鳥は後方車両で暴れていた。
「(雷の呼吸壱の型 霹靂一閃、
雷の呼吸弐の型 稲魂、
雷の呼吸肆ノ型 遠雷」
技を放ち、ボタボタと肉塊を斬るが、すぐに車両に吸収されてしまう。
その時、凄まじい断末魔が車両全体を揺らした。
現在の魘夢の体は列車そのものだ。彼がのた打ち回ればその分、列車全体も跳ねるのだ。
このままでは、列車が脱線して乗客の命が失われてしまう。なので、
飛鳥は車両の窓から外へ飛び出し、刀を振るう。
「(雨の呼吸肆ノ型 斬雨)」
飛鳥から放たれる無数の斬撃は後方車両の頭上に降り注ぎ、
斬撃の重力で動きを停止させる。だが無数の斬撃の雨で、列車頭上のへこみ具合が凄まじい。
前方四両も杏寿郎のおかげで人的被害は軽微なようだ。
飛鳥が乗客の状況を確認しながら前方へ向かうと鼻水を垂らしながら
「炭治郎ぉぉおおっ!」と叫ぶ善逸と何故か汽車に体当たりをかます伊之助、
そして明るく笑う杏寿郎がいた。
「杏寿郎、お疲れ様。何かあったのか?」
善逸と杏寿郎で状況が余りに違いすぎるので飛鳥は杏寿郎に尋ねる。
話を聞けば汽車が脱線した際に炭治郎が善逸をかばって頭をぶつけたらしい。
少し出血しているが特に問題はないとの事。
伊之助は炭治郎に頼まれて一足先に乗客の救助に向かって体当たりしているのは
汽車に足を挟んだ運転手を救助している最中との事。
「そうだったのんか。まあとにかくこれで任務完了だ」
「うむ。少々情けない場面はあったがそれは次に生かそう。
とにかく怪我人は多いが命に別条は無い!竈門少年も無理せずに休むといい」
「はい、ありがとうございます」
その時飛鳥が強い気配を感じたり森の方をみる。
「如何やらそうはいかないみたいだ。物凄い速さで近づいてきている奴がいる。
もう数秒で来る。臨戦態勢を取るんだ」
飛鳥が言い終わるのとほぼ同時にドオンという地面を抉る凄まじい衝撃音が響く。
煉獄の数メートル前に着地したのは、右瞳に“上弦”、左瞳に“参”と刻んでいる鬼。
十二鬼月、上弦の参だ。
上弦がどうしてここに?という疑問が上がるが、それ以上に、この場の圧迫感が凄まじい。
そして上弦の参は、炭治郎たち目掛けて加速する。
「(まずい。雷の呼吸伍ノ型 熱界雷)」
「(炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天)」
飛鳥と杏寿郎は瞬時に抜剣し、型を繰り出す。
杏寿郎は円を描くように炎の斬撃を、飛鳥は下から上に描く雷の斬撃を放ち、
炭治郎たちに迫っていた上弦の参の両腕を切断し吹き飛ばした。
少し離れた上弦の参は瞬く間に腕を再生する。
「なぜ手負いの者から狙うのか、理解できない」
「話の邪魔になると思った。オレとお前たちの」
煉獄の問いにそう言い返しながら上弦の参は飛鳥と煉獄を値踏みするような目で見ている。
飛鳥は刀を構え直しながら、
「善逸、炭治郎を頼む。こいつは俺と杏寿郎で相手する」
言われて善逸は炭治郎を守れる位置に着く。
炭治郎も刀を取りいつでも戦える態勢を取る。
上弦の参は再び炭治郎に向かおうとするが飛鳥が立ちはだかりそれを阻止する。
「……なぜお前たちは、弱者を庇う。オレからしたら、弱者は見たら虫唾が走る」
だから嫌いだと、上弦の参はそう呟く。
「やはり、オレたちと君は物事の価値基準が違うようだ」
「そうか。なら素晴らしい提案をしよう。お前達も鬼にならないか?」
「ならない」
「同感」
煉獄と飛鳥は上弦の参の提案に即座に断った。だがそれでも上弦の参は諦めない。
「見れば分かるお前たちの強さ。柱だな。その闘気、練り上げられている。
見事だ。ここまで至高の領域に近い人間はそうはいない。
名を聞いておこう。俺は猗窩座」
「俺は炎柱 煉獄杏寿郎。」
「雨柱 清水飛鳥。」
「覚えておこう。それで杏寿郎に飛鳥。なぜお前達が至高の領域に踏み込めないのか
教えてやろう。それは人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ。
鬼になれ。杏寿郎、飛鳥。鬼になれば百年でも二百年でも永遠に鍛錬ができる。強くなれる。
お前達の目は強さを求める者の目だ。鬼になればそれも叶う」
漆黒にに染まった手で飛鳥達を指さしながら人という種に対する侮蔑の言葉を並べる。
「永遠?」
永遠という言葉に飛鳥が反応する。
飛鳥は武人の世界で数千年の修行をした人物だ。それ故に猗窩座の言う事が理解できる。
殆どの人間は猗窩座の言うところの至高の領域にたどり着く前に老いが始まり
そこからは低下していく。どれだけ強者でも人である以上、その定めから逃れる事は
出来ない。だが、それを経験したからこそ分かる。修行期間何度も考えた。
己がこの世で最も愛する姉妹の事を。だからこそ言う。
「確かに人は老いるしいつかは死ぬ。
殆どの人間がお前の言うところの至高の領域にたどり着く者はいない。
精々全体の一握りいるかいないかだろう。いやもっと少ないかもしれない。
だからお前が言う事も理解できないわけじゃない。」
飛鳥の言に杏寿郎は少し驚いた様に飛鳥を見る。
「だが死ぬことも老いることも人間という生き物の美しさだ。
咲いて直ぐに散る花が美しいようにな。
老いるからこそ、そして死ぬからこそ誰かを愛し守り何かを残そうとする。
だからこそ尊く美しい。
それと勘違いしているようだから教えてやる。
強さは肉体だけじゃ意味がない。その強さに見合う心がなければ意味がない。
心と肉体を強くして初めて真の強者となる。
だからこそ俺は貴様に何を言われようと鬼にはならない。」
「うむ。よく言ったぞ飛鳥。おれも同意見だ。」
驚いた顔をしていた煉獄は飛鳥の言を聞いて少し喜ぶと
また真剣な顔に戻り猗窩座を見る。
逆に猗窩座はあからさまに残念そうな顔をして「そうか。」といい、
「なら殺す。(術式展開 破壊殺・羅針。)」
そして互いに突っ込むその動きは炭治郎達には見えない動き。
猗窩座は縦横無尽に飛び回りながら攻撃してくる。
飛鳥は透き通る世界に入る。
「(!闘気が消えた?あり得ない。生まれたばかりの赤ん坊ですらわずかだが闘気を
出しているのだぞ。まさか)一つ質問に答えろ。飛鳥」
「なんだ?」
「お前、至っているのか?頂点に?」
「この世界がそう言う事ならそうなのだろうよ」
「そうか。なら手加減は不要だな。(破壊殺・乱式)」
「(雷の呼吸弐の型 稲魂 三連。)」
本来弐の型 稲魂は一瞬のうちに五連撃を見舞う技だ。
だが飛鳥はこれを三回続けることが出来る。
つまり計十五連撃にまで技を昇華していた。
「見事だ。飛鳥。これまで雷の呼吸を使う柱は数人だが殺してきた。
だからその技も知っている。だがここまで技を昇華していた者はお前が初めてだ。
これが頂点に至った者の力か」
「よそ見していていいのか。(炎の呼吸壱ノ型 不知火)」
煉獄の攻撃を猗窩座はかわし再び距離を取る。
「今まで殺してきた柱たちの中に、炎はいなかったな。
そして、オレの誘いに頷く者もいなかった。なぜだろうな?
同じく武の道を極める者として理解しかねる。選ばれた者しか鬼にはなれないというのに。
素晴らしき才能を持つ者が醜く衰えてゆく。オレはつらい、耐えられない、
死んでくれ、若いままに。(破壊殺・空式。)」
「(炎の呼吸肆ノ型 盛炎のうねり。)」
猗窩座の拳から放たれる衝撃波が煉獄を襲う。
煉獄も技を繰り出しそれを防ぐ。
飛鳥がその隙を狙って後ろから攻める。
「(雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷。)」
完全に隙を付かれたが何とか反応し躱し致命傷になる斬撃は拳ではじく。
それでも回転しながらの波状攻撃の攻撃で傷付いた。
今の飛鳥に猗窩座の血鬼術は反応しない。元々この血鬼術は個人が持つ闘気に反応するのだが
飛鳥は一切闘気を出していない。だから血鬼術が全く反応しないのだ。
躱せたのは猗窩座のこれまでの経験から来る勘だった。
「鬼になれば、この斬撃の致命傷以外は掠り傷みたいなものだ」
猗窩座は「その証拠にほらな」と言って、瞬く間に傷が治る部位を指差す。
そう。飛鳥の斬撃で傷付いた部位が、鬼の回復力で塞がっていたのだ。
こうなっては、距離を取って攻防をしていたらジリ貧だ。近距離で戦うしかない。
飛鳥は杏寿郎に目を合わせると、杏寿郎も「承知」と視線で頷いていた。
飛鳥と杏寿郎は猗窩座と間合いを詰め鋭い剣技を繰り出すが、
猗窩座は喜々とした表情でそれを拳で往なすか、弾き落としている。
そして、猗窩座と一瞬一瞬の攻防は、少しでも反応が遅れれば致命傷になる。
「素晴らしい剣技だ!だが、鬼にならなければこの剣技も失われていくのだ!
お前たちは悲しくないのか!」
「悲しい感情などない!オレの心の炎は、きっと誰かが受け継いでくれる!」
「全くだ。」
そう言った杏寿郎の顔は、剣技の速度に慣れた猗窩座の拳が徐々に掠り、額、頬が打たれ
赤い鮮血を流している。だが飛鳥は今だに無傷だ。
猗窩座には全くと言っていいほどにこの勝負の決着が見えていなかった。
理由は四つまず単純に飛鳥と杏寿郎の位置取りが上手いこと。
猗窩座が一方を相手にすればもう片方がその隙をつく。
これがうまい具合にはまっていた。
二つ目は炭治郎達の存在だった。
常に視界の隅に炭治郎達が居るような位置取りを偶々伊之助と炭治郎と善逸が
行っておりそのせいで相手と本気で打ち合う事が出来なかった。
排除しようにも飛鳥と杏寿郎が波状攻撃を仕掛けてくるので排除することが出来ない。
そして最後にもうすぐ日の出だという焦り。
最後にそして飛鳥に攻撃が全くと言っていいほど当たらない。
それが焦りを更に増大させていた。
以上の理由から決着どころか猗窩座は追い詰められてすらいた。
だがいくら日の出が近いといってもまだ三十分ほどある。
ここで決着を付けなければ今度は杏寿郎たちがやられてしまうだろう。
それを考えた飛鳥は一瞬杏寿郎に目配せをする。
その意図を読み取った煉獄は刀を肩に担いだ構えをとる。
「俺は俺の責務を全うする!!この場にいる者は誰も死なせない。(炎の呼吸 奥義。)」
「素晴らしい闘気だ。それほどの傷を負いながら、その気迫に精神力。
そして一部の隙も無いその構え。」
猗窩座は満面の笑みを浮かべ、
「やはりお前は鬼になるべきだ、杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう。(術式展開。)」
「(玖ノ型 煉獄。)」
「破壊殺 滅式.)」
互いの技がぶつかる。炭治郎は息をのんだ。
煙が晴れ炭治郎が見たのは引き分け。
煉獄は刃を折られ、猗窩座は両腕があらぬ方向に向いていた。
だがその瞬間誰も気づけなかった。
猗窩座は杏寿郎の闘気に当てられ、炭治郎達は杏寿郎の迫力に見入ってしまい、
もう一人清水飛鳥がいる事を忘れてしまっていた。
煙が晴れ二人が見えた瞬間飛鳥は
「(雷の呼吸 漆ノ型 武雷貫。)」
飛鳥が生み出した剣技で猗窩座を突きにかかる。
炭治郎達は一瞬飛鳥の後ろに雷を帯びた龍を幻視した。
杏寿郎が生み出した隙を完璧に掴み突きを繰り出す。
それは飛鳥の霹靂一閃よりも速く炭治郎はおろか杏寿郎さえも見る事が出来なかった。
誰もが決まったと思った。
だが猗窩座はここでも勘が働き何とか反応し首を横にずらして躱した。
「惜しかったな、飛鳥。貴様の速さには驚かされたがこれでおしまいだ。」
誰もが飛鳥の死を確信した。だが飛鳥の突きはこれで終わりじゃない。
飛鳥は突き出した刀をそのまま横なぎしたのだ。
これにはさしもの猗窩座も対応出来ず頸が飛んだ。
飛鳥が最後に出した技は武人の世界であった斎藤一に伝授された技。
その名も『牙突』だ。そこに飛鳥成りに呼吸を掛け合わせ漆ノ型とした。
杏寿郎にはこの事を任務の打ち合わせの時に話しており連携が可能になったという訳だ。
「見事だ。杏寿郎、飛鳥。これほどの闘いは初めてだった。」
「そうか。出来ればお前とは人間として技を競い合いたかった。」
「そうか。」
そのまま猗窩座は消滅していった。
完全な消滅を確認すると二人はその場に倒れこみ仰向けになる。
「終わったな。杏寿郎。鬼殺隊初の快挙だ」
「うむ。これほどやり切った感覚は初めてだ。いいものだな」
「だな。隠が来たみたいだし後は彼らに任せまるか」
「そうだな。俺も限界だ」
二人はどの場で気を失った。
余談だがこの戦いを見ていた炭治郎達三人は
何もできなかった事を悔やみ、更に鍛錬に力を入れるのだった。
煉獄杏寿郎と清水飛鳥によって上弦の参が討伐されたことはすぐさまほかの柱や
産屋敷輝哉にもたらされた。
産屋敷邸の一室
「そうか。倒したか上弦を。よくやった飛鳥、杏寿郎。
百年もの間変わらなかった状況が今変わった。
これは兆しだ。この波紋はは広がっていくだろう。
周囲を巻き込んで大きく揺らしやがてあの男へとたどり着く。
鬼舞辻無惨お前は私たちの代で必ず倒す」
と産屋敷輝哉もかなり喜んだとか。
また鬼殺隊内にもこの話が広まり士気が一気に高まった。
ところ変わって煉獄家
最近目覚めた趣味を楽しんでいる最中に
知らせを聞いた煉獄 槇寿朗は表には出さないが大変喜んだ。
自分が託した者は間違っていなかった。
そしてこの時槇寿朗の中で何かが灯ったような気がしたのだった。