○元帥(
・今作品の海軍元帥。
・独身。
・男勝りな口調で重々しい威圧感を纏っている為、少し近づきにくい印象が。
・根は優しい一面も。
・目標としているのは前任の元帥。
・好きな物は読書。(意外と言われる事に少し苛立ちがある)
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『忘れないで‥‥あの悔しさを』
『きっと、君は過去を乗り越えられる。そう、信じているから』
いつかのその言葉の意味。
今なら少し分かる気がする。
全ての力と悔恨を託した信濃。それを乗り越える為に僕は此処に現れた。
例え困難な壁が立ちはだかろうと、僕は乗り越えていかなければならない。
いや、これはまだ壁と言える物ですら無いのかもしれない。
でも、僕はこの壁を越えるのだ。
頼もしく、信頼出来る‥‥‥この
○
「さあ‥‥‥決意は固まったかな」
「‥‥‥はい、お陰様で」
元帥の用事も終わり、改めて席に着く俺達。
元帥は席に着くと変わらず鋭い視線を向けるが、もう物怖じはしない。
俺達の面立ちは先程とは違うのだから。
「では、改めて聞かせてもらおうか。君の言葉で、これからの生活の場所を」
「僕が‥‥‥これから生活する場所。‥‥‥‥それは———」
一拍置き、言葉を紡ぐ信濃。
その言葉が心を揺らがせる衝撃的な物になると、元帥は知らない。
「横須賀鎮守府以外に着任する気はありません」
「な、何‥‥‥‥?」
そこで、初めて表情を揺らがせる元帥。
理解出来ない、何故まだそんな事を言い続けるのだ、という感情が見て取れた。
「‥‥‥君はまだ分かっていないのかい? 未だそんな浅はかな希望を持つとは‥‥‥君は話の分かる人だと思っていたのだが———」
「信濃は横須賀鎮守府への着任を望んでいるのです」
そこへ元帥の言葉を遮る様に俺は言葉を切り出す。
「‥‥‥私は雅にも言った筈のだがな。往生際が悪い‥‥」
「"俺"は決めました。例え、貴方が、元帥が受け入れずとも俺は信濃の意見を尊重し続ける。俺は艦を正しく導く提督です。本来あるべき役職を全うするべきですから」
「その役職の中で、私は君より上に位置している事を分かっているのかね。 命令を聞かない軍人、それこそ本来ある役職を全う出来ていない。君は軽々しく言葉を口にするが、覚悟を持って言っているのか?」
覚悟、その言葉は俺の胸に突き刺す様な緊張を走らせる。
俺はこの場所を目指して数々の困難に当たった。
でも、そんな事は分かっていた事だ。
この場所を目指した最初から、ここに辿り着こうと俺は進み続けたんだ。
だから————
「覚悟なんてとうの昔から決めました‥‥‥! 俺は此処に立つ為にひたすら努力して来たんです!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「だからこそ、俺は貴方に言います‥‥‥。信濃は、俺に任せてくださいっ‥‥‥!」
俺の視界に映るのは真っ赤な絨毯。
頭を下げ、目頭が熱くなるのを感じながら、俺は拳を握りしめた。
「‥‥‥ふっ、やはり君はあの人にそっくりだよ」
「えっ‥‥‥‥‥」
ポツリと小さな声が消える様に部屋に流れた。
すると、元帥は薄らと微笑みを浮かべ、言葉を告げる。
「‥‥すまないが、少し席を外してくれないか」
そう言いながら、元帥が視線を送る先は信濃だった。
「ぁ‥‥は、はい」
信濃は少し驚きを見せながらも、扉の方へ向かい退出する。
そうして、この空間に残るのは俺と元帥のみ。
俺達の間を取り巻く空気は先程とは違って、穏やかな物へと変わった。
「さて‥‥‥悪いが信濃には退出してもらったよ。これから話す事はあまり知られたくないだろうしね」
心なしか元帥の口調は柔らかくなっている。
それは、どこか親近感を感じさせた。
「え、えっと‥‥一体何を‥‥」
「‥‥‥君の熱意には負けたよ。雅がこうして誰かの為に動く事は珍しく無いけど、まさか頭まで下げるとはね。それほど信濃の事を気にかけていたんだろうけど」
「‥‥‥決めましたから。信濃を導くって」
「ふふっ‥‥本当に雅はあの人そっくりだ。まあ、親子だから似てもおかしくはないのだけどね」
「そうですか‥‥‥‥‥」
昔を思い出すかの様に優しい微笑みを浮かべる元帥を見ると、先程までの張り詰めた空気が嘘のようだ。
そう息を吐くと、気の緩んだ空気を一蹴するかの様に元帥は言葉を落とした。
「‥‥‥‥‥今回の件、本当に申し訳無い。雅と信濃には心のない事をずっと言い続けてきてしまった。一つ、謝らせて欲しい」
「別に俺は気にしていませんよ」
「そう言ってくれるとありがたい。‥‥‥‥それと、信濃の異動の事は、雅の横須賀鎮守府に一任して貰う事にするよ」
その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
「っ‥‥‥‥! い、良いんですか?」
「ああ。正直、此方は大本営直属として余り目立たないよう配慮して置きたかったのだが、雅の意思も固いみたいだし。何より、信濃もそれを望んでいるなら尚更だ」
「し、しかし‥‥‥元帥は信濃の意見を尊重しないと‥‥‥」
「あれは単なる脅し、それだと少し語弊があるけど本気で言ったわけじゃないさ。ただ、信濃の存在が広まる事で信濃目当てに軍を志願する輩が現れるのを危惧していたから、少し強く言ってしまったけどね」
「な、なるほど‥‥」
それで元帥は信濃は自分に従事してもらうと言ったのか‥‥。
本気にしてしまった自分が少し恥ずかしい‥‥‥。
「まあ、最終的に信濃の存在が広まる事にメリットもある事に気づいたのさ」
「メリットですか‥‥‥?」
「うん、艦娘の印象が良い方向に傾くんじゃないかなと思ったんだよ。余り国民には艦娘に良いイメージを持たないからこそ、信濃の存在がそれを良くしてくれるんじゃないかなと」
「‥‥‥確かにそうですね。艦娘の印象が良くなる事は私にとっても嬉しい事です」
「ふふっ、雅ならそう言ってくれると思ったよ」
すると、元帥は席を立ち、こちらの方へ向かって来た。
「‥‥今回は雅に大変な思いをさせてすまなかった。階級に物を言わせ、強制的に縛りつける様にした事、謝りきれない事で沢山だ。でも、もし困った事が有れば私を頼って欲しい。雅が少しでも過ごしやすくなる様に配慮は全力でする」
突如、頭上に優しく撫でる様に手が触れた。
手の温もりが俺を包むような感覚が心を和らげる。
「セクハラですか?」
「んなっ‥‥‥!?」
「ふふっ、嘘ですよ」
軽く意地悪をした事で、元帥は「うーっ」と唸り声を上げる。
これは元帥に対する少しの罰だ。
そう、自分の心で思いながら、俺は言葉を告げた。
「頼りにさせてもらいます、麗華さん」
○
時刻は夕方。
オレンジ色の夕陽が辺りを照らし、先程腰を下ろした堤防に僕達は立ち止まっていた。
閑散とした空間に静かな波音がせせらぎ、目の前に広がる景色に思わず目が奪われそうだった。
「綺麗だな」
「はい‥‥‥」
淡々とした言葉の掛け合いも、今は十分心を満たしてくれる。
煌びやかな情景は僕らを祝福している様に感じた。
「今更だが、改めてよろしくな、信濃」
「こちらこそ、よろしくお願いします、提督」
握手を交わし、改めて挨拶を行う僕達。
そして、僕らは自分達の居場所に向けて帰路を辿る。
その後ろ姿は光り輝く夕陽に照らされ、二人の足取りはこの瞬間を噛み締める様に一歩ずつ進んでいくのだった————。
これにて一章は終了です。
更新は遅いですが‥‥‥次章も引き続きよろしくお願い致します!