「どうだい、その気になりゃあやるもんだろう。うちの公子様は」
「確かに、良い大将ですな。きれいな顔して、なかなかやる」
軍議の終わりに、緑髪の巨漢に捕まった。まるで誰がに自慢したくてしょうがない、と言った調子で。
「でも、そこへ行くとお前たち主従のことは良く分かんないんだよなぁ。お前さん、腕っ節も強くて頭も切れるのに、なんだってあんな口の悪い、細っちい偏屈な男に仕えてるんだ?」
これは誹謗ではなかろう。誰かの陰口を叩くほどに、この大男は悪辣ではあるまい。ただ率直な所感を口にしているだけだ。
「案外そこが面白くてね。なに、付き合っていけば味の良さも分かってきますよ」
「何を悠長にしている?」
まるで乾物か何かのように言われた主人が、身を割り込ませてきた。
「いくら動く必要がないとは言え、ずいぶんと余裕なことだ。さすが歴戦の勇者は心構えが違うということか」
「いちいち皮肉を言うんじゃねぇよ! ちょっとお喋りするぐらい良いだろうが!」
と文句をこぼしながら、彼は去っていった。
「おっと、それじゃあ俺もお小言を食らう前に出立しますかね」
と退散しようとする臣を、「待て」と主が呼び止める。
「お前も前線に立って良いのか?」
などと、要領を得ないことを問う。太い首をかしげて見せる彼に、
「敵軍に、時折武田菱を負った若武者を見た。動揺したお前もな……あれは、
あぁ、と声にして偉丈夫は得心した。
確かに、旧師の愛息にして旧主と相対することとなってしまった。
暇は出されたが、今もなお憎んではいなかったし、むしろ感謝の方が強いだろう。
――おかげで、この上ない主君と巡り合えた。
しかし、
「……だから、出るんですよ」
と男は言う。
「負けたとは言え、勝頼さんは大将たる器を有していました。要は物の見方って奴ですよ。長篠城の決死の抗戦、大量の鉄砲隊、綿密な戦略……かの信長公がそこまでしなければならなかった相手とお考えください」
これは多少の贔屓目も入っているだろうが、いずれにせよ敵は自分を抜いて勝てる軍でもあるまい。
壁に立てかけてあった大剣を担ぎ、出ようとするところを、
「待て」
と主は呼び止める。
再度呼び止めておきながら、しばし無言で見つめてくる。
だがやがて深く息をつくと
「…………すまない」
詫びを入れる。ただ一言を紡ぐだけで、彼にとってはよほどの労力を費やすものらしい。
「俺は、こういう男だ。ここに来てからも、お前に俺の知る以上の苦労をかけていることだろうな」
――あぁ、まったくこの方は。
こういうところを他人にも打ち明ければ良いものを、決して弱みを見せない。
「別に気にしちゃいません。ほら言うでしょう、『馬鹿は死んでも治らない』ってね」
哄笑を含む男に、むっと眉をしかめつつも言い返さない。
並みの主君であれば、この悪態に逆上するところだろうが、非を非と、欠点を欠点と認めれば、素直に受け入れる。
それでも『認める』範囲の狭さと譲るべきところを譲らないところが厄介ではあるのだが。
(だがこういうところなんだ)
その未熟さが、弱さが、青臭さが、危うさが、たまらなく自分は好きなのだ。
あぁ、この人の無謀に命を賭しても良いか、と思えるほどに。
「とにもかくにも、ここは俺にお任せください……殿」
もう二度と呼ぶこともないと覚悟していたその呼び名。会うこともないと思っていた顔に親しげに呼びかけた後、その大太刀をもって風を切り裂いた。
「――
ミッドフィルダー。