わたしたちの居場所   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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はい。
ネタを思い付いてしまったので。
導入だけしか書いてないし続きは無いけど、ネタを腐らせたく無かったので。


ちなみにネギまはキャラの顔と名前が一致しない程度の知識しか無いです。
キャラの性格や口調も掴めて無いので、原型保たないレベルで性格改変しました。
誰か原作知ってる人が清書してくれる事を祈ってこの駄文を投下しときます。


……あ、オリキャラには特に原典とか無いしこの先二度と出てこなくても良い使い捨てキャラです。会話相手が欲しかったんや。


誰が為の(つるぎ)

 京都・関西呪術協会の最深部。窓の無い室内を蝋燭の灯のみが照る、こじんまりとした密室。

 長が秘密の客人と面会する時だけ使われるその小部屋に、正座で向き合う二つの人影があった。

 

「さて。今日君を呼んだ理由は他でもありません……分かっていますね、刹那君?」

 

「……はい。勿論です」

 

 二人のうち一人は、当然この部屋の主―――関西呪術協会の長、近衛詠春。

 (かつ)ての大戦……魔法世界、即ち我々の地球とは別の座標にある世界で起こった凄惨な戦争において、数々の武功を挙げて『サムライ・マスター』の異名をとった英雄。

 

 その対面に座るのは、未だ幼き剣士の卵。しかしその才は英雄近衛詠春をして「長じれば自分以上」と言わしめる、天稟を秘めた次代の俊英・桜咲刹那。

 弱冠12歳にして、詠春と同じ『京都神鳴流』という退魔の剣術を修め、同年代は愚か並居る先達にすら敵は無し。目の前に座する英雄以外の同門では土を付ける事は罷りならぬ程の神童。

 

 加え、彼女は普段全力を出してはいない。烏族と人族のハーフである刹那は、その背より白き翼を生やす事でその真の力を解放できるのだが、その色は一族にとって禁忌とされる凶兆であり、また『混じり物』と蔑まれてきた彼女の異端の象徴。

 故に、常日頃から翼を隠している刹那はどんなに真剣に剣を振るおうと、『本気』ではあっても『全力』にはなり得ないのである。

 さりとて事情を知らぬ者はそもそも彼女の真の姿など知りようもなく、また事情を知る者も、同族や口さがない者から疎まれ蔑まれてきた彼女に対し「全力を出せ」などと強要する事も出来ず。結果彼女は今まで人前で全力を発揮した事は無かった。

 もし仮に、彼女が全力を以て戦えるのであれば、或いは詠春とも互角に切り結べるのでは……などと囁かれる程度には、刹那の力量・技量は高く評価されていた。

 

 

 閑話休題、そんな彼女が何故に組織のトップたる近衛詠春に呼び出されたのか。

 それは、彼女に『或る任務』を申し渡す為であった。

 

 

 

「刹那君、厳しい修行をよくぞ乗り越えました。既に君の実力は、我々京都神鳴流の中でも随一と言えるでしょう」

 

 世辞でも何でもなく、純粋に賞賛を込めた素直な賛辞。

 元々刹那は、同族に排斥され孤立していた所を詠春自身が見出して鍛え上げた、彼にとって愛弟子とも言える存在。

 そんな彼女が齢十二という若さで誰からも一目置かれる程の剣士として大成した事は、物心ついた頃には両親を亡くしていた刹那の親代わりを自認する詠春にとって、誇らしく感慨深い事だった。

 

 そんな詠春の……謂わば師であり上司でもあり義親でもあると言える英雄からの祝辞に、刹那は。

 

 

「そうですか」

 

 と。ただ一言、言葉少なに返したのみであった。

 慢心するで無く、謙遜するでも無く。歓喜も動揺もせず、無表情に無感動に、自らへの称賛をただ当たり前の様に聞き流すその様子を見て、詠春は内心溜息を吐く。

 

 元よりこの刹那という少女、傍から見ていてちょっと心配になる程ストイックと言うか、自分の評判などの俗事に関心を持たない子供であった。

 誰に何と言われようが、どう思われようが、ただ力を高める事だけを望み、黙々と修練を重ね続ける―――そんなある種病的とも言える姿を眺めてきた詠春は、(せめてもう少し余裕を持って、普通の少女らしく青春を謳歌しても良いのに)と、親代わりとして……否、一人の大人として、未来ある若人の生き方を心配せずにはいられない。

 

 とはいえ、それは今更の事。老婆心から何度も(たしな)めてきたし、彼女が趣味や楽しみを持てるようにと色々手を尽くしてきた。それら全ての『余計なお世話』を切り捨ててきたからこそ、今の彼女がある訳で。

 それに、全ての意思や感情を置き忘れてきてしまったかのように実直な彼女だからこそ、何の疑念も心配も無く、これから言い渡す『任務』を任せられるとも言えるのだ。……詠春個人としては、刹那が年相応の情動を発露したとしても、その信頼は微塵も揺らがないのだが。

 

 

「……ともかく、君は紛れも無く『一人前の剣士』として認められました。これを以て、貴女に特別任務を言い渡します」

 

 改めて宣言して居住まいを正し、徐に懐から仰々しい巻物を取り出せば、鉄面皮を保ち続けた刹那もピクリと瞬間の反応を見せる。

 その巻物こそ、関西呪術協会公式の命令指示書。長と最高幹部会の連名で押印され、呪術的に偽造が防止された絶対指令。

 封を解き紙を広げ、内容を読み上げればそれは以下の通り。

 

 

 

『神鳴流剣士・桜咲刹那は、明後日より関東・麻帆良学園都市に赴任、麻帆良学園中等部に入学。同校に所属予定の近衛木乃香―――未だ魔を知らぬ身なれども格別の才覚を秘めたる近衛詠春の娘を密かに護衛し、あらゆる脅威・障害より守り抜く事』

 

 

 

「……兼ねてより話していた通り、君には麻帆良学園……関東魔法協会の治める地へと行ってもらいます。この命令は私だけで無く、関西呪術協会最高幹部会の全会一致で承認された、正式の密命です」

 

「………………」

 

「……ふふ、流石は刹那君ですね。関東との融和を図る穏健派だけで無く、魔法使いとの戦争を望んでいる筈の過激派まで異議を唱えず賛成票を入れましたよ。木乃香を麻帆良に送った時には散々反対したと言うのに……君の実力は、彼らをして黙らせるほど文句の付けようが無かったと言う事でしょう」

 

 同じ組織に所属しているとはいえ、半ば敵対関係とも言える過激派の面々すら、桜咲刹那を護衛に抜擢するという人選には口の挟みようが無かったという事実。本人はどこ吹く風といった面持ちだが、詠春としては彼女の努力が報われたようで、感じ入るものがあるのだった。

 

「さて、これで正式な任命は済みました。とはいえ前々から内定していたようなものですから、既に引っ越しの準備等も済んでいるでしょうが……久しぶりに木乃香と会えるのですから、君も楽しみでしょう?」

 

「……そうですね。否定はしません」

 

 相変わらず口数少なく真面目で堅苦しい態度は崩さないものの、木乃香の事に言及した途端反応を返した刹那に、ついつい苦笑が漏れる。

 刹那と木乃香は、もっと幼い時分……木乃香が京都に住んでいた頃は大の仲良しの親友同士で、所謂幼馴染の間柄。詠春自身が引き合わせたとはいえ、あっという間に仲良くなった彼女達の事は微笑ましく思っていた。

 

 尤も、木乃香が川遊びの途中で溺れかけるという事件が起こって以来、『助けになれなかった自分には木乃香の傍に居る資格は無い』とでも思い込んだのか、刹那は木乃香を敬遠するようになってしまったが。

 或いはほぼ同時期に木乃香が一人麻帆良へ引っ越して、離れ離れになってしまった事も原因の一つかもしれない。木乃香を関西の勢力争いから遠ざける目的で、詠春としても苦渋の決断だったのだが……。

 とにかく、刹那が感情を失ったかのように修行漬けの毎日を送るようになったのは、その頃であった。

 

 以来、彼女から遠方の木乃香に連絡を取る素振(そぶ)りも見せず、長期休暇で木乃香が麻帆良から帰省しても一定の距離を保ち続けている様子で、見ている側としては随分やきもきさせられた。

 詠春としては、今回の任務での再会を機に復縁してくれれば、と思っている。木乃香も刹那が嫌いになった訳では無いだろうし、刹那が他の全てを切り捨ててでも力を求め続けたのは木乃香の為。きっかけさえ掴めれば、在りし日の二人のように笑い合える関係に戻れるだろうと楽観していた。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「知っての通り、麻帆良学園の学園長……つまり関東魔法協会の長は私の義父、近衛近右衛門です。困った事があったら頼りなさい。きっと力になってくれる筈です。また、向こうには同門の神鳴流剣士、葛葉刀子君も教師として在籍しています。剣の事で相談があれば乗ってくれるでしょう。それから―――」

 

「………………」

 

 必要な連絡事項―――と言うよりは詠春の親心から出た、心配性の母親の如きお節介ではあるが、とにかく多岐に渡る注意事項を、真面目な顔を崩さないまま聞き流す刹那。既にその脳内は、大事な大事な『お嬢様』の事で一杯なのだろう。

 

 

「―――さて、伝達事項は以上です。最後に、護衛の任務は重要ですが、君もまだ子供なのですから、学園生活はきちんと楽しむこと。分かりましたね?」

 

「……承知しました。では私はこれで」

 

 長々続いたお説教も、漸く一区切り付いたらしい。正座のし過ぎで若干脚が痺れかけていた刹那は、話が終わったと見るやすぐさま立ち上がり、……やはり足の痺れで一瞬よろけそうになりつつも、戸を開けて部屋を出た。

 

 ―――その背に向けて。

 

「刹那君。娘を―――木乃香を、宜しくお願いします」

 

「……今更言われるまでも無く。お嬢様の事は、全て私にお任せ下さい」

 

 組織の長では無く、一人の父親として深々と頭を下げる詠春を一顧だにせず、刹那はその場を立ち去った。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 日も暮れなずむ京の空に迎えられ、やっと関西呪術協会の本部から出てきた刹那。

 本部を守る結界の境目に設置されている大きな鳥居を抜け、ふと隣を見れば―――鳥居の足元に、見るからに怪しげな虚無僧が座っていた。僧衣に深編笠の出で立ちで、尺八を奏でている。下手とも上手いとも、何とも言い難い奇妙な音色が、人気の無い夕刻の朱い空気を震わせる。

 

 そんな怪しい虚無僧を敢えて無視するようにして、隣を歩き抜けようとした刹那―――スッと、虚無僧が左手を伸ばし、一枚の紙切れを押し付けてきた。

 彼女はその手にチラリとも目を遣らずに、差し出されたその紙片を淀み無く受け取ると、立ち止まる事無く歩き続ける。この間僅かに1秒未満、傍に誰かが居たとて余程注意深く意識して見ていない限りこの遣り取りには気付かなかったろう。

 

 そのまま夕焼けの京の町へと歩き去る刹那。その背を見送った筈の虚無僧は、いつの間にやら姿を消して影も形も見えなくなっていた。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 町中のとあるカフェ、店の隅の目立たないテーブル席に刹那の姿があった。

 彼女は購入した抹茶ラテを卓上に放置して、手早く隠形の符術を施し他の誰にも会話が聞かれないよう認識阻害を発動させると、先程虚無僧から受け取った紙―――不思議な紋様が描かれた、秘匿通信用の陰陽札を取り出す。

 

 と、札が仄かに発光し、何処かの誰かと通話が繋がったのか、嗄れた老年男性の声が響き始める。

 

 

『……桜咲刹那か』

 

「はい」

 

『首尾はどうだ』

 

「仔細ありません」

 

 短く、簡潔な受け答え。そして。

 

 

 

 

 

『腰抜けの長殿や穏健派共には気取られておらんだろうな?』

 

「ご冗談を。()()()()の長殿が、今更私に疑いをかけるとお思いで?」

 

 常よりも酷薄な雰囲気を纏った刹那が嘯くその声音は、詠春が聞いたことも無い程冷ややかだった。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 桜咲刹那といえば、神鳴流の秘蔵っ子であると同時に、関西呪術協会会長・近衛詠春の懐刀である―――それは皆が認識していた。……より正確に言えば、近衛詠春を中心とした()()()関西呪術協会の主流派である『穏健派』の共通認識、であるが。

 

 

 

 だが穏健派の追い落としと魔法使いの排斥を目論む『過激派』から見た桜咲刹那は―――『穏健派の奥深く、近衛詠春の側近として潜り込んだ間者』であり、同時に『政権奪取の為の鬼札(ジョーカー)』である。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

『―――では、予定通りなのだな?』

 

「はい、不測事態(イレギュラー)はありませんでした。何の問題も無く明後日、関東の魔法使い共の巣窟……麻帆良に潜入できます」

 

 詠春の前で座っていた時と表情一つ変えずに淡々と、しかし纏う雰囲気だけは確かに冷酷に変貌した刹那は、先程詠春から受けた長々とした説教の中から必要な情報だけを抜き出し、符を通した会話の相手―――過激派の首班である、『一色兼継』という名の老人へと伝えていった。

 

 

『ふむ、上々の結果だな。では麻帆良では……』

 

「ええ、監視も制限も付きません。麻帆良の妖怪翁―――近右衛門はお気に入りの『婿殿』の言葉を頭から信じ切っているようです」

 

『そうか、そうか―――クク、穏健派と同じで魔法使い共も脇が甘すぎるな。相当平和ボケしていると見える』

 

 己の掌で踊る愚者達を虚仮にしながら、満足気な笑みを漏らす一色老。一方の刹那はやはり無表情でそれを聞いているが、僅かにコクリと頷く様子から同意の色は見て取れた。

 

 

 一頻(ひとしき)り笑い終えた頃を見計らい、刹那から声をかける。

 

「それで、一色の御老公。麻帆良でも、私は常通りで宜しいので?」

 

『うむ、事を荒立てる事無く、静かに潜伏すれば良い。魔法使い共が何らかの働きを要求してくる事もあろうが、まぁ適度に手を抜きつつ(こな)してやれ。変に反抗して何か勘付かれては元も子もない』

 

 面白くなさそうに言い捨てる一色老だったが、「おお、そうだ」と手を打ってから言葉を続ける。

 

『言うまでも無い事だが、今回の密命―――詠春の小僧が言い付けた護衛の任務な、アレに関しては手抜かり無く全うせよ。木乃香のお嬢が脅かされるのは、我々としても困る』

 

 "英雄"詠春の娘、近衛木乃香。彼女は尋常ならざる魔力の持ち主であり、魔法や呪術について教えられず一般人同然に育ったとはいえ、その才能は破格。教えさえ受ければあっという間に世界最高峰の術者になるだろうし、何も教えなくとも魔力タンクとして『使う』だけでも最高の『兵器』となり得る。

 自分達が制御出来れば絶大な威力を持つ武器になるが、敵の手に落ちれば最悪の事態になりかねない。近衛木乃香は、そういう存在だった。

 

『何にせよ、木乃香のお嬢は我らの切り札たりうる。他の勢力が手を出そうというなら容赦無く排除せい。時が来ればお嬢は我らの下へと来て頂く、その時まで穏健派の思惑通り、何も知らせず余計な知恵を与えないよう囲っておけ』

 

「……了解しました。……『時が来た』ならば、その時は私がお嬢様をお連れすれば宜しいので?」

 

『さてな、状況にもよる。貴様に任せるかもしれんし、別に人員を送るやもしれん。その時が来るまでは何とも言えん……何だ、不服か?』

 

「いえ、確認しただけです」

 

 そう言って口を噤む刹那の声色は、無。確かに何の感情も感じられず、何も含むところは無いように思える……が、本当に何も感じていないのなら、彼女はそもそも口を挟まない。発言したという事実そのものが、彼女が『お嬢様』の事を気に掛けている証左。

 他の話題では絶対にあり得ない刹那の揺らぎを察して、一色老も(何だ、この小娘も()()人間だったのだな)と冷笑を浮かべる。

 

『他の誰かにお嬢を任せたくはない、か……そうさな、貴様は木乃香のお嬢の為に我らの側に付いたのだったな』

 

「……ええ。()()のやり方はぬる過ぎる。真にお嬢様の事を思うなら、お嬢様を手放すべきでは無かった……いえ、それもこれも、私に"力"が無かったからだ」

 

 気が昂ぶったのか、いつに無く口数が多くなる刹那。相も変わらず無表情・無感情のままだが、その声には気迫というか力が込められている。

 

「私は誓ったのです、力を得る為に……お嬢様を守り抜く為に『何でも』すると。その為には今の腑抜けた長やその同類達では生温い。……密かに降った私をそちらの陣営に受け入れて下さったのは助かりました」

 

『何、貴様という存在は丁度良かったのでな。詠春の側近で彼奴等の内情に明るく、神鳴流でも未曾有の才能。お嬢とも懇意で、何より元々連中の手駒だ、()()()()()()()()()()()()()。尤も、今となってはお前の様な得難い手駒をつまらん切り方はしとうないがな』

 

「貴方方は目的の為に私を利用し、私はお嬢様の為に貴方方を利用する。互いに利のある関係なのです、その心が何処にあろうとも関係無いでしょう」

 

 呵々と邪悪な笑みを上げる一色老、幽鬼のように色の見えない不気味な声で呟く刹那。互いに互いを利益の為に利用する、それが彼女達の淡白な繋がりであった。

 

『カカカ、しかし貴様も歪んでおるのう、刹那。理解しておるか、貴様の思考は"普通じゃない"ぞ? 敬愛するお嬢の為なら、そのお嬢を騙し拐かし我等に献上する事すら厭わぬなどと!』

 

「お嬢様の未来も幸せも、詠春の側にはありません。魔法使い共の側にも同様です。お嬢様はただ私の傍にあれば良い……それを果たせるのなら、無理矢理にでもお嬢様を『導く』事、躊躇いは有りません」

 

 そんな狂った事を宣う刹那の言い分を聞き、悪辣な老人は内心ほくそ笑む。

 こんな妄想、彼女の独り善がりだ。木乃香の意思を無視して木乃香の未来を定め幸福を定義するなど、他ならぬ本人が望む筈も無かろう。

 どう言い繕った所で、所詮は刹那一人の自己満足に過ぎない―――いや。

 

(違うな、木乃香のお嬢を利用し腰抜け共を排除できる()()にとっても満足の行く結末だ……ククク、確かに刹那と我々両方にとって満足できる、『互いに利のある』関係ではあるな。この狂った小娘がどこまで理解できているかはさておき)

 

 正しく『歪んだ忠誠心』とでも言おうか。今の刹那は木乃香のお嬢の事を思っているようでいて、その実自分の事しか考えておらず、しかも自分ではそれに気付いていないらしい―――彼ら過激派にとって、刹那のそういう『壊れた』一面もまた、彼女を重用し信任するに値する要素であった。

 

 

 壊れているから、扱い易い。心の無い人形を繰るが如く。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

『……そろそろ時間だな。いつも通り、この通信を終えたらば通信符は焼き捨てよ。麻帆良での定期連絡に使う符は出立直前にいつもの虚無僧から受け取れ』

 

「畏まりました」

 

『麻帆良潜入後の通信符の補充、並びに必要物資の補給は、都度こちらから連絡員を送る。念の為に麻帆良結界内部では無く、隣町で落ち合え。遠出の買い物とでも偽れば怪しまれはせんだろう―――最後に一言言っておく』

 

 粗方の通達を終えると一呼吸置いた後、一色老は厳か且つ冷徹に告げる。

 

 

『貴様は人では無く刃だ、我々が詠春の喉元に突き付ける刃だ。人間らしさなど無用と切り捨てよ。仮初めの学生生活を送ろうともその本分を忘れず、(ゆめ)その刃を錆び付かせる事の無きよう』

 

「無論です御老公。私は(ただ)お嬢様の為にのみ磨かれる(つるぎ)ですから」

 

 

 刹那のその答えを聞き納得したのか、一色老は鼻で笑いながら通話の術を解く。

 光を失い只の紙切れとなった通信符にライターで火を付けると、まるで始めから何も存在しなかったかのように灰の一粒も残さず一瞬で燃え尽きて、刹那の背信の証拠は完全に隠滅された。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 さて、刹那は一色兼継への報告を終えた後も、まだカフェの中に留まっている。

 認識阻害を解くことも無く、ゆったりと飲みかけだった抹茶ラテを楽しみ、漸くカップを空にすると、徐に懐から携帯電話を取り出し、番号を打ち込んでコールする。

 

 

 2、3回の呼び出し音の後、相手は電話に出たようだ。

 

「……はい、私です。……ええ、……ええ。そうですね―――」

 

 電話先の相手との幾らかの応答の後。

 

 

 

 

 

「―――やはり関西(こちら)()()ばかりです。穏健派も過激派も、無能の詠春も老害の一色も!」

 

 嘲笑を隠そうともせず清々しいまでの笑顔を浮かべる刹那の、さっきまでの鉄面皮が嘘のようなこの感情に満ち溢れた表情(かお)を見れば、きっと穏健派も過激派も手を取り合ってビックリ仰天する事だろう。

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

 ―――とどのつまり。

 穏健派も過激派も、近衛詠春も一色兼継も。

 『桜咲刹那』という少女の本質を、見誤っているのだ。

 

 

「……ええ、容易いものです。全てはアナタの思惑通り」

 

 ニヤリ、と口端を歪めた呟きに愉悦の色が混ざるのは、自分のような小娘に簡単に誑かされる関西の両派閥を心底滑稽に思うが故。

 

 

「関西の連中は、誰もが私を完全に掌握出来ていると思い込んでいます」

 

 連中にとって都合の良い『桜咲刹那』を演じてやれば、これこの通り。既に関西の情報の大部分は、電話先の『真の主』に筒抜けなのだ。

 

 

「誰も私の正体に気付いてはいません」

 

 彼女は、力を得る為に人間らしさを切り捨て感情(こころ)の凍った哀れな子供、()()()()

 

 

 

 

 

「私が、三重スパイ―――"トリプル・クロス"であるとは……」

 

 ただ、取るに足らない有象無象(ゴミども)を相手に自分の内心を吐露する必要性を感じていないだけ、なのである。

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

「……成る程。関東(そちら)の魔法使い連中も、相変わらず馬鹿ばっかりですか。……ええ、呆れを通り越して笑えてきますね、まったく!」

 

 相手方の話を聞き、先程扱き下ろした関西の呪術師と同様、関東の魔法使いについても嘲り蔑む。()()()にとっては、東も西も……魔法使いも呪術師も変わりはない。総じて邪魔者、目の上のタンコブだ。罵倒は尽きない。

 

「……はい。万事滞り無く。明後日にはそちらに着きます。……ええ、私も楽しみです♪」

 

 ニコニコと上機嫌な刹那は、サイドテールの髪を指でクルクルと弄びながら電話を続ける。

 その様子は無味乾燥な報告・連絡の類では無く、相手との会話そのものを楽しんでいる事がハッキリ伝わってくるほど生き生きとしていた。

 

「合流後は如何致しましょう? ……ええ、それはもう、喜んでご一緒させて頂きますが……いえ、食事や買い物の話では無く。私の今後の活動の事です」

 

 満更では無さそうに苦笑しながらも、私事より先に自身の使命についてを訪ねる刹那。それはそれとして、頭の中の予定帳には楽しみな『お出かけ』の事を書き留める。

 

「……今暫く潜伏、ですか。……成る程、……もう2、3年は機を伺う、と。……はい、承知しました。引き続き、関西両派閥での内偵を続けると同時に、麻帆良では近右衛門にも取り入ります」

 

 下された次なる指示に、気持ちを昂らせる。『従者』である彼女にとって、心の底から忠誠を誓った主から下命を受ける事は自らが信頼されている事の証明であり、その役に立てる事は何よりの喜び。

 命令されるだけで彼女は至福の悦楽を感じ、恍惚とした表情を抑えきれない。

 

「では、私は出立の準備もありますので。名残惜しいですが、本日はこれで……え? 最後に一言? はい、何でしょうか―――!?」

 

 遠足前日のようなウキウキ気分で電話を切ろうとした刹那だったが、最後に伝えられた一言に、一瞬の硬直を見せる。

 次いで目を丸くする。

 次いで頰を真っ赤に染める。

 次いで瞳が妖艶に潤む。

 次いで一呼吸の熱い吐息を吐く。

 次いで華のような笑みから、蕩けるような色気を滲ませて。

 

 

 

 

 

「……うん、うちも愛しとうよ、()()()()()♡ 世界で一番大好きや♡♡♡」

 

 ―――生涯を捧げると誓った唯一無二の主君であり、愛し合い支え合う事を互いに約束しあった最愛の伴侶……己が半身、比翼連理の(つがい)である『近衛木乃香』お嬢様に、心の底から溢れ出て仕方ない真実の愛を囁いたのだった。




最後の刹那さんはヤンデレ笑顔。
恍惚のヤンデレポーズな雰囲気で。

本当は一話で終わらせるつもりだったけど、長くなったので前後編に分割。
まぁどちらにしろ物語のプロローグ部分で終わる短編なんだけども。
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