雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

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第四十九話 潜入捜査

 ときと屋

 

「どうかな、女将さん。誰かひとり貰ってくれないかい。」

 

「悩むね~。どの子もいい感じの子ばかりだからねー。」

 

現在飛鳥達四人は天元に連れられて目標の遊郭の店内に入り、

暖簾下に座る女将さんの前で話しかける。

女将は四人を吟味しながら唸る。

飛鳥は勿論他三人も飛鳥によって綺麗に着付けと化粧もされている為美しく女装がされており

その為女将は悩んでいた。

 

「ならその一番きれいな子とその隣の子を貰おうかしら。」

 

指名されたのは飛鳥と炭治郎だった。

二人は少々複雑な気分だった。

飛鳥は女装しているとはいえこうもあっさり指名されて

男として少々つらい物があった。

一方炭治郎は目の前の女将に対して申し訳ない気持ちになっていた。

飛鳥はそこらへんは慣れていることもあって気にしてない。

 

「女将さん目がいいね。こいつはオレの一押しだ」

 

天元がそう言うと、女将さんは袖口で口許を抑え「うふふ」と笑う。

 

「そりゃそうよ。きっとその子は、鯉夏に次いでうちの看板になってくれて

京極屋の蕨姫花魁と差をつけるきっかけになってくれる。それくらいの綺麗さを持ってる。

もう一人の子は素直そうだし」

 

「(そんなこと言われても全く嬉しくない)」

 

女将の評価に心で泣く飛鳥。

先程女将さんとの会話に出てきた鯉夏とはときと屋の看板花魁で

ときと屋の女将としては飛鳥と鯉夏花魁との魅力で客を誘い他店を引き離そうと考えていた。

ちなみに蕨姫とは京極屋の看板花魁で今ときと屋が利益の為に敵視している花魁である。。

 

「お嬢さんの名前は?」

 

「由衣と申します。」

 

飛鳥はカナエの声に似せた声で答える。話し方は全然違うが。

そんなことも知らない女将は「声も合格。」と気分は高揚している。飛鳥はげんなりしていたが。

その後お金を支払い二人は奥に連れていかれそのまま飛鳥は将来性に期待という事で

下積みもほとんどすっ飛ばして花魁としての教育がなされていく。

本来はない事だがときと屋の女将がそれを通した。

飛鳥はそれまでの潜入で琴や三味線は出来るので教養と礼儀作法の指導だけ受けて見習いとして

働きその二日後の晩には何と鯉夏花魁の傍付き。

女将曰く最初の方は鯉夏花魁の下で働いて場慣れしてほしいとの事。

一般的な遊女なら飛び上がるほどうれしい話だが飛鳥は複雑だった。

 

「(何故だ?炭治郎は雑用なのに?)」

 

その通りで炭治郎は最初の日からずっと雑用として

床拭きや荷物運びなどをやっている。

元々知識ゼロだったため結局雑用係から始める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 鯉夏花魁の部屋

 

 

「花魁、ご使命です。」

 

「わかりました。すぐに向かいます。」

 

遊女の声に飛鳥の隣に座る鯉夏が答えた。

その声は凛々しく、男性を虜にする美声だ。

鯉夏が、飛鳥を見てから口を開く。

 

「由衣、行きますよ。」

 

「はい、わかりました。」

 

飛鳥はカナエ似の声で返事を返す。

飛鳥がカナエの声をまねして使うのは一番自信があることから潜入の時によく使う。

ともあれ飛鳥と鯉夏は立ち上がってから障子を開け、客間に移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 客間

 

客間に到着し襖を開けると、複数の男性客が盃を啜りながら鯉夏を見る。

今回は宴会形式で既に複数の遊女がお酒を注いでいる。

 

「鯉夏花魁っ!今日も別嬪さんだねぇっ!」

 

それから鯉夏の接待が始まったが、鯉夏の隣に座る飛鳥にとっては最早拷問だ。

……男性が男性を接待するなんて、拷問以外に無いだろう。

 

「鯉夏花魁の傍付きかい?」

 

飛鳥に興味を持った一人の男性客が声をかけてきた。

その視線は明らかに飛鳥の身体を嘗め回すように見ていた。

 

「はい。由衣と申します。」

 

笑顔で答える飛鳥。だが内心では「……もう無理、早く終わって。」となげいていた。

飛鳥の声を聞いて男性客は「今度指名しちゃおうかなー。」などと言ってくる。

それを聞いた飛鳥は鳥肌が隠せない。

 

「まだ指名はダメですよ。由衣は私の傍付きとして、まだまだ学ぶことがあるんですから。」

 

鯉夏が飛鳥の立場では断りにくいと察してさりげなく客に断りを入れてくれたのだ。

そして客は「ちぇ~」と残念そうな声を上げるのだった。

ともあれ、接待が終わった所で、飛鳥と鯉夏は客間を後にするのだった。

 

 

 

 

 鯉夏花魁の部屋

 

飛鳥が鯉夏花魁の部屋に戻ると部屋のかたずけに来ていた幼い遊女が噂をしていた。

飛鳥はそれを盗み聞いていた。

ときと屋のなかでは急出世した飛鳥だが周りは敵が多い。

理由は嫉妬。既に飛鳥は数日後には花魁として接客に出るのが決まっている。

それは若い遊女からすれば羨ましい事だ。

別に客の前に出れる事が羨ましいのではない。

遊女たちの目的は身請け。若いころから花魁として客の前に出れば

それだけ身請けしてもらえる可能性が増える。

だからこそいきなり来て女将に気に入られて一週間もしないうちから

高い地位につき客を取ることになっている飛鳥の事が気に入らないのだ。

既に遊女の中では他の遊郭からの密偵ではないか、

実は足抜けした遊女ではないかなど色々なうわさが流れている。

それでも表立ってのいじめがないのは飛鳥に隙がないのと

女将がその辺を察して目を光らせているのもあるが

鯉夏花魁の存在が大きかったりする。

鯉夏花魁はと誰にでもやさしくそれ故にときと屋の遊女達からはとても好かれている。

だからこそ飛鳥をいじめて鯉夏花魁に迷惑かけたくないからこそ彼女の傍付きとして

いつも近くにいる飛鳥にいじめる事が出来ないのだ。

それでも朝食の味噌汁に山葵をたらふくしこまれていたこともあった。

しかし飛鳥はその下手人を直ぐにつきとめて味噌汁を入れ替えて

元に戻し仕掛けた側がその山葵入り味噌汁を飲んで思いっきり味噌汁を吹くという事もあった。

そう言った感じで飛鳥は他の遊女たちからは嫌われていた。

そこで遊女たちからの聞き込みは炭治郎に任せ、飛鳥自身は客の噂や鯉夏花魁から

それとなく聞いたりしていた。

そんな時に出くわしたのである。

遊女たちの話によると京極屋の女将が窓から落ちて死んでしまったこと。

最近では足抜けして居なくなる姐が多い、ということだった。

それを聞いた飛鳥はその場は離れ炭治郎と合流、少し打ち合わせをして

鯉夏花魁の部屋に戻り本人に話を聞く。

 

「花魁、少しいいですか?」

 

「由衣、どうしたの。」

 

「須磨っていう花魁が足抜けしたってホントですか?」

 

少し悲し気に聞く飛鳥。

鯉夏花魁は少しビクッと震えて聞き返してきた。

 

「どうしてそんなことを聞くんの?」

 

「実は一緒にここに入った炭ちゃんと私は須磨花魁の妹なんです。

でも少し前から手紙が来なくなって

それで一緒に身売りされたときに聞いてみようって言ってたんです。

でも炭ちゃんが聞いた話によると須磨花魁は足抜けしたって聞いて

でも信じられなくて鯉夏花魁なら何か知ってるんじゃないかと思って聞いてたんです。」

 

「そうだったの。姉に続いて妹まで、それはつらかったね。」

 

本気で心配してくれているのが表情で分かる。

 

「(この人優しすぎる。この人を偽るのつらすぎる。)」

 

飛鳥の良心に響く。

 

「いいよ、教えてあげる。二人が来る数日前にね、

ときと屋には須磨花魁が居たんだけど、忽然と姿を消してしまったの。

その後、須磨花魁の部屋から日記が見つかって……そこには足抜けするって書いてあったそうなの。

……でも、須磨ちゃんは足抜けする子には見えなかったわ、しっかりしてた子だったもの。」

 

飛鳥は「有難うございます。」と言って頷いた。

鬼は対象の人の足抜けを利用し、対象を逃亡させたと思い込ませ、

露見すること無く喰うことが出来るのだ。おそらく、日記は偽装だろう。

でも、ここまで用意周到な鬼と考えれば、遊郭に棲み付く鬼は上弦の鬼が濃厚だろう。

となれば、遊郭で派手な殺し合いになるのかも知れない。

 

 

 

 




遊郭情報に少し間違いがあるかもしれませんがそこはお許しください。
では今回も大正こそこそ噂話
今回はときと屋の鯉夏花魁から
鯉夏もときと屋に入ってきた時は飛鳥と同じ待遇だったんだ。
そして鯉夏もいじめを受けた経験があるんだ。
だからこそ飛鳥を常に傍に置いていじめを受けさせない様に
守ってるんだよ。とてもやさしいね。
以上です。またよろしくお願いします。

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