雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

45 / 69
第四十五話 無限列車 参

 気が付くと飛鳥は家の前立っていた。

 

「俺の家」

 

飛鳥が目にしたのは鬼のせいで十年以上前に亡くなったはずの家。

そして次の瞬間、飛鳥は目を丸くする。

 

「ほら飛鳥、早くお家に入りなさい。風邪を引いてしまうよ」

 

 そう言ったのは、飛鳥が幼い時に鬼の襲撃のせいで亡くなった母だ。

母が家の玄関の扉の前に立って、こちらを向き手を振っていたのだ。

母の隣に居る父も姉もいる

 

「飛鳥。今日は、お前の好物らしいぞ」

 

飛鳥の父は、笑みを浮かべてそう言った。

飛鳥は「そうか」と納得した。彼の両親は既に他界している筈だし、

飛鳥本人は、この後母方の親戚の家族に拾われて育ててもらったのだ。

だからこれは、夢だと。でも、脱出方法は?

血鬼術ならば、日の光を浴びるのが手っ取り早いのだが、

ここは夢の中である為、その方法を取ることが出来ない。

それにこの夢から覚めたくなかった。たとえこれが血鬼術だとしても。

最初はそう思った。でも夢はいつか覚めるもの。いつまでもここにいるわけにはいかない。

 

「(もどろう)」

 

そう思った瞬間ボウッ、と飛鳥の体が燃え、鬼殺隊の隊服に腰に下げている日輪刀が映る。

 同時に、飛鳥は意識が浮上するのを感じた。――現実世界への帰還だ。

 

 

少し時間を戻る。

魘夢から手渡された縄を介し飛鳥の心に浸入した青年は、

右手に携える杭で夢の空間の切り裂き、外側にある核の世界に浸入する。

その瞬間、彼は目を見開いた。

青年が見たのまさに阿鼻叫喚という表現が相応しい地獄ような空間だった。

それを見た瞬間夢の世界へと戻った。

 

「な、な、な、なんなんだよあれ・・・地獄なんてもんじゃない・・・。

い、いや。人間の世界じゃない・・・あんなところに精神の核があるのか・・・?

あんなところに、行かなきゃならないのか・・・?」

 

青年が見たのは飛鳥が無意識のうちに抱いてきた恨みと殺意。

本来ならとても抑えられるものではない。

飛鳥自身無意識のうちに抑えているが鬼には生まれてきたことを後悔するぐらいの苦痛を与えながら

嬲り殺しにしてやりたいとすら思っている。だが飛鳥はこれを必死に抑えてきた。

カナエやしのぶと出会わなければもしかしたら抑えきれずに恨みに身を

任せていたかもしれない。それくらいのものだった。

 

「無理だ。あんなの超えられるはずがない」

 

ここで青年の心は折れてしまった。

と同時にどうしてこれほどの恨みを抱えながら俺の様に逃げなかったのだろうと思った。

自分は逃げたのにと。

実はこの青年と飛鳥は似たような境遇にあった。

違ったのは青年から全てを奪ったのが鬼ではなく人だったこと。

手を差し伸べてくれる人もいた。でも青年は耐えられなかった。

そんな時にこの話が来た。青年の故郷では鬼の事は誰でも知っている話なので

魘夢がこの話を持って来た時目的も利用されている事も分かっていた。

それでも青年はこの話を受けた。少しでもいいから幸せな時間を味わいたかったから。

青年は後悔した。何故この人の様にしっかりと生きることを選ばなかったを。

と同時に憧れた。これほどの恨みを抱えながら自分の様に

逃げることもなく耐えている彼を。

そこで夢が覚めた。

 

 

飛鳥が目覚めると近くに禰豆子がいた。

手を見れば縄がかけられており縄が焦げて切れている。

 

「お前が戻してくれたのか?」

 

「う~」

 

禰豆子は頷く。

 

「そうか。ありがとう」

 

周りを見れば伊之助と善逸はぐっすり眠っていて杏寿郎は眠ったまま女の子の

頸を締め上げている。それぞれ腕に縄が巻かれている。

一方炭治郎は叫びながら目を覚ました。

 

「大丈夫か?炭治郎」

 

「はい」

 

「全く情けない限りだよ。柱のくせに敵の攻撃に気づかないなんて。

ほんと穴があったら入りたい気分だ。」

 

飛鳥が立ち上がりながらそう言う。

飛鳥は、ピクリ。と片眉を動かして、鬼の気配を察知する。

 

「鬼は先頭車両だね」

 

「分かるんですか?」

 

「ああ。生まれつき気配感知に長けていてね。おおよその方角は分かるんだ。

それより今は他の三人を助けようか」

 

「はい。禰豆子。三人の縄を燃やすんだ!」

 

炭治郎の言葉に禰豆子は小さくうなずくと、爪で自分の手のひらを傷つけその血を縄に付着させた。

瞬く間に縄が燃え上がり、炭化して崩れていく。

しかも燃えているのは縄だけで、人や服は一切燃えていなかった。

 

「これでしばらくすればおきるだろう」

 

「はいそうでs「危ない」!!」

 

咄嗟に飛鳥によって引き寄せられた炭治郎は後ろを見た。

そこにいたのはさっきまで煉獄によって締め上げられていた女の子だった。

 

「(なんだ!?鬼に操られているのか!?)」

 

「邪魔しないでよ!あんたたちが来たせいで、夢を見せてもらえないじゃない!」

 

「自分の意志で?」

 

「おおよそ幸せな夢を見せてもらえるとか言われて話に乗ったんだろう。

弱みに漬け込んだ汚いやり方だな」

 

「なんて奴だ。」

 

飛鳥が推測を述べて炭治郎がそれに憤る。

その間もほかに二人、錐を取り出し構えながら近づいてくる。

 

「何してんのよ!あんたらも起きたら加勢しなさいよ!

結核だか殺人鬼に家族を殺されただか知らないけど、

ちゃんと働かないなら“あの人”に言って夢見せてもらえないようにするからね!」

 

少女の声に、ゆっくりと起き上がったのは涙を流す二人の青年。

 

「(まだいたのか。俺と飛鳥さんと繋がっていた人たちだろうか)」

 

炭治郎は二人から、悲しみと後悔の匂いを感じた。二人が夢の中で何を見たのかはわからないが、

二人からはもう敵意の匂いは一切なかった。

 

するとその二人は急に錐を構えている三人の内の二人を組み伏せにかかった。

 

「何してるのよ。そん事したらほんとに夢を見せてもらえなくするわよ」

 

「構わない。例えこの後殺されることになるとしてももう逃げない。

夢はいつか覚めるものだ。夢に浸って居ても現実は変わらない。

なら俺は彼の様に少しでも前を向いて歩むんだ」

 

そう言いながら再び組み伏せる。

だが力がないのか次第に押しのけられてゆく。

その時に飛鳥は三人に充て身をくらわし気絶させた。

 

「大丈夫か?」

 

「立てますか?」

 

飛鳥は片方の青年に手を差し伸べる。

炭治郎も同様にもう片方の青年に手を差し伸べた。

 

「「有難う」」

 

青年たちは引っ張り上げられながら立ち上がりお礼を言う。

 

「では俺たちは行きます」

 

「まだ戦いがあるので。大丈夫ですか?」

 

「本当に世話になった。ありがとうそしてすまなかった」

 

「・・・・・ありがとう、気を付けて」

 

「「はい。」」

 

二人の感謝の言葉に少し嬉しくなりながら二人は屋根に上がり先頭車両に向かった。

そんな二人を見送りながら、青年達は心から精神の核を壊さなくてよかったと思うのであった。

 

 

 

 

先頭車両に到着すると、先頭の車両の上に佇んでいた魘夢は気安く声を掛ける。

 

「あれぇ、起きたの。おはよう、まだ寝てて良かったのに」

 

ひらひらと手を振る魘夢の姿に、炭治郎は魘夢に話し掛ける。

 

「なぜお前は、関係の無い人たちを巻き込んだ?」

 

「聞いてないの?あの子たちはもう先がない。だから、オレが夢を見せる約束をしたんだ」

 

「それから、精神を破壊してから喰う、ということか」

 

魘夢は「そうそう、夢心地だろう」と笑う。

それを聞いた炭治郎は、青筋を浮かべ日輪刀を抜く。

 

「お前!人の想いに漬け込むな!(水の呼吸 拾ノ型 生々流転)」

 

炭治郎の周りに青き龍の姿が漂うようになり、炭治郎は走り出す。

それは勢いを付けると大きくなり、魘夢に牙を向ける。

 

「気が早いなぁ」

 

 魘夢は、炭治郎に向けて左手の甲を差し出す。

 

「(血気術 強制昏倒催眠の囁き。)」

 

飛鳥は魘夢の左手の甲についてた口が開く前に

 

「(雷の呼吸壱の型霹靂一閃。)」

 

居合の構えからの一閃で魘夢に左腕を斬り飛ばしたのだ。

頸を取れたら一番良かったが、死角になっていた為左腕を斬り飛ばすのが限界だった。

だが攻撃はまだ残っている。

 

「オレたちの想いを、利用するなアァアアァッ!」

 

炭治郎の刀が魘夢の頸を飛ばすが、斬った手応えが無い。

頸だけになった魘夢は口を開く。

 

「あの方が、“柱”に加えて“耳飾りの君”を殺せって言った気持ち、凄くわかったよ。

存在自体が何かこう、とにかく癪に障って来る感じ。」

 

炭治郎は「死なない」と呟きながら目を丸くする。

 

「素敵だねその顔、そういう顔を見たかったんだよ。

気になるよね。なぜ頸を斬ったのに死なないのか。

それはね、それがもう本体では無くなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、

頭の形をしているだけで頭じゃない。

君たちがすやすやと眠っている間に、オレはこの汽車と融合した!」

 

魘夢は、飛鳥と炭治郎を見ながらニタニタと笑う。

 

「この汽車全てが、オレの血肉であり骨となった。

つまり、この汽車の乗客二百人余りがオレの体を更に強化する餌。

そして人質。ねぇ、守りきれる?君たちだけで。

この汽車から端から端までうじゃうじゃとしている人間全てを

オレに“おあずけ”させられるかなぁ?」

 

魘夢は「うふふ」と言って、列車の屋根に溶け込んで消える。

魘夢の言葉に弾かれるように、飛鳥と炭治郎は列車内へ戻った。

そこで目にしたのは、天井や椅子の端から肉塊なようなものが盛り上がり、

乗客を包み込もうと蠢いているのだ。

 

「まずい。(雷の呼吸肆ノ型 遠雷)」

 

雷を身にまとった飛鳥の広範囲攻撃が肉塊だけを破壊してゆく。

 

「(水の呼吸 参ノ型 流流舞い)」

 

炭治郎は水流に身を任せて流れるように、狭い通路や座席の間を移動しながら肉塊を斬り灰に還す。

だが直ぐに再生を開始する。

そこへ、後方車両から誰かがやって来る気配を捉える。この気配は杏寿郎のものだ。

煉獄の到着と同時に車両が揺れ、目の前には煉獄の姿。

 

「ここまで来るまでに斬撃を入れて来たので鬼の再生にも時間がかかると思うが、

余裕はない、手短に話す。この汽車は八両編成だ!なので、飛鳥とオレで四両づつ守る。

竈門少年たちは、三人で鬼の頸を探せ!」

 

杏寿郎の言葉は簡潔だった。

それから、飛鳥は刀を握り直し口を開く。

 

「炭治郎。車両の乗客は、杏寿郎と俺に任せろ。

炭治郎は、善逸たちと協力して鬼の頸を落とせ」

 

「わかりました。まずは、善逸たちと合流します」

 

「うむ!急所を探りながら戦おう、君たちも気合いを入れろ!」

 

 そう強く言うと、煉獄は凄まじい勢いで後方車両に向かい、

炭治郎は善逸たちと合流する為走り出し、

飛鳥は納刀し、居合の構えを取る。

 

「(雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃。)」

 

 凄まじい勢いで前方に加速し、姿が見えなくなる。

 そう、一人では出来ないことは仲間がいれば出来る。

そう信じて各自は行動を起こしたのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告