果たせなかった悔恨を   作:@naru

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憎きテストとの死闘もやっと終わり執筆開始でございます。
とまあ、今回は文字数が少ないですが、グッとシリアスな方向に向かう予定です。

それと、アンケートのご協力ありがとうございました!
これからの参考にさせていただきます!




10.此処に居たい

 

「————今、何と‥‥?」

 

 

 まるで時が止まったかの様に静まり返る異様な執務室。

 それほどかけられた言葉が衝撃的だったのだろう。

 俺と相対する信濃は、眼を丸くし、驚いた様子を露わにしていた。

 

 そんな信濃を目の前にしてもなお、無情にも俺はもう一度事実を与える。

 

「もう一度言う‥‥‥信濃、お前の"配属先"が今日決まる」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 バサバサと床に幾つもの紙が落とされた。

 その紙はきっと報告書だろう。昨日と引き続き秘書艦として仕事を全うし、健気にも頑張ってくれていた信濃の手は震えていた。

 

 何故、どうして、と疑問を持つのも当たり前。

 いつも穏やかで温厚であった信濃の目から感じる憤りと困惑した感情。

 その原因が俺にあるというのは勿論分かっている。

 

 だが、俺はそんな信濃に暖かい言葉も元気付けてやる事も出来ない。

 寧ろ冷たく、よりその感情を高めてしまう様な言葉を俺はかける。

 

 

「時刻は11○○(ヒトヒトマルマル)。今から一時間後だ。それまでに準備をしておく様に」

 

 

 そう言葉を言い残し、俺はドアノブに手をかけた。

 

 

 その瞬間————。

 

 

 

 

「どういう事ですかっ‥‥!」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

「僕は横須賀に着任した筈です。‥‥それなのに僕の配属先が決まるというのは疑問でしかありませんっ」

 

 

 比較的穏やかな口調で言葉を並べる信濃だが、その中には納得出来ないという感情が強く感じられた。

 所々声音が震え、怒りを表したかの様な声は俺の心に突き刺さる。

 

 

「これは上からの指示だ。男でありながら艦の魂を宿した者が現れたとなれば、そう簡単に放置する事は出来ないそうだ」

 

「‥‥‥その事をいつから知っていたんですか」

 

 

 その言葉に、俺は思わず息が詰まる。

 これを言ってしまったら、必ず信濃は俺に大きな怒りを現す。俺と信濃の仲も拗れてしまうだろう。

 

 だが、これ以上嘘を重ねたくなかった。罪悪感を少しでも払拭したかった。

 俺は信濃に背を向けながら提督帽を深く被り、言葉を落とす。

 

 

「‥‥‥3日前からだ」

 

 

 そう言葉を告げ、俺はドアノブを引いた。

 

 

 一体、今俺はどんな表情をしているのだろう。

 

 

 ただ分かる事は一つ。俺は心の中にぽっかりと穴が空いた様な感覚に苛まれていた———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして‥‥何ですか‥‥‥‥本当に、何で‥‥っ」

 

 

 閑散とした空間に僕は一人取り残された様な感覚に陥る。憤りと疑問が混じる心中は僕の思考を混乱させた。

 

 冷たく、突き刺す様にかけられた提督の言葉。

 僕は実感したくなかった。その事を考えたくもなかった。

 

 だが、これは紛れもない真実。

 僕は提督に信頼されていなかった。裏切られたのだ。

 それを実感してしまった瞬間、僕の心に強い憎悪が募った。

 

 まるで闇が自分の心を埋め尽くすかの様に侵食する。此処で僕はまた同じ経験をしてしまうのか。強い憎悪に飲まれて自暴自棄になり、最後は自分の身を投げる。

 前世の自分を繰り返すかの如く、既視感を覚える状況に思わず僕はその場に崩れ落ちた。

 

 

「ははっ‥‥‥でも、別に良っか。僕の‥‥いや、"あの艦"の目的は何処でもやろうと思えばできるのだから」

 

 

 そうだ、思えば今の境遇は僕にとって優し過ぎたのだ。周りの人達、環境にも恵まれたこの場所は余りにも贅沢過ぎた。

 僕にはもっと暗い場所がお似合いなのだ。

 

 そう結論付け、僕は乾いた笑いを零す。

 淀んだ感情に苛まれる僕には、何も残らなかった。

 何も希望は無い。助けを乞うことは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その筈だった———。

 

 

「馬鹿っ‥‥‥そんなんで納得出来る訳無いじゃないか‥‥‥」

 

 

 僕はあの暖かさを、心地良さを実感してしまった。

 不安が混じろうが、心地良いと思えたこの空間の生活をそう簡単に手放したくは無かった。

 

 その時、僕は自分の瞳から溢れ出る涙に気づく。瞳を拭えど、それは収まりどころを知らない。

 

 

「僕はっ‥‥どうすればっ‥‥‥」

 

 

 これからの行く末、僕が反論したとしても意見は通らない。勿論違う場所へと移動することになる。

 それを拒絶したくても、拒んだとしてもその結末はきっと変わらないだろう。

 

 例え提督に助けを懇願したところで意味はない。

 提督も軍人だ。上には逆らえないし、命令は絶対。

 

 正に八方塞がりだった。

 助けも乞うことができない。自分でどうにかすることも出来ない。

 

 

 これから‥‥‥僕は一体どうすれば良いのだろうか‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥着きました。どうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

  

 ドアを開けてくれた運転手に礼を返し、俺達は目的地へと到着した。

 高く聳える赤煉瓦の建物。何度も見慣れた筈の海軍本部は、今となっては目にしたくない存在だった。

 

 溜息を吐きたくなるのをグッと抑え、俺は歩みを進める。

 後ろには明らかに暗い表情をした信濃が浮かない足取りで付いて来ていた。

 それもその筈、急にあんな事を伝えられたのだ。

 

 大きな不安を覚えていても不思議では無い。俺に怒りを示してもおかしくないのだが、信濃はそんな様相を見せず、ただ俺の後ろを歩くだけ。

 

 その顔には、きっと涙を流したであろう痕が残っていた。今も残っている事から、長い時間涙を流していたのだろう。

 それに俺はとてつもない罪悪感を感じる。

 優しさのかけらなどない言葉をかけ、信濃を追い込んだ。

 

 『お前の助けになる』と見栄を切った俺は正に口だけ。

 提督として皆を導がなければならない立場の筈なのに、提督達(俺達)がやっている事は逆に信濃を縛り付けている。

 ただ性別が違うだけ。何も艦娘である事に変わりはない。それなのに、信濃にだけ気持ちも尊重せず無理やり居場所を決める。

 何が皆を導く存在だと、反吐が出る様な処遇。そう文句を言ってやりたい。

 

 

 だが、その反吐が出るような処遇を俺自身も行なっているのだ。

 

 そんな俺に、文句を言う権利は無い。

 

 だから、俺は信濃を助けることができない。これは上の命令なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや————違う。

 

 

 

 俺は保身に走っているだけなんだ。

 

 

 

 俺は‥‥‥適当な理由をつけて、逃げ道を作っているに過ぎないのだ‥‥。

 

 

 

 

 

 

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