四季を司るヒーロー   作:煉獄ニキ

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第1話

ヒーロー。

 

人口の八割が個性を持つ、個性社会と化した現代で最も脚光を浴びている職業。

 

個性を使うことが許された存在。

 

大抵の子供はそれに憧れ、自分もそうなりたいと言い出すものだ。

 

だがはっきり言って、俺はチビの頃からヒーローになんて興味は無かった。

 

それが変わったのは中学に入ってからだった。

 

たまたま同じクラスで、隣の席だった女子。

 

緑谷出久との出会いが俺を変えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学に入り初めての担任はクソだった、と言うと語弊があるか。

 

別にあからさまに贔屓をするわけでも上から押さえつけてくるわけでもない。

 

だが俺には配慮が足りないように思えた。

 

確かに若い世代における無個性は年々減ってきているが、それでも今だに存在する。

 

 

「お前たちの担任になった、耳長だ。入学おめでとう、これから一年間よろしく頼む。早速だが入学式の前に簡単な自己紹介をする。名前と個性、あとは将来の夢とかまあ就きたい職業なんかを言っていってくれ」

 

 

教室に入ってくるなり、担任はそう言った。

 

とはいえ俺だって当時中一のガキである、無個性に対する配慮を〜、だとか小難しいことを常に考えていた訳ではない。

 

俺がそんな考えに至った原因は隣の席に居た。

 

自己紹介は一番から始まり、出席番号は成績順ではなく名字順で尚且つ男女混合だったため、は行の俺はちょうど真ん中辺り、多少の猶予はあった。

 

クラスメイトの自己紹介をてきとうに聞き流しながら、隣から聞こえる小声が耳に入りそちらに目を向けた。

 

そこにはブツブツブツブツと、何かを呟きながら冷や汗?を大量に流す女子が居た。

 

俺は引いた。

 

ドン引きである。

 

恐らく天然であろう緑がかった癖っ毛を肩にかかるくらいに揃え、多少雀斑があるが可愛いと言える女子が。

 

もはや惨劇だ。

 

俺はゆっくりと、そう、彼女に悟られぬように顔の向きを戻し、視線を机に固定した。

 

そうして何故そんなに焦るんだ、と考えたわけだ。

 

いくつか考えが浮かんだ後に、個性を言いたく無いのではと思い至った。

 

余程言いにくい個性なのか無個性なのかはその時点では分からなかったが、それならばと教師に名前を呼ばれた俺は前例を作ることにした。

 

 

春夏(はるか)秋冬(あきと)だ。将来の夢は特になし。個性は言いたくない。よろしく頼む」

 

 

と、こんな具合に。

 

ついでに担任を睨むように見つめる。

 

するとやっと気づいたのか、言いたくなければ個性については言わなくて良いと慌てるように付け加えた。

 

こんな事をして勘違いだったら、思春期特有の勘違いやら自意識過剰やらと自宅で転がる羽目になっていた所だ。

 

それからは隣の女子含め、数人言いたくないと言って、まあそんなに悪目立ちすることはなかった、と思う。

 

あと、隣の女子は緑谷出久という名前らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの。春夏くんだよね」

 

 

入学式はあっさりと終了、HRまで終わったのであとは帰るだけだ。

 

だがクラスメイトたちは、それぞれ親を探しに教室を出たり、友達を作るためにその場で話していたりとする。

 

俺はというと、さっさと教室を出た。

 

廊下を進み、下駄箱に着いたくらいで彼女は俺に話しかけてきた。

 

白状するなら、入学式の間もHRの時間だって、めっちゃ視線は感じていたんだけれども。

 

 

「そうだけど。隣の席の、緑谷だったよな。それで、何か用か?」

 

「お、お礼を言いたいと思って」

 

「お礼?って何の?」

 

「朝の自己紹介の時に、庇ってくれたから」

 

「あー、別に気にしなくていいぞ。俺の個性な、一言で説明しにくいんだ。だからああ言っただけだし」

 

 

多少誤魔化したのは否めないが、やや複雑な個性のため言ったことも正しかったりする。

 

そうなんだ、と言った緑谷の言葉を最後に会話は途切れた。

 

このままここに突っ立ってて、変な噂が流れても困るのでとりあえず歩きながら話すことに。

 

どうやら緑谷は母親が来ているらしく合流のため体育館前まで行くことに。

 

 

「そういえば、緑谷の将来の目標って何だったんだ?さっきは随分悩んでたが結局言わなかったよな」

 

「えっ、あれは……」

 

「いや、言いたくないなら無理には聞かないけどよ」

 

 

先程の自己紹介では「緑谷出久です。将来の目標は…………今のところありません。よろしくお願いします」って感じだったから少し気になってたんだ。

 

俺の質問にまず慌てて、そして俯いて足も止まった緑谷。

 

こちらも慌てて無理強いする気はないと伝えるが、彼女は顔を上げて何かを覚悟したように視線を合わせてきた。

 

 

「ひ、ヒーローになりたいんだ」

 

「へぇ、いいんじゃ「僕はッ」……?」

 

「僕は無個性なんだ。男子ほど速く走れないし、身体も頑丈じゃない。特別頭が良いわけでもないし、かっちゃんと比べたら全然なんだけど……」

 

 

うわっ、何か急にスイッチ入ったな。

 

堰を切ったように話し始めた彼女は、自分で自分を貶しているのにその言葉に傷ついているようだった。

 

徐々に目も潤んできたし、止めるべきなんだろうが、この様子だと簡単には話しも聞いてくれないだろう。

 

そこで個性を最低の出力で発動、右手の人差し指と中指の二本に青色のオーラを纏わせると、今も僅かに俯き何かをブツブツと言っている彼女の額に軽く当てる。

 

 

「落ち着け」

 

「イタッ!?」

 

「そう一気に言われても答えられん」

 

「あ、そうだよね。ごめんなさい、僕の癖っていうか直さないといけないとわかってるけど中々直らなくって」

 

「いや、別にいいんだけどよ。それでヒーローが目標なんだよな?」

 

「……うん。やっぱりおかしいよね」

 

「いいんじゃないか。当然とんでもないハンデではあると思うけどな。それでも諦めたくないって言ってるように見えたぜ、俺にはな」

 

「え?」

 

 

パチクリと目を瞬かせてこちらを見てくるが、今言った通りに無個性だからって理由で気持ちを押さえつけているように思えたのだ。

 

そうやって自分の気持ちに嘘をつき、ストレスを溜め込んで時間を浪費して過ごすくらいなら、行動しろ、と思うのだ。

 

何か凄く上からで偉そうな感じになってしまうが。

 

 

「だからヒーローになりたいんなら、好きなだけやってみればいいだろ?身体を鍛える、持久力をつける、ヒーローに必要な知識を得るため勉強。やるだけやって、それでもダメだったんなら気持ちの整理も少しはつくだろ」

 

「でも、僕は無個性なんだよ!?」

 

「んなもん関係ないだろ。ヒーローになりたいか、なりたくないかだろ」

 

「……かっちゃんだって僕には無理だって言うんだよ」

 

「そのかっちゃんが誰かは知らないが緑谷の人生だろ?決めるのは緑谷だ」

 

 

いやほんと偉そうに言ってるけど、俺は別にヒーロー志望でもないんだが。

 

しかもそんな俺には個性があり、緑谷にはない。

 

そう思ったら眼前で涙を堪えるように震えている彼女に対して、申し訳なく思ってきた。

 

帰ろうとする他の生徒やその親達からもチラチラ見られてるんだが。

 

っていうか、これどう見えてんだろ。

 

…………俺はこれで失礼する。

 

 

「好き勝手言ったけど、ゆっくり考えればいい」

 

「春夏くん、一つだけ良いかな?」

 

「うん?」

 

「僕は無個性だけど。こんな僕でも、ヒーローになれるかな?」

 

「ったく。俺は自分で決めろって言ったんだがな。……けど、緑谷がなるってそう決めたんならなれるだろ」

 

「…………う」

 

「う?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜」

 

「んなっ!?お、おい緑谷。大丈夫かよ!?」

 

 

いきなり緑谷は滝のような涙を流し、膝から崩れ落ちた。

 

ど、どうしたらいいんだ!?

 

慌てて緑谷に駆け寄るが、彼女は俺の学ランを掴み更に激しく泣き出した。

 

もうこれ無理だぞ。

 

泣いた女子を泣き止ませる方法なんて知らないから、そんな経験ないから。

 

明らかにさっきよりも、注目を集めているのがわかるのが辛い。

 

もうみんなガン見だからね、あと校舎に駆け込んだやつ居たから、アレ絶対先生呼びに行ったんだぞ。

 

最早諦めの境地に至った俺は、泣き止むまで緑谷の頭を撫でるのだった。

 

結局お母さんらしき人がきてようやく緑谷は泣き止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ごめんなさい」

 

「もういいって。気にしてないし」

 

「でも、服も汚しちゃったし」

 

「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ。そんじゃ、この話はお終いだ」

 

 

不思議な人だと思う。

 

隣を歩く同じクラスの春夏くん。

 

初対面なのに、クラスが一緒という関係でしかない僕の話を真剣に聞いてくれて、笑うことなく向き合ってくれた。

 

無個性だから無理だと思っていた。

 

だってテレビの向こうにいるヒーローたちは、超パワーで、荒々しい炎で、強力な個性で敵をやっつけていたから。

 

個性のある人が羨ましくて、それが無い自分が嫌で、悲しくてとんでもなく惨めに思えた。

 

幼馴染のかっちゃんと比べると尚更だ。

 

でもお母さんを困らせたくないから、仕方ないって納得させてた。

 

そこに彼が現れた。

 

無個性だとかは関係ないと、僕がやるかどうかだと。

 

もしかしたら、遠回しに諦めさせようとしているのかもしれない。

 

でもきっと、てきとうに言った言葉じゃない。

 

そう確信できるくらい、あの時の彼の目は真剣だった。

 

だから、

 

 

「ありがとう」

 

「……何が?」

 

「何だかスッキリしたから」

 

「そっか。そりゃ良かった」

 

 

お礼を言った。

 

悩みを聞いてもらってスッキリしたっていうのも本当なんだけど、もう一つ、初めて言ってくれたことへのお礼でもある。

 

そう、初めてだったんだ。

 

お母さんも、かっちゃんも、小学校の先生も、みんなヒーローにはなれないって言った。

 

春夏くんだけだったんだ。

 

だから、ありがとう。

 

それから少しだけ話して、彼とは別れた。

 

僕が将来ヒーローになれたとして、その一歩目を踏み出したのは、きっと間違いなく今日この日なんだと思う。

 

 

 

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