ビョーゲン三人娘の戯れ   作:早乙女

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今回はのどかとクルシーナの因縁に引き続いて、この二人の戯れです。
タイトルからもう誰かはわかりますよね・・・?


その3「旅館」

 

すこやか市にある『旅館 沢泉』。そこはすこやか市内で人々の身体だけでなく、心をも癒してくれると評判の、この街の中でも大型の旅館だ。

 

その看板娘で、キュアフォンテーヌに変身する少女、沢泉ちゆは青を基調とした中居の格好をしながら、今日も旅館のお手伝いを行っていた。

 

旅館自慢の温泉を掃除したり、大量の布団を運んだりと今日も大忙しだ。

 

そんな中、ちゆが部屋のお客が食べ終えた食器を厨房を運んできた時だった。

 

「ちゆ」

 

「はい!」

 

「鶴の間にこの料理を運んでくれる?」

 

「こんな時間に、ですか・・・?」

 

ちゆは料理を差し出されたことに疑問を抱く。今の時間は夕食というには遅い時間だ。本来ならば既に旅館に泊まっている人は食事を食べ終えている頃だが、なぜこの時間に・・・?

 

「鶴の間のお客さんは、先ほど到着されて料理を食べたいと言っていたの。だから、急遽頼んで作らせたのよ。だから、持っていって頂戴」

 

「あ、はい!」

 

ちゆの祖母・はるこはそう言うと、改めて持っていくように伝える。納得して鯛などが盛り付けられている豪勢な料理を手に取ると、少し広めの部屋である鶴の間へと向かっていく。

 

料理を置いて、鶴の間の前でゆっくりとちゆは正座をすると襖をノックする。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

ちゆは鶴の間の客が返事をすると、彼女はゆっくりと襖を開く。

 

「お客様、食事の用意ができました。お運びしてもよろしいでしょうか」

 

ちゆはゆっくりとお辞儀をすると、お客の声が聞こえてくる。

 

「もちろんですよぉ、お願いします」

 

「?」

 

お辞儀をしつつも目を開くちゆ。どこかで聞いたことがある声・・・・・・何か違和感が・・・・・・。

 

ちゆが顔を上げて、お客の顔をよく見てみると・・・・・・。

 

「!! ドクルン!?」

 

「ん~?」

 

いきなり叫び声をあげたちゆに、お客である少女が読んでいた本から視線をこちらに向ける。その姿は薄い黄緑色のような肌をした白衣姿の格好をしたドクルンだった。

 

「おやおや、キュアフォンテーヌではありませんか」

 

彼女の姿を見たドクルンが面白いものを見つけたかのような笑みを浮かべる。

 

ちゆは内心焦っていた。まさか、こんなところにビョーゲンズが現れるなんて・・・。しかし、今はペギタンとは別行動を取っていて、こいつが何かを仕出かしたらプリキュアに変身することができない。

 

「そういえば、この旅館の娘でしたねぇ」

 

「何をしているの・・・!?」

 

すっかり普段の中居口調を崩して、彼女が客であることも忘れて問うちゆ。

 

「何って・・・決まってるじゃないですかぁ」

 

ちゆのその反応にニヤリと笑みを浮かべるドクルン。

 

「この旅館を・・・潰しに・・・」

 

「っ!!!!」

 

何の躊躇もなく言い放ったドクルンに、ちゆは思わず正座を崩して立ち上がる。

 

やっぱりこいつは、ロクでもない悪さをしに来たのだ。今からでも遅くはない・・・ペギタンを連れてくるしか・・・!!

 

と、ちゆがそんなことを思った刹那、ドクルンは不敵な笑みとは一変して、少女のような笑顔を浮かべる。

 

「冗談です」

 

「え・・・?」

 

「今日の私は完全にオフ、旅館に泊まりに来たに決まってるじゃないですかぁ。何もしませんよ、この旅館には」

 

ドクルンの言葉に動こうとした体を止めるちゆ。ビョーゲンズである彼女が悪さもせずに、うちの旅館に泊まりに来た・・・?

 

あっけにとられるちゆだが、すぐに表情を元に戻して彼女を睨むように見つめる。

 

「そ、そんなこと・・・!!」

 

「信じられない、ですって? 別にあなたがどう思うと勝手ですが、そもそも何かをするなら着いた瞬間にとっくにやってますし、この旅館だってそれどころじゃないはずでしょう?」

 

「あ・・・・・・」

 

ちゆが言おうとしたことをきっぱりと切り捨てて、論するドクルン。

 

確かに・・・ビョーゲンズが来ているならとっくにメガビョーゲンが現れているはずだし、旅館だって騒ぎで営業どころではないはずだ。こいつがわざわざ旅館の中に入って、自分に会いに行くのもおかしい。

 

本当に・・・何もする気がないの・・・?

 

「それよりも、早く料理をくださいよ。お腹、減ってるんですから」

 

「あ、はい! かしこまりました」

 

ちゆは自分が手伝いをしていることを思い出して口調を戻すと、料理を運び入れる。

 

「・・・・・・・・・」

 

豪勢な料理を並べている間にも、ちゆはドクルンに疑いの目を向ける。それに対して、当の本人はそんなことも知らずに本を目を通しているだけだ。

 

「お待たせいたしました」

 

料理を並び終えてそういうと、ちゆは部屋の外で正座をする。

 

「ご苦労様です」

 

ドクルンはそう返事をすると、本を部屋の隅に置いて箸を手に取り、まずは新鮮な山菜で作られた天ぷらに手を伸ばす。

 

口に入れるとシャキシャキしながらも、ホクホクで自然の味がした。

 

「ん~、悪くないですねぇ」

 

ドクルンは舌鼓しながら、次々と料理を手に取っていく。その様子を見ていたちゆはいまだに疑いの目で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうしたのですか?」

 

「・・・本当に、今日は何もしないの・・・?」

 

ちゆのそんな視線に気づいたドクルンが声をかける。ちゆは中居口調を崩して、ドクルンに問う。

 

「まだ疑ってるんですか? 私は何もしません。今日はオフだって言ったでしょう」

 

そう言いながら、姿焼きにされている鯛をつまむドクルン。しかし、それでもちゆの表情は晴れない。

 

ドクルンはそんな視線を見つめながら、一旦箸を置き、内心ため息を吐く。

 

・・・ちゆって、こんなに堅い性格だったかしら?

 

彼女はそんなことを思いながら、席に寄りかかって腕を組んで考える。どうすれば、ちゆにわかってもらえるものなのか?

 

それを1分ほど考えたところ・・・・・・。

 

ピンポン!!

 

「!! そうです」

 

ふとドクルンは頭の上に電球を浮かばせながら、いいことを思いつく。

 

「キュアフォンテーヌ」

 

「・・・何? っていうか、今の私はプリキュアじゃないんだけど」

 

こんなところで他の人にプリキュアだとバレるわけにもいかないので、訂正をしておくちゆ。

 

「じゃあ、ちゆさん」

 

ドクルンは彼女に視線を向けながら口を開いた。

 

「仕事がひと段落したら、この部屋に来てもらえますか?」

 

「? なんで?」

 

「いいから、来てください」

 

ちゆは首をかしげる。自身の疑いを晴らすのに、どうしてこの部屋に来る必要があるのか。ビョーゲンズの考えていることはよくわからない。

 

「ちゆー! ちょっと手伝ってくれるー?」

 

「あ、はーい! ただいま!!」

 

遠くから母・まおの声が聞こえてきたことに、返事をするちゆ。

 

「では、どうぞごゆっくり」

 

「ちゃんと食器を下げに来てくださいね」

 

はっきりと頷きはせずに、中居口調に戻すとちゆはそのまま襖を閉めて、母の待つ場所へと向かった。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンは笑みを漏らすと、再び箸に手を付けると料理をつまんだ。

 

それから数分後・・・・・・。

 

「ふぅ、ごちそうさまです。なかなかに悪くない味でしたねぇ」

 

食器の料理を空にして、満足げな表情を浮かべるドクルン。

 

「ここは居心地もいいですし、本も静かにゆっくりと読めますし、喫茶店と同じくらいいい場所です」

 

この場所は静寂で心地いい。ビョーゲンズの誰かに読書を邪魔されることもないし、ましてはメガビョーゲンが暴れても被害を被ることもない。喫茶店の次にいい場所だ。

 

さすがに温泉は、ピリピリとした何かを感じるので、嫌な感じはするが・・・。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

部屋の襖が開き、ちゆが顔を出す。

 

「お食事はお済みになりましたか? よろしければ食後のお茶をお入れさせていただきますが、いかがでしょうか?」

 

「ふむ・・・」

 

ドクルンは顎に手を当てて考える。

 

「本当はコーヒーの方がいいのですが、まあいただきましょう。お願いします」

 

「っ・・・かしこまりました」

 

ちゆはドクルンのその言葉に顔を顰めつつも、すぐに営業スマイルに戻してそう言うと、部屋の中に入り、食事の後片付けをし始める。

 

「ところで・・・」

 

「・・・何?」

 

食器を片しているちゆにドクルンが話しかける。彼女のそんな表情は警戒心で溢れていた。

 

「さっきはごまかされましたけども、お手伝いが終わったら、部屋には来てくれますか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

仕事で返事をごまかしたのがバレていたのか、ドクルンは再度あの時の質問をする。

 

別の仕事をしながら考えてはいたが、こいつは自分に何かをするつもりなのか・・・? だから、あんなことを言ったのか、と思っていた。

 

こいつが何かをしでかさないか心配だが、何も動かなかったということは、本当に何かをするつもりはないのかと考える。

 

(ダメダメ!! こいつの言うことなんか信用できないわ・・・!!)

 

ちゆはハッとした後に首を振ると考えを改めようとする。しかも、こいつは自分を一回襲って、再起不能寸前まで追い込んだ卑劣な少女だ。簡単にこちらの考えを明かすわけにはいかない。

 

「私は・・・・・・」

 

行かない・・・!! と、言いかけたところで別の考えも生じる。

 

そうだ。こいつは何かをしでかすかわからない。だから、こいつを監視するために部屋に行く。そういうことにしておけばいいと考える。

 

そうだ。そうすればいい・・・!!

 

「・・・わかったわ。仕事が落ち着いたら行く」

 

「ありがとうございます。サービスに感謝しますよ」

 

ちゆはまとめた食器を抱えて立ち上がると部屋の外へ移動する。部屋の外に出る前にドクルンに振り向く。

 

「でも、それまでに変なことをしたら、うちの営業妨害で追い出すからね!!」

 

「おぉ~、怖い怖い・・・」

 

「っ・・・お茶を今お入れしますので、お待ちください」

 

ちゆが力強く言った言葉に、ドクルンは怯えるどころか、面白がってからかうように言う。ちゆはその言葉に余計に顔を顰めることに。それでも中居口調に戻すと、一旦部屋の外に出て食器を置く。

 

こいつに乗ったら負けと思い込みながら、部屋の外で急須にお茶を入れると湯飲みと一緒にお盆に乗せて彼女の前に置く。

 

「お茶です」

 

「どうも、ありがとうございます。あなたも中居の格好、似合ってますよ」

 

「っ・・・!!」

 

ちゆはドクルンが自分の姿を褒めてくれたことに、顔が熱くなっていくのを感じながらも、特に相手をせずに部屋の外へと移動する。

 

「では、ごゆっくり」

 

ちゆはそう言いながら、襖の扉を閉めて部屋を後にする。

 

「フフフ・・・ちゆはからかい甲斐があるわねぇ」

 

ドクルンは笑みを深くしながら呟く。ああいう真面目な子は適当に言葉をかければ、ああやって動揺したり、表情を変えたりする。

 

さっきだって、服を褒めただけで顔を少し赤くしたのだ。本当にいるだけでも退屈しない。

 

と、首のスタッドチョーカーに姿を変えていた彼女の相棒が、狼のような妖精の姿へと変える。ドクルンの相棒のブルガルだ。

 

「あれがあのペンギンのパートナーブル?」

 

「そうね」

 

「ふん、真面目なあいつらしいパートナーブル」

 

どうせあの人間に助けられているのだろうと、皮肉めいた言葉をかわすブルガル。

 

「さてと・・・」

 

ドクルンは席を立つと同時に右手の指を鳴らし、窓際のスペースのテーブルからタオルを持つと部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクルンが泊まる部屋を後にした、ちゆは厨房で従業員に食器を手渡した後、別の仕事をしていた。

 

(あいつ、一体何を考えているのかしら・・・?)

 

仕事中だが、嫌でもあのビョーゲンズの行動が気になる。

 

本当に何もしてないにしても、いつかは何かをしでかすに決まっている。ビョーゲンズはそういう連中の集まりだ。だから、疑ってかからないと。隙を見せてしまえば、またあの時のように被害を被りかねない。

 

「ちゆー! 鶴の間にお布団を敷いてもらえる?」

 

「はーい!」

 

母・まおにそう言われ、鶴の間へと向かうちゆ。鶴の間はドクルンが止まっている部屋、彼女を監視するためにはいい頃合いだ。

 

その部屋のゆっくりと襖を開けると、そこにはドクルンの姿はなかった。

 

「っ!?」

 

ちゆはその状況に顔を青ざめさせる。まさか、あいつ、何か悪さをしに行ったんじゃ・・・!!

 

でも、あいつ・・・どこに行ったのかしら・・・!?

 

しかも、部屋の中をよく見るとテーブルにメモ書きが置いてあった。

 

『温泉に行ってきます』

 

それはまるで、ちゆがここに来るのを読んでいたかのように書かれていた。

 

「っ・・・!!」

 

野放しにしておけないとちゆは仕事も忘れ、自身の部屋へと向かう。

 

「ペギタン!!!」

 

「ペエ!?」

 

ちゆは驚いているペギタンに事情を話すと、一緒に急いで自慢の温泉へと向かう。

 

「旅館にビョーゲンズがいるなんて、思わなかったペエ・・・!」

 

「私もそうよ。もしあいつが、うちの旅館に何かをしていたら・・・!!」

 

もし、あいつがメガビョーゲンをこの時間に発生させていたら・・・!!!! のどかとひなたを呼べない以上、これは一大事である。

 

客の迷惑にならないように早歩きで向かい、『女性』と描かれている暖簾をくぐり、衣類を脱ぐためのロッカールームに入るとガラス越しの扉に聞き耳を立てる。

 

ガラスの扉から中は覗けないため、怪しまれないように扉ごしに声を聞こうとする。

 

ーーーーさてと、こんなものかしら?

 

ーーーーもっとやってくれブル!!

 

ーーーー仕方ないわね・・・もっとやってあげる。

 

「!!??」

 

「ペエ!? も、もしかして・・・!」

 

ちゆとペギタンはその声を聞いて目を見開く。やっぱり、あいつは・・・!!

 

ちゆは迷わず、ガラスの扉を開け放つ。

 

「ドクルン!!!! あなた、やっぱり何かをしでか、し、て・・・?」

 

怒鳴るちゆだが、目に映る光景を見て言葉を詰まらせていく。

 

「ちゆ・・・何しに来たのですか?」

 

「ブル? そこのペンギンも何の用かブル?」

 

ドクルンは何事かと言わんばかりの声で言う。よく見れば、彼女は泡だらけになっていて、その手元にいた狼の妖精のようなものが彼女よりも泡だらけになっていた。

 

しかも、肌色はさっきと違って、人間と変わらない色になっている。

 

「え・・・?」

 

「ペエ・・・?」

 

「?」

 

ちゆとペギタンはあっけらかんとした表情で彼女を見つめている。ドクルンは首をかしげるばかりだ。

 

「ドクルン? 今・・・何、してたの?」

 

「何って・・・あなた、温泉に入ってる時は一つしかないでしょうに」

 

ドクルンは呆れたような口調で言う。

 

ちゆは呆然と見つめる。もしかして、洗いっこしてただけ・・・?

 

「何かをしでかそうとしてたんじゃなくてペエ?」

 

「お前は何を言ってるブル?」

 

「・・・はぁ、あなたまだ疑ってたんですか? 言ったでしょう、私は完全にオフだって」

 

ブルガルが訳のわからないといったような言葉を言いながら、ドクルンはため息をつきながらも、少し不機嫌な表情で言う。

 

ちゆとペギタンは目をパチパチとさせるしかない。本当に・・・何かをしに来たんじゃないの・・・?

 

彼女がそんなことを思っていると・・・・・・。

 

「ちゆ」

 

「「!!??」」

 

背後から話しかけられ、ビクッとするちゆ。振り向くとそこに立っていたのはちょっと怒った表情をした彼女の祖母・はるこの姿だった。

 

ペギタンは見つかったらまずいと思い、ちゆの懐へと隠れる。

 

「お、おばあちゃん・・・!?」

 

「何を騒いでいたの?」

 

「あ、あの・・・」

 

低いトーンのはるこに、ちゆは額に汗を浮かばせながら口ごもる。

 

「この時間はお客様の迷惑になるでしょう。はしたない声を出すんじゃありません」

 

「ご、ごめんなさい・・・!!」

 

少し怒っているはるこに申し訳ないという顔をしながら、頭を下げるちゆ。

 

「申し訳ありません、お客様。うちの娘がご迷惑をおかけしませんでしたか?」

 

はるこは温泉に入っているドクルンに声をかける。

 

「いえいえ、彼女にはよくしてもらってますよ。私にとってはかなり癒しになりました」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

笑顔を見せるドクルンに、はるこも笑顔になる。そして、ちゆに対して顰めた顔を見せる。

 

「鶴の間の布団は終わったのですか?」

 

「あ・・・た、ただいま!!」

 

「早くなさい」

 

「は、はい!!」

 

はるこに言われてちゆは返事をすると、鶴の間のお布団を敷くべく早足で向かった。

 

「お客様、ごゆっくり」

 

「ありがとうございます」

 

はるこはそう言うと温泉の扉を閉め、ドクルンはそれに笑顔で返した。

 

「一体、何だったんだブル?」

 

「さあね。じゃあ、温泉に入りましょうか」

 

ドクルンは自分とブルガルの泡を洗い流すと、ペットも入れるという温泉の中に足を入れていく。

 

体まで浸かっていくと体にブルッとしたような感覚に陥る。それはまるで体の芯にまで染み渡るような感じ。

 

「はぁ~~~~~~!! いい感じですねぇ~~~~~!!!!」

 

ドクルンは恍惚としたような表情をしながら、気持ちよさそうに大声を出す。今、温泉には誰もおらず、実質貸切状態。温泉を一人占めである。

 

「ドクルン、大丈夫なのかブル?」

 

「ん~~? まあ、少しはピリピリしますけど、これはこれでいいですよぉ~~~~」

 

「ダメージ受けてるじゃないかブル・・・」

 

温泉は健康的でドクルンの体の芯に痛みを感じていたが、これは苦痛ではなく、むしろこれはこれで刺激になって気持ちがいいと彼女は対して気にしなかった。

 

一緒に温泉に入っているブルガルは、その様子を呆れたように見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

ちゆはトボトボと廊下を歩いていた。

 

「ちゆのおばあちゃんのお説教、長かったペエ・・・」

 

「そうね・・・」

 

肩に乗っていたペギタンの声に応えるも、ちゆは疲れたような顔をしていた。

 

鶴の間の布団を敷いた後、はるこに呼び出されたちゆは1時間ぐらい説教を受けていた。

 

いつもは真面目なあなたがどうしたやら、鶴の間の客相手に時間がかかりすぎとやら、先ほど大きな声を出すんじゃないとやら、今日の行動について不始末な部分をいろいろと指摘された。

 

その間、ちゆは正座をしながら申し訳ないという感情を抱きながら、こんこんと祖母の説教を聞いていたのであった。

 

そのあとも仕事は純粋にこなし、母親にもうあがってもいいと言われ、現在は疲れたように自分の部屋へと帰ろうとしていた。

 

「あ・・・・・・」

 

「ちゆ、どうしたペエ?」

 

そんな中、ふと思い出したのは、自分が去った後のドクルンがどうしているかだった。

 

ビョーゲンズであるあいつは、何かとんでもないことをやってはいないだろうか。彼女を監視するためと内心で建前を作りながら、彼女の部屋へと向かうことにする。

 

本当は行きたくないという気持ちはあるが、言っておいて約束を破るようなことをするのは良くないと思い、仕方なく行ってやるのだ。

 

ドクルンが泊まる部屋の前に立つちゆ。

 

「ち、ちゆ、やめたほうがいいペエ・・・」

 

「私は大丈夫よ。ペギタンは先に寝てて頂戴」

 

コンコン。

 

「入るわよ」

 

心配するペギタンをよそに、ちゆは警戒心を抱きながらも、ドアをノックして一人部屋に入る。しかし、部屋の中からは返事はない。

 

「約束通り来てあげたわ、よ・・・?」

 

部屋の中に入りドクルンに声をかけるちゆだが、電気はつけっぱなしで自分が敷いた布団の上でドクルンが眠っている姿であった。本を読んでいる最中だったのか、広げたまま胸の上に置かれている。

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはなんとも言えないような表情をしながら、ドクルンを見つめている。

 

「あれだけ急かしておいて、寝てるなんて・・・」

 

ちゆは呆れたような表情をする。あれだけドクルンの方から部屋に来るように言っておいて、来たこの頃に寝ているとは、なんとマイペースなやつだ。これでは私がわざわざ仕事を上がった意味がない。

 

彼女はそんなことを思いつつも、ドクルンを掛け布団の上から降ろすと、掛け布団を剥がし、敷布団の上に彼女を乗せるとその上に掛け布団を掛けてあげる。

 

彼女のせいで怒られたことに少しは恨みもあるが、今日は本当にオフみたいだから、そのぐらいは大目に見てやろうと思う。あくまでも今回だけは、だ。

 

手に持っていた本をベッドの横に置いておいてあげようと、手に持つとふと何の本を読んでいたのだろうか?

 

「何を読んでいたのかしら?・・・うっ」

 

確かめようと本の表紙を見てみると彼女は顔を引き攣らせた。そこには『部下のしつけの仕方 SMプレイ篇』と書かれていた。

 

メガネをかけているくらいだから、もっと哲学的な本を読んでいるのかと思ったが・・・。

 

(うちの旅館になんて本を持ち込んでいるの・・・?)

 

ちゆは呆れた様子で眠っているドクルンの表情を見つめる。そんな彼女の気も知らずに、こいつは静かにスヤスヤと寝息を立てながら眠っている。

 

ふと、ちゆはドクルンの頬を指でツンツンとつつく。

 

「あなたのせいで、私は疲れているんだから・・・」

 

「んぅ~」

 

ドクルンに対する皮肉の言葉を吐きながら、頬をツンツンとつつくちゆ。ドクルンは反応しながらも、寝返りを打って背を向ける。

 

ちゆはそんな呆れたような感情を持ちながら、ふと別の感情を抱き始める。

 

こうしてみると、こいつ、意外と寝顔が・・・かわいい・・・?

 

ちゆは彼女の顔へとまわり込むと眠っている彼女の髪を撫でたり、彼女の鼻をさわさわしたりして、ドクルンの反応を楽しむ。

 

「んん~」

 

ドクルンはその度に寝返りを打って、彼女に背を向ける。起こしてしまったかというドキドキも妙にスリルだ。

 

「ふふ・・・かわいい・・・」

 

ちゆは再び彼女の顔の方にまわり込むと頬をツンツンする。

 

「私の相手をしてよ。せっかく来たんだから・・・」

 

そう言いながらドクルンにいたずらをする。すると・・・・・・。

 

パシッ!

 

掛け布団から手が伸びてちゆの腕が掴まれる。

 

「えっ・・・?」

 

「それは失礼しました、ちゆさん」

 

突然のことに困惑するちゆ。ふと彼女の顔を見ると不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見つめていた。

 

「っ・・・きゃあ!?」

 

ちゆはしばらく呆然としていたが、ドクルンに腕を引っ張られて布団の中に引き込まれる。

 

「あ、あなた・・・いつから起きていたの・・・!?」

 

「あなたが私の髪を撫でたときからですよ」

 

・・・ということは、私がいたずらをしていたところをほとんど見ていたってこと・・・!?

 

ちゆは嵌められたと内心悔しい思いを抱いていた。

 

「さてと、あなたの相手をするとしましょうか」

 

「あ、相手って・・・何を・・・?」

 

困惑するちゆをよそに、ドクルンはニヤリと笑みを浮かべるとちゆの体に手を伸ばし・・・。

 

「ひゃあ!! ちょっ、どこを触っているの・・・!?」

 

「口に出して言っていいんですかぁ?」

 

「っ! 言っちゃダメ!! 言わないでぇ!!」

 

「フフフ・・・・・・」

 

チョンチョン・・・。

 

「きゃあ!! や、やめ・・・!!」

 

チョンチョンチョン・・・。

 

「ひゃあぁぁぁ!!! そこ、触っちゃダメだってば・・・!!!!」

 

「静かにしたほうがいいんじゃないですかぁ? 他の客もきっと寝てますよぉ」

 

「これが静かにしていられる状況・・・!?」

 

チョンチョン・・・チョンチョンチョン・・・。

 

「ひゃあ!? や、やめてってば・・・!」

 

「やめません。眠っている私にいたずらをした報いです」

 

「うっ・・・あ、あなたは起きていたんでしょう・・・!?」

 

チョンチョン・・・フニフニ・・・。

 

「きゃあ!!!」

 

「眠っていましたよ。あなたが遅いせいでねぇ」

 

「わ、私は、あなたを信じたわけ、じゃ・・・!」

 

顔を赤くしているちゆに、ドクルンは彼女の耳に口元を近づけると・・・。

 

フゥ・・・。

 

「ひぃっ!? み、耳に息を吹きかけないで・・・!!」

 

「フフフ・・・」

 

フニフニ、フニフニ・・・。

 

「~~~~~~~~!! あ、あぁ・・・」

 

チョンチョンチョン、チョンチョンチョン・・・。

 

「あっ・・・いやっ・・・!!」

 

フゥ・・・・・・。

 

「ひぃ!!??」

 

「フフフ、可愛い反応・・・顔なんか赤くしちゃって・・・もっと見たくなっちゃいます」

 

ドクルンはそんなことをしながらも、あることを思い出していた。

 

ーーーひゃあ! ちょっと!りょう!!

 

ーーーフフフ、ちゆったらここが弱いのね。

 

ーーーひぃ! いやっ! くすぐったいからぁ!!

 

ーーー思いっきり笑ってくれてもいいのよ。

 

ーーーや、やめ・・・ひゃあぁぁ!!

 

・・・そういえば、昔はこうやって彼女とじゃれあったこともあったんだっけ。

 

ーーー布団がふっとんだ。

 

ーーーくっ、クフフ・・・!!

 

ーーーカラスが声を枯らす。

 

ーーーぷっ、あはははは!

 

ーーーチョークが折れてチョー悔しい。

 

ーーーあははは!! りょう、やめてぇ!!

 

ーーー・・・こんなのどこが面白いのかしら?

 

・・・大して面白くもないダジャレにも笑っていた気がする。

 

「や、やめて・・・! わ、私、もう眠りたいの・・・明日も学校が・・・!」

 

「ダメです。今夜は寝かせませんよ。私の気が済むまで付き合ってもらいますからねぇ」

 

「そ、そんな・・・!?」

 

フニフニフニフニフニ・・・・・・。

 

「っ~~~~~~~~~!」

 

「布団がふっとんだ」

 

「ぷっ、フフフ・・・」

 

「隣の家の仏像が倒れたそうだ。へぇ、そうか。ほっとけ(仏)」

 

「ク、フフフフフ・・・!」

 

フニフニフニフニフニ・・・・・・。

 

「っ!! あは、あはははは!!!」

 

「チョークが折れてチョー悔しい」

 

「フフフ、あははははははは!!!」

 

「ナスをなすりつける」

 

「あっははははははははは!!!」

 

こちょこちょこちょ・・・・・・。

 

「あはははは!! ちょ、くすぐらないでへへへへへへへ!!!」

 

「鯛があるからめでたいな」

 

「あははは!! も、もうやめてぇ!! あっははははは、あはははは!!!!」

 

「たすきをなくしました。たすきてー」

 

「あはははははははは!! く、苦しいぃぃ!! ひひひひ、ひーッヒヒヒヒヒ!!!!」

 

「タンスを買いに行ったんす」

 

「ひひひひひひ、ひーひひひひひひ!!!」

 

今日は本当に楽しいオフになったわねぇ・・・。

 

その後もドクルンはちゆにいつまでも疑い続けられ、遅刻した不満を晴らすかのように、あんなことやこんなことをしたり、ツボになっているダジャレを言いまくったりして、彼女を弄くり回したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うえぇ!? ドクルンがちゆちーの旅館に!?」

 

「だ、大丈夫だったの!?」

 

「大丈夫じゃないわよ、ふわぁ~~~~~・・・・・・」

 

翌朝、中学校でちゆは昨日のお手伝いの出来事を話すと、のどかとひなたに大いに驚かれた。今日は明け方まで付き合わされたので、寝不足で大きなあくびが出る。

 

別に何かをされたわけではなく、メガビョーゲンも発生しなかったため、大したことはなかったのだが、昨日は必要以上に気苦労をしたせいで、祖母に怒られるわ、ドクルンに振り回されるわ、散々な一日だったとちゆは回想する。

 

「でも、大変だったね・・・怒られちゃうなんて・・・」

 

「本当よ。あいつのせいでこっちは散々だったわ」

 

「ち、ちゆちー、ちょっと顔が怖いよ・・・」

 

ちゆは少し恨みがましい表情でそう言う。その顔はひなたが引くぐらいだった。

 

「フフフ・・・・・・」

 

「!!!???」

 

ゾゾゾォ・・・・・・!!

 

ふとどこからか笑い声が聞こえてきたような気がして、一変して体を震わせると窓の方を見るちゆ。

 

「ど、どうしたの? ちゆちー」

 

「窓の外に何かいたの?」

 

「い、いえ、なんでもないわ・・・!!」

 

のどかとひなたにとっさにごまかすちゆ。その顔は明らかに青くなっていた。

 

二人には嘘をついたが、誰かが窓の外からこっちを見ていたような・・・!!

 

ちゆは昨日・・・ドクルンにあんなことやこんなことをされたことを思い出し・・・。

 

「あっ・・・ひゃ・・・!」

 

まるで触られているかのように小さな悲鳴を上げ始める。

 

「ち、ちゆちゃん!?」

 

「どうしたの急に!?」

 

「な、なんでもないの・・・!」

 

「で、でも顔が真っ赤だし・・・」

 

ひなたは戸惑うようにそう言う。顔のことを指摘されたちゆは急に席を立ち上がり・・・。

 

「ほ、本当になんでもないの~~~~~~!!!!」

 

「あ、ちゆちゃん・・・!!」

 

のどかの言葉も聞かずにそのまま教室の外を出て、駆け出していってしまった。

 

その様子にのどかとひなたは、顔を合わせて呆然としているしかなかったのであった。

 

そんな中、のどかたちが授業をする校舎の外では・・・・・・。

 

「フフフ・・・・・・」

 

ドクルンが不敵な笑みを浮かべながら、ちゆが授業をしている校舎の教室を覗いている。

 

「旅館でのあれも悪くないわねぇ」

 

ちゆを戸惑わせた張本人は、あの出来事を思い出してニヤリと笑みを浮かべる。

 

「また遊びましょうねぇ・・・」

 

彼女がビクッとした反応を面白そうに見やると、ドクルンは校舎に背を向けて歩き出し、そのまま姿を消した。

 

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