四季を司るヒーロー 作:煉獄ニキ
入学して一週間。
俺は男子の友達が一人も作れないでいる。
理由は二つ。
一つは、入学式後の俺と緑谷との話が翌日には噂になっていたからだ。
一目惚れして告白してきた女子を手酷く振った最低男とか、入学初日から地味目の女子を虐める最低男とか、どのみち最低じゃねぇか。
もう一つが、
「お待たせ、
「あぁ」
彼女だ。
緑谷出久だ。
何故かは知らんが懐かれた。
何しろ休み時間も、放課後も俺の机へと来るのだ、ちょっとやめてほしい。
お陰で男子は睨まれて碌に話せず、女子は何かヒソヒソしてまともに話せない。
あと男子が睨むのは緑谷がちょいと地味目だがクラスでも最上位で可愛いからだろう。
そうなったのは入学式の翌日の放課後、一日中針の筵状態だった俺は一人寂しく帰っていた。
後ろから名前を呼ばれ振り返ると緑谷がいて、ヒーローを目指すことを宣言された。
しかしそこでじゃあ頑張れよ、で済ませるのは駄目だろう。
言うだけ言って、焚き付けてあとは知らんでは流石に薄情だろう。
だからトレーニングのメニューくらいなら一緒に考えてやると彼女に言った。
するとそれに大層喜んだ緑谷は鞄からノートを引っ張り出して俺に見せてきた。
【ヒーローになるため①】
と、表紙に書かれたものだ。
一応読んでいいかを聞いて一ページ目に書いてあるトレー二ングメニューを確認する。
毎日のメニュー!!
ランニング30キロ!!
腹筋、腕立て、背筋、スクワット500回!!
アホか、と思った。
というか無意識に口から出ていたらしい。
えぇっ!?と驚いていたが、こっちも驚いた。
それからは修正の連続だ。
どう考えてもオーバーワークだろう。
まず自分の限界を測ってからそれの八割程度をメニューにするように決めた。
何処と無く不満げだったが、ヒーローは身体が資本だ、それになる前に怪我で潰れたいのかと言うと大人しく従った。
そして服やらランニングシューズやらを揃えるために日を開けて今日からトレーニング開始となった。
「僕はありがたいけど、本当に付き合ってくれるの?」
「あれだけ言って何もしないのも流石にな」
「無理に付き合ってくれなくてもいいよ?僕は本当に感謝してるくらいだし」
「ま、いいから。早く帰って着替えようぜ」
「うん!今日からだし楽しみだなぁ〜!」
何となくだが明るくなった緑谷は、ワクワクといった様子だが楽しいのは今だけだろう。
「ハッ、ハッ、ハッ」
「よし、これで5キロだ。もういいぞ、ゆっくり向こうの自販機まで歩こう」
「う、うん」
思った通り、今にも倒れそうなくらいフラフラで亀のようにゆっくりと歩く。
俺が付き合うのはあくまでランニングだけ。
他の腹筋やらは家で十分できるし、俺が家に入るのも良くなかろうと、そういうことにした。
ヒーローを目指すことは許してくれた、彼女のお母さんも夕方の時間帯に走ることは渋っていたらしいので、護衛代わりに俺も一緒に走ると直談判したのだ。
言ったのは俺だがそれでいいのか、まだ会って一週間だぞ。
親子揃ってとんでもないお人好しだ。
しかし挨拶した時の意味深な笑みは何だったのだろうか。
「じゃあクールダウンも兼ねて歩いて帰るか」
「うん。でも思ったより全然走れないんだね」
「意外とそんなもんだぞ。でも高校までは三年あるし少しずつ走る距離を伸ばしていけばいいさ。継続は力なりってな」
「うん。そういえば、春夏くんは息切れもしてないね。普段から走ってるの?」
「たまの気晴らし程度にだけどな」
「そうなんだ」
「緑谷は何処の高校に行きたいとか決めてんのか?ヒーロー科のあるところも色々あるよな」
「僕はやっぱり雄英高校かなぁ!日本の最高峰って言われてるし、あと……」
「オールマイトの出身校だからか?」
「う、うん。何でわかったの?」
「そりゃ何かにつけてオールマイトのこと話題に出すからな」
「あ、あはは。そんなにかな?」
割と笑い事ではない。
緑谷出久は重度のヒーローオタクである。
特にオールマイトに関しては筋金入りといったところか。
身につけている小物もオールマイトのグッズだったりするし、よく見てみると今の格好もオールマイトカラーを意識しているのがわかる。
と、言ってる内に着いたらしい。
「じゃあまたな」
「うん、今日はありがとう。また明日」
緑谷の家の前で別れてから、自宅に帰るために歩き出すと、そこには金髪の同い年くらいの男が立っていた。
「おい、ちょっとツラ貸せ」
リアルにそんなこと言うヤツ居るんだな。
「ただいまー」
「おかえり、出久。どうだった?」
「もうクタクタだよぉ」
リビングに入ると、台所に母はいた。
夕食の支度をしているようで、筋トレを済ませたら手伝おう。
リビングにマットを敷いて、その上で筋トレを始める。
そうそう、これも春夏くんのアドバイスだ。
筋トレをする時は息を止めないよう意識して、リビングとかでお母さんと話しながらしてみると良いんじゃないか、って。
ほんと、頭が上がらないなぁ。
彼に縋り付くように泣いてしまったその日の内に母にヒーローを目指したいと話した。
予想通りと言うべきか反対された。
そして、女性でヒーローをする上での危険性を一つ一つ説明してくれた。
これまでに調べていてくれたのだろう、過去に起こった事件まで例に出して話し合いは二時間以上も続いた。
そして、少なくとも危険性については理解したとわかってもらえたのか、目指すための努力は許してくれる事に。
今後の努力等でその覚悟をみていくと言われたから、少し焦った私はとんでもないトレーニングメニューを作り、春夏くんに呆れられた。
今の私ならわかる、あれはいきなりやろうとして出来るレベルじゃない。
5キロ走っただけでフラフラだったのだ。
それを30キロとか、アホって言われるよね。
彼からは焦っても良いことはないから、出来ることを一つずつクリアして行けばいいと言われた。
まだ二年半あるのだから、と。
そう言われて心の中の焦りが完全に無くなってはいない、私は無個性だから他の人とスタートラインが違うはずだ。
もっと努力しないといけないとも思うのだが、身体を壊しては意味がないと言われた。
これもやっぱり春夏くんの言葉だけど、まずは目先の課題を達成しよう。
まずは腕立てから、と。
うっ、結構キツイな。
「それで、今日は進展あったの?」
「な、何が?」
「そりゃ春夏くんとよ。大丈夫よ、お母さんも彼なら大歓迎だから!」
「な、ななな何言ってるの!?そんなんじゃないから!」
春夏くんに会ってから、母はずっとこんな感じだ。
多分第一印象が良くなかったのだろう。
私が殆ど抱きつくような形で、しかも号泣しながらだ。
あの事を思い出すと今でも恥ずかしい。
彼は取り乱す事もなく、母に事情を説明して、その後私たちに謝ってきたのだ。
それですっごい良い子!! となったらしい。
娘を泣かせた男子から、僕が無個性なのを気にしない上に自分は悪くないのに謝ってきた子へと変化して。
最初マイナスからスタートした好感度が一気に跳ね上がったみたい。
今では、事あるごとに春夏くんのことを聞いてくるようになった。
でも、付き合ってるわけでもないんだけどね。
そもそも恩人っていうか、僕には勿体無いくらい良い人だし。
こんな地味だしブスでどんくさい無個性の私の訓練に付き合ってくれるような、もういっそ聖人ではと思うほどだ。
確かに顔は整ってるし、ちょっとぶっきらぼうだけどかっちゃんに比べると全然優しい方だ。
小学校までで私をからかってきたかっちゃんや他の男子と春夏くんならそりゃ彼を選ぶけど。
まあでもこんなの考えるだけ無駄だよね。
「じゃあやっぱり爆豪くん?」
「かっちゃんは……もっとないかなぁ」
「あら?小学校はずっと爆豪くんと一緒に居たって聞いてたけど、違ったの?」
「だって男子と話すとかっちゃん凄い怒るから仕方なく一緒に居たんだよ。あと乱暴だし」
「そうね。男の子は優しい方がいいわよ」
「大体僕のこと下僕って言うしさ。あとブスとかどんくさいとか」
「あら、それは……酷いわね」
何だか言ってるうちに歯止めがきかなくなり、今までに言われたことを次々話してしまった。
母は、これは爆豪くんルートは難しいかしら、なんて言ってたけどどういう意味だろう。
う〜ん、春夏くんの言う通りだなぁ。
こうして話してたら、もう目標の回数を終わらせてしまった。
でもまだやれそうだし、もうちょっと追加しようかな。
母には悪いけど、もう少し付き合って貰おう。
「テメェ、デクと何してんだ」
「デク?誰のことだ?生憎そんな名前の知り合いはいねぇよ」
「とぼけんじゃねぇ!さっきまで一緒に居ただろうが!」
「何だ、緑谷のことか。普通に一緒に走ってただけなんだが」
「デクのやつ、俺に断りもなく勝手なことしやがって!!」
「……確認なんだが、緑谷と付き合ってたり」
「ンなワケねぇだろうが!ブッ殺すぞテメェ!あんなブスと付き合うとかありえねぇわ!!」
「あー、なるほど。お前がかっちゃんか」
「テメェがそう呼ぶんじゃねぇ!!」
金髪に付いてきて少し寂れた雰囲気のある公園へとやって来た。
そして向かい合うと、相手から尋ねられて会話が始まった。
けど、言葉のキャッチボールってかドッヂボールって感じだな、お前ボールの的な、みたいな俺様気質である。
どんな環境で育ったらここまで尊大に生きられるのか、気になるもんだ。
しっかしコイツは言葉の度にボンボン掌を爆発させなきゃ話せないのかね。
今後は、爆発野郎と呼ぶことにしよう。
けど、コイツは何を言いたいんだろうか。
緑谷に関わるなってか?
でもコイツこそが緑谷を貶してるんだよなぁ。
悪口の言い方で緑谷の幼馴染の通称かっちゃんだとわかったくらいだし。
あ、かっちゃんと呼んじゃいけないのね。
大丈夫だって、二度と呼ばねぇよ。
でもなぁ、幼馴染だろうが緑谷のやる事に口出しする権利はねぇよなぁ?
まして付き合ってるわけでもないんだろ。
「わかったわかった。んで爆発野郎よぉ、付き合ってるわけでもないのに緑谷のやる事に口出しする権利あんのか?何すんのも緑谷の勝手だろ?」
「巫山戯た呼び方してんじゃねぇぞ!!つーか権利ならあるに決まってんだろ、アイツは俺の下僕だからな」
「いや引くわ。リアルに下僕とか痛すぎんだろ。うわ、マジで鳥肌立ったわ。あ、あとデクってあだ名か?」
「木偶の坊のデクに決まってんだろうが!!」
「幼馴染だって聞いたけど、どうしてそんなに敵視するんだ?」
「デクのヤツが分不相応にヒーローなんざ目指すからだろうが!無個性がなれるわけねぇだろうが!!」
いやいや、いくら夢見がちな中学生でも同級生の女子に下僕とか、薄ら寒いわ。
そんで木偶の坊ね。
多分無個性だから言ってんだろうけど、個性があるってのはそんなに偉いのかねぇ。
個性があったとしても、いやあったからこそクソみたいな目に遭うこともあるんだぜ?
まっ、それは置いといて。
緑谷の
こういう真っ当に生きてる人を、必死に努力している人の足を引っ張るようなヤツは気に食わねぇな。
お前と
「……気に食わねぇな。今の言葉がお前の本心なのかは知らねぇけどよ。それでも純粋に目標に向かってる人間を貶すヤツは見てて気分が良いもんじゃねぇよな。例え自称ご主人様が自分の下僕について言ってることでもな」
「ッテメェ、さっきからケンカ売ってんだろ。上等じゃねぇか!!買ってやるよ!!」
「そんなつもりはねぇよ。それに今やっても、勝敗は目に見えてるだろ?」
「あぁ、テメェの負けがなぁ!!」
「遅いっての」
「ふべッッ!?」
ちょいと挑発してやると、面白いように引っかかってくれた。
隙だらけにズンズンと大股で近づいてきて、右腕を振りかぶって掌をこちらに向けてきたが、遅ぇよ。
右前方に踏み出し、爆発野郎とほぼ同じ方向を向くように体を回転させて、後頭部を右手で掴んで前へ押してやるとたまたま出していた足に引っかかり体勢が崩れたので、今度は俺も踏み出しつつ右手を下に向けて力を加える。
するとあら不思議、爆発野郎こと爆豪くんは熱いキスを地面と交わしていた。
当然だが俺も個性を使ってるし、コイツの油断と慢心がなければここまで上手くはいかなかったけどな。
「これで俺の一勝だ。んで面倒だから、中学の間は余計な茶々入れねーでくれ。集中させてーんだ」
「あぁ!?俺がテメェの命令に従うわけねぇだろうが!!」
「だろうな。けどよぉ、確かお前もヒーロー目指してんだよな?なら内申点って大事だよな?まっ、将来よりも緑谷虐めを優先するってんなら好きにしろよ」
「…………ケッ、テメェらなんざこれ以上相手する時間が無駄だ」
「良し。じゃあな、爆豪」
うつ伏せに倒れた金髪の上に馬乗りになって、両腕を固定する。
これでコイツはまな板の上の鯉も同然だ。
多分。
コイツの個性の詳細知らねーしな、両掌爆発させてたからとりあえずこうしたけど。
緑谷からコイツの話を聞いてて良かったな。
普段からキレまくる割に周りを見ていて、教師がいるところでは言動も多少マイルドになる、みみっちいヤツ(意訳)だってな。
だから少しだけ脅してやれば、引いてくれた。
これでまた緑谷に手ぇ出すんなら、二、三本目骨でも折ってやるつもりだ。
そうすりゃ、大人しくなるだろう。
ああ、でもこれだけは言っておかないとな。
「俺が緑谷をヒーローにしてみせる」
後ろから何か喚いてるが、敢えて無視してゆっくりとその場を後にする。