鬼っ子痴女海賊団ドタバタ珍道中   作:黒雲あるる

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第二話

 マルコは目の前で繰り広げられる光景を見て恐れ慄いていた。

 

はふはふはふはふはふ!!

 

 甲板一杯に用意した数々の料理が次々と幼女の胃袋へ消えていく。あの小さな体の何処に入っているのか、こいつの胃袋はどうなっているんだと文句を言いたくなる程の喰いっぷり。

 

 明らかにあの小さな口には収まらないだろうという料理が、瞬きした次の瞬間には皿の上から消えている。ポッコリと膨らんだ腹を見る限り胃袋には収まっているだろうことは辛うじて理解出来たが…とても現実とは思えない光景に一番隊の面々は口をあんぐりと開けて呆然と眺めることしか出来ないでいた。

 

 マルコはこいつを助けたのは間違っていたかと早くも後悔し始める。とりあえず今夜どころか本隊と合流するか、ナワバリ内の何処かの島に寄り食料を分けてもらうまで食事抜きなのは最早確定事項。一週間分は備蓄していた一番隊の食糧を、あろうことかこの幼女は一瞬のうちに食い尽くしてしまったのである。

 

「…腹立たしいぐらいの良い食いっぷりだよい」

 

 つい先程の事だ。

 

 "新世界"のナワバリを巡回中に、軍艦の残骸にしがみ付いて漂流している幼女をマルコ達一番隊の面々が発見し保護したのは。

 

 恐らくは"偉大なる航路"(グランドライン)特有の突飛な現象に遭遇して船が沈没したか、もしくは海賊に襲われて乗っていた船を沈められたかのどちらかだろう。

 

 現在地は〝四皇〟同士のナワバリが鬩ぎ合う、"新世界"の中でも指折りの危険海域と言われている場所である。余程の用が無い限り此処に近付く愚か者は存在しないし、この海域を通るのは専ら海賊か監視任務に就く海軍ぐらいのものだ。

 

 他にも生存者がいるかもしれないと考え周囲一帯を隈なく捜索してみたが、幼女以外の生存者は発見する事は出来なかった。見た目からして齢十~程なのは明白。彼女だけで海に出たとは到底考えられず、保護者もしくは親が同じ船に乗っていた可能性が高い。

 

(……ま、詳しい話は食事を終えてからだな)

 

 そしていざ食事が終わり、何故漂流していたのか詳しい話を聞こうとしたところ…なんと食事が終了したと同時に幼女は甲板に突っ伏し、豪快な鼾を掻きながら夢の中へ旅立ってしまうのであった。

 

「寝るの早ェなおい!!」

 

 大声を上げても全く微動だにしない、完全に夢の中である。お前はウチの二番隊隊長の生き別れの妹かと、思わずツッコミを入れたくなる程の爆睡っぷりに呆れ果てる。

 

 ワノ国の伝統衣装によく似た衣服がはだけ、未発達の大事な部分が見え隠れしていると言うのに、それでも尚幼女は手を動かすことを止めずひたすら食べ続けた。一体どんな育ち方をしたらこんな羞恥心の欠片も無い粗暴な女になるのか。親の顔が見てみたい、きっとろくでもない親に違いない。

 

(…見付けたのが俺達で良かったよい)

 

 もし悪逆非道な"百獣海賊団"に見つかっていたら、問答無用で連れ去られ慰み者コースになっていただろうことは疑いようもない。悔しいが見目だけは麗しいと認めざるを得ない幼女だし、数年後には更なる美女に成長するだろうなと言う確信がマルコにはあった。

 

 だが如何な"百獣海賊団"と言えど、あの食事風景を見てしまったらそんな劣情も消え失せるのではないか?そんな気がしなくもない。それ程までにあの食事風景に一番隊の面々はドン引きしていた。

 

(…俺も寝るか)

 

 見張り役の部下が豪快に鼾を掻いて寝る幼女に毛布を被せているのを見つつ、マルコは船室へと戻る。額に生える小さな角や、何処から来たのか等々聞きたい事は山ほどあったが…詳しい話は後日、幼女が目を覚ましてからの仕切り直しとなり、マルコ達は空腹に苛まれながら夜を明かすのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

助けてくれて感謝する!お陰で元気一杯じゃ!

 

「そりゃ良かったよい、空腹を我慢した甲斐があったってもんだ」

 

 翌朝。良く晴れた昼下がり、陽が高く昇りきった時刻に幼女は漸く目を覚ました。

 

──??腹が減ったのなら飯を食えば良かろう?

 

「どっかの誰かさんが食糧全部食っちまったから食えねェんだよい!!」

 

な、なんと!?とんだ食いしん坊ではないか!何処の阿呆じゃそやつは!?

 

「「「「おめェだよ!」」」」

 

わ、儂かァ~~~!?

 

 黙々と仕事を熟しながらも、マルコと幼女のやり取りをこっそり聞いていた一番隊の面々が思わずと言った様子でツッコミに加わる。

 

 傍から見ればこの光景は『幼女に劣情を催した男共が、幼女を襲おうとしている』光景にしか見えない。少なくとも海軍や一般人が見れば十中八九そう判断する場面だ。海軍がもしこの場面を見ていれば、きっと義憤に駆られ幼女を救わんとする一心で武器を手に取るだろう。

 

 その相手がたとえ"四皇"の一角である"白ひげ海賊団"であろうとも。

 

うむむ…儂の島ではあれぐらいの量、寧ろ少ない方なのじゃが…

 

「あぁいや、食糧の件はもう構わねェよい…食糧を分けてもらう為にこれから予定を早めて本隊と合流する予定だからよい」

 

 ただ実際のところは幼女に食糧を全て食い尽くされてしまい、空腹に苛まれている"白ひげ海賊団"と言う構図なのだが。しかし海軍の情報操作と『海賊は悪』という流布によって、人情に厚い彼等"白ひげ海賊団"も一括りにされているのが実情だ。

 

おお!なら少しばかり遅い朝食だな!!儂、腹減ったぞ!

 

「まだ食うつもりか!?少しは遠慮しやがれってんだよい!!」

 

 一番隊の食糧だけで飽き足らず、お次は本隊の食糧までも食い尽くすつもりらしい。昨晩あれだけ食べたのにまだ足りないのかと、名も知らぬ幼女に声を張り上げる。

 

(流石にあの量を食い尽くすなんてこたァ……ねェよな?)

 

 本隊にはこの船に乗る一番隊よりも大勢の仲間が生活している為、食糧も一番隊と比べ物にならない位の量が備蓄されており、少なくとも一か月分以上の備蓄がある筈だ。流石にその全てを食い尽くされるなんて事は無い筈だが……言い切れないところが何とも恐ろしい。

 

「あァ~聞きそびれてたが、お前さん何処から来たんだよい?家族はどうした?」

 

 だが、何とも不安を拭い切れなかったマルコは本隊の食糧が犠牲にならないで済むように、一刻も早く居るか分からない保護者に引き取りに来て貰おうと、一縷の望みに掛けて幼女に保護者の有無を問いた。

 

家族はおらん!儂一人で島を出たからな!きっと今頃はてんやわんやの大騒ぎになっとるじゃろうな!ワハハ!

 

 その答えを聞いた途端、マルコは崩れ落ちる。

 

 随分長いこと漂流していたらしい衰弱した幼女を、即座に助けた過去の自分を一発ぶん殴りたい気分に駆られる。"助けない"なんて選択肢はハナから存在しないが、それでもお前が助けようとしている幼女は色々と規格外の存在だぞと、忠告のつもりでぶん殴りたい。

 

 兎にも角にも、幼女を乗せたまま本隊と合流するのは確定事項となった。

 

「…島を出た目的は?まさか目的も無く飛び出したって訳じゃあねェだろうよい?」

 

 此処は"新世界"だ。世界のどの海よりも遥かに危険な海で、大の大人でも海に出るという事は限り無く"死"に近付く行為であると認識する海域である。

 

 きっと幼女自身も、親から島の外がどれだけ危険な海なのかという話を耳にタコができるぐらいに聞いている筈だ。"新世界"に浮かぶ島に住む子供達はそうして大人へと成長していくのだから。どれだけ危険かを理解しておきながら、それでも尚たった一人で海に出なければならない程の理由とは一体何なのか。

 

父を探しておる!儂が生まれる前に島を出てるから一度も会うたことはないがの!名は"ろじゃー"と言う!

 

「ロジャー……だと……?」

 

 聞き慣れた言葉の羅列が幼女の小さな口から発せられた。

 

 此処最近ではその名を聞く機会は多少減りはしたが、それでもこの"大海賊時代"始まりの切っ掛けとなった男の名だ。その男の処刑から数十年経った現在でも語り継がれる存在である。尤も、その内容の殆どは悪評ではあるが。

 

(…まぁ同名の男なんだろうよい、ロジャーが死んだのは二十年以上も昔の話だ)

 

 確かに息子、娘がいる可能性は無いとは言い切れない。しかし、当時の海軍はロジャーの血筋を根絶やしにするべく、当時生まれたばかりの素性がハッキリとしない赤子を探し出しては次々と惨殺している。もし仮に海軍の蛮行を生き残っていたとしても、"現二番隊隊長"と同じ年頃になる筈だ。

 

 しかし、幼女の年齢はどう見ても齢十~そこらである。

 

 ペラペラと喋っているし、生まれたばかりの巨人族の可能性も無いだろう。小さな角などの些細な違いはあるが、腕の関節が二つある"手長族"なんて人間も存在するぐらいだ。その程度の違いでは、人間以外の種族であるとは到底考えられない。

 

「あァ~~なんか写真とか持ってねェのかよい?顔さえ分かりゃァウチの連中で知ってる奴が居るかもしれねェよい」

 

うむ!そう聞かれると思い島を出る時に持ってきておるぞ!儂が乗ってきた軍艦に積んでおった筈じゃ!

 

「…お前さんがしがみ付いて漂流してたボロボロの軍艦か?救助した時にゃァ積み荷らしきもんは無かったよい」

 

な、なんとォ!?

 

 手っ取り早く事実確認をするには本人の写った写真を見るのが一番だが、幼女を救助した際には半分沈み掛けの状況で他に積み荷らしき物も無かった。実際、救助した直後にボロボロの軍艦は海に沈んでいったし、既に流された後だったのだろう。あと数刻発見するのが遅れていたら、幼女も軍艦と運命を共にしていたところだ。

 

うむむ、あの手配書が唯一の手掛かりだったんじゃが……

 

「ん?賞金首なのかよい?ロジャーなんて名前此処最近で聞いたこたァねェが………他に手掛かりはねェのかよい?例えば…そうだな、ファミリーネームは覚えてるか?」

 

ふぁみりぃねぇむ…?なんじゃそれは?

 

「あァ~~初対面の人間だとか…親密な人間以外に最初に名乗る名だよい、お前のオフクロさんから聞いたこたァねェかよい?」

 

うむむ…母上は"ろじゃー"としか言うておらんかったから分からんのぅ…

 

「……となると、手掛かりはねェって訳かよい」

 

 幼女をこれ以上不安にさせない為にも口に出す事は決してしないが、現状で打てる手は無くなってしまった。手配書の顔は覚えている様子だが、生憎一番隊には手配書は持ち込んでいない。本隊と合流してから"ロジャー"と名乗る男の手配書を探し出して確認させるしか方法は無さそうだ。

 

「マルコ隊長!オヤジから電話です!『何かあったのか?』と!」

 

 腕を組んで仲良く頭を悩ませるマルコと幼女に部下が呼び掛ける。電話の相手はマルコを始めとする"白ひげ海賊団"に所属する船員全ての"オヤジ"──最強の大海賊"白ひげ"ことエドワード・ニューゲートからであった。

 

「あァ、すぐに行くよい」

 

 予定を早めて合流する旨を伝えたのはつい先程だと言うのに、我らがオヤジ殿は随分と心配性だなとマルコはこそばゆい笑みを浮かべる。きっと幼女の母親も、同じように心配していることだろう。なるべく早く親元へ帰してやりたいところだが、恐らくこの様子では本人は父を見付けるまで帰ろうとしないだろうなと容易に予測出来る。

 

(…しっかしまァヤるだけヤってあとは知らんぷりたァロクでもねェ男だよい…ま、大半の海賊はそうかもしれねェが)

 

 幼女を甲板に残し、マルコは電伝虫がある船室へ向かう。

 

 その道すがら考えるのは幼女の父の事だ。何かしらの事情があったのかもしれないが、それにしても身体を重ねた女と生まれてくるであろう娘をほっぽり出して島を出た挙句一度も島に帰らないとは、これをロクデナシと言わずして何と言うのか。

 

(…こりゃ思った以上にあのガキんちょに肩入れしちまってるかよい?)

 

 似たような境遇の幼女に情でも移ったのか、それとも過去の自分自身を幼女に重ねているのか。もしくは、自分に子供がいれば、あの位の年頃だろうかと考えたからか。

 

「俺らしくねェ、柄でもねェよい──……あァオヤジ、俺だ」

 

『おう、マルコか?予定を早めて合流すると聞いたが、何か問題でも起きたか?』

 

「あァ実は──……」

 

 どちらにせよマルコにとって、幼女が何処か放ってはおけない存在であることは──確かであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「センゴク元帥!緊急の報告が!」

 

 場所は移り変わり──赤い土の大陸(レッドライン)及びシャボンディ諸島に程近い海域に位置する海軍本部マリンフォードにて。

 

「……騒々しいな、海のクズ共が何かやらかしたか?」

 

 荒々しく入室した部下に視線を向けず、手元に置いてある何かしらの資料を読み続けながら、ノックもせず入室した部下に棘のある応対を示すセンゴク。

 

「いえ!少々気になる通信を傍受しまして…"白ひげ"と一番隊隊長"不死鳥のマルコ"の通信記録なのですが…」

 

「!」

 

 部下の口から飛び出たビッグネームに、こめかみをピクリと動かして伏せていた目線をゆっくりと上げていく。

 

「半楽隠居中の男と息子の電話か…自分の死期を悟って葬式の段取りでも相談していたか?内容は?」

 

 近頃は全ての雑事を息子の隊長格達に任せて、自身はナワバリから出る事もなく半分楽隠居していると報告を受けている。ナワバリの運営に関しても、自身がしゃしゃり出る事はせず、ドンと構えて息子達に任せているようだ。

 

「はっ!少々断片的でありましたので、書面に記しております!御確認を!」

 

 さてさて何が書かれているのやら、とおっかなびっくりな様子でセンゴクは部下から手渡された書面に目を通した。

 

『……ジ、ロジャーの娘を名乗─……を保護した─……食…──食い尽……れ──……よい』

 

「……………ふう。いかんな、年を取った所為か文字が読み辛くて叶わん」

 

 眼鏡を外し、大きく溜息を吐きながら椅子に身を預け天井を仰ぎ見る。

 

 "ロジャーの娘"などと言うフザけた文字が見えた気がしたが、きっと気のせいだろうと思わず現実逃避する。此処最近は働きっ放しでロクに休んでいなかったから、疲れて幻覚でも見ているのだろう。心なしか胃の方からも鈍痛が走っているし、身体が休めと警告しているに違いない。

 

 センゴクはそう結論付け、常備していた胃薬を取り出し素早く飲み干した。

 

「あ、あの……センゴク元帥…?」

 

「…………何だ?」

 

「…い、いえ!…その、何も対処しなくて宜しいのでしょうか……?」

 

「……ガ─…を呼べ

 

「はっ?……も、申し訳ありません!聞き取れなかったのですが…今何と…?」

 

ガープの馬鹿を呼べと言っとるんだァ~~~!!!!!

 

「りょ、了解しましたァ!!!」

 

 自分は何も悪くないのに、海兵としての任務を忠実に熟しただけなのに、と涙ぐみながら退室する海兵を見送ったセンゴクは、執務机を叩き割らんとする勢いで黒く染まった右手を机に叩き付けた。

 

「あのロクデナシめ…!息子だけでなく娘まで残していたか…ッ!!」

 

 衝撃により数々の資料が執務室一杯に舞い散らばる。散らばった資料には一人の女性、そして雀斑の目立つ上半身裸にテンガロンハットを被った男の手配書が張り付けられていた。どうやら散らばった資料の全ては、この二人の身辺調査報告書のようであった。

 

 手配書の青年の名はポートガス・D・エース。そしてもう一枚の資料に写っている女性の名はポートガス・D・ルージュと言い、手配書の青年の母親だと報告書には記されていた。

 

 そして報告書にはこう続いている──父の名はゴールド・ロジャー…つまり、この青年は"海賊王"の遺児だということ。

 

 母親のルージュはエースを出産した際の過度な負担が祟り、既にこの世を去っている。だが息子のエースは未だ存命しており、現在は"白ひげ海賊団"に所属している事が確認されていた。

 

 忌まわしき"海賊王"の血筋が今も尚この海を我が物顔で闊歩している事実に、センゴクは拳を固く握り締め不快感を露わにする。

 

 長らくその行方を追っており、本隊を離れ単独で行動しているらしいまでは掴めたものの、現在地までは絞り込めていない。目撃情報を加味した上で推測すると、恐らくは"楽園"の何処かには居るのではないかと結論付けた。

 

「居場所だけでも把握しておくべきではあるが…相手は"白ひげ海賊団"だ、慎重に事を運ばねば……」

 

 そして、エースの所属する"白ひげ海賊団"は"四皇"の中でも最強と謳われる海賊団だ。その勢力は海軍に匹敵しかねない程巨大であり、迂闊に手を出せば壊滅とまではいかなくとも海軍側も甚大な被害を被るのは明らかであった。

 

 そして更に厄介なのは"白ひげ海賊団"と事を構えることになれば、間違いなく残りの"四皇"が漁夫の利を得んとして戦争に介入してくる点である。

 

 "赤髪のシャンクス"が率いる少数精鋭の"赤髪海賊団"

 

 最強の生物と称される"百獣のカイドウ"が率いる"百獣海賊団"

 

 幼少の頃から危険人物としてマークされていたシャーロット・リンリンが率いる"ビッグマム海賊団"

 

 中でも特に高い確率で介入してくると予測されるのは"百獣海賊団"と"ビッグマム海賊団"だ。両海賊団共に"白ひげ海賊団"と同様で、海軍に匹敵しかねない勢力を誇っており、どちらか一方が戦争に介入すれば残った方も介入してくるとセンゴクは見ていた。

 

 そうなれば全世界を巻き込んだ全面戦争に突入し、何の罪もない善良な市民達が犠牲となる。それだけは何としてでも避けなくてはならない事態であった。

 

「"火拳"一人だけでも手を焼いとると言うのに………っ!」

 

 唯でさえ頭を悩ませる案件で一杯一杯だと言うのに、ここにきて新たな頭痛の種の登場ときた。

 

 "ロジャーの娘"

 

 …確かに可能性が無いとは言い切れない。そしてセンゴクには存在するかもしれないと思い至るだけの、心当たりがあった。

 

 忘れもしない二十六年前。

 

 逃走するロジャー海賊団をガープとおつると共に追い掛けていたあの時のこと。このままでは逃げ切れないと悟ったロジャーは、未だ嘗て誰も生還したことのない嵐に突入して、まんまと海軍の追跡を振り切ったのである。

 

 そうして一週間が経過し、センゴクとおつるはロジャーは死んだのだと結論を出した。しかしガープだけは『あいつがこの程度で死ぬ筈がねェ、絶対に生きてる』と諦めずにおり、結局二人掛かりで説得しても聞く耳を持つことは無かったので、仕方なく二人で帰還準備を始めた。

 

 一週間も任務から離れていたのだ、帰ったら仕事は山積みになっているだろう。センゴクとおつるは半分諦めの境地で包囲網を解き、海域を離れつつあった。

 

 ロジャー出現の報告が齎されたのは、その直後のことであった。

 

(…今思えば、あの時がロジャーを捕らえる最大の好機だったのかもしれん。ガープの言葉をもう少し信じていれば……)

 

「……なんじゃなんじゃ、随分と荒れとるのぅ。とうとうボケたか?部下に八つ当たりするのも考え物じゃぞ」

 

 ……──前言撤回。

 

~~ッ貴様が"火拳"を見逃したからこうなっとるんだぞッ!!"海軍の英雄"などと称賛されてなければおれがとっくの昔に処刑しとるところだッ!!

 

「え?わし怒られる為に呼ばれたの?えェ~~~………」

 

 こいつは人を怒らせる天才だ。センゴクは改めてそう認識する。

 

 ガープの直感に耳を傾けていればと、反省し掛けていたタイミングで『ボケたか?』と言われれば、そりゃあ誰でも頭にくる。しかし、それにしても今回の怒り具合は過去類を見ない程に怒髪天を衝いているな、とガープは考えた。恐らく、まだ何かあるなとガープは直感で不穏な空気を感じ取った。

 

 ──こういう時は、そそくさと退散するに限る。

 

「待てガープ、貴様にはもう一つ聞きたいことがある」

 

 だが、"仏のセンゴク"からは逃げられない。黒く染まった右手でガシッと肩を掴み、空きっ放しの扉へ身体を向けていたガープを強制的に自分の方へ振り向かせる。

 

「この男は貴様の血縁者だな?」

 

 開いた方の手には一枚の手配書。

 

 目の前に向けられたその手配書には、見慣れた孫の顔が写っていた。

 

ル、ルフィ~~~~~~~~!!?

 

 

麦わらの一味船長

"麦わらのルフィ"

モンキー・D・ルフィ

懸賞金3000万ベリー

 

 

やはり貴様の血縁者か!!どう責任を取るつもりだ貴様ァ!!

 

 ──仏の顔も三度まで。

 

 モンキー・D・ガープの頭頂部に、三段重ねのタンコブが出来上がるまで──あと十秒。




一方その頃のモンキー・D・ルフィは…

・シェルズタウンをモーガンの悪政から解放する。

・オレンジの町をバギー海賊団の支配から解放する。

・シロネコ村でキャプテンクロの野望を阻止し、ゴーイングメリー号を手に入れる。

・海上レストラン「バラティエ」でクリーク海賊団と交戦し、撃破する。

・コノミ諸島をアーロン一派から解放し、懸賞金3000万ベリーが懸けられる。←今ココ
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