恋姫星霜譚   作:大島海峡

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???(?):賊の話をしよう

 ある男たちの話である。

 男たちは、賊だった。

 いわゆるあの黄色の巾を巻いた三馬鹿よりも低俗で、下劣で、悪辣な。

 

 稼ぎ場は家の内外や国境を問わず、時としてそれは戦場跡でさえ例外ではない。

 生きている者から追い剥ぐか、あるいは死者から遺品を奪うのか。どちらがより道徳に悖る行いであるかはともかく、彼らは実入のためならばいずれもやった。それも、躊躇いなく、率先して。

 

 そして今日も今日とて、堕落した魂たちは後者を行う。

 目ざとく嗅ぎつけたは、董卓軍の追討が行われた場より下流域。そこで転落した将兵の死骸を漁り、金目の物と見れば寸鉄であっても取り上げた。

 

 中央とは毛色の違う軍装を値踏みし、

「これは珍品」

 だの

「こいつは高く売れそうだ」

 だのと生前の思い入れなどまるでお構いなしに収奪し、自身を飾り立てていく。

 

 ここのところでも滅多にない稼ぎ場にすっかり気を良くした彼らは、さらなるお宝がないものかと貪欲に物色し始めた。

 

 そしてその場より少し離れたあたりに、一人の少女が流れ着いているのに気付いた。

 すでに事切れているのか。『悪漢董卓』の側女か女官か。擦り切れてこそすれ、纏う衣の生地は上等のものである。

 

 賊の一人が先んじて駆け出した。

 衣に手をかけると、白い腿が露わとなった。襟元から、未成熟であるが故の色香が立ち上る。久しく女の肌を感じていなかったその兇漢は、舌なめずりするや、その標的を衣服ではなく、その身そのものへと切り替え、膝に手をかけ開かんとした。

 

「おい、もう死んでんぞ」

「それにまだガキずら」

「構うもんかよ……へへっ、まだ温いや」

 

 目を血走らせてもどかしげに剥ぎ取ろうとする仲間を軽く咎め、呆れるような口調の残る連中も、非難はしない。むしろ、ケチをつけながらも股間に熱い血の滾り覚え、その相伴に預かろうと下卑た表情で集まっていく。

 

 

「おい」

 

 

 糞虫のごとき集りの外から声がかかったのは、その時である。

 訝しげに振り返ると、そこには見慣れる旅装をまとった青年が立っていた。

 明るい茶髪、顔の作りは、中華の人間のものではない。西域からの旅人か。

 否、青年の目元に浮かぶ荒涼とした気配に、彼らは同類の匂いを嗅ぎ取った。

 

「……あん? なんだテメェ」

「おこぼれに預かりたいなら、他所へ行きな」

 

 興を削がれた賊徒たちは、胡乱げにその彼を睨みつけた。

 だがそんな不歓待の様子になど構うことなく、男は一方的に続けた。

 

「『【牙】の名の下に裁きを下す』……この言葉に、聞き覚えは?」

 と、奇妙な問いかけをもって。

 

「はぁ? なんだそりゃ?」

「ワケわかんねぇことゴチャゴチャ言ってねぇで、とっとと失せやがれ!」

 対する賊徒の反応は、当然の如く冷ややかだった。ともすれば、先に彼の方を血祭りに上げんとする殺気さえ帯びているほどに、苛立っていた。

 

「そうか。邪魔したな……詫びと言っちゃなんだが、おれが代わりにその意味を教えてやるよ」

 軽い落胆の後、賊どもを見据えた青年は、

 

「……てめーらは、もうお終いってことだよ」

 剣を抜き放ち、その顔には激しい怒りと凶猛な笑みとが同居していた。

 

 〜〜〜

 

 ある男の話である。

 男は、賊だった。

 ただし、弱き者を収奪者から救う、義賊だった。

 その、はずだった。

 

 だが今は、その矜持は地に堕ちた。

 

 自らが斬り殺した賊徒の懐から、当面の生活費分の銭だけを失敬する。

 こんなクズどもなど何人手にかけようとも心は痛まないが、結局は彼らと同じことをしている己を、彼は恥じ、舌打ちした。

 

 いったい自分は何をしているのか。

 信じるべき正義はいつの間にか紛い物にすり替わり、それを歪めた相手に命を取られた。

 訳もわからないまま別世界に放り出され、居るかどうかさえ分からない兄や同胞の影を追ってあてもなく彷徨い、団の題目を今また汚し……

 これでは、正真正銘の『狂犬』ではないか。

 

「――くっだらねぇ」

 己を含めたすべてにそう毒づいた青年は、足速にその場を後にせんとした。

 だが翻したズボンの裾を、掴む者がいた。

 

 反射的に剣の柄にあらためて手をかけんとしたが、誰あろう服の一端を握りしめていた者は、死していたと思われたあの少女だった。

 

「詠……ちゃ」

 

 誰その名を切なげに呼ぶ彼女だったが、それ以外に漂流したのは、皆死者ばかりである。

 ――顔形などまるで違うのに、一瞬、別の少女のことが、笑顔が、涙が思い浮かぶ。

 

「……くっだらねぇ」

 あらためてそう毒づいた彼だったが、ついには見捨てることが出来ず、頭をガシガシと掻いた後、その華奢な身柄を抱え上げたのだった。

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