雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

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第五十一話 上弦の陸

 ときと屋の廊下

 

鬼である蕨姫花魁が動き出したのを感じ取り飛鳥は隊服の上から着物を着こみ刀を隠し持ち

運よく女将から鯉夏を呼んできてほしいと頼まれたのでそれを伝えて逃がすために

鯉夏の部屋へ向かう。

 

「鯉夏さん、少しよろしいでしょうか。」

 

「はい。」

 

鯉夏の返事を聞いて飛鳥は部屋に入る。

 

「鯉夏さん女将さんが呼んでます。少し手が離せないとのことですぐ来てほしいとのことです。」

 

「そうですか。ならすぐ行きます。」

 

「お願いします。」

 

鯉夏花魁は傍付きを伴い直ぐに出ていく。

飛鳥はそれを座りながら見送る。

そしてあらかじめ用意しておいた動物の血が入った袋を隣に置いてその時を待つ。

すると窓を開けてそこから蕨姫花魁が入ってくる。

 

「あら、あなたはときと屋の由衣じゃない。鯉夏はどうしたの?」

 

「鯉夏さんならここにはいませんわ。私が逃がしましたもの。」

 

飛鳥は時間を稼ぎつつ鯉夏の気配を探る。今はまだ女将と話しているようだが

いつ戻るかわからない以上あまり長く話す事が出来ない。

 

「ふ~ん、そう。でもそんなことしても意味ないわ。むしろ被害が増えるだけ。

なのになんでそんなことしたのかしら?」

 

「さあ。それは蕨姫花魁のご想像にお任せしますわ。」

 

「あんた私を前にしてその余裕。ただ物じゃないね。」

 

「ふふ。私はただの人間ですわ。」

 

飛鳥は右手で口許を抑えながら少し笑う。

 

「あんたの態度、腹立つわね。今まで美しい女は喰ってきたけど、

あんたは嬲り殺したくなるよ。」

 

蕨姫は自身の帯を飛鳥を囲むように展開する。

 

「最後よ。殺されたくなければ教えなさい。鯉夏はどこ?」

 

「せっかく逃がしたのに教えるわけないでしょ。それと私を殺せるかしら?」

 

「もういい、目障りだわ。死んで。」

 

蕨姫は今まで隠していた目の数字を見せる。そこには上弦の陸と刻まれている。

そして展開していた帯で一斉に動かして飛鳥を襲う。

 

「(雨の呼吸 肆ノ型 斬雨。)」

 

飛鳥は隠し持っていた刀と型で襲い来る帯を細切れに切り裂いた。

切り裂かれた帯は床に落ちる。

だが着物が邪魔で思うように刀を振れず胸元の着物が切り裂かれて

着物がはだけて中に来ていた鬼殺隊の隊服があらわになる。

 

「あ、あんた男だったのね。しかも鬼狩りの柱。」

 

「ああ、そうさ。悪いな男で。さてそろそろやらせてもらうか。」

 

「な、何を?」

 

「こうするのさ。」

 

落ちた着物に動物の血をかけながら

飛鳥は息を吸い

 

「きゃああああああああああ」

 

と先程と同じ声で叫んだ。近くにいた蕨姫は耳を塞ぐ。

そして飛鳥は声を変えて襲われている雰囲気を出しながら再度叫ぶ。

 

「逃げてください。蕨姫が化け物になって襲ってきました。由衣さんが由衣さんが。きゃっ。」

 

すると叫び声を聞いて店内が騒がしくなり遊女たちや客が逃げ出す。

 

「あんた。」

 

「これで被害は少なくなる。鯉夏さんもどこにいるかわからない。

そしてお前は花魁としても終わりだ。」

 

「殺す。」

 

上弦の陸こと堕姫が更に帯で襲い掛かってくるが

その全てを切り落とし突っ込み腹部に蹴りを入れる。

堕姫はそのまま壁を突き破って外へ飛んでいく。

飛鳥もそれに合わせて外へ出る。外は既に騒ぎを聞きつけた

店の者達や客が騒いで逃げ出していた。

それを守る形で逃げる人を背に立つ。

堕姫が立ち上がるのを見て疑問だったことを告げる。

 

「お前本当に上弦か?下弦の壱の方が手強かったぞ。」

 

「うるさい。」

 

また戦いが始まる。

帯で攻撃しつつ逃げる堕姫、

襲い来る帯を切り裂きつつ追いかける飛鳥。

戦いは一方的だった。

その内追いついた飛鳥が鞘で堕姫の顔面を打ち払い

堕姫はそのままとある店に飛ばされながら入り

壁に背中を強く打ちよろけて隙が出来る。

飛鳥がそれを見逃すはずなくとどめを刺しに行く。

 

「(雷の呼吸 漆ノ型 武雷貫。)」

 

突きからの薙ぎ払いの弐段階攻撃に対応できず

堕姫が頸がとんだ。

その時飛鳥の隣に天元が降り立つ。

 

「終わったか、清水。」

 

「ええ。でもおかしいですね。上弦にしては弱すぎる。」

 

「俺も派手に同意だ。本命が他にいるな。」

 

「でもこいつの目にはしっかりと上弦の陸の字があるんですよね。」

 

「ほんとか?」

 

「ええ。確かに確認しました。あるいは本物か鬼舞辻に踊らされてるだけのただの馬鹿かですが。」

 

そう言いながら二人は地に座り込み、斬られた頸を両手で持っている堕姫を見る。

 

「よ、よくもアタシの頸を斬ったわね!ただじゃおかないんだから!」

 

堕姫が涙ながらに叫ぶ。

 

「それが俺らの仕事だからな。それが運命だと思ってあきらめろ。」

 

全くの慈悲のない飛鳥の言葉に堕姫は本気で泣き出す。

 

「っ、わ――ん!」

 

突然子供の様に泣き出した堕姫に天元と飛鳥はギョッと驚く。

そしてある事に気づく。

 

「おい清水、お前確かに首切ったんだよな。」

 

「ええ。」

 

「ならなぜこいつの身体は崩れない。」

 

そう堕姫の頸が飛んでそこそこの時間が経っている。

いくら再生力が高い上弦とはいえ頸を日輪刀で切られれば体が崩れるはずだ。

だが堕姫の身体はいっこうに崩れない。

 

「まだ何かあるのか?これは!(なんだこの鬼の身体、他の鬼とはの物とは作りが違う。まさか。)」

 

飛鳥は透き通る世界で堕姫を見て気づいたことを天元に告げる。

 

「天元さん、気負付けて。こいつの中にもう一人いる。」

 

「どういうことだ、清水。」

 

「わああぁああ!頸斬られた!頸斬られちゃったあぁあ!お兄ちゃんあぁあん!」

 

堕姫がお兄ちゃんと叫んだ瞬間、周囲の重圧が増した。

それは殺気。そしてもう一人の鬼が堕姫の背後に立つ。

 

「こいつを見た時体の作りが若干違いました。つまりこいつらは二体一対の鬼という事です。」

 

そう言う間に堕姫の頸を持ち切り口部分に押し付ける。

 

「泣いたってしょうがねぇからなああ。頸くらい、自分でくっつけろよなぁ。

おめぇは本当に頭が足りねぇなぁ」

 

その隙を見つけた飛鳥と天元が切りつける。

だが男鬼は鎌を取り出しそれをすべて弾く。

 

「お前らいいなぁあ、その顔いいなぁあ。肌もいいなあ、シミも痣も傷もねぇんだなぁ。

……肉付きもいいなぁあ、オレ太れないんだよなぁあ」

 

鬼は「妬ましいなぁあ」「死んでくれねぇかなあ」と呟く。

そして堕姫が、今までの経緯を鬼に話、鬼は怒りを露にする。

 

「そうだなあ、そうだなあ、そりゃ許せねぇな。オレの可愛い妹が、

足りねぇ頭で一生懸命やってるのを虐めるような奴らは皆殺しだあ」

 

鬼は両手でそれぞれ鎌を持ち構えた。

 

「取り立てるぜ、オレはなあ……やられた分は必ず取り立てる。死ぬ時グルグル巡らせろ。

オレの名は、妓夫太郎だからなああ!」       

 

ここから柱二人と鬼の本当の戦いが始まる。

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