果たせなかった悔恨を   作:@naru

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3.大丈夫‥‥なのかな‥‥。

「ところで、信濃の部屋についてのことなんだが‥‥」

 

 

 先程と話は変わり、提督は俯きながら言葉を詰まらせる。

 何かあるのだろうか。僕は提督が言葉を告げるのを待った。

 

 

「申し訳無いが、姉弟同士同じ部屋でも良いか‥‥?」

 

 

「はい?」

 

 

 姉弟同じ部屋と言う事は、姉さん二人と同じ部屋で生活するって事?

 ‥‥僕は別に構わないが、姉さん二人が嫌がったりはしないのだろうか。

 

 

「実はな、信濃が今使っている部屋は来客用の部屋でな。ここの鎮守府が大きい分、来客が来ることもあるからずっと使っているわけにもいかなくて‥‥」

 

 

「別に僕は構いませんよ。ですが、姉さん達は——」

 

 

「い、良いのか!?」

 

 

 グッと身体を前に出し、提督は僕の肩を力強く摑む。

 そこまで驚く事かと、少々オーバーリアクションだと思いながら僕は言葉を返す。

 

 

「は、はい。大丈夫ですよ」

 

 

「ありがとうっ‥‥! 本当にありがとう‥‥!」

 

 

 心の底から感謝した様な声音で発する提督。

 本当に何故そこまで重く事を捉えているのだろうか。

 

 

「そ、そんなに重要な事ですかね?」

 

 

「あ、当たり前だ! 男女一緒の部屋なんて普通拒むだろ!」

 

 

「え? ‥‥そうなんですか?」

 

 

 確かに、女性側からしたら男女一緒に生活する事に嫌悪を示しても可笑しくは無い。

 だが、それは姉さん達に言う事では無いのだろうか。

 僕よりも姉さんたちの許可が重要だと思うのだけど‥‥。

 

 

「‥‥因みに、姉さん達に承諾は頂いたのでしょうか」

 

 

「ああ、別に聞いてないが大和達はどうせOKするさ。それよりも、本当に良いのか? 姉弟だからと言って油断してると襲われる危険だって‥‥」

 

 

「は、はい? 襲うって‥‥一体何を?」

 

 

 言葉の食い違いと言うよりも、話が噛み合っていない。

 普通、襲われる可能性が有るのは女性の方なんじゃ?

 

 

「まさか‥‥な。なあ、信濃。君が言う前世居た世界の男女の価値観はどういった感じだったんだ?」

 

 

「男女の価値観‥‥? 特に差別的な物は無いですよ。政府などは平等を訴えてはいますが‥‥まあ、電車で女性専用車両があったり工夫された所は有りました」

 

 

「そうか‥‥道理でな‥‥」

 

 

 何かを理解した様に提督は頭を抱えるが、僕は何一つ質問の意図が理解できない。

 だが、次に発せられる言葉は僕に強い衝撃を与えるのであった。

 

 

「実はな、信濃‥‥。この世界は男性の出生率が著しく低下しているんだ。それにより、恐らく信濃の前世居た世界と貞操が逆転していると思うのだが‥‥」

 

 

「は、はぁ!?」

 

 

 その言葉を聞いて、僕は驚愕する。

 提督が僕の了承に驚いていたのは、僕との貞操観念が逆だったから。それなら、話が噛み合わなかったのに納得出来る。

 いや、今はそんな納得よりも驚きの方が大きい。

 

 

「此方には男性用車両があるからな。偏りが酷い訳ではないが、配慮は男性の方が多いと思うぞ」

 

 

「な、なるほど‥‥」

 

 

 驚愕の事実を目の当たりにし、まだ理解が届かないでいた。

 となると、こんなにも世界が変わっている現状、この世界は僕がいた時代とはだいぶかけ離れている様に思える。

 

 というか、こんな世界で提督は今まで一人でこの鎮守府を統率していた事になる。

 それって、絶対大変だっただろうな‥‥。

 

 

「それじゃあ、言った上でもう一度聞くが‥‥同じ部屋でも大丈夫か‥‥?」

 

 

 きっと、提督は更に申し訳ない気持ちで一杯になった事だろう。声音と表情がそれを証明していた。

 

 

 ‥‥そんな顔をしないで欲しい。

 

 

 気まずさと申し訳なさを纏うこの空気で、僕が断れる訳ないじゃないか‥‥。

 

 

 僕は小さな声で、こう告げた。

 

 

 

「はい‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に向かう帰り道。部屋の移動の為、せっかくなら掃除をしてから行こうと思い、少し早足で歩みを進めていると前方から声をかけられた。

 

 

「貴方は‥‥?」

 

 

 落ち着いた声で問いかけて来たその主は、髪を片方にサイドテールで纏め、僕と似た長着を着用した女性。

 頭の中で即座に現れた言葉は、強い尊敬の念が感じられた。

 

 

「か、加賀さん‥‥?」

 

 

 その人物は航空母艦、加賀。僕の大先輩にあたる人だ。

 だからこそ、尊敬の念が感じられたのだろう。

 

 

「あら、初対面の筈ですが、私の名前を知っているのですね。そ、それよりも‥‥あ、貴方、男性よね‥‥?」

 

 

「あ、はい。僕は男ですが‥‥」

 

 

「なるほど‥‥そうですか。‥‥‥良いですね」

 

 

 瞬間、加賀さんの表情が変わった。

 僕は先程の提督の言葉を思い返し、少し後退る。

 仮にも先輩なのだが、正直加賀さんが怖い‥‥。

 

 

 僕が男だと伝えた途端、加賀さんから身体を舐め回す様に視線が向けられた。

 尊敬の念は何処へやら、貞操が逆になっていると理解した瞬間、恐怖に慄く感情が募ってしまう。

 

 

 前世で言われていたけど、女性が男性の視線に敏感ということが良く分かる気がする。

 こんなに身体へ視線を向けられると嫌でも分かってしまうのだ。

 

 

「あ、あのー‥‥」

 

 

「何かしら。というか、何故後退るの?」

 

 

「だ、だって、そ、その‥‥視線が‥‥」

 

 僕が後ろに後退っても、その分加賀さんは距離を詰めてくる。

 ここは廊下なんですが‥‥。側から見たらただの変な人達だ。

 

 

「貴方、名前は?」

 

 

 僕の言葉を無視し、加賀さんは問いかけてくる。

 

「し、信濃です。あの‥‥先輩、離れてくださいっ‥‥」

 

 

「っ‥‥信濃ですか。良い後輩を持ちました」

 

 

 何かを納得した様な加賀さん。だが、僕の言葉に聞く耳を持たず、加賀さんは接近をやめない。

 男だと言うだけで良い後輩と判断されるのも困るんですが‥‥。

 

 そうして、ジリジリと後ろに下がっていると背中をぶつける。

 硬い感触に覆われた後方には白い壁。遂に壁へと追いやられてしまったのだった。

 

 

「‥‥もう逃げられませんよ」

 

 

「な、何なんですかっ‥‥」

 

 

 艶かしい表情を浮かべ、獲物を捕らえたような視線が僕を刺す。

 足が震える程の恐怖が募り、僕はまさに窮地した状態に追い込まれていた。

 

 

「何をしているのですか?」

 

 

 そこへ救世主と言わんばかりの聞き覚えのある声が前方から伝わる。

 加賀さんは後ろを確認し、その人物に睨むように視線を送る。

 そこには、にこにことした表情を見せる姉さんがいた。

 

 

「あ‥‥大和姉さん」

 

 

 すると、大和姉さんは僕を守るように前に詰めて来た。

 身長の高い姉さんが前にいると、改めて自分の身長の低さが顕になって少し悲しくなる。

 

 

「見て分かりませんか? ただ挨拶をしていただけです」

 

 

 怒りを含んだ声と無表情により、加賀さんが明らかに不満を表しているのが分かった。

 それに対して、姉さんも表面上では笑顔を浮かべているものの、黒いオーラを纏うその姿から怒りを示しているのが分かる。

 

 

「挨拶、ですか? 私には加賀さんが信濃に詰め寄っているように見えたのですが」

 

 

「何を言っているのかしら。妄想も大概にして欲しいものね」

 

 

 加賀さんと姉さんとの間には重い空気が漂い、まさに一触即発の状態。

 この状態を収めろと言われても、正直僕には不可能だ。

 故に、どう収束させれば良いか分からない。

 

 というか、こんな状態で挨拶ってのはないんじゃ‥‥。

 

 

「おい、こんな所で何をしているんだ?」

 

 重々しい空気の中に、一人の男性の声が通る。

 鎮守府の中にいる男性は僕ともう一人のみ。

 当然、その声の主は提督だった。

 

 

「て、提督っ!」

 

 

「っ‥‥て、提督ですか」

 

 

「(た、助かった‥‥)」

 

 

 両者、突然現れた提督に驚いたのか、先程の重々しい空気は消えてしまった。

 僕は思わず安堵の息が漏れ、この場に現れた提督に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

「‥‥お前達、まさか信濃を困らせるような事をしてたんじゃあるまいな」

 

 

 この現状を見て察したのであろう、二人を戒めるように視線を送る提督。

 それに対して姉さんは慌てるように弁明した。

 

 

「そ、それがですね、加賀さんが信濃に詰め寄っていたんです!」

 

 

 ビシッと指を刺した方向には顔を歪ませる加賀さん。

 

 

「それは本当か? 加賀」

 

 

「ぐっ‥‥‥」

 

 

 流石に提督の前で嘘をつく事は出来ないのか、加賀さんは悔しそうに歯を噛み締める。

 

 それを見てニヤッと口角を上げる姉さん。

 一体どっちが意地悪なんだか‥‥。

 

「はぁ‥‥あまり信濃を困らせるんじゃないぞ。着任したてで疲れもあるだろうに。それと、先輩であるお前がそんなんでどうするんだ」

 

 

 そう言葉を発し、提督はデコピンを一発加賀さんにお見舞いする。

 

 

「す、すいません‥‥」

 

 

「大和もだぞ」

 

 

「は、はい! 分かっています!」

 

 

 そうして、事態は無事収束した。流石、提督と言ったところだろうか。

 しっかりと纏めてくれるところが凄く頼りになる。

 

 

「あ、そうだ。丁度大和が居るから言っておくが、信濃は大和と武蔵と一緒の部屋で生活してもらうからな」

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

「っ!‥‥‥‥」

 

 

 本当に都合の良いタイミングというか、ここでそれを言ってしまうのか‥‥。

 正直、貞操が逆になっている事を知ってしまった身としてはあまり気が進まないのだが。

 それに比べて、姉さんは非常に嬉しそうだ。

 

 

「勿論私は構いません!」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください。信濃はそれで良いんですか?」

 

 

 加賀さんは納得し難いのだろう。驚きと疑問を纏う表情がそれを証明していた。

 まあ、確かに自分自身も納得し難いが、姉であればマシとして考えるしかない。

 

 

「そうは言っても姉さんですから。僕は信頼しています」

 

 

 お願いだから変な事はしないで欲しいという願いも込めて言った言葉をどう捉えたのか、姉さんは明るい笑顔でいた。

 

 

「そ、そうですか‥‥」

 

 

 渋々納得したのか、加賀さんは微妙な顔をして視線を下ろす。

 

 

「じゃ、そう言う事でよろしく頼むよ。信濃の言葉を無碍にしないようにな」

 

 

「はい!」

 

 

 そう言い残し、提督は僕の後ろにある扉を開き、中へと入っていった。

 

 先程から眩しいくらいの笑顔を纏う姉さんと、妙に悔しそうな表情をする加賀さん。

 

 

 改めてこの世界を知り、前世とかけ離れた物であると理解しながら、僕は一つ不安を覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 




大丈夫だ、問題ない。
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