雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

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第二十八話 時透無一郎

お館様から呼び出しを受けてあまね様の護衛を頼まれた。

お館様によると始まりの呼吸の一族の子孫が長年の調査により発見されたらしい。

その為にあまね様が保護するためにその場所に向かうのだがそれに付いて行ってほしいそうだ。

 

「頼めるかい?」

 

「お館様の願いとあれば」

 

「頼んだよ」

 

それからあまね様とあと二人の娘と

もう一人立花 啓という隠と共に目的地に向かう。

 

「この山の中ですか?」

 

「はい。参りましょう。護衛を頼みます」

 

「承知しました」

 

俺が先頭に山を登る。

昇っている最中に弱りかけた人の気配がする。

 

「まずい。死にかけた人の気配する。あまね様」

 

「急ぎましょう」

 

五人で全力で走る。

勿論呼吸が使える俺とあまね様達とでは速さが違う。

俺はその場に先に向かい現場を確認する。

そこには血まみれの惨状が広がっていた。

一面血まみれの床。切られた死体。

その中に唯一血まみれながら気を失っているがまだ息をしている者がいる。

 

「くそ、遅かったか。だがまだ息はある。

今治療すれば間に合うか。カナエに薬と包帯を貰っといてよかった」

 

持って来た鞄から道具を出し治療を始める。

その時にあまね様達が扉から入ってきた。

 

「あまね様。この子はまだ間に合います。手伝ってください」

 

「分かりました。貴方たちは直ぐに水を汲んできなさい」

 

「「はい」」

 

五人で治療を開始する。

全ての治療が終わったころには昼頃になっていた。

 

「遺体を埋葬してきます。少し待っていてください」

 

「お願いします」

 

治療で疲れ果てたあまね様を休ませて三人の遺体を啓と

二人で外に運び出す。

三人分の穴を掘り遺体を布でくるみ穴に埋めて常備している蝋燭と

啓が持っていた線香をその前に立て手を合わせる。

そして少年を連れ帰りお館様の屋敷で様子を見る事になった。

 

 

 

一週間後

 

 

 

再びお館様の屋敷に向かう。

少年が目覚めたらしい。

部屋に向かうとお館様と少年が向かい合う形で座っていた。

 

「やあ、よく来てくれたね。」

 

「気になっておりましたので。」

 

「紹介するよ。彼の名前は時透無一郎。

始まりの呼吸の一族の末裔だ。

無一郎。彼が話していた清水飛鳥だよ」

 

「どうも」

 

無一郎は軽く会釈を返してくれる。

その瞳は霞がかかっているようだった。

 

「無一郎はね、記憶を無くしているんだ。飛鳥なら彼の刺激になってくれると思って呼んだんだ。」

 

「どれだけ力になれるかは分かりませんが、出来る限りのことは。」

 

とは言うが俺は記憶喪失を治すような腕を持つ医者ではない。

できるとすれば話し相手になることくらいだろうか。

 

・・・無一郎は、記憶を取り戻したいとは思うのか?」

 

「記憶を・・・?」

 

「そうだ。今までお前が生きてきたことの記憶だ。」

 

「・・・正直どうでもいい。僕には才能があるらしいから。この才能で鬼を斬ることが出来れば。」

「・・・それに僕、すぐ忘れちゃうんだ。思い出そうと思っても、

すぐ頭に霞がかかったようになって思い出せないんだ。」

 

無一郎が語る。

霞がかってると表した瞳が一瞬、儚げに、そして朧げに揺らいだように見えた。

 

「だからどうでもいいんだ」

 

「そうか」

 

正直どう声を掛けたらいいのかわからない。

俺は医者ではないから話を聞いてやる事しかできない。

それでも彼の力になれればと思い口を開いた。

 

無一郎、記憶というものはな、お前が思っている以上に大切なものなんだ」

 

「・・・?」

 

「人には必ず大切なものがある。お前が忘れてしまっていても、必ずお前にもあるはずなんだ」

 

「大切なもの・・・」

 

「そして人は、時にその大切なものを失ってしまうかもしれない。とても辛いし悲しいことだ。

だがな、人はその大切なものを守るために無限に強くなれるんだ」

 

「・・・無限に?」

 

「そうだ、お前は才能があるんだろう。だがどんな奴でも壁にぶつかる事はある。

大切なものがあるとその壁を乗り越えられるんだ」

 

「大切なものか。・・・僕にもあったかな?」

 

「あるさ。無意識かもしれないが絶対にあったはずさ。それになかったとしても

今から作ればいいんだ」

 

「そっか。飛鳥さん」

 

「なんだ?」

 

「僕の記憶戻るかな?」

 

無一郎が初めて疑問を投げかけてくる。

どこか期待しているような、そんな感じで。

 

「戻るさ。君が拒絶しなければ」

 

無一郎が唐突に驚きの表情を浮かべる。

 

表情が変わるのを初めて見た。

 

「・・・今の言葉、御館様と一緒だ」

 

「御館様と?」

 

「うん。でも、そこじゃない。今御館様が前に僕に言ってくれた事を、思い出せたんだ」

 

「なら、そのうち記憶も取り戻せるさ」

 

「うん、そうだね」

 

無一郎の口がほころぶのが分かる。

 

「飛鳥さん・・・これからもさ、僕と仲良くしてくれる?」

 

「ああ、勿論だ。記憶が戻るまでも、戻ってからもずっとな」

 

「そっか。ならこれが僕の大切なものだね」

 

「はは、そうだな」

 

無一郎ははっきりと笑った。

これで少しでも力になれただろう。

その時鴉が部屋に入ってきた。

 

「カァー!蝶屋敷襲撃。花柱 胡蝶カナエ!上弦ノ弐ト単身交戦!!救援要請!救援要請ィィ!!」

 

御館様と俺に大きな衝撃が走る。

無一郎は何が何だか分からないという表情だ。

 

「お館様」

 

「お願いね」

 

「御意」

 

俺は蝶屋敷へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも第二十八話です。いかがだったでしょうか?
時透無一郎初登場です。
次回もよろしくお願いします。
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