果たせなかった悔恨を   作:@naru

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今回から逆転要素が少しずつ。

因みに題名は信濃が言ってる事にしています。


2.信じて‥‥くれますか?

 

 

「‥‥これをどう思う」

 

「そう、ですね‥‥」

 

 艤装の整備や改修が行われ、鉄と油の匂いが広がる工廠。

 そんな中、画面に表示されたデータを見る俺達の間には、何とも言えない空気が広がっていた。

 

「大和型の耐久と装甲に酷似したステータス。極め付けには、搭載数が105機。まさに最強の空母と言ったところでしょうか」

 

「ああ‥‥そうだな」

 

 じっとデータを見据える彼女、工作艦の明石の言う通り、相当強力な空母であることに間違いはない。

 だが、一番に考えてしまうのは、やはり性別だ。

 自分も男である以上、同性が増えた事は喜ばしく思う。

 

 別に艦娘達との仲は悪くないが、異性との壁はある。やはり同性の方が気軽に話せる事に違いはないだろう。

 

 それに、男性の指揮する鎮守府はここだけだ。故に、注目を浴びて気疲れする事が多かった。

 だからこそ、同性が増えた事による喜びの気持ちは大きい。

 

「嬉しそうですね〜。やはり同性が居る安心感は大きいのでしょうか」

 

「そりゃあな。でも、別にお前達を信頼していない訳じゃないぞ。ただ困る事も多いがな」

 

「あ、あはは‥‥。私達も"女"ですから‥‥」

 

 自分でも分かっているならやめて欲しい物だ。

 まあ、戦っていてくれているのは彼女達なのだし、ストレスもあるだろう。

 時にはガス抜きだって必要だ。激しすぎるのも困り物だが。

 

「それは分かってるが、少しは弁えて欲しい物だぞ」

 

「は、はーい。わかりました〜‥‥」

 

「(本当に分かっているのだろうか‥‥)」

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、本当なのか? 待ち望んだ信濃が男と言うのは」

 

「本当ですって! そんなに疑うなら一度見てください!」

 

 私の言葉を聞いてもなお、疑り深い目でこちらを見る武蔵。

 私は先程あった出来事を妹の武蔵に話した。

 

 確かに分からなくもない。やっとの事で来た信濃が男であったなんて誰が想像しただろうか。

 妹が増えると思いきや、弟が出来たのだ。

 正直に言うと、すごく嬉しいが‥‥衝撃はとても大きかった。

 

「むぅ‥‥そこまで言うなら仕方がない。丁度部屋の前に来た事だし、挨拶がてら見てみようじゃないか」

 

 武蔵はそう言うや否や、信濃と書かれた表札が掛かった部屋のドアノブに手をかけ、扉を開けた。

 

「失礼する、ぞ‥‥」

 

 扉を開けた途端、武蔵が固まる。

 その先に居たのは、ベッドに腰を下ろした一人の男性。

 電気もつけず、カーテンを閉めた空間にいた彼は私達に気付いたのか、こちらに振り向く。

 

「ぁ‥‥え、えっと、大和姉さんと武蔵姉さん?」

 

「う、嘘だろう‥‥。ほ、本当に、信濃なのか‥‥?」

 

 恐らく信じていなかったであろう武蔵は、現状を目にして驚いた事だろう。

 怯えた様に震えている足がそれを証明していた。

 

「うん、僕は信濃だよ。武蔵姉さん」

 

 微笑みながら発した信濃の姿は暗い空間と合わさり、とても綺麗で艶やかに映る。

 その姿に思わず見惚れてしまったのか、武蔵はプイッとそっぽを向き、頬を赤くそめた。

 

「あら、武蔵ったら」

 

 あまり見ない武蔵の姿が少し面白く、思わず笑みが溢れてしまった。

 

「う、うるさいぞ!」

 

 揶揄われた事が恥ずかしかったのだろう。武蔵は牙を向くようにこちらに視線を向ける。

 

「ど、どうしたの‥‥?」

 

 その様子を見て不思議に思ったのか、信濃は心配そうにこちらを見つめていた。

 

「な、何でもないぞ! というか、何故電気をつけていないのだ」

 

「あ‥‥ごめんごめん。ちょっと疲れちゃって」

 

 着任したての事だから、慣れないことも沢山あったのだろう。

 明らかに疲れた表情をしているのが見て取れた。

 

「そうでしたか‥‥。では、出直しましょうか?」

 

「ううん、大丈夫大丈夫。それで、どうかしたの?」

 

 首を横に振り、気にしないでと言う信濃の優しさが伝わる。

 恐らく、気を使ってくれている。あまり長居するのも迷惑だと思い、私は早めに話を切り出す。

 

「いえ、ただ武蔵と一緒に改めて挨拶をしに行こうと思いまして」

 

「ああ、そう言うことだったんだ」

 

「まさか信濃が本当に男だとは思わなかったがな。だが、私達はお前の姉である事に変わりはない。いつでも頼ってくれ」

 

「ええ、ここは女世帯で気難しい事もあるでしょうし、そんな時でも遠慮せずに言ってくださいね。もし、変な事をされたらすぐに伝えるんですよ」

 

「あ、あはは‥‥。そうだね、困ったら相談させてもらうよ」

 

 過保護、と思われるかもしれないが、寧ろ思われても良い。

 何度も言うが、まさか弟が出来るとは思ってみなかったのだ。

 しかも、信濃は提督と同様、すごく整った容姿をしている。

 

 男性と会う機会が絶対と言って良いほど無い私達にとって、邪な考えかもしれないがこの二人はまさにオアシスそのもの。

 そして、弟ともなれば手を出す者には容赦しない。

 

 

 

 そう、私は心で誓い、笑顔で話しかけてくれる"弟"の存在を改めて認識するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 栗色の両扉に、金色のドアノブがついた扉。その頭上には、執務室と書かれた札が取り付けられていた。

 僕はドアをノックし、入室の許可を取る。

 

「信濃です。入ってもよろしいでしょうか」

 

「ああ、入ってくれ」

 

 中にいた人物から了承を得て、僕は扉を開けた。

 

「‥‥良く来てくれた。着任したてで疲れているだろうに、すまないな」

 

 椅子から立ち、申し訳なさそうに謝る男性。

 確かに疲れはあるが、提督、言わば僕の上司であるが故に断る訳にはいかない。

 それも、僕は特に嫌悪を示してはいないのに頭を下げる提督を見ると、優しい人だと言うことがすぐに分かる。

 

「いえ、頭を上げてください。僕は全然気にしていませんから」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

「‥‥それで、話と言うのは‥‥?」

 

 ここに呼ばれた理由としては提督から呼び出されたからだが、特に説明も無かった為、内容は定かではなかった。

 

「実はな‥‥」

 

 椅子に座り、机に肘をついてどこか神妙な顔をする提督。

 恐らく、良い話では無いのだろう。場の雰囲気がそう物語っていた。

 

「君は、何故その姿をしているか分かっているんじゃないか?」

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

 姿。恐らく男性の見た目をしている事についてだろう。

 正直、容姿について何らかは言われると思っていた。普通、男の姿をした艦娘など聞いたこともない。

 しかし、何故提督はそう思ったのだろうか。僕は知っている様な素振りを見せたつもりはない筈。

 ‥‥ちょっと突っついてみよう。

 

 

「何故そう思ったんですか?」

 

 

「‥‥俺が信濃に男か聞いた時、こう言ったよな。『答えられないと。』その時の顔を見て、何処か知っているのに話したく無い様な表情をしていたからだ」

 

 

「‥‥良く見ていますね」

 

 あの時の表情は自分でも良く分かっていない。ただ、心に募っていた感情がそのまま顔に現れていたのだろう。

 しかし、僕がその質問に答えるとしても、知っている事と言えば男としての一生と信濃の記憶。そして、あの空間での事。

 

 それを伝えたとしても、信じる人間はごく僅か。

 無論、自分が言われれば信じることは難しいだろう。

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 でも、僕は何故か縋ってしまった。提督から向けられる眼差しを目にし、信じたくなってしまった。その、少ない可能性に。

 

「では‥‥提督は信じますか? 僕が、前世の記憶を持っていると言ったら」

 

 この時代は僕が生きていた時よりも前なのか後なのかは分からないが、ここでの僕の男性の一生は前世として置いた。

 

 

 ただ、僕のあの過去までもを教える気はない。

 

 

 そして、僕の言葉を絶対に提督が信じるとは言い切れないのだ。

 だが、もう一人で考えるのは疲れた‥‥。

 少し、楽になりたい。頭の中で目まぐるしく交差する記憶を少しでも払拭したかった。

 

 

「‥‥ああ、信じる」

 

 

 根拠のない言葉。しかし、僕にとっては嬉しく、求めていた答えだ。

 

 

「そう、ですか。‥‥僕は、男性として普通に暮らしていました。そんな都会ってほどでもないけど、田舎でもない、そんな場所に。そこは比較的海も穏やかで、深海棲艦と無縁な場所‥‥」

 

 

「っと、こんな情報はいりませんね。‥‥僕は普通に住んでいたのですが、ある時、事故にあってしまって。そして、気づけば暗く淀んだ空間で僕は目覚め、ある光が言ったんですよ」

 

 

「‥‥"君は、後悔した"かと」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

 少し話を変えてはいるが、僕は次々に自分の体験した事を発し、それを提督は黙って聞いてくれている。

 

 

「その質問に僕は言いました。すごく後悔していると。前世で間違えた数々の選択が鮮明に蘇り、それは消えない苦しみへと変わる。その瞬間、光は僕の体内へと入り、信濃として僕はこの世界に現れた」

 

 

「‥‥だから、分かってないんです。僕自身も‥‥。頭で交差する前世の記憶と艦としての記憶。それだけしか、僕には無いんですよ」

 

 

 何とか作り笑顔で言い切った今までの事実。

 今、僕は‥‥‥どんな顔をしているのだろうか。

 

 弱々しい笑顔を作った表情か、何も悟らさない様に取り繕った表情なのか、それは自分でも分からなかった。

 

 

「そうか‥‥」

 

 

 淡々と告げられた一言。その一言には悲しさが含まれている様な、小さな声。

 でも、何処か心が暖かった。

 こんなにも真摯に聞いてくれる人が居る。それだけでも分かって嬉しかった。

 

「ありがとうございます。真面目に聞いていただいて」

 

 

「いや、俺は特に何もしていないよ‥‥。信濃が優しいだけだ」

 

 

「いえいえ、そんな事を言ったら提督の方が僕は優しい方だと思います」

 

 

 これは謙遜じゃない。事実、提督はとても優しい人だ。

 軍人と言えども、情に深いその人柄は格好良いと思う。

 ここなら、居心地もきっと悪くない。そう思えてしまう。

 

 

「‥‥信濃。俺は皆の力になりたい。だから、いつでも俺を頼ってくれ。

俺にできる事であれば何でも応える」

 

 

「ありがとう、ございますっ‥‥」

 

 

 提督の優しさが心に浸透し、その言葉に思わず感極まってしまう。

 

 

 唐突に訪れた新たな生活。それは、嫌悪を示す物だったが、悪いものじゃないかもしれない。

 考え方を変えてくれたのは、紛れも無い人の優しさ。

 前世では味わえなかったこの感情を教えてくれた事に、感謝の念は尽きない事だろう。

 

 

 

 だが、提督に伝えた事実は全てが真実と言う訳ではない。

 

 

 自分の中で理解している事、僕は一つ隠していた。

 

 

 心に秘めた、強い悔恨を———。

 

 

 

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