わたしたちの居場所   作:原作未読の魔改造フェチ(百合脳)

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その為の東方クロス。




※京都弁は分からんし、お嬢様言葉も分からん。
よって随分適当な口調になってる筈。雰囲気よ雰囲気。

※原作を熟知した人間、もしくは生粋の京都人、或いは良家の育ちのお嬢様が清書してくれる事を祈る。


暗躍! (かしま)(あやか)し三人乙女

 関東・麻帆良学園都市にある某有名チェーン店のファミレス。

 テーブル席に向き合って座るのは、まだ小学生に見える―――事実、来月の中等部入学式までは小学生として扱われる―――二人の少女。

 

 

「んふふ〜、ほなまたな〜せっちゃん、待っとるえ〜♡」

 

 今世界で一番幸せなのは私達だ、と言わんばかりの満面の笑顔で電話を切ったのは、桜咲刹那の真の主―――近衛木乃香。

 長い黒髪を靡かせながら小躍りして喜ぶ様は、一見すると天真爛漫な箱入り娘。

 

 

「はいはい、ご馳走さまですわー」

 

 そんな、桃色のオーラを周囲に振り撒きながらニヘラニヘラとにやけ顔が止まらない彼女を眺めて食傷気味に溜息を吐いたのは、木乃香の黒髪と対になるような長い金髪の令嬢―――雪広あやか。

 

 

「それで結局……『予定通り』刹那さんは私達に合流する、という事ですわね?」

 

「せやでー、せっちゃんと一緒に学生生活やー、えへへ〜♪」

 

「……完全に蕩けてますわね。私達の()()として、もう少しシャキッとして頂きたいものですが」

 

 ドリンクバーで淹れてきた紅茶のカップを空にしながら、立場上は自分達のリーダーに当たる友人に嘆息する。

 とはいえ、こんな緩く見える部分もまた木乃香という人物の魅力なのだと理解しているあやかは、あまり強く言う事は無い。そもそも、何も考えていないように見えて色々考えていたりするのが目の前でふにゃふにゃ笑う少女なのだ。

 

 伊達や酔狂で関西・関東を同時に敵に回そうと言うのでは無い。老獪な大魔法使いの祖父と、英雄と呼ばれた剣士である父を出し抜き、密かに準備を整え雌伏し絶好の機を待ち続けている娘の頭の中には、勝利の図式を描く神算鬼謀が詰まっているに違いないのだ。

 さりとて、その計画の全容を仲間にすら打ち明けることは無く、「全部うちに任せときー」などと嘯きながらいつもと同じニコニコ笑顔を絶やさない、ポワポワ天然娘を装った昼行灯の賢者。

 味方にすると胡散臭い事この上無いが、敵に回す事など想像するだに恐ろしい。それが、あやかの信頼する親友にして志を同じくする盟主・近衛木乃香という少女である。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

「……あら、明日菜さんが帰ってきたようですわよ?」

 

「あ、ホンマや。今()()()から待っててなー」

 

 そう言うや否や、木乃香達の前の()()に裂け目が生じ、音も無く開いていく。これは木乃香が張っていた『結界』の出入り口。

 しかし『結界』とはいえ、魔法や呪術によるものでは無い(故に魔法使い達はこの結界の存在にすら気付かない)。これは木乃香自身が生まれ付き身に宿す()()―――『境界を操る程度の能力』によるものである。

 この能力で彼女は自分達の座るファミレスの一席を、(うつつ)の位相から区切って周囲の認識から外していた。そのおかげで白昼堂々、周囲の喧騒も気にせず内緒話が出来る訳だ。

 

 そんな認識の境界線、木乃香が開けた『スキマ』を抜けてやって来たのは神楽坂明日菜、木乃香とあやかの親友であり、特に木乃香とは寮の同室で暮らすルームメイトである。

 そんな彼女は所用があって席を外していたのだが、帰ってきた彼女のむすっとした表情や額に浮かんだ青筋を見るに、どうも不愉快な事があったらしい。

 

「ただいまー……ったくもー、魔法使いって奴らは本当にもー!!」

 

「おかえり明日菜、随分荒れとるけど……何があったん? 中学でも一緒のクラスか確認しに行っただけやろ?」

 

「ああ、一緒のクラスだったわよ……それは良いんだけどね!」

 

 苛立ちを抑えもせずに吐き捨てながら、持ってきた書類をテーブルに投げ出す明日菜。その内容をあやかと木乃香で額を付き合わせて覗き込むと。

 

「……うわあ」

 

「何と言いますか……非常に、個性的な、クラスですわね?」

 

「ハッキリ言いなさいよいいんちょー、個性的どころか『異常』よ『異常』! ()()()()()()()()()()()()、よ!? 絶対意図的に仕組まれてるじゃないのよー!!」

 

 うがー! と吠える明日菜だが、確かに彼女の言う通りである為、二人も掛ける言葉が見当たらない。

 

 

「いいんちょ、どうせ中学上がっても学級委員やるんでしょ? こんな訳分かんないクラス纏めさせられるのよ!? 他人事じゃ無いんだからね!!」

 

「……あ、私ちょっと、中学からは図書委員になるかもしれませんので」

 

「ちょ、逃げるなー!?」

 

 雪広あやか、通称いいんちょ。雪広財閥の御令嬢として常にリーダーシップを発揮し、小学生時代は6年間常に学級委員を務め上げた、自他共に認める『学級委員長』が思わず逃げ出したくなるほどの異常なクラス。

 

 『裏』の関係者……所謂魔法生徒以外にも、『気』の扱いを自覚の有無問わず心得ている者、裏に関わらずとも一芸に秀で特出している者、出自が一般家庭で無い者、天才や体力馬鹿、忍者に至るまで。

 ただでさえ『普通で無い』麻帆良から、更に『濃い』異常を抽出したかのようなラインナップ。あやかでさえ投げ出したくはなるが、同時に自分以外にクラスを纏められる者はいないだろうな、とも感じてしまえば、現実逃避もしたくなるもの。

 

 

「いやあ、じいちゃんの事やからある程度の問題児は面白がって纏めるんやろなぁって思っとったけど……ここまでとか、無いわー近右衛門無いわー」

 

「と言うかもうこれ、面白がるとかそう言う問題じゃありませんわよ……何かしらの、確固たる意志が絡んでそうな気がしますわ」

 

()()よ、一番の問題はっ!!」

 

 そう叫ぶ明日菜が指で示したのは、机の上に散らばる資料の内の一枚。眼鏡をかけた赤毛の幼い少年の写真の下、つらつら綴られた説明を読んで、二人共「あちゃー」と天を仰ぐ。

 

「二年度の末に就任内定……って、子供が『教師』は無いでしょうに……『美少年教師』という響きは憧れますが、こうまで裏の意図が見え透いてると、寧ろ憐れみの方が先に来ますわね」

 

「『ネギ・スプリングフィールド』……スプリングフィールド言うたらアレやろ、うちの糞親父……もとい『お父様』の盟友だったとか言う」

 

「そ、ナギの息子だってさ。()()と私を引き合わせようってのよ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 心の底からの憤怒の叫びに、残る二人も深く頷き同意する。

 

「そうですわね、明日菜さんが()()()()()()()()()()()()()と知った……という風にも思えませんし、これはもう……」

 

「フフフ、何の為にって決まってるやろ。明日菜を『使い易く』する為やって」

 

 京都土産の扇子で口を隠し、雅に微笑む木乃香ではあるが、表情と裏腹に纏う雰囲気は真っ黒。魔法使いに対する侮蔑と軽蔑が滲んでいて、ぶっちゃけ明日菜もあやかも軽く引くレベルの暗黒微笑。

 

「連中、なーんも変わらへん。やれ世の為人の為、正義の為だの。子供の安全の為に、将来の為に。何のかんのと理由付けては、うちらの未来を勝手に決め付けて、誘導しよる。客観的に正論だったとしても、100%善意のつもりだったとしても、うちらにとっては強制されてるんと同じやんか……!」

 

 

「あ、始まったわ……」

 

「まぁ、気持ちは分かりますし……」

 

 魔法使いやら何やらに対する不平不満が溢れ出した時の木乃香は、ある程度吐き出し切るまで止まらない。それを経験則で理解しているので、二人も敢えて止める事はしない。

 

「『子供に血腥(ちなまぐさ)い世界を知らせたく無い』? 『過酷な運命を与えたく無い』? なるほどご立派な考えやな、全く正しいわ。で? その為にうちらの大事なもん奪って、知らない方が良いからって全部誤魔化して、何様やアンタら!! 大人なら、親なら何でもかんでも子供を思い通りにするんか!! うちがせっちゃんから離れたいなんて、誰がいつ望んだんや!!!! 全部、()()()の都合やんか!!!」

 

 

 

「……あーね、そうね。私も、別に記憶消して欲しいとか思ってなかったし。私を『普通の女の子』にする為かと思えば、英雄の娘(このか)とルームメイトにするし。あいつらの都合に振り回されっ放しよね」

 

「で、今度はよりにもよってスプリングフィールドですか。しかも、これ、木乃香さんと明日菜さんの部屋に同居を検討? ……完全に『二代目英雄セット』を作るつもりとしか」

 

「真意はどうあれ、例え100%の善意であったとしても、私達の勘違いだったとしても……私が『そう』感じちゃった時点で、うん、もうこれ、無理だわ。ごめんだけど、私もう()()()()()()()()って思う」

 

 

 

「―――ほえ、明日菜? 前誘った時は『まだ早い』言うてたけど?」

 

 二人が会話する裏でも早口でグチグチ言ってた木乃香だったが、聞き耳は立てていたらしい。明日菜の一言を聞き漏らさず、ピタリと口を止めて確認を取れば、明日菜も疲れた顔で頷いてみせる。

 

「うん、『計画』についてだけど、やっぱ私も木乃香の誘いに乗る。ナギやガトウの事もあるし、ギリギリまでは『こっち』に留まって最低限の義理は果たしてから、のつもりだったけど……もう愛想尽きたわ。私も『計画』発動のタイミングで、木乃香達と一緒に行く。……いいんちょには悪いけど」

 

「あら、気にする事はありませんわ。元々『こちら』のプロジェクトは私一人で進めるつもりでしたもの、おバカが一人欠けた所で支障は無くてよ」

 

「なっ……おバカって何よー! そりゃ学校の成績はアレだけど、それは『記憶喪失の』神楽坂明日菜が高成績なのはおかしいからで……演じなくていいならもっと点数取れるんだからねー!!」

 

「ハイハイ、それで素の知力で私に勝てまして?」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 しんみりと深刻な話をしていたかと思えば、次の瞬間には脱線して取り留めもない馬鹿話(馬鹿な話、又はバカの話)。緊張感の無い少女達である。

 しかし、こんな風に馬鹿やってケンカして、殴り合って笑い合って分かち合える。そんな自然な関係をこそ、近衛木乃香は……彼女達は愛していた。

 

「ふふ、二人ともイチャイチャするんはええけど、うちも混ぜてーな?」

 

「イチャイチャなんてしてないからっ!?」

「イチャイチャなんてしてませんわっ!?」

 

 異口同音に発せられたツッコミは、タイミングまでもシンクロしていて。やっぱりイチャイチャで合ってるのでは? などと野暮な事言うと矛先が自分に向くので、ニヤニヤしながら微笑むに留める。木乃香は賢いのだ。

 

 

 

「とにかく明日菜もうちらと一緒に行く、って事でええね? あやかには一人で頑張って貰わなあかんかもやけど……ま、『彼女』の意思と交渉次第かもしれへんね」

 

 そう言って木乃香が指でつついたのは、卓上に広がる中等部のクラス名簿……その中の一枚、金髪の幼女が写った写真の部分。

 とても中学生には見えない程幼いその少女はしかし、クラスの中で一番永い時を生きてきて、故にこそ中学生である事が本来有り得ない少女だった。

 

「『エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル』……ですか」

 

「600年の時を生きる真祖の吸血鬼、ね……」

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル―――闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)の異名を持つ伝説的な魔法使いにして吸血鬼。『正義』を旨とする魔法使い達にとって不倶戴天の相手。

 英雄ナギ・スプリングフィールドによって麻帆良に『封印』されている今でこそ、この地を守る同僚として一応の折り合いは付けているが、本来なら蛇蝎の如く忌み嫌われ、また脅威と恐怖の象徴として畏怖される筈の存在。魔法使いの間ではナマハゲのように言い伝えられているという、泣く子も黙る絶対悪。

 

 

 ……とはいえ。それは魔法使いにとって、の話で。

 

「『登校地獄』という呪いの所為で、もう12年も中学生活を続けてるのでしたか? 私達とこれから中学生やり直すのですから、卒業の頃には15年……魔法使いも酷な事をしますわね」

 

「元はナギが『封印』した、らしいけど。あの馬鹿の事だから、絶対そんな意図は無かったわね。……それを歪めて、良いように使える『魔法使いの奴隷』に仕立てたのは……さて、誰の意図かしら?」

 

「何にせよ、この子もまた『望まぬ居場所』を押し付けられた一人っちゅう訳やね」

 

 いくら悪名高い吸血鬼の頂点だろうと、彼女達にとっては()()()女の子。(おび)えも(ひる)みも微塵も見せず、彼女の境遇を偲び魔法使いへの憤りを募らせる。

 

 エヴァンジェリンは確かに多くの人を殺傷してきた犯罪者ではあるが、彼女達の調べた限りでは情状酌量の余地は十分にあった。

 そもそも、彼女が大量の死者を出してきた背景には、吸血鬼という『悪』を許さなかった魔法使い達による『正義』の押し付けがある。それさえ無ければ彼女も罪を重ねる事なく平穏に過ごせたかもしれないし、実際彼女は敵対者以外の人間……特に女子供には極力犠牲を出さないよう努めていた節がある。

 

 つまり、彼女は麻帆良という檻に押し込められ、其処を"居場所"と定められるより遥か以前から。

 『悪』という"居場所"を強いられ、そう在るように強制され続けてきたと言えるだろう。……『正義』を証明したい、魔法使い達の都合によって。

 

 

 

 ならば、『彼女達』がどちらに味方するかは明白であった。

 

 

 

「うちらは、誰にも縛られへん。『誰か』の用意した揺り籠なんて、そこがどんだけ心地良うても真っ平御免や」

 

 力強く宣言する木乃香に、明日菜も深く頷き賛意を示す。

 

「うちらは籠の中の鳥や無い。『誰か』の思惑なんて知ったこっちゃ無い。押し付けられた"居場所"なんていらへん―――うちらの"居場所"は、『うちら』自身で決める」

 

 あやかも静かな微笑みを湛え、その言葉を肯定する。

 

「現実は厳しい? 子供の妄言? 叶いっこ無い夢幻(ゆめまぼろし)? ―――ええやない。夢も幻も上等やえ。元よりうちの能力に、そんなん関係あらへん……幻と現の境界線、うちが引き直したるよ」

 

 木乃香達の目の前、テーブルの上にスキマが開くと、そこから覗く景色は遥か上空……麻帆良の全容を俯瞰する、荘厳な景色。

 

「この世界に居場所が無い子も、今の居場所から逃げたい子も。ただ単に、うちらを居場所にしたい子も……()()望むんなら、みーんな受け入れたる。うちらが皆の、皆がうちらの……心の『故郷』になるんよ」

 

 スキマから見える麻帆良の街並みが段々遠ざかり、視点は上空へと昇っていく。やがて日本列島を鳥瞰し、ユーラシア大陸を眺望し、最後には青い地球(セカイ)をその眼下に収めた。

 

 

 

「―――夢(まぼろし)(おも)えばこそ還れる(ふるさと)も有る―――うちらの楽園、うちらの居場所。何者にも侵されないうちらの箱庭。このしみったれた監獄(セカイ)の、"外側にある天国(アウターヘブン)"を造り営む。―――『幻想郷計画』、必ず成し遂げるで!!」

 

 星を映したスキマを閉じると同時、神判を下すように、誰にともなく―――或いは己自身に覚悟を刻むが如く、宣告する。緊張とも悲壮ともかけ離れたその表情は、まだ見ぬ未来を掴み取るに相応しい不敵な笑み。

 目指す道筋には艱難辛苦が待つと理解していても尚、求めた物は想い人との蜜月の園。万難を排してもそれを築くと決意して、その為に『同志』を求めた。

 ただ、愛しい人と一緒に永遠を過ごせる"居場所"が欲しかったから。だから彼女は、彼女達を認めてくれる仲間を集め、居場所を提供し、見返りとして居場所を要求する。

 

 誰もが誰かの居場所となり、誰かが誰かを居場所と出来る。皆が皆に居場所を貰い、皆が皆に居場所を与える。それが彼女の思い描く理想の居場所(セカイ)

 

 

 

 そんな木乃香に何処までも付いて行くと決めたから、明日菜もあやかも彼女の為に力と知恵を尽くすのだ。

 

 

 だって木乃香は、二人にとって掛け替えの無い親友で。

 

 ―――二人もまた、木乃香の隣を自身の"居場所"と定める程度には、彼女の事が大好きなのだから。

 

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

 

 ま、だからと言って今すぐ動き出す訳でも無ければ、何かをどうこうする訳でも無く。

 三人娘は未だファミレスの一席、現と隔てた幻の食卓を囲んで、飲み食いしつつ駄弁っているのであった。

 

「それにしても、不幸中の幸いというか……真祖ちゃんの事はいつか誘いに行こうって話だったけど。まさかこんな異常なクラスに纏められたおかげで、会いに行く手間が省けるなんてね」

 

「どういう理由付けで、互いに見知らぬ筈のマクダウェルさんとアポを取るか。悩ましいところでしたが、正しく僥倖―――いえ、それともこれも計算の内ですか? 我らが"賢者様"?」

 

 揶揄うようにあやかが問えば、「賢者様はやめてーなー」と笑い飛ばしながら、実際賢い木乃香様が答えて曰く。

 

「うちかて、未来まで見通せる訳やあらへんよ。……ただまぁ、近右衛門の事やから? いつかは真祖さんとうちらを引き合わせるつもりやろな、とは思っとったよ。……まさか『英雄二世』の男の子諸共、あんな作為的なクラスで一緒くたにされるのは想像以上やったけど」

 

「……ああ、そうですわ、ちょっと気になっていたのですが。明日菜さん、この資料は一体どこから? てっきり職員室に忍び込んで掻っ払ってきたのかとも思いましたが……」

 

「せやね、『2年後に就任予定の、まだ本人にすら知らせていない新任教師』……なーんて、予定も未定な企画段階のデータが付いてるんは正規ルートの情報とは思えんね。て事は?」

 

 話の流れで水を向けられた明日菜も、別段隠す事でも無かったので口を開く。

 

「ん、こーいう情報収集ならさ、やっぱ『電子戦』の方が手っ取り早いでしょ? だからさ、ハッキングからプリントアウトまで、ぜーんぶ"ちうちゃん"に頼んで―――痛ッ!?」

 

 この場には居ない『もう一人の同志』の名前……というか渾名を口にした途端、どこからとも無く弓矢が飛んできて明日菜の頭にスコーンと突き刺さる。

 ……よく見ると手紙が付いている、矢文だ。書いてあるのはただ一言、『ちうちゃん言うな』……人に呼ばれるのは不本意な渾名だったらしい。

 

「明日菜さん、本人がいないからって油断して……()()()()()に決まってるじゃ無いですの」

 

「『()()()()()()()()()()()』の事、忘れたんか? ……かわいそーに、明日菜の頭も遂にここまで馬鹿が進行してまったんやな……」

 

「かわいそうなモノを見る目やめてー!? 私がちぅ……千雨ちゃんにシバかれるのはいつもの事じゃない!?」

 

 

「や、だからかわいそうなんやで?」

「学習能力というものが無いのですね、明日菜さん……」

 

「ぐぬぬぅ……!」

 

 明日菜が『ちうちゃん』と呼んで、千雨がシバく。それは確かに二人にとって『お約束』であり、一種のコミュニケーションのようなものだったが……親友二人は、付け入る隙を見逃さない。

 反論できない明日菜を揶揄うように、というか揶揄う為に、全力で明日菜をおちょくる。

 

「心配いりませんわ、アナタがお猿さん並の頭脳しか持たなくても、私はちゃーんと友人で居て差し上げますわよ? ほら、エサですわよー」

 

「バナナなんているかー!?」

 

 こういう時の為に常備していたバナナを懐から取り出し、ほーれほーれとチラつかせてみれば、明日菜はそれをスルーしてあやかに摑みかかる。

 ……が、軽くいなされるばかりか、あやか得意の合気柔術で逆に組み伏せられる。割といつもの光景であった。

 

「いたたたたたっ、折れる折れる!?」

 

「オーホホホホッ、いっつも言ってるでしょう! 私の『武芸百般に通ずる程度の能力』は、アナタの『あらゆる魔法を無効化(キャンセル)する程度の能力』に対し一方的に有利なのですわ!」

 

「いっつも言ってるけど、アンタのそれは『能力』じゃ無くてただの『技術』だってのー!!」

 

 やいのやいのと言い合いながら、腕の関節を極めるあやかと極められる明日菜。そんな二人の微笑ましい戯れを楽しみつつ、木乃香は明日菜の額に刺さりっ放しの矢を引き抜こうと手掴みで引っ張る。

 

「やー、でも実際、あやかの武術のワザマエはタツジン級やよー? 幻想郷に入植して『妖怪になった』時には、ホンマに『能力』と呼べるようなナニカに変質する可能性はあるで……んー、なかなか抜けへんなー」

 

「痛い痛い、もっと優しくして……って、いいんちょの技がこれ以上になるかもしれないってコト!? ……木乃香、コイツに関しては『人と妖の境界』弄るのやめとかない? 寧ろヒトの側に固定する方が……」

 

「ダメやでー、幻想郷は『妖怪の楽園』が前提や。せやから明日菜も『妖怪にした』んやろ?」

 

「つってもまぁ、私の場合元から"普通の人間"とは言い難かったし……てか痛いってばっ、死ななくても痛いモンは痛いのよっ!?」

 

「我慢やで〜」

 

 矢をグリグリと押したり引いたりしながら話す。玩具でも何でもない、本物の矢が額のド真ん中に刺さっているのに、というか現在進行形で傷口を広げられているのに、そこまで堪える様子が無いのは彼女が既に人間で無く『妖怪』であるからこそだ。

 

「……何にしろ、私は我が雪広財閥を『幻想郷の現世側の出島(フロント)企業にする』という重要プロジェクトを任されている以上、それを終えるまで人間を卒業できませんわ。残念ながら」

 

「いいんちょには『トップ』として前に出てもらうつもりやからね。もう妖怪になってる明日菜が裏方で補佐、……って予定は変更になって、……交渉結果次第で、真祖さんが手伝ってくれるとええんやけど」

 

「まぁ、別に必要という訳ではありませんけれど。そもそも明日菜さんが『恩人への義理は果たしたい』と申しましたから現世側の席を用意しただけで、プロジェクトへの貢献については正直最初から期待なんて……」

 

「ちょっといいんちょそれは聞き捨てならな痛だだだだだぁぁっっ!?」

 

「あ、抜けたわ〜……はれ?」

 

 姦しく騒いでる内に、何かの拍子でスッポリと矢が取れたようだ。

 漸く抜けたその矢を何の気無しに検めてみると、ふと矢文が二枚重ねになっている事に気付く。

 

 その二枚目の(ふみ)を手に取って広げ読もうとするが、矢が邪魔なので明日菜の脳天に刺し直した。

 

「のぉっ!? ……って何すんのよー!? わたしゃ針刺しか!!」

 

「まぁ、明日菜さんの脳みそはスカスカでしょうし、針刺しにしても問題無いのでは?」

 

「そんな事より二枚目読むで〜、えっと……?」

 

 明日菜渾身のツッコミを軽くいなして、矢文を読んだ木乃香の頭上にハテナマークが浮かぶ。

 

「? 木乃香さん、どうか致しまして?」

 

「……ん、えっとなー、うん……ちょっと待ってな?」

 

 困惑顔のまま、矢文を二人に渡して自分は先程のクラスメイト資料をもう一度漁り始める。

 その様子を不審がりつつも、矢文の内容に目を落とせば。

 

「『追伸。何故かお前らスルーしてるが、この出席番号1番"相坂さよ"ってヤツも"居場所"を欲してる可能性大』……え、そんな子居たっけ?」

 

「いえ、先程の資料には相坂さんなどという生徒の名前は―――」

「ホンマにあったわ!!?」

 

 あやかの証言を遮るようにして卓上に叩きつけたのは、さっき三人の目で確認した筈の資料。そこにハッキリくっきり、相坂さよという名の『幽霊』の情報が記載されていた。

 

「嘘でしょっ!? 私達全員でチェックしてこれ見落とすなんてそんな―――」

 

「普通じゃ無いなぁ。……んー、多分これ、能力やわ。本人が意識して使(つこ)うとるんかは分からんけど……名付けるんなら、『存在を消す程度の能力』とかどうやろ?」

 

「気配や姿だけでなく、『自身に関する情報』さえも、それと知って見なければ分からなくする……成る程、『境界』で区切られればそれと気付ける木乃香さんまでも誤認した以上、『隠した』のでは無く『消えていた』の方が正しいのでしょうね」

 

「え、でも、ちぅ……さめちゃんは何で普通に気付いて、ってそれこそ『見通せる』からか」

 

「うちの張った『境界』も楽勝で『見通す』からなぁ、やっぱチートやでちうたん……おっと」

 

 木乃香に向かって突如飛来した『ちうたん言うな!』の短冊が付いた弓矢は、手前で開いたスキマに飲み込まれ、彼女に突き刺さる事は無かった。

 

 ……代わりに、明日菜の頭の後ろに開いたスキマから飛び出てきて後頭部に命中したが。

 

「って、何で私ーーーッ!?」

 

「いやー、明日菜はやっぱり弄り甲斐があるからなー」

 

「そこは同感ですわね」

 

 身代わりにされた明日菜が悲鳴を上げてぶっ倒れるが、彼女の頑丈さを信じている(モノは言いよう)二人は全く心配しない。

 ……散々弄られっ放しだった明日菜が凄絶な笑みで起き上がっても、特に申し訳無さも浮かばないのである。

 

「こ〜の〜か〜……私に何か言う事あるんじゃない?」

 

「ん、頭が刺激されてバカが治ったかもしれへんで、良かったな〜」

 

「『ご』で始まって『い』で終わる言葉よ!」

 

「『ゴリラはやさしい』?」

 

「……ふふふ、そう、そっちがその気なら、良いわ、やってやろーじゃない!!」

 

 とうとうブチギレた明日菜が懐から取り出したのは数枚のカード。それを見た木乃香もニコリと笑んで、手元に開けたスキマから同様のカードを取り出した。

 

「勝負よ木乃香! 私の宣言は3枚!」

 

「ええでー、ほなら、うちは2枚や。今日こそはうちに全力(ハード)出させてみ?」

 

全力(ハード)どころか、死に物狂い(ルナティック)の覚悟しときなさいっ!!」

 

 

「ちょっと二人共、現実と()()た位相とはいえここは公共のファミリーレストランなのですから! 『()()()()()』はお外でやりなさいな!!」

 

 

 

「ん、じゃあ『空間』はうちが用意するから、スキマの中でやろか」

 

「上等よ、負けた方が今日の夕飯奢りだからね!」

 

 

 言い合いながら、開けたスキマを通って別空間へと移動した二人は、徐にフワリと()()()()、ある程度の距離を取る。

 

 

「んじゃ、さっそく―――」

「先手はあげへんでー、境符『幻と現の撹乱』」

 

「って、いきなりヤバッ―――く、否符『破魔の護りの剣捌き』!」

 

 

 ―――そして、互いに弾幕を張って戦い始めた。

 妖力を使って形成したその弾は、色とりどりで美しく、形も華やかに見えるよう工夫を凝らされている。

 

 これぞ『弾幕ごっこ』、木乃香達の仲間内での決闘法。いざこざを平和的に解決する為のルール……というよりはまぁ、スポーツというか、『遊び』である。

 互いに趣向を凝らした弾幕を『スペルカード』という形で表現し、互いのスペルを攻略し合う。途中で墜とされたら負けなのは当然として、対戦前に自分が宣言した枚数を使い切ってしまえばそれも敗北。

 互いの弾幕が空を埋め尽くす様はある種の芸術であり、相手との戦闘であると同時、舞踏のように互いの技術とセンスを交わし合うセッション。

 当事者同士だけでなく眺めるギャラリーまでもが楽しめる、『強さ』よりも『巧さ』や『美しさ』を競う、少女達の戯れ。

 

 

 

「防戦一方ですわね、明日菜さん。最初に主導権を握れなかった所為でしょうが……やはり木乃香さんの試合運びは参考になりますわ」

 

 一人ファミレスの席に残ったあやかは、二人の戦いをスキマ越しに観戦しながら紅茶のカップを傾ける。

 

 

 やがてカップが空になり、明日菜が二枚目のスペルを使わされた頃、席を外の空間と区切る境界を()()()()()、眼鏡を掛けた少女が内側に入って来てあやかの対面に座った。

 

「あら、千雨さん?」

 

「よう、いいんちょ。あの二人が弾幕ごっこ始めるのが()()()んで、生で観戦にきた。アレを肴に、一緒に()()()ぜ」

 

 そう言って、その少女―――長谷川千雨が卓に置いた瓶の中身は、言わずもがな酒である。

 無論、彼女達未成年が飲んでいいものでは無い……と言いたい所だが、それは飽くまで日本の法律。幻想郷の決まり事では無い。

 よって、未来の幻想少女の一人である雪広あやかとしては。

 

「そうですね、ありがたく頂きましょう。丁度紅茶も無くなった所ですし」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 と、"学園のクラス委員長"の立場では止めるべき飲酒を、"幻想郷の一員"として肯定し、嬉々として酒を煽るのだった。

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

 二人の少女が激突する。二人の少女が酒を飲む。

 煌めく弾幕をバラ撒きながら。華やぐ空を楽しみながら。

 

 やがて空の二人が互いの最後のスペルを解禁し。地の二人が早くも二瓶目の封を開け。

 激戦も最高潮(クライマックス)、宴も(たけなわ)、少女と少女と少女と少女、四人は其々(それぞれ)盛り上がる。

 

 弾を放って少女が舞って、弾をすり抜け少女が踊る。盃交わして少女が酔って、飲んで騒いで少女が興じる。

 

 どこまでも自由に奔放に、あらゆる(しがらみ)から解き放たれたように。

 

 

 

 ―――近衛木乃香が夢見る『幻想郷』の風景が、今ここにあった。




以上です。続きは無い。
思い付いた設定メモみたいなものは上げるかもしれない。気分次第。
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