緯で白ひげ海賊団に入ったのかなんて興味はないし、聞くだけ野暮というもの。問題は其処ではなく、両者の目指す先が"海賊王"という頂である以上、いずれは刃を交えなくてはならない関係であるということだ。

 

 

「もぐもぐもぐ!んぐ!!ぷはァ!!──おいおまえ!!!」

『ルフィ────!!!!???』

 

 

 となればこの男が次に起こす行動は自ずと予想がつく。

 

 

「エースから聞いたぞ!!!おまえを海賊王にしてやりてェって!!!」

『………!!』

「負けねェぞ!!海賊王になるのはこのおれだッ!!!!」

『………ほぉう』

 

 

 威勢が良い…では済まされない事をやっているのは明白である。相手は海の皇帝"四皇"の一角に座す世界最強と名高い男。そんな相手に、まだ結成して間もない一味の船長が宣戦布告するなど狂気の沙汰としか言いようがない。

 

 

「ンマー……だがあの男なら或いは…」

「やりかねねェ…ですね」

「うお───ッ!!!イカスじゃねェか麦わらァ!!!」

 

 

 だが、この男なら並居る強敵達を倒し"海賊王"となるやもしれない。そう思わせるだけの力をこの男は持っているし、そう思わせるに値する奇跡をこの男は見せてくれた。少なくとも、ガレーラカンパニーの者達はそう信じていた。

 

 

『てめェみてェな威勢の良いガキは嫌いじゃねェ……名は?』

「モンキー・D・ルフィだ!!覚えとけこの野郎!!!」

『……エースの弟だったか、無鉄砲さは兄譲りという訳か』

(((名前覚えられてる────ッ!!!)))

 

 

 既に名前を覚えられていた事実に一味の連中が恐れ慄く。情報の出所はきっとエース本人だろう。弟想いの彼なら、ルフィに懸賞金が懸けられた時点で嬉々として自慢して回りそうだ。そんな姿が易々と目に浮かんでしまう。

 

 

「このアホ───ッ!!!!」

「ぶべばッ!!!」

「る、るふぃ──!!?お、お主仲間ではないのか──!!?」

「仲間に決まってんでしょ!!だから殴ってんでしょーがッ!!!」

 

 

 言いたい事を言えて、随分と晴れやかな表情になったルフィの横っ面にナミの渾身の平手が炸裂した。一味の男連中の歯止め役を担うナミにとって、今回のルフィの行動は流石に肝が冷えたのだろう。普段の平手よりも幾分強い力が籠められている。自分が仕出かした事については完全に棚に上げているのは気にしてはならない。追及すればルフィと同じ末路を辿る事になる。

 

 

「あんた相手が誰なのか分かってる!?今の(・・)わたし達じゃ蹴散らされるのがオチよ!!」

 

 

 何しろ相手は世界最強と名高い男なのだ。"海賊王"を目指している以上、いつかは激突せねばならない相手であることはナミとて理解している。だが、少なくとも、今がその時かと問われれば間違いなく時期尚早であると答えるだろう。

 

 

「それでもおれは負けねェ!!」

「おバカ!!」

「ぶべッ!!」

「るふぃ───!?」

「……なかなか愉快な連中だよい、そう思わねェかオヤジ」

『グラララ……将来有望なルーキーじゃねェか』

 

 

 ルフィの突飛な行動は唯の蛮勇とも言えるが、そういう行動を起こす連中ほど得てして世間が仰天するような事件を起こすことを白ひげはよく知っている。その仲間達もそうだ。船長の啖呵を切る姿を見て好戦的な笑みを浮かべているし、現時点では足元にも及ばない事を理解しつつも将来的には勝つつもりでいる。

 

 将来有望なルーキーだと、世間一般的な立場の者達からすればその言葉は間違っているだろうが、海賊の立場から言えば実に的確な表現である。将来的にセンゴクの胃を情け容赦なく攻撃するだろう未来を幻視したからこそ、自然と零れた言葉であった。

 

 実際、エニエス・ロビーを襲撃するという大事件をこの一味は引き起こしているし、今後も大きな事件を引き起こす可能性は非常に高い。今後偉大なる航路(グランドライン)は"麦わらの一味"を中心に大きく動くのではないか──実際に当人達を目にしたマルコはそう思い至るのであった。

 

 

「そういやなんか用事があるんじゃねェのかオヤジ?」

『おォそうだった………っおい痛ェだろうが脇腹を突くんじゃねェ!』

「??」

『急かすんじゃねェ……サクヤは其処にいるんだろ?』

「──ん??なんだお爺ちゃん!!」

(((お、お爺ちゃん~~~~!!?)))

 

 

 先程から脳の情報処理能力が暴走しそうな程に飛び込んでくる情報が濃密だ。参謀役のナミやロビンはまだ冷静に捉えられているようだが、一味の最高戦力であるルフィを筆頭とする戦闘バカ達はお手上げ気味であった。緑髪の男と変な眉毛の男──ゾロやサンジはまだ思考を放棄していない様子だが、ルフィは既に思考を丸投げして再び大量の食事にありついている。

 

 サクヤも一瞬ルフィに追随しかけたが、自身の名を口にした白ひげの声に踏み止まり耳を傾ける。そうして出てきた言葉が、先程のお爺ちゃんと親しげに呼ぶサクヤの言葉である。マルコと行動を共にしているのだから、船長である白ひげと面識があるのも当然なのだろうが、流石にお爺ちゃん呼びは予想外だった。

 

 

(……これ、下手に聞いたら藪をつついて蛇を出すパターンじゃないのロビン)

(…そうね)

 

 

 エースはオヤジと呼んでいたのに、姉であるサクヤはお爺ちゃんと呼んでいる点は気になるものの、深く追求したら何か飛んでもない情報が出てきそうな予感を犇々と感じる。ナミとロビンは目配せで互いの意思を確認し、事の成り行きを静かに見守る選択を選んだ。

 

 

『おめェにお客さんだ』

「????──わしにお客さん???」

『──よォサァ~~クゥ~~~ヤァ~~元気そうじゃねェか』

「───!!!そ、その声!!母上───!!!!??」

『母ちゃん~~~~~!!!?』

 

 電伝虫の姿がみるみる内に変貌し、サクヤと同様の角が額に生えた女性の顔となる。この短時間の間に一体どれだけ絶叫すれば良いのやら、目まぐるしく移り変わる展開に容赦なくツッコむ気力が削ぎ落されていく。

 

 だが、事態はこれだけでは収まらない。広場での騒ぎに気を取られ、マルコとサクヤも徐々に近付いてくる存在に気付けていない。出会えば即、迷うことなく逃げの一手を考慮せねばならぬ程の相手がすぐ傍まで迫っている。

 

 斯くして、その時は訪れた。

 

 

「ル~~~~フィ~~~~~!!!!」

『今度は海軍~~~~ッ!!!!?』

「げっ!!!爺ちゃん!!!!!?」

『爺ちゃん~~~~ッ!!!!?』

 

 

 宴はまだまだ、始まりそうにない。

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