鬼っ子痴女海賊団ドタバタ珍道中   作:黒雲あるる

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冬眠してました(´_ゝ`)


第十一話

「赤髪なんぞに毒されおってこのバカもんが!!!!」

「シャ…シャンクスはおれの命の恩人だ!!悪く言うな!!」

「じいちゃんに向かってその口の利き方はなんじゃ──!!!」

「ギャ───!!!ごめんなさいっ!!!」

 

 

 突如広場に雪崩れ込み、勢いそのままにルフィに突貫し拳骨を一発。更にその後の押し問答で駄目押しの一発がルフィの頭上に降り掛かる。"ゴムゴムの実"を食べたゴム人間であるルフィが唯の拳骨に痛みを感じている事も十分衝撃を受ける内容だが、それ以上にどんな敵にも恐れず立ち向かうあのルフィが完全に戦意喪失している姿の方が仲間達には信じられなかった。

 

 

「完全に闘争心を折られてるわ………」

「小さい頃にあんな出鱈目な真似されたら無理もねェな……!!」

「大変だ──!!ルフィが海軍に捕まった───!!!」

 

 

 そして、てんやわんやの騒ぎを起こしているのは何も麦わらの一味だけではない。

 

 

『怪我ァしてねェだろうな??』

「う、うむ」

『なら良い──……お尻(武装色込み)ペンペン百回で許してやる』

「い、嫌じゃ────!!!!!!!」

 

 

 此方は此方で死刑宣告を受けたところであった。

 

 『お尻ペンペン』

 

 世間一般では悪戯を働いた子供に対する罰として古くから行われているお仕置きであるが、それは女鬼島においても変わっていない。しかし、唯一つだけ世間とは違う点があり、この違いこそが女鬼島の子供達が最も恐れるお仕置きとして君臨する要因となっている。

 

 答えは"武装色"。子供達の纏う"武装色"よりも僅かに強い"武装色"で叩く。それこそが世間と女鬼島との最大の違いであり、悪名高いお仕置きとして恐れられる要因となった。

 

 幼少の頃より覇気の鍛錬を行うとは言え、達人の域に足を踏み入れている母親達の覇気の練度には到底及ぶべくもない。往来の激しい道端で臀部を晒され、泣き喚きながらもしっかり"武装色"を纏っているのは日頃の鍛錬の賜物なのだろうが、そんな涙ぐましい努力は覇気の達人である母親達の前ではてんで無力。

 

 しかし、意外な事に、このお仕置きが覇気の練度向上を促進させる役を担っている。

 

 通常、覇気という力は生きるか死ぬかの極限状態に晒されるか、もしくは過酷な鍛練を行う事によって上達していくものだ。お仕置きを受けた子供達の覇気が大きく向上しているということは、それだけ子供達にとって生きるか死ぬかの瀬戸際か、もしくは過酷な鍛練を行う事と同義であるということ。

 

 お仕置きを受けたくないのであれば良い子にしていれば良いだろうと思わなくもない。しかし、子供という存在は飽くなき探求心に忠実に従う生物だ。お仕置きされる恐れがあると頭では理解していても、その誘惑に抗う事が出来ずに同じ轍を踏む結果に終わるまでが大体の流れである。

 

 

『アタイ等を心配させた罰さ、甘んじて受け入れな』

「ぐ、ぐぬぬ………マ、マルコ!!今すぐ逃げよう!!母上のお仕置きを受けたら死ぬ!!」

 

 

 お仕置きを宣告されたサクヤの表情が蒼白に染まる。母であるウズメのお尻ペンペンは死を錯覚するほどに凄まじい激痛を伴うと有名だ。当然、情報の出所は娘であるサクヤ本人からである。その激痛を味わいたくはないからか、形振り構わず逃げようとマルコに懇願する。

 

 

「……あ~悪ィが今はそれどころじゃあねェよい」

 

 

 今すぐ逃げたい。そう思っているのは何もサクヤだけではない。背後からサクヤにせがまれながらも、のっしのっしと近づいて来る巨体から決して目を離すことなくサクヤにそう答えた。今すぐこの場を離れたいのはマルコとて同じ。だが、仮に今すぐこの場から飛び立ったとしても、恐らく眼前の大男からは逃げられないだろう。すぐさま距離を詰められて殴り落とされるのがオチだ。

 

 

「ふむ…不死鳥のマルコ。これまた面白い男が楽園にいるのう」

 

 

 モンキー・D・ガープ。伝説の海兵がマルコとサクヤの前に立ち塞がる。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 老いては益々壮んなるべし。正しくこの男の為にあるような諺だろう。

 

 ガープ率いる海軍とは過去に何度か海で刃を交えた経験はあるが、マルコ自身が直接戦ったことは経験は無い。遠巻きに激しい戦闘を繰り広げる姿を見ただけで、互いに手を伸ばせば触れる距離にまで近付いたのは今回が初めてであった。

 

 

「ルフィは見逃がせてもおぬしを見逃がす訳にはいかんのう……何が目的でここにおる??」

 

 

 殺気を含んだ空気がガープを中心に周囲に広まりつつあることを、マルコはその肌で感じ取る。どうやら"麦わらの一味"に用があってウォーターセブンに来たようだが、二三言葉を交わしただけで部下を紹介した後は成り行きに任せるつもりらしい。そのままお帰り願いたいと思うマルコだが、やはりと言うべきか見て見ぬ振りはしてくれないようだ。

 

 

「答えると思ってんのか?」

「答えなくともかまわん、どの道おぬしを捕らえる事に変わりはないわい」

「……下がってろいサクヤ」

「な、なんじゃ!?こやつは敵か!?」

「こいつらは海軍…おれ達海賊の敵だよい」

「!!」

 

 

 マルコの言葉を受け、サクヤも即座に臨戦態勢に入る。海軍という組織の存在は既に白ひげから聞き及んでいる。正義の名の下に海賊を根絶やしにすべく活動している集団であると。しかし、サクヤにとってはそんな事はどうでも良いことだ。何より重要なのは、父ゴールド・ロジャーを処刑した者達であるということだけ。

 

 

「こやつ等が儂の父を……!!」

「む??そこのお嬢ちゃんは人質……には見えんのう」

「戯けッ!!儂の何処が人質なんぞに見えるんじゃ!!」

「ぶわっはっはっはっ!!随分と威勢が良いのう!どれ飴ちゃん食うか??」

「あ、飴!!?」

「うおーい!!早速餌付けされてんじゃねェよい!!」

「──はッ!?そ、その手には乗らんぞ卑怯者めッ!!」

「なんじゃいらんのか?…不死鳥に味方するのなら…悪いが容赦はせんぞ」

「!」

 

 

 強い。ともすれば母に匹敵するほどに。恐らく、善戦は出来ても一人だけでは勝つことは難しいとサクヤは悟る。しかし、だからと言って諦めるなんて選択肢はサクヤの中には存在しない。幸い、今この場には自分の他にマルコが居る。彼と協力すればこの包囲網を突破することは決して不可能ではないだろう。

 

 

「ガープ中将!!援護します!」

「相手は不死鳥だぞ!!気を抜くな!!」

 

 

 ガープの意を汲み取って迅速に包囲する海兵達は優秀と言えるだろうが、マルコとサクヤを相手にするには力不足と言わざるを得ない。二人にとって目下脅威となっているのは、目の前に佇むガープ唯一人だけだと即座に結論を導き出した。

 

 

「サクヤ、悪ィが力を借りる。おれ一人じゃ流石に突破出来ねェよい」

「相分かった!!儂に任せよッ!!」

 

 

 サクヤとマルコ、そして、ガープ率いる海軍が対峙する。いつの間にか広場は両者の一挙一動に注目するように静まり返っており、随分と仲良さそうにルフィ達と話し込んでいた二人の海兵も慌てた様子で戦列に加わっている。

 

 

「じいちゃんに喧嘩売るなんてサクヤとパイナップル頭の奴すげェな───……」

「そんなこと言ってる場合じゃねェぞルフィ!!どうすんだこの状況!?」

「ちょ、ちょっとルフィ!止めなくていいの?アンタの家族でしょ!?」

「じいちゃんが負けるなんて想像出来ねェけどサクヤも強そうだしな──にしし!!」

「聞けェ!!!」

「ぶぼばッ!!!」

 

 

 "麦わらの一味"は戦いの行く末を見届けるつもりでいるらしい。というより、船長であるルフィだけが暢気に構えているだけで、巻き込まれるのを恐れているのか、仲間達は困惑気味に成り行きを眺めつつ距離を置いている。

 

 

『待ちな』

「む」

 

 

 だが、電伝虫から発せられたウズメの一言が一触即発の空気を斬り裂いた。広場のあらゆる視線が電伝虫に降り注がれる。アイスバーグ達も、フランキー一家の連中も、サクヤ達を取り囲む海兵達も例に漏れず。数多の視線を受けて煩わしさを感じたのか、電伝虫が少しだけ身動ぎした。

 

 

『何処の誰だか知らねェが…アタイの娘に手ェ出したらただじゃおかないよ』

「ふむ…お嬢ちゃんを見た時から思っておったが…その角は見覚えがあるのう」

『……どこかで会ったか?』

「二十六年前じゃ、嵐から出てきた角の生えた女共にロジャーの追跡を邪魔されたわい」

『──ん、お前…あの時目が合った奴か??』

「やはりあの時の女か……となるとまさかとは思うがこの嬢ちゃんの父親は──」

『言わなくても分かん『おいガープ』─今アタイが話してんだろうがっ!!』

「!!!」

 

 

 ウズメの言葉を遮る形で再び電伝虫の姿が変貌する。白い三日月の髭が特徴的なその顔は先程広場に居た者達を驚かせた白ひげ本人のものだ。だが、流石に一度目に続き二度目の邂逅ともなれば否が応でも耐性が付くらしい。多少反応する者は居れど、先程のようなどよめきには至らない。

 

 

「し……白ひげ……」

「……ほ、本物なのか??」

 

 

 本人がこの場に居る訳でもないのに、無意識の内に後退る海兵達。姿を見せずとも、白ひげの威光はそれだけ強大であると言うことだろう。しかし、白ひげと同じ時代を生きた海軍の英雄たるガープが率いていることもあってか、困惑しながらも士気は旺盛な様子である。

 

 

『おれの愛する息子に手ェ出してみろ。報復に出向くのはサクヤの母親達だけじゃねェ、おれ達も敵に回すと思え』

「ふんッ!!!エースを誑かしたおぬしは何時か殴りに行かねばと思っておったところじゃ!!丁度良いわい!!!」

「し、しかしガープ中将!?白ひげと事を構えれば海の均衡(・・)が崩れる可能性が……!!」

「そうなったらセンゴクが何かしら手を考えるわい!!わしゃあ知らん!!!」

「ま、丸投げだこの人────っ!!!?」

「またセンゴク元帥に怒られますよ!!!?」

「ただでさえ命令無視して楽園に来てんですから!!」

「おれ達まで怒られるんですからやめましょうよ!!」

「なんじゃおぬし等!?海賊を見逃すなんぞそれでも海兵か!?」

『孫見逃してるアンタに言われたくない!!!』

(((そりゃそうだ)))

 

 そりゃそうだ──と、一語一句シンクロして放たれた海兵達の魂の叫びに、周囲で見守っていたギャラリー達が腕を組んで首を縦に振る。いくら孫と言えど、海賊に身を窶した者を見逃してよい道理はないのだ。彼等の言い分は尤もだと言えよう。

 

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 間違っていても間違っていなくとも(強引に)我を通しがちなガープだが、事態が事態なだけに流石に間違っているのは己であると思っているようで、いつもの豪快さは鳴りを潜め、苦虫を嚙み潰したような表情になっている。

 

 

「……いいじゃろう、今回だけは部下に免じて見逃してやる!!」

「良いのかよい、海賊を見逃したなんて下手すりゃあ極刑もんだろ?」

「海賊に心配される筋合いはないわ!センゴクにゃあボコボコにしたが捕まえる寸前に逃げられたと報告するわい」

「ウソの報告にウソ重ねてんじゃねェよいジジイ!!」

「喧しい!!嘘が本当になってもわしゃあ構わんのじゃぞ!!」

「そう簡単にボコボコに出来ると思うなよい……ムカつくジジイだ」

「こっちの台詞じゃ小僧め」

 

 売り言葉に買い言葉だが、両者共に事を荒立てる気は無い。互いの言い分を認めたくない子供みたいな大人の意地の張り合いである。片方は還暦を超えている分余計たちが悪いが。

 

「……という訳でオヤジ、こっちはもう問題ねェよい」

『わかった、何かありゃあ連絡しろ。それとサクヤ』

「何じゃ──??」

『送り出しちまった立場上強くは言えねェが……お仕置きは程々になとウズメの奴にゃあ言っておく』

「お~!!た、助かるのじゃ!!」

『グラララ……あまり期待はするなよ、じゃあな』

 

 

 白ひげとの通話が切断され電伝虫の姿が元通りになると同時に、海軍側やギャラリーの間に安堵の溜息が漏れ出した。白ひげ海賊団と海軍。どちらも共にこの大海原に多大な影響を与える勢力である。その二つが激突したとなれば間違いなく海は荒れ、"大海賊時代"始まって以来誰も経験したことのないような大きな戦いが起こってしまう。それが回避されたのだ、安堵も一入だろう。

 

 

「待て不死鳥」

「……まだ何かあんのかよい」

 

 

 と、安堵したのも束の間。荷物を纏めてこの場を去ろうとしているマルコの背中にガープが声を掛ける。再び剣呑な空気が立ち込めるものの、当のガープは鼻をホジホジしながら音を立てて煎餅を齧るばかり。元より手を出す気は既に無いようだ。

 

 

「楽園に来とる目的を言え。流石におぬしの目的を聞かんで帰ることァ出来んわい」

「……エースを探してんだ、邪魔はしねェでくれよい」

「エースじゃと?……となるとエースを探す理由はそこのお嬢ちゃんか」

「ん?なんじゃ?」

「ふむ……似とるな」

「???」

 

 

 母親に似た端正な顔立ちの中に、かつて死闘を演じた男の面影が見え隠れしているのがよく分かる。外見と年齢が違い過ぎるのが気に掛かるが、まぁそういう種族なんじゃろうと、ガープは深く考えるのを辞めた。面倒臭くなって思考放棄したとも言う。

 

 

「サクヤ、そろそろ行くよい」

「うむ!!食糧も一杯貰ったからな!!これで帰りまで持つじゃろう!!」

「……ここまで信用出来ねェ言葉はなかなか聞かねェよい」

「るふぃ──!!話の続きはまた今度じゃ!!また会おうぞ!!」

「あァ!!エースに会ったらよろしく言っといてくれ!!!また会おう!!サクヤ!!」

 

 

 サクヤとルフィが再会を約束する言葉を贈り合う。あっけらかんとした別れではあるが、実に海賊らしい別れ方とも言える。ビブルカードも無ければ、電伝虫の連絡先さえ知らない。それでも結んだ縁は、きっと何処かで再びお互いを結びつけてくれるだろう。サクヤもルフィも、不思議とそんな予感に駆られるのであった。

 

 不死鳥に変化したマルコの姿に少年心を刺激された男達の雄叫びを浴びつつ、サクヤ達はウォーターセブンを後にする。次なる目的地は、バナロ島。周辺の島々に詳しいアイスバーグに訊ねたところ、ビブルカードが差し示す方角には巨大な"バナナ岩"が鎮座する特徴的な島があるのだとか。

 

 ウォーターセブンから三、四日程の距離にある島で、近年になって大きな町が開拓者達の手によって形成されたようだ。まだ世界政府や海軍の手が及んでいない為、しばしば海賊の襲撃を受けることもあるが、新進気鋭な住民達によって町の治安は守られているようである。

 

 

(海賊が隠れ潜むにゃァ…打って付けな島だな)

 

 

 何処かで探し人の情報でも入手したのか、もしくは虱潰しに島々を巡っていて、次はバナロ島だっただけなのか。エースの性格からして後者のような気がしないでもないが、どちらにせよバナロ島で出会える可能性は高いだろう。

 

 

(エースの奴、サクヤの正体を知ったら驚くだろうな……楽しみだよい)

 

 

 サクヤの正体を知ったら果たして何と言うだろうか。頭でっかちなエースの事だ、きっと信じずに顔を真っ赤にして事実を受け入れやしないだろう。怒った表情のエースを思い浮かべてマルコは小さく笑う。それに加えて、エースの出自を家族の皆が知ってる事も伝えたらどうなるだろうか。その時のエースの反応を非常に楽しみにしているマルコであった。

 

 

『よしッ!!!宴だァ─────ッ!!!』

「あ───!!!マ、マルコ!!宴じゃ!るふぃ達が宴を始めておるぞ!!戻ろう!!」

「諦めろアホ」

 

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