雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

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第十二話 雨の呼吸

飛鳥視点

 

浅草での一件から数日、カナエの用を終わらせ

次の指令が来るまで休息を取っていた。

八丈島で助けた小芭内も煉獄邸に滞在している。

 

「小芭内!さあ来い」

 

「分かった、杏寿郎」

 

年が近いこともあり最初こそ委縮していたがすぐに打ち解けて今では二人で稽古をする仲だ。

杏寿郎と小芭内が稽古をしているのを見守りながら珠世からもらった本を読み進める。

内容は分かりやすく手書きの挿絵まで書かれている。

それを元に動きの型を想像しながら読み進めていく。

型は六つが存在する。

最後の型を読み終えた時特に強い筆圧で

 

[この六つをもって雨の呼吸とする。

されど雨の呼吸はこれにて完成にあらず変化する型なり。

継承者は型の完成後更に一つ以上型を完成させよ。それをもって真の継承者なり]

 

と書かれていた。

 

(一つずつ完成させるか。まずは呼吸法から)

 

庭に出て刀を構えて指南書通りに雨の呼吸を試す。

雨の呼吸はかなり特殊な呼吸で五つの呼吸法を操るが

雨の呼吸の呼吸法はその何倍も難しい。

 

「これは骨が折れるな」

 

それからも呼吸法を試す。

その日は全くできず一旦終わりにして訓練をやめる。

途端集中力が切れて疲れが出て倒れてしまう。

 

「飛鳥、母上が晩御飯だと呼んでいるぞ」

 

「杏寿郎悪い、すぐ行く。あれ」

 

「どうした?」

 

「すまん、立ち上がれない。肩を貸してくれ」

 

「分かった」

 

杏寿郎の肩を借りて立ち上がる。

 

「悪いな、助かる」

 

「気にするな。随分集中していたようだな。それでだろ」

 

「それしかないだろうな。しかし立ち上がれなくなるまで体力を消耗するなんてな」

 

「見ていた感じ新しい呼吸を習得していたのだろう。どんな型だ」

 

「雨の呼吸だ。俺の先祖が考案した呼吸でな先日偶然発見されて

それを試していた」

 

「飛鳥ですらここまで苦戦するとはよほど難しいのか?」

 

「ああ。かなり特殊な呼吸でな。どこか無駄があるのか?」

 

「考えていても仕方あるまい。まずはしっかり食べて休むことだ」

 

「そうだな」

 

俺達は居間に向かう。

俺が杏寿郎の肩を借りて入って来たので皆に驚かれたが事情を説明すると納得してくれた。

瑠火さんの作ったご飯を食べ、自分の部屋で眠る。

 

 

 

 

 

 

夢を見る。長い夢だ。知らない光景だった。

そこでは花札のような耳飾りをした剣士が多くの剣士に指導しているところだった。

その中で苦戦している剣士に耳飾りをした剣士が近づく。

 

「蒼月、お前はどうだ?」

 

「うーん。朝利先生が伝授してくれた時雨蒼燕流を生かすにはどうしたらいいんだろ?」

 

「ならこういうのはどうだ」

 

耳飾りの剣士が新たに考案してくれた。

 

「なるほど。そうすればいいのか。ありがとう、縁壱」

 

「気にするな。しかし蒼月はよく笑うな」

 

「言うだろ。笑う門には福来るって。笑ってないと幸せが逃げちまう。

だから俺はどんな時でも笑うのさ。勿論空気は読むけどな」

 

「そうか」

 

「だからさ。お前も笑え。縁壱。でないと幸せは来ないぞ」

 

「そうだな。その通りだ」

 

そこで縁壱さんは笑う。

とても自然な笑顔だ。綺麗な笑顔。

 

「お、いい笑顔じゃねえか。元から顔が出来てる奴は笑ってもかっこいいんだな」

 

また蒼月さんは笑う。

それからまた型を呼吸と合わせて作り上げていく。

一通り型が完成した瞬間辺りが真っ暗になる。

次に見えたのはどこかの屋敷に一部屋で先程の蒼月さんが怒鳴る所だった。

 

「縁壱が、鬼狩りを追放されたと聞いた」

 

「当然だろう。鬼舞辻を逃し、身内から鬼を出したのだ」

 

「わかっている。だから、鬼狩りを追われたのは仕方ない。だが―――」

 

そこで言葉を切り、深く呼吸をする。俺の中に蒼月さんの考えが流れてくる。

それはいい。縁壱とて覚悟していただろう。問題は、その後のことだと。

 

「―――誰だ、縁壱に自刃を求めたのは。俺が腹に据えかねるのは、その一点。

呼吸を教え、広め、人のために尽力してきた縁壱に、自身を殺せと詰め寄る。

そんな恥知らずで愚かな言葉を発したのは、どこの誰だ」

 

「――――――っ」

 

蒼月さんが睨むとその場にいた柱達が息をを飲んだ。

 

「お前たちか、風柱、岩柱、鳴柱」

 

「なっ―――」

 

「っ、どうして、」

 

「・・・・・・」

 

図星をつかれ、狼狽する三人。

蒼月さんは畳み掛ける様に怒鳴る。

 

「縁壱の功績を忘れたのか。皆に呼吸を教えたのは誰だ?最も多くの鬼を斬ったのは誰だ?

全て縁壱だろう。にも関わらず、よりによって自刃を迫るだと?―――恥を知れ!愚か者が!!」

 

「貴様ぁっ!!」

 

「やめろ。同じ鬼殺隊の同志どうしで。」

 

拳を振り上げようとする風柱を、すぐに炎柱が静止する。

始めからこうなった時のために備えてくれていたのだろう。

風柱の気性なら、刀を抜いていてもおかしくはなかった。

 

「ただで置くものか!私を愚か者と言ったのだぞ。柱にすらなれない弱者が。」

 

「それがお前の本音か?風柱。」

 

「当たり前だ!縁壱と同じ世界を見て、自身を高尚なものとでも勘違いしたか?

我ら程鬼も狩れぬくせにいつもへらへらと笑ってばかりの腰抜けが。」

 

「黙れ貴様。」

 

怒ったのは蒼月さんではなく炎柱だった。恐らく槇寿郎さんの先祖だろう。

罵詈雑言を吐く風柱の頬を、叫びながら思い切り殴り飛ばす。

風柱は意識を失ったらしくそのまま起き上がらなかった。

蒼月さんは何かを決心したようにお館様の方を向く。

 

「お館様。―――私は、鬼狩りを辞めます。

せっかく雨柱に誘っていただいたのに申し訳ありません」

 

そう言って蒼月さんは部屋を出ていった。

 

 

 

 

それからしばらくして荷物をまとめた蒼月さんと炎柱が話している。

 

「本気で出ていくのか?」

 

「ああ。お前にも世話になった」

 

「これからどう生活するつもりだ?その若さだ。今ある金だけでは生きていけないだろう」

 

「母方の親戚の伝手を頼るつもりだ。こう言う言い方はよくないが

今は乱世だ。剣で生きる事も不可能じゃないさ。勿論呼吸は教えないが」

 

「そうか。母君の兄が武田家に仕えているのだったな」

 

「ああ。文を送ったらぜひ紹介してくれると言ってくれた。

二君に仕えるのにはどうかと思うところもあるが仕方あるまい」

 

「そうか。頑張れよ」

 

「そっちもな。俺より過酷なにはそっちだろ」

 

「はは、そうかもな」

 

「それと一つ頼まれてくれ」

 

「なんだ?」

 

「縁壱にこれを渡してほしい。どうせ連絡を取っているのだろ?」

 

「手紙か。分かった」

 

「頼んだぞ。じゃあな」

 

蒼月さんはそのまま走り去っていった。

またあたりが暗くなる。次に見えたのは布団に眠る蒼月さんとその傍らにいる縁壱さんと

知らない女性と子供だった。

縁壱さんの見た目は耳飾りがなくなっていること以外あまり変わらないが

蒼月さんの方はやせこけている。恐らく病だろう。

聞けば耳飾りはずいぶん前に炭焼きの家の夫婦に日の呼吸の型と共に預けたらしい。

 

「本当に申し訳ない」

 

「何を謝罪しているんだ?」

 

「合わせる顔がなかった」

 

「何故だ?」

 

「私は取り返しのつかない事をしてしまった。無惨の事や兄上の事も。

何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか、わからなかった」

 

また蒼月さんの考えが流れてくる。

全くこいつは生真面目でそしてくだらないと。

 

「じゃあ、なにか。ここへ来た理由は、謝罪のためか?」

 

「はい」

 

「そうか。わかった、許す」

 

「………え?」

 

「許す。何を許せばいいのか見当もつかんがな。」 

 

「………」

 

完全に予想外の返答だったのだろう。縁壱さんは呆けた顔をしている。

 

「鬼舞辻のことも、巌勝のことも、お前に何の責任があるんだ?」

 

「無惨に逃げられたせいで、これからも多くの人の命が奪われる」

 

「お前じゃなかったら逃がすどころか、逆にやられていただろうよ。

それに、敵の親玉に手痛い傷を負わせたんだろう?大金星じゃないか」

 

「身内から鬼を、出した」

 

「身内の罪はお前の罪か?そんなわけがない。悪いのは当人だ」

 

「…鬼を一人、逃した」

 

「鬼が皆一様に悪いものとは思わない。鬼舞辻の支配から逃れた鬼だったんだろう?

ならば、問題などないだろう。それにな。その鬼は先日までここにいた。

俺の病は直せないらしいのだが、痛みだけは和らげてくれた。

もしお前が逃がしていなければ俺は今病の痛みで苦しんで話す事もままならなかったさ。

だから俺はお前に感謝しなければならないな。全くどこでどう転ぶかわかったもんではないな、ハハハ」

 

「―――」

 

「縁壱、お前は強い。それこそ俺やあの時の柱達よりな。

この先お前のような人間はそうは現れないだろう。

だがなお前には手足が四本しかないんだ。当然その四本の手足で

背負えるものは限られている。なのに全部背負おうとしてどうするよ。」

 

「謝らなければならないのはこっちの方さ。

皆、お前の強さに彼は自分たちとは違う特別な存在なのだと、皆が思い込んでしまった。

お前とて、傷を負えば血を流し、悲しいことがあれば涙を流す、ただの人だというのに」

 

「それは俺自身もそうさ。俺も無意識のうちにお前に

強くあることを強いてしまった。済まなかった。友と言いながら

俺はお前にかかる期待を少しも助けてやる事が出来なかった。

お前も出来る事と出来ないことがある人間なのにな。」

 

「だから俺が許す事など一つもないさ。」

 

「――――」

 

縁壱さんは黙ったまま泣いていた。

重すぎる責任がを抱え、張り詰め続けてきた緊張が解けた涙だった。

 

 

―――ようやく友になれた気がした。辛かっただろうに。苦しかっただろうに。

ようやく縁壱を人に戻してやれた。もう悔いはない。――――

 

そんな想いが頭の中に流れてくる。

 

 

 

 

 

「縁壱。最後にもう一度日の呼吸を見せてくれないか?」

 

「構わないさ。友であるお前なら。」

 

蒼月さんにせがまれて縁壱さんは庭で日の呼吸を披露する。

女性に支えられながら起き上がる蒼月さん。

縁壱さんの日の呼吸の型はとても美しい技だった。

 

円舞

碧羅の天

烈日紅鏡

 

縁壱さんは技を繋ぐ。その全てがとても美しい。

その夫婦が見せて欲しいとせがんだのも頷ける。

そう思った。

 

幻日虹

火車

灼骨炎陽

 

目に焼き付ける。目が覚めた時再現するために。

 

陽華突

飛輪陽炎

斜陽転身

 

蒼月さんも縁壱さんもやるべきことをなした。

次は俺達今世の隊士たちがなす番だ。

 

輝輝恩光

日暈の龍・頭舞い

炎舞

 

「やはり縁壱の技は美しいな。ありがとう。最後にいい物を見れたよ。」

 

「そう言ってくれると私も嬉しい。」

 

「済まないがそろそろ時間のようだ。先に逝く。

最後に会えて本当に良かった。あり・が・とう」

 

そこで蒼月さんはこと切れた。

最後まで笑ったまま亡くなった。

縁壱さん、蒼月さんありがとう。そしてお疲れ様でした。

後は任せてください。俺達が必ず無惨を滅して見せます。

その思いと共に俺は目が覚めた。

 

 

 

三人称視点

 

 

まだ暗い時間だったが飛鳥は庭に出て夢で見たことを何度も繰り返す。

 

壱の型 車軸の雨

 刀を両手で持ち突進し相手を突く技。

弐の型 五風十雨

 相手の呼吸に合わせることによって攻撃をかわす技。

参の型 五月雨

 中斬りを放ちつつ刀を素早く持ち替えることで、相手の守りのタイミングを狂わせる

 変幻自在の斬撃を放つ技。

肆ノ型 斬雨

 刀を高速で連続で振る攻防一体の技

伍ノ型 鉄砲雨

 居合から飛ぶ斬撃を放つ技

陸ノ型 雨龍の牙

 相手に思い切り刀の峰もしくは刃をぶつける事で衝撃を起こし硬直させる

 敵を確実に殺すための技。飛鳥が考えた技。

漆ノ型 奥義 天翔ける龍の如く

  霞の構えから空を飛ぶ龍の様に高速で接近し正確に放たれる十五連撃。

 

これをもって雨の呼吸の完成だ。

それからされに数時間後日の呼吸も完成させた。

ここに雨の呼吸と日の呼吸が鬼殺隊に帰ってきた。

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