Xenoblade 2nd Ignition   作:這い寄る睡眠

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 タグの通りの処女作ではありますが(二度目)

 少年少女の冒険譚、始まります。


01.記憶の彼方より

 果てしなく広がる緑と青空。

 それは、この世界(アルスト)にはあるはずのない景色。

 其処には───二人の少女と、漆黒の鎧を纏う騎士の姿が在った。

 

 

「──少女達よ。

 君達は、本当に『楽園』を目指すのか?」

 

 

 黒き騎士は少女達に問う。

 

 

「決まっています。

 これは、”私達”二人で決めたこと。

 もう、誰も悲しむことのないように」

 

「────■■■、君もそれに異論はないのだな?」

 

「…………」

 

 

 白き少女は答えない。

 言葉に出来ぬ思いから、塞ぎ込んでしまった子供のように。

 

 

「最初に言い出したのは、■■■ちゃんの方なんです。

 (とうさま)の力なら、私達を完全に消し去ることも出来るはず。

 それに、『楽園』の存在を証明できれば、全ての人々が救われる。

 だからこそ───”私達”は、必ず辿り着きたいんです」

 

 

 赤き少女は告げる。

 それが、自分達の選んだ道である、と。

 

 

「そうか──承った。

 君達の願いを叶えることが、()()の望みでもある。

 その旅路、僕が最後まで見届けよう」

 

「はい──アッシュ、よろしくお願いしますね」

 

 

 その言葉を聞いた矢先、『楽園』と呼ばれた世界は揺らぎ始める。

 

 

「ところで、■■■。

 先程から、外が少々騒がしくなったようだね?」

 

「船の引き揚げが、始まったみたいですね─────」

 

「……目覚めの時は近い、か」

 

 そう言って、黒き騎士は『楽園』から姿を消す。

 

「あ、アッシュ! 何処へ──」

 

「試すのさ! この船を引き揚げた奴が、君達と同調するに足るドライバーであるかどうかッ! 

 それに、この役目は■■■(英雄)から引き受けたものでもある。

 天の聖杯の守護者(ガーディアン)の務め、きっちり果たしてみせるとしようッ!!!」

 

 

 *

 

 

 

 俺達は、リベラリタス出身のサルベージャーの小僧を引き連れて古代船の中を進む。

 見てくれは情報通り、内部の防衛機構も大したことはない。

 後は小僧に封印を解かせて、この船に眠るであろう目標──天の聖杯(あいぼう)を回収し、船を引き揚げたサルベージャー共を、一人残らず()るだけだ。

 そう思っていた矢先、俺達の眼前に───湧き上がる焔と共に、銃剣を背負った異形の黒き騎士が現れる。

 

 

「──(アツ)ッ!? なんなんだ、こいつッ!?」

 

「──────────ッ!!!!!」

 

 

 黒騎士は獣の咆哮とも戦士の雄叫びとも取れる声を声を上げながら、辺り一面を焔で包み込む。

 

 

「『焔の黒騎士』か……」

 

 

 俺達イーラの首領、シンは、ぽつりとその騎士の名を呟く。

 

 

「ほう…………こいつは、思わぬ収穫だな。

 まさか『焔の黒騎士(ヤツ)』までここに眠っていたとは」

 

「メツ、なんでそんな冷静に──あいつのことのこと知ってんのッ!?」

 

「あいつのことを知ってるかなんて、どうだっていい。

 とにかく片づけなきゃ先には進めねえってことだけは確かだ。

 面白れぇ──相手になってやるぜ、焔の黒騎士(ナイトブレイザー)ッ!」

 

 

 黒騎士の放つ焔が形作る領域で、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 *

 

 

 

 炎に包まれる船内で、刃と刃が激突する。

 

 

(メツ……(デバイス)ごと貫かれ、雲海に沈んでもなお生きていたとはッ! 

 それに後ろで静観している、鬼面の男──あれは、『イーラの秘宝』シンッ!)

 

 

 メツと呼ばれた男は、黒騎士の銃剣による攻撃をブレイドと共に軽々と受け止める。

 その隙に青い潜水服の少年が攻撃を仕掛け、傷ついた仲間をグーラ人の少女とブレイドが回復する──という戦法のようだ。

 

 

(メツはガードが堅い。 仮に一撃与えたとしても、あの少女に回復されてしまう。

 このままではこちらの身体が持たない──しかし、回復役を崩せばッ!!)

 

 

 黒騎士は標的(ターゲット)をグーラ人の少女に変え、大型の銃剣(バイアネット)「ナイトフェンサー」の銃口を向ける。

 

 

『ガンブレイズッ!!』

 

 

 鎧の中から発せられるくぐもった声と共に銃爪(ひきがね)を引き、少女に向けて焔を帯びた弾丸が放たれる。

 

 

「ッ!? しまっ──」

 

「お嬢様ッ!」

 

(この位置なら、彼女のブレイドもガードには入れまいッ!)

 

 

 少女のブレイドが彼女を庇おうとするが、炎に阻まれ到底間に合わない。間違いなく弾丸は直撃するだろう──。

 しかしその弾丸は、少年の剣によって打ち消された。

 

「大丈夫か、ニア!?」

 

「レックス!?」

 

「彼はここまでの敵とは違い、機転も利くようです!」

 

「あ、あぁ──」

 

 

 少女は自分が少年に助けられたことを、意外そうな目で見ていた。

 まるで自分には助けてもらえる程の資格はない、とでも言いたそうな顔で。

 

 

(あの子達……出会って日が浅いのか、まだ信頼関係(キズナ)が薄いと見えるな。

 しかし、あの少年の動きは見事だった。

 金色の瞳を持つ少年──レックスと言ったか。 まさか、かの英雄と関係がある、とでも?)

 

 

 そんなことを考えながらも、黒騎士は次の行動へと移る。

 

 

「お前ら、呆けてるんじゃねえッ! 次が来るぞッ!」

 

『アクセラレイターッ!!』

 

 

 その声と共に、黒騎士の身体は音よりも速く加速し──彼らの視界から”消えた”。

 

 

「消えたッ!? 一体どこから──」

 

「レックス、上だッ!」

 

「──ッ!!!」

 

 

 ニアの警告によって間一髪、その攻撃は鍔迫り合いとなる形で防がれた。

 そのまま剣戟へと転変し、その中で黒騎士は語りかける。

 

 

『少年──いい太刀筋だなッ! ドライバーでもないのに、ここまで出来る人間がいるとはッ! その金色の瞳、やはりアデルの──』

 

「何者だあんた! 何でオレ達を襲うんだッ!」

 

『こういう場所に守護者(ガーディアン)がいるのは当然だろう! だから僕は、此処にいるッ!!』

 

「だったら早く通して──」

 

「小僧、そのまま抑えてろッ!」

 

 

 黒騎士とレックスの問答は、横槍に入ったメツの攻撃によって断ち切られる。

 

 

「ソードストライクッ!!」

 

『ッ!!! チィッ!!』

 

「あ、危ねぇ……」

 

 レックスを掠めそうな程の距離から放たれたその一撃によって、黒騎士の持っていた銃剣は弾き飛ばされた。

 例えどれほど強力なアーツを使えたとしても、武器を奪えば封じられる。

 当然のことだ──誰もがそう思っただろう。

 

 

「──フッ、これで終わりだな。 『焔の黒騎士』さんよ」

 

「こうなりゃ、もうアーツは使えねぇなァ!?」

 

 メツと彼のブレイドは告げる。

 先程の剣戟から、黒騎士の動きは明らかに鈍っている。

 鎧の各所にある赤い光を放つ部位は、少しずつその輝きを失っていた。

 しかし黒騎士の身体からは、なお燃え上がる闘志が溢れている。

 それはどうかな、と黒騎士は呟き、徒手空拳の体勢を取った。

 

 

(見様見真似だけど、それでも──ッ!!)

 

 

 それを後方から見つめていたシンが、その構えに僅かに表情を変えたことには、誰一人として気付かなかった。

 

 

「おい、小僧ッ! 焔の黒騎士(アイツ)が落とした武器、拾ってこいッ!」

 

「ッ!? あんた何言って──」

 

「とにかく拾えッ! お前の持ってるそのナマクラよりよく斬れるだろうよッ!」

 

「い、今ナマクラって──わかったよ、拾ってくるから援護頼む、ニア!」

 

「わ、わかった! ビャッコ!」

 

「承知ッ!」

 

 黒騎士の猛攻を受け止めながら、メツはレックスに促す。

 渡すまいと言わんばかりに黒騎士はその場にある炎を操るが、ニアのブレイドによって防がれてしまった。

 

 

『三連花ッ!』

 

「効かねえ、よッ!!」

 

「バタフライエッジッ!」

 

「───ッ!!」

 

 メツに対して強引にアーツを発動したが、弱りきっている今ではその軌道も鈍り、読まれてしまう。

 隙が見えたとばかりにニアのアーツが直撃し、思わず体勢を崩す。

 そして───

 

「レックス、今だッ!」

 

「うおおおおおおお────ッ!!! ダブルスピン───ッ!?」

 

 レックスが最後の一撃を与えようとしたその瞬間───黒騎士の身体は、音を立てて崩れ去った。

 黒騎士は今にも消えそうな掠れた声で、レックスに告げる。

 

 

『あの少女との連携、見事なものだったよ、少年。 その金色の瞳──君になら、この先へと進めるだろう。 その銃剣も持っていくといい。 ただし、背後には──』

 

 そう言い残し、微かに輝いていた彼の鎧は、光を失った。

 

 

「ようやく片付いたか……全く、何年経っても面倒な野郎だ」

 

「何でだろう……急に襲ってきたけど、悪い奴という感じがしなかった」

 

「アタシも同感だ。最後はまるで、アタシ達を試してたみたいに──」

 

「……彼が語った通りであるなら、このに船に眠るモノを護っていた、ということなのでしょう」

 

「………………」

 

 

 シンは多くを語らない。ただ静かに、そこに残された黒騎士の亡骸を見つめている──まるで、旧友の最期を看取るかのような、そんな目をしていた。

 

 

「…………メツ」

 

「……どうした? こいつも回収するか?」

 

「…………あいつは、俺と同じだった」

 

 彼は一言だけ語り、最深部の扉へと進んでいった。

 メツもまたそれに続く。

 それが、シンの望みであるのなら、と。

 

 

「やれやれ……。 おいお前ら! 突っ立ってないで早く来い! 焔の黒騎士(そいつ)の身体は、後で回収する!」

 

 

 

 *

 

 

 

「──見ろよ、シン。 あの紋章、()()()の紋章だ」

 

「……そのようだな」

 

「さっきの奴といい、アデルって──何のことだ?」

 

 

 レックスの疑問に答えるものはいない。

 答えられる者達も、その疑問に答える理由はないからだ。

 

 

「──おい」

 

「……ん?」

 

「その扉を開けろ。

 この扉は、”お前達”でなくては開かん」

 

 

 そう告げたのは──鬼面の男、シン。

 その言葉に疑問を抱いたレックスは、再び問いかける。

 

 

「オレ達じゃなくてはって、どういう──」

 

「いいから早くやれッ! こっちは大金払ってんだぜッ!」

 

 

 しかしメツはその言葉を無視し、レックスに扉を開けるよう急かした。

 

 

「──何だよ、お客だからってえらそうに──」

 

 

 だが、客がそれを望んでいる以上、その指示に従うしかない。

 レックスは扉の前へ進むが、当然初めて見た扉の開け方を知っているわけもなく、開ける方法を探す他になかった。

 

 

「どうやって開けるのかな──」

 

 

 扉の下部にはそれらしきものは見当たらなかった。

 しかし、扉の中央に配置された円形のモノ──メツが「アデルの紋章」と言っていたモノに触れると、扉は機械的な音を立て、開いたのだった。

 

 

「扉を開けるスイッチか!」

 

 

 後ろでその姿を見ていたニアは、驚いた様子で扉の先を見つめていた。

 

 

「やっぱりか──」

 

 

 レックスがその先へ進み、ニアもそれに続こうとしたその時──シンが彼らを引き留めた。

 

 

「待て──奥に、もうひとつ扉がある」

 

 

 ニアは既に開けられた扉の前で立ち止まり、レックスは先程と同じ紋章が描かれている、もう一つの扉を開く。

 

 

「──行くぞ」

 

 

 レックスが先行し、彼の後ろで控えていた一行も、霧のようなものが立ち込める扉の先へと、進んでいくのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「──何だ、あれはッ!?」

 

 

 扉の先でレックスが見たモノ──それは、黒で塗り固められていた船内に突き立てられた、赤き剣。

 そして、その奥で眠る少女の姿。

 先程の黒騎士は語っていた──自分は、守護者(ガーディアン)である、と。

 

 

「あいつは、この女の子を護っていた──?」

 

 

 レックスがそう呟いた瞬間、彼の眼前に突き立てられた剣が──翆玉色の光と共に、覚醒の鼓動を打ち鳴らす。

 其処に眠る彼女は、まだ生きている。

 来たるべき、目覚めの時を待っている──鼓動が、その意思を伝えようとしていた。

 

 

「──オイ」

 

「ああ──間違いない。 ”天の聖杯”だ」

 

「天の──聖杯──?」

 

 

 天の聖杯。

 それは、ドライバーであるならば、一度は耳にするであろう、伝説のブレイド。

 ニアもその噂は知っていた──しかし、そんな御伽噺の中の存在が、自分達の目の前に居る。

 その事実に、驚きを隠せなかった。

 そして──

 

 

「小僧ッ!! そいつに触るんじゃねえッ!!!」

 

 

 その瞬間であった。

 ただのサルベージャーの子供が、『英雄』への道を歩み始めたのは。

 彼は無意識に、剣のコアクリスタルへと手を伸ばしていた。

 メツの声で意識を取り戻すも、時すでに遅く、僅かにその指先が触れてしまう。

 レックスの周囲を、翆玉色の光が取り囲み始めた、その時──

 

 

「──ッ!? かはッ!? 

 あ──な、何で───!?」

 

「悪く思うな。 せめてもの情けだ。 この先の世界を見ずとも済むようにな──」

 

 

 ───彼は、シンの手によって、背中から心臓を刺し貫かれ───僅か十数年の、その人生を終えた。

 その、はずだった。

 

 

 

 *

 

 

 

「──ごめん! まさか盗掘者がメツとシンだとは思わなくて──」

 

「負けちゃったんですか!?」

 

「そのー……あの身体、補給もなしに500年そのままだったから、眠る前に溜めてもらった分がほとんど抜けてて……途中でエネルギー切れを起こしちゃって!」

 

「エネルギー切れを起こしちゃって、じゃないんですよ!? このままだと私達──」

 

 

 声が、聞こえる。

 遠くから、()()()女の子の声がする。

 オレは気づいたら、芝生にうつ伏せになる形で転がっていて、ゆっくりと身体を起こした。

 次に聞こえてきたのは、鐘の音。

 その音と共に一呼吸置いたオレは、目の前に広がっている光景に、目を奪われた。

 

 

「ここは──!?」

 

 

 見渡す限りの大地と、青々と生い茂る緑──そして、透き通るような輝きを放つ青空。

 アルストでは到底見られない、限りなく広がる大自然。

 まさに『楽園』と呼ぶに相応しい光景が、其処にはあった。

 

 

「大丈夫。君を探しに来たのは、彼らだけじゃなかっただろう? それに、君はもう同調したドライバーを、『楽園(ここ)』に招き入れているじゃないか」

 

 

 今度は、さっきとは違う、男の声。

 声の主を探して、周囲を見渡していると──小高い丘に生えた大樹の根本に、赤い衣装に身を包んだ女の子と、黒を基調とした鎧に、赤いマフラーを身に纏った騎士が、そこに居た。

 

 

「……行ってみよう」

 

 

 立ち上がって、大樹の元へ進む。

 ここは何処なのか、何故自分はここにいるのか。

 全部、聞かないと。

 

 

「……目は覚めたかい? 少年」

 

 

 状況が掴めぬまま、黒い騎士に話しかけられて、オレは曖昧な返事をする。

 

 

「──あ、あぁ、はい。 あ、あの──」

 

「──哀しい音」

 

「え……?」

 

「止まないの……ずっと、ずっと昔から──」

 

「止まないって、あの鐘のこと? 法王庁(アーケディア)でも近くに来ているのかな──」

 

 

 鐘の音で思い当たるものは、法王庁(アーケディア)だけだった。

 でもこれは、ただの鐘の音じゃない──あの女の子の姿を見て、そんな気がした。

 そしてオレは、目覚めてからずっと気になっていたことを、ようやく聞くことができた。

 

 

「ねぇ、ここって──」

 

「楽園──争いのない、平和な世界。 そう呼ばれた場所だよ、ここは」

 

 

「え、嘘!? 本当に、ここが──!?」

 

 

 楽園──黒い騎士は、確かにそう言った。

 オレ達が立つ丘から湖を挟んだ対岸には、いくつかの民家と教会が並んでいた。

 確かに、そこには平穏があった。

 巨神獣(アルス)と、巨神獣(アルス)から生まれる資源を奪い合うことのない、平和な世界が。

 

 

「遥かな昔、人と神とが共に暮らしていた世界。そして──”私達”の故郷」

 

 

 隣にいた女の子が、続けて語ってくれた。

 その子の姿は、燃える焔のような赤の衣装、肩まで切り揃えられた赤い髪と、彼女の穏やかな性格を表すかのように、優しく見つめる赤い瞳。

 そして──その胸元には、翆玉色に輝く結晶があった。

 それを見たオレは、彼女がどういう存在なのか、ようやく気がついた。

 

 

「コアクリスタル──君は、ブレイド?」

 

「私の名前はホムラ。そしてこの人は──」

 

「アッシュだ。 さっきは突然襲って済まなかったな、少年」

 

「え? あ……オ、オレは──」

 

「知ってます。 レックス、でしょ?」

 

「ど、どうして、オレの名前を……?」

 

 

 ここが楽園だ、ということだけは聞けたものの、未だに掴み切れない状況に、挙動不審になってしまった。

 アッシュさんが、さっきの戦闘の最中、名前を聞いていたんだ、と教えてくれた。

 ……オレ、一番大事なことを聞き忘れているような──

 

 

「……あれ? そういえばオレ、何でこんな所に──」

 

「あなたは──死んだ。 シンに胸を刺し貫かれて」

 

「シン? 胸を……?」

 

 

 オレが、死んだ。

 その言葉と共に、ここへ来る直前の記憶が戻り始める。

 

 

「思い出した──オレは、あいつに──ッ!!」

 

「大変だッ! 皆がッ! このままじゃ商会の皆が──」

 

 

 そうだ──戻らないと。

 そう思って、元居た場所に駆け出したものの──

 

 

「お、オイ少年ッ! そっちに行ったって戻れるわけじゃ──」

 

「だめだぁッ!! オレ死んでるんだったーッ!!! くっそぉー! 死んでさえいなきゃあんな奴ッ!」

 

「──周りのことを考えすぎて、自分のことが見えてないじゃないかッ!?」

 

 

 アッシュさんに言われた通りだ。

 でも、ここで立ち止まっていたら、商会の皆もきっと殺されてしまう。

 その前に、オレが何とかしないと──。

 

 

「……レックス、お願いがあります」

 

「お願い……?」

 

「私達を、楽園に連れていって」

 

 

 さっき、ここは楽園だと聞いたはず。

 なのにホムラは、私達を楽園に連れていって、と言っている。

 矛盾した説明に、オレは混乱した。

 

 

「楽園──って、ここじゃないの?」

 

 

「確かに、ここにある景色は楽園と呼べるだろう。 でもこれは、彼女の記憶を元に作られた、記憶の遺跡(ただの夢)。 本当の楽園は、別にある」

 

 

「そう──ここは、記憶の世界。 遠い、遠い私達の、記憶の世界。

 本当の楽園は、あなた達の世界──アルストの中心に立つ、世界樹の上にあります」

 

「記憶? 幻……みたいなもんか」

 

「でも無理だよ──オレ、死んじゃったんだろ? 二人の手助けは出来そうもない」

 

 

「──私の命を、半分あげます」

 

「──ッ!?」

 

 

 命を、半分? 

 

 

「そうすれば、あなたは生き返る。私の──天の聖杯のドライバーとして」

 

「天の聖杯の──ドライバー!? そ、それって──」

 

「どうします? レックス──」

 

 

 ホムラは、さっき見せた穏やかな表情から考えられない程、真剣な表情でオレを見つめていた。

 この条件を飲めば、オレは生き返る。

 そうすれば、商会の皆を──いいや、それだけじゃない。

 二人を連れて楽園に辿り着けば、きっと──。

 

「ここは、二人の故郷なんだよね?」

 

「そうだ。 ここは僕達の、始まりの場所」

 

「本当に……ある?」

 

「レックス、あなたの考えていることはわかります」

 

「そう、ここに来ればアルストの運命──死にゆく大地の呪縛から、解き放たれる」

 

「もう、未来に怯えなくて、済む──」

 

 ホムラは、そう答えてくれた。

 オレも、答えはひとつだ。

 

 

「なら、答えは決まってる──」

 

「いいよ、行こうッ! 楽園へッ!! オレが二人を連れていってやるッ!!」

 

「ありがとう、レックス……!」

 

「それじゃ、これからよろしく頼むよ、少年──いや、レックスッ!」

 

 

 そう言って、アッシュさんは鎧の上から笑って俺を撫でてくれた──仮面のせいで顔が見えないから、わからなかったけれど──きっと、笑っていたんだと思う。

 

 

「それでは、私の胸に手を……」

 

「わかった、胸に……胸ッ!? い、いいのッ!?」

 

「おぉ? 一体何を想像したんだ? まさか本当に胸に手を当て──「アッシュ……?」……冗談なんですホムラ様ッ! どうかご勘弁をッ!」

 

「もう……レックス、触るのは胸のコアクリスタルですからね!」

 

「あ、あぁ──」

 

 

 一体ホムラはアッシュさんに何をするつもりだったんだろう──少し考えたけど、忘れた方がいい気がしてきた。

 それよりも、今はホムラに集中しないと。

 そう思ってホムラのコアクリスタルを見ると、剣に触れた時と同じように、翆玉色の光が放たれていた。

 

 

「行くよ──」

 

「えぇ──どうぞ」

 

 

 オレはゆっくりとホムラのコアクリスタルに触れる。

 そして楽園は──再び響いた覚醒の鼓動と共に、光に包まれた。

 

 

 

 

 




 アッシュ vs レックス&イーラ一行との戦闘は、原作ではメガロエッジ・ディブロ戦に相当する場面として書いています。

 拙い文でしたが、評価、感想等お待ちしております。

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