雷の鳴る所には雨が降る   作:秋月 了

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第五十八話 それぞれの戦い 胡蝶しのぶ

 しのぶは無限城の廊下を歩く。

複雑でまさに迷宮と言える。

その時血の匂いと鬼の気配に気づいてそれを頼りにドアを開ける。

そこにいたのは大量の女性の死体とそれを食べる鬼だった。

 

「ん?あれぇ、もう来たの?あぁ女の子だね。若くておいしそうだ。

あとで鳴女殿にありがとうって言っとかなくちゃ。

初めまして俺は童磨。いい夜だねぇ」

 

童磨は立ち上がる。だがその姿は異様だった。

下半身は膝のあたりまでしかなく残りは氷でできている。

左腕は肩から氷で出来ていた。

 

「これ?四年前に切られてから再生しないんだよ。何でだろ?君はわかるかい?」

 

しのぶは気づいた。姉を殺しかけた鬼と特徴が似ている事と

飛鳥に切られた場所と同じだとに。

 

「(この鬼が姉さんを。でもなんで再生していないの?)」

 

飛鳥は赫刀で童磨を切った。

そこで切られた場所は四年経った今でも傷口を燃やし続けていたのだ。

 

「(傷が再生していないとはいえ相手は上弦の鬼。多分私では倒しきれない。

既に私が上弦と対峙している事はお館様にも伝わっているはず。

ならだれか応援が駆けつけるまで待つしかないわね)」

 

この時のしのぶは冷静だった。

それは姉であるカナエに陣痛が始まり今夜中には新たな命が生まれるだろうと任務前に

寄り添っている産婆や瑠火に言われている。

なら自分は何としても生き残ろうという使命感や

飛鳥と共にこれからも生きていきたいという欲がそうさせていた。

しのぶが刀を構える。

童磨もまだ無事な片腕で扇を構える。

長い沈黙がその場を支配する。

先に動いたのは童磨の方だった。

 

「(血鬼術 蔓蓮華)」

 

氷の蔓がしのぶに襲い掛かる。

しのぶはそれをかわし一気に近づいて型を繰り出す。

 

「(蟲の呼吸 蝶の舞 戯れ)」

 

数か所に突きを見舞う。

 

「すごい速さだよ。対応できなかった 。

でも突きじゃ鬼は倒せないよ」

 

余裕の童磨だったが傷口から変色が始まる。

童磨は体の異変で血を吐き膝をつく。

 

「これは、累君の使った毒より強力だね」

 

「(やっぱり情報は共有されている)」

 

「調合を・・・鬼ごとに変えてるとあの方も仰っていたなぁ。

ゲホッ、グッ。・・・・・あれぇ、毒、分解出来ちゃったみたいだなぁ。

ごめんね。せっかく使ってくれたのに」

 

「(くっやはり、ならば)」

 

童磨はまた立ち上がる。

余裕をひけらかせながらしのぶを煽る。

だがしのぶは冷静に確実に童磨の作る数少ないすきを見つけてどんどん違う毒を調合し

撃ち込むがその全てを童磨は分解していく。

さらに氷を散布する。確実にしのぶはその氷を吸っている位置にいるだが一向に肺に凍らず

その影響が出ない。

 

「(おかしい。なぜだ?なぜまだそこまで動ける?)」

 

勿論それらはすべてしのぶがこの最終決戦に備えて準備してきたもののおかげだ。

今しのぶの口の中には珠世が作った塗り薬による粘膜が喉に張られている。

喋ることは出来なくなり効果も三十分間ほどだがその間呼吸を邪魔せず氷の侵入を防いでくれる。

それを扉を開ける前に仕込んでおいたのだ。

そのおかげで肺を壊死させる氷は入ってこず呼吸を使える。

勿論そんなことを知らない童磨は自分の血鬼術が効果を発揮していないのではと考える。

この戦いの中童磨は余裕をひけらかし続けている。

だが実際は早く終わらせたいくて仕方がなかった。

最大に理由は今だ再生しない手足だ。

本来童磨は動きの早さと的確な血鬼術操作で敵を殺す。

だが今その速さは出せずにいた。

理由は先ほど述べた手足の欠損。

一応氷で補っているが当然本来の速さは出せない。

というか氷が割れてしまうので不可能だ。

手の氷も血鬼術の邪魔していた。

しのぶが首を斬れないとはいえ

その毒を全て受ける訳にはいかない。

今は問題なく分解出来ているがいずれ不可能になるかもしれない。

その考えが今の童磨にはあった。

四年前死にかけなければそんな考えも起きなかっただろう。

上弦の弐になって約百年。

死を知らなかった、敗北すらほとんど知らない童磨に

叩きつけられた死の恐怖と黒死牟の与えられた以上の圧倒的な敗北感。

その全てが本来なんてことない相手であるしのぶとの戦いで本来の悪癖とも

重なって無駄な警戒心を生み消極的で本来の強さが発揮できず苦戦を強いられていた。

だがもたもたしてはいられない。

いつあの時の隊士が来るかわからないから。

 

「(血気術 結晶ノ御子)」

 

ここで形勢は互角よりやや童磨有利から一気に童磨に傾いた。

氷の人形を出ししのぶを追い詰める。

自律戦闘が可能な人形が六体で一斉に本体と同じ血鬼術を本体と同等の威力で使用し

しのぶを追い詰める。

 

「さぁ、この子達に勝てるかな?」

 

「(駄目、追いつけない)」

 

傷つき壁際まで追い詰められてしのぶは眼をつぶる。

だが氷の人形は一向に攻撃をしてこない。

目を開けると一人の隊士が立っていた。

その隊士は一瞬で氷人形を破壊していた。

 

「遅くなった。すまない」

 

「君はあの時の」

 

「(飛鳥!)」

 

しのぶにとって救世主の登場だった。

それと同時に形勢が一気にしのぶの方に傾いた瞬間だった。

 

 

 

 

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